ソードアート・オンライン−−ギルド名『草生えるw』 作:tfride
俺は茅場晶彦が嫌いだ。
光に消える自分の娘を見ながら、キリトはそう思った。
自分から娘を奪い、最愛の人を泣かせ、一万人を巻き込んで死のゲームを始めたやつが嫌いだ。
俺は茅場晶彦が嫌いだ。
短い時間であったとはいえ、本気で娘だと思っていた。
子を作り、家庭を持つべき歳じゃないことは重々承知している。
現実的に考えれば、自分にはまだその責任を背負いきれる事は出来ないとわかりきっている。
しかし、ユイは自分の家族だった。
キリトの娘であり、アスナの娘。
二人の娘だったのだ。
これは自分たちを救おうとしたAIであるユイの自業自得なのかもしれない。この結果はシステムの作り出した必然的な運命なのかもしれない。
しかし、キリトはその思考を生理的に受け付けられなかった。
人として、父として。
俺は茅場晶彦が大嫌いだ。
だからこそ彼は門を叩いた。
自分が知る限り、この電脳世界を誰よりも楽しんでいるプレイヤーに。
群れとして『最強』を誇るプレイヤーに。
■
「捨ててこい」
「やだ」
「絶対面倒見ないだろ」
「見る」
「お前そんなこと言ってこの前連れてきたボスエリアの敵MOBもテイムした後そのまんまだろ。あれどうすんだよ。今頃この辺徘徊しているぞ。つかそれ以前にどうやってテイムしたんだ」
「あれも見る――」
「――見てねぇから言ってんだろ埋めるぞ」
それはそれはもう巨大な川の主を背後に回して大の字でニンジャたちを通行止めしているウサギ。
結局ウサギはそのあとも捨てることなく飼いならし、上に乗って散歩している姿が時々目撃される。
が、致し方なく殺処分しようとした三人を、文字通り実力行使で止めにかかり今に至る。
いや、別に面倒を見なくても結局この魚もMOBになるので餓死することはないが、問題はこのぼろ屋の真横に荒い唸り声をあげながら寝られるととても困る事であろう。
少なくともリクはここ数日寝れていない。
「かまうなリク、押さえろ」
「うぉおおおさせるか最終奥義!!『オイシイウメシュ』!!」
ウサギのその叫びと共に、ウサギの体が一気に何倍にも膨らみ破裂する。
その衝撃で二人は吹き飛ばされリクは木に、ニンジャは川に落ちていった。
すかさずニンジャが川から起き上がり。
「実力行使だ!! 確保!!」
「やぁあああああああってみろやぁああああああああ」
その場でリク、ウサギ、ニンジャの拳の語り合いが始まった。
「死なない程度にしてね。ここ圏外」
その光景を切り株に座って串焼きを食べながら観戦しているローキ。
一応手元には回復結晶を持っている。
それ以前にこんな下らない事に結晶を使おうとする事自体が事案であるが。
その後キリトがこの場にやってくるまで拳の語り合いは続いたという。
■
キリトが草生えるw四人を訪ねてホームの中に案内された。
狭い小屋の中に小さなテーブルとそれを挟んで二つの椅子が置かれていた。
対面する形でキリトとニンジャが座ると、ニンジャの背に他三人が脱力した形で地面に座る、背に持たれるとそれぞれの形で話を聞き始めた。
するとキリトの手のひらに小さな結晶がオブジェクト化されていた。
「んで、ソレは?」
その言葉にキリトが小さく顔を伏せると。
「……ユイだ」
その言葉にウサギが小さく眉を歪める。
まったく顔色を変えずにニンジャが続けた。
「…ほほう。今回はその話と関係あるって顔色してんな」
それを肯定するかのようにキリトが話し始めた。
ユイが実はSAOに搭載されたAIであった事。
過去に一掃したはずの元アインクラッド開放隊のメンバーが現軍のリーダーであるシンカーに交渉を求め、そして黒鉄宮に閉じ込められ救出に向かった際にユイに助けられ、そしてシステムに削除されかけたこと。
それを助け出すためにキリトが茅場の用意したコンソールを使って結晶化させ助け出したこと。
そこまで話すとキリトはメニューを開いて一つのメッセージを提示した。
そこにはヒースクリフから召集の旨が綴られてた。
「第75層のボス部屋で先行した偵察隊が全滅した…今度はヒースクリフ本人も部屋に入るらしいんだが、俺たちにも声がかけられた」
「達ってことはアスナも呼ばれたんだな」
その言葉にキリトが肯定した。
「偵察隊も血盟騎士団だけじゃなくて軍も何人か編成しての行軍だった。それが全滅したってことは…」
続きを聞かなくても四人には理解ができる。
今度はもはやゲーム側が殺しにかかっている。
しかし、これはあくまでキリト達の今後の事を聞いたまで。肝心の訪ねた理由ではない。
「それで、ここに来た理由は?何か買いに来たってことでもないだろ?」
「あぁ、あんた達は商人なんだろ? 金さえ払えば何でも売ってくれるよな?」
「まぁ現金とは限らないけどな」
そうあしらうニンジャの言葉を聞くと、キリトは立ち上がる。
「あんた達も気づいてるはずだ、ヒースクリフが茅場晶彦じゃないかって」
「本人とは思ってなかったけどね、いいところ関係者じゃないかとは思っていたけど」
今度はローキが代わりに返答した。
それはそうだろう。キリトとヒースクリフが戦った際に明らかに一人挙動が可笑しかった。
あれは確実にウサギのようなデバックではなく、外部ツールを使ったチート行為。
だが確かに、自分の作ったゲームを外から眺めているはずもないとキリトの言葉に納得する。
「だからこそ、ボス戦が終わったら俺はあの茅場に攻撃する。多分破壊不能オブジェクト化しているはずだから、その時に全員で取り押さえれば何とかなるはず…けど」
「まぁゲームマスターだからな。その人数で向かっても倒される可能性が高いな」
「だからこそあんた達に攻略の手助けを売ってほしい」
そう来たかと天を仰ぐニンジャ。
他三人も…ローキは目をふさぎ、ウサギは口をふさぎ、リクは耳をふさぐ。
「お前ら何やってんだ」
「あのほらあれだよ、見ざる言わざる聞かざる」
「やかましいわ」
気を取り直してキリトは再び四人に尋ねる。
「頼む、手を貸してほしい」
「ンなこと言われてもな…」
ついに感情を抑えられなくなったのかキリトが声を荒げる。
「これ以上ユイみたいに犠牲者を増やしたくないんだ!」
始めた当初、現実に戻るすべを失った。
デスゲームが告げられ、何人もの自殺者がいた。
モンスタートラップに仲間を奪われた。
自分自身も二人を殺害し、殺されかけ…。
なにより自分の娘を奪われた。
この世界に迷い込み、何度も何度も自分から…自分だけではなく、この世界に住むプレイヤー全員があらゆるものを奪われた。
これ以上攻略が進めば、いずれ100層も攻略されることは明白。
しかしそれまでに一体どれだけの犠牲を要することになるのだろう。
これ以上の犠牲はキリトはもう払いたくはない。
だからこそキリトはここに来たのだ。
この世界で――恐らく最もこの世界を楽しみ、理解し、そして可能性を秘めているギルドを。
四人はお互いに顔を見合わせ―――――
「まぁ、考えておくよ」
―――期待はしないようにと言葉を返した。
■
どうしようか
俺たちにメリット無いしな
そうさな、けどもう二年になるのか
俺はどっちでもいいかな、キリト君の言い分も理解はできるし
俺は反対だな、キリトに見返りを払う方法が無いだろ
俺もどっちでもいいよ~、どっちにしたって俺はこっちにもあっちにも用はあるし
俺もそろそろ見に行ってやんないとかなぁ
ならいつも通りか
そうさな、どっちの方が面白そうかな
だったら決まってんだろ
だな
楽しんだもの勝ちってことでここは一つ
遊ばせてもらうか
■
時間は経ち、場所も移動し、キリトはヒースクリフに対峙『していた』。
結果からして、草生えるwが現れることはなかった。
ヒースクリフの立ち合いに応じたアスナとキリトは、血盟騎士団のメンバーと軍の立候補した何人かのメンバーでボス戦に立ち会った。
苦戦し何人かの犠牲を出しながらもボスを撃破し、いつも通りアクティベートを行おうと足を進めたヒースクリフ…茅場晶彦の一瞬の隙をついた。
結果はやはりといったところか、破壊不能オブジェクトとなっていたヒースクリフに皆が唖然として彼を見つめた。
そして始まったのは茅場晶彦と桐ケ谷和人の死合であった。
彼ら以外の全プレイヤーはその場でマヒ状態にされ動くことができず、自ら通常オブジェクトとなった茅場。
キリトの二刀が、ヒースクリフの盾と剣が交差し入り乱れ、激闘を繰り広げていく中、ヒースクリフの一撃がキリトの頬を掠めた。
今までゲーム制作者相手にスキルの発動を控えていたキリトは、そのわずかなダメージに体が勝手にスキルを発動させていた。
この時ほど体に染みついた戦いの癖を呪った事は無いだろう。
案の定盾に阻まれる剣劇。
盾に叩きつけられ、キリトの剣が限界を迎え砕け散る。
役目は終わったといわんばかりに消えていく相棒に一瞬体が固まった。
それがいけなかった。
その一瞬を見逃さないヒースクリフが縦一文字に剣が迫り―――
―――アスナを切り裂いた。
自らをかばった最愛の人が消えていくのを受け入れられないのか、茫然と固まるキリト。
そして消えていったことを決定づけるかのように彼女のレイピアが地面に転がる。
娘を奪われ、最愛の人を奪われ…。
否。
もはや自分で殺してしまったのも同然であった。
―――もうどうでもいい。
迫りくるヒースクリフの一撃を目の前に思考を放棄したキリト。
この一撃に貫かれ自分は消えていくのだろう。
―――今行くよ、アスナ。
瞬間何かにはじかれる音に、ヒースクリフは後ずさった。
■
時間はさかのぼり、少し前。
四人はというと。
黒鉄宮で必死に頑張っていた。
黒装束の死神チックなモンスター相手にニンジャ、リク、ウサギが奮闘する中、ローキがコンソールに手を伸ばしていた。
「えーっとここがああなってここにきて…あぁ、だからここでこんな命令してんのか」
「おいシステムエンジニア!! まだかよ!?」
「いや俺ただの会社員だから」
「今やニートも真っ青」
「うっさい」
そんな軽い調子で会話を進める中、サイスでの一撃がニンジャたちに迫る。
その一撃を第一層と同じく受け止めることなく刃同士が交わった瞬間滑らせ力の方向を少し変えてそらせる。その際にウサギとリクの一撃が死神を襲い、その繰り返し。
一見流れ作業に見えるこの攻防は草生えるw四人の十八番であり、相手の流れがこちらに向くまで待ち続けるという戦法のひとつでもある。
それに加え、今回はこのモンスターを倒すことが目的ではなく、ローキのシステム解析が目的であり倒す必要はない。
そうしている間にローキが立ち上がった。
「お待たせ、抽出したよ」
「おいウサギ、ほんとにあれでボス部屋突入できんのか」
その言葉にウサギがサムズアップで答える。
そう、問題はヒースクリフが個人で様々なシステムを扱えるのではないのであろうかという予想であった。
四人が今知るすべはないが、実際大勢のプレイヤーを状態異常にできるあたりこの予想は当たっていた。
だからこそ、ボスが攻略され、おそらく入り口も開かなくなっているであろう部屋にクリアされた後…茅場がコンソールをいじる暇がない戦闘中に中に入るすべが必要であった。
しかし、問題は壁抜けバグをウサギでしかできないということである。
もはやバグに頼り切っているあたり末期であるが…。
「ふははは、聞いておののけ!!」
「見て笑えばいいのか」
「これこそデバッグの最高峰」
「デバッグ言うならバグ直せよ」
「カモン!!デメチャン!!」
その言葉に、廊下奥から巨体が凄まじい地響きを上げながら迫ってくる。
お分かりであろう。
川の主(ウサギのペット)である。
その間にローキから受け取った何かでコソコソと準備をした後、釣り竿で壁に枠を作ると…。
「やっちゃえ!!」
『魚、魚、魚』
なんともキモイ鳴き声を上げながら化け物(魚)が化け物(死神)に接近していく。
化け物(死神)はそんな化け物(魚)にビビったのか体を端に避けると化け物(魚)はその釣り竿の枠に体当たり。
■
場面は戻り、ヒースクリフは後ずさると剣が弾かれた空間が歪み、捻じれ、穴が開いていく。
その穴が一気に大きくなると、魚が突撃。
その魚をあしらい一刀両断。
哀れ魚は消えていく。
その姿に穴からやってくる問題児たち。
「ぎょぎょちゃあああああああああああん!!」
「お、行けるもんだな」
「やってみるもんだね、俺はやりたくないけど」
「やりたくないんじゃない、できないんだ」
「つかデメチャンじゃなかったのかよ」
「貴様ら何をしたぁああああああああああああ!?」
思わずそう叫んでしまったヒースクリフは悪くない。
ゆっくりと閉じていく穴の向こうに、両手を合わせ申し訳なさそうに頭を下げる死神を見て、色々察したそうな。
なにより一番呆けているのは、キリト本人であった。
「は、え、お前らどうやってここまで来たんだよ…」
さっきまでの憂いはどこへやら。
その質問にウサギが両手の平を上に向けながら突き出して。
「これを使ってここの空間につなげた」
「は、なんも持ってない…」
「ちゃんと持ってるよ、無を」
「無!?」
今度はヒースクリフの目が点になる。
「これでエンディングを口寄せするんだよ。ほい」
―――END
――作成スタッフ――
「やめろぉおおおおおおおおおおおお」
死に物狂いで両腕を動かしコンソールから指令のキャンセルを施行。
その過程で無も消去されていった。
「あ、てめぇ人のモノを勝手に」
「うん、ウサギのじゃないよね」
「ふ、ふふふ。よくぞここまで来た草生えるwの諸君」
「おいヒースさん。今更取り繕っても手遅れだぞ」
流石に色々限界が来たのか額に青筋を立てて話を続けた。
「今先ほどキリト君とゲームクリアを賭けた決闘をしていてね」
その言葉に四人はキリトに視線を動かした。
キリト本人は再びアスナを失った悲しみが勝ったのか、レイピアを抱えて腰を下ろし、顔を伏せている。
「まぁ想定していないことも起きて、一人犠牲になってしまったがね」
その意味を理解するのに時間はかからない。
沈黙を意味を理解してくれたと受け取ったヒースクリフ…茅場晶彦は続ける。
「彼は既に戦う気力はないようだ…敗者は退場してもらうことが常だが…どう思う?」
答えは聞くまでもなかった。
否、分かっていて、茅場はこの質問を投げかけたのだろう。
自分の最高傑作を楽しんでくれた自分のファンに挑戦してもらうために。
「ねぇキリト」
ウサギが短剣を引き抜きながら言葉をつなげる。
「俺二年間分の発売された仮面ラ〇ダー作品BDboxとベルト。あとポテチ」
意味が分からないのかゆっくりと顔を上げるキリト。
続けてリクが斧を両手に持ち替える。
「俺は新作のギャルゲー。F/〇Oのフィギュア。全種類な」
とても無茶な注文をされていることに気づいたキリトが抗議しようとしてローキが続ける。
「俺はそうだね。最新式パソコンよろしく。あと新しい回線契約も」
一歩一歩前進して茅場に向かっていく三人。
その背をただ見ている事しかできない…戦う気力を失ったキリト。
金属同士がぶつかり合う音が聞こえるも、目を閉じて現実から引きこもった。
自分のせいだと何度も自分を罵倒し、傷つけ…目の前に誰かが立っていることに気づいた。
顔を上げれば、こちらをつまらなそうに見下ろしているニンジャがいた。
「アスナ死んだのか」
なんとも直球な質問に、肯定するかのように…否。
その質問には答えたくないのか下唇を千切る勢いで噛んでいる。
「そうさなぁ…悲しいよなぁ…つらいよなぁ…大切な人がいなくなるのって」
あぁそうだ。
死んでほしくない、信じたくない。
嘘だ嘘だと何度も現実に目を背ける。
「で?お前は悲劇の主人公演じてなんもしないのか…まぁそれもありだな」
「――だまれ」
ニンジャの言葉に何かが切れる音が聞こえて立ち上がるキリト。
思わず胸ぐらをつかんで斬りかかろうとする勢いである。
その状況ですら壊れたおもちゃを見るかのようにつまらないと言わんばかりに見つめてくる。
目の前…三対一で行われる戦闘を尻目にキリトは声を荒げる。
「お前に何がわかる!! なんでも思い通りになって自分の流れに持ち込める力を持ったお前に…何も失っていないお前に何が――」
「――調子に乗るなよ餓鬼」
雰囲気が変わったニンジャに胸ぐらを掴み返され、怯んでしまう。
「人が死んだくらいで傷の舐めあいしたかったら乗ってやろうか? 嫁も『息子』もいなくなってさぞ苦しいだろうさ」
「息子…?」
自分に向けられているはずの言葉なのに、一言のみ自分とは当てはまらないと疑問に思ったキリト。
瞬間苦虫を噛み潰したように顔を歪めたニンジャは手を離すと一呼吸置き続けた。
「…まぁ分らんでもないさ。けどな、あの三人だって何かしら犠牲にして生きてんだよ」
ウサギも、ローキも、リクも、ニンジャも。
何かしらを犠牲にしてここに立っている。
現実に何かを置いて来ているのだ。
何かを捨てさせられているのだ。
「…今お前にできるのがそこで縮こまっているだけなら存分に拗ねてろ」
頭をガリガリと掻きながら回れ右して戦闘に参加するため歩き出す。
あぁ、と何かを思い出したかのように顔だけを向けると。
「俺はMarlboroのメンソール8ミリと酒、ウィスキーな」
そう言いながら離れていくニンジャ……彼が加わり四人となるギルドを眺めながら、キリトはレイピアを見つめた。
■
バックステップで距離をとるウサギに肉薄する茅場。
しかしそれをリクが許さない。
斧による一撃を盾で受け止めさせ、反対側にローキが槍の一撃を放つ。
しかしそれを対の剣で払い、更に追撃を狙ったウサギに対応するため盾でつば競り合っているリクを横に流してローキに向かわせ更に盾で受け止める。
流石に鉄壁を誇るプレイヤーであろう、
数の不利を覆し対応してくる茅場に三人は一旦下がる。
いや、下がったのではなく四人目を迎えるためであろう。
やってくるニンジャにリクが声をかけた。
「説教は終わったか」
「説教ではないだろ」
刀を引き抜きながら並ぶように構える。
それに習って他の三人…茅場も構えると――フッと声を漏らした。
「諸君…このゲームはどうだった?」
その言葉に回答に困っている四人。
なんて返そうかとお互い顔を見合わせていると茅場が続ける。
「このアインクラッド…私の作った世界…製作者として意見を聞きたいだけだ」
ゆっくりと顔をほころばせ…製作者として対峙する相手に、そんな事かと全員が笑い。
「下らない事聞くなよ。ヒースクリフ」
その対応に答えるために、全員がニヒルな笑みを浮かべて口をそろえた。
『最高だよ』
返答に満足したのか茅場が一度剣を振るうと。
「さぁ始めよう…草生えるwの諸君」
「あぁ…ヒースクリフ」
『遊ぼうぜ』
その言葉と共に五つの閃光が駆けだした。
人数の圧倒的アドバンテージを理解していないのはこの場にはいない。
故に茅場は常に四人を前面に捉えられるように立ち回る事を心掛けていた。
囲まれれば確実に死角を利用され命を刈取られる。
四人の一撃をいなしつつ常に一歩一歩下がりながら攻撃の隙を待っている。
リクが高い耐久力を生かして突撃、更にはリクを土台としてローキが上に飛び上がり槍を存分に生かした中距離からの一撃。
確実に受け止める順番を見極め、追撃のために走り出すウサギとニンジャの左右からの双撃を後ろに下がることで攻撃タイミングを僅かにずらす。
それを察したウサギが攻撃をやめ後退し時計回りに巡回する。
その遊撃者を一旦視界の外に置き目の前のニンジャに対峙する。
円運動を生かした連撃を次々と盾で受け止め右から差し込むようにねじ込まれる槍の一撃を体をずらして避け、さらに続く連撃を首をそらして凌いだ。
だがしかし…そこまで彼らの予想通りなのか、ニィ…っと顔をゆがませる。
その表情の変化に警戒する茅場だが、ニンジャが飛び上がり刀を頭上に構える事に思考が一瞬止まった。
なぜ、このタイミングで大ぶりな一撃を。
その疑問はニンジャの下から滑り込んだウサギで途切れた。
いつの間にニンジャの後ろに回り込んでいたウサギは、そのまま茅場の股下まで滑り込むとあっさりと背後を取った。
それだけならまだ対処は出来るだろう。だが問題は――
「オラァ!!」
左からリクの全力の一撃が迫り盾で受け止め、更に左からやってくるローキに警戒してリクの体勢を崩そうかと力を…。
「よっと」
それよりも早く後ろに回ったウサギの回し蹴りを足に食らって体勢が崩れる。
迫りくるローキの突きを剣で何とか受け止め、しかしその腕を手首から押さえられ止められる。
―――既に四人に囲まれている事であろうか。
「チェックメイトだ」
そこから一気に振り下ろされるニンジャの一撃。
しかしその一撃を食らったところでHPには問題はない。
戦闘職ではなく生産職に振っているニンジャのスキルツリーでは、その一撃で致命傷にはならない。
しかし、相も変わらず笑みを浮かべたニンジャは…。
茅場の剣を持つ手を切り払った。
完全に切断され剣が離れていく。
だが既に体勢は元に戻してある。
手が元に戻るまでに四人の相手をしていればまだ勝機はある。
だが茅場は思い出した。
チェックメイトの意味を。
「スイッチ!!」
その言葉に反応してニンジャは一気に後ろにとんだ。
それと入れ替わるように前に出てきたのは、アスナのレイピアを携えたキリトであった。
キリトがその足で踏みしめながら前進する。
今彼ができること…それは縮こまって嘆くことではなく、散っていった者の遺志を受け継ぐこと。
アスナは言った。生き残ってほしいと。
だからこそ。
キリトは刺し違えてでも茅場を倒すために二本の武器で茅場を切り伏せた。
武器種が違うためソードスキルは放てないが、キリトが思い描くは二刀流スキルのスターバーストストリーム。
ソードスキルの閃光を描くことなく繰り出されるその一撃一撃を完全に再現し、ダメージエフェクトが刻み込まれていく。
雄たけびを上げ追撃を仕込むキリトに、しかし茅場はここでは終わらなかった。
既に体は後退し四人とは距離が離れている。
だからこそ彼は盾を捨てた。
そして生き残っている左手で宙を舞う自身の剣を手に取り。
「うぉおおおおおおおおおおおおお!!」
「はぁあああああああああああああ!!」
お互いの胴に一撃…。
四人が反応するよりも早く。
キリトと茅場は砕け散っていった。