ソードアート・オンライン−−ギルド名『草生えるw』   作:tfride

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最高にぶっ飛んだゲームを




最高にぶっ飛んだ方法で




最高にぶっ飛んだ仲間たちと







第13話『世界に挑戦する者達』

 

 

――ゲームはクリアされました

 

 

 

――ゲームはクリアされました

 

 

 

 

 

 

 

アナウンスが響き渡るとともに、周りのプレイヤーが一斉に沸いた。

それぞれが涙し、歓喜し、手を取り合い喜んでいる。

仮想世界からの解放。二年間待ち望んだ時がやってきたのだ。二人の犠牲をもって。

次々にログアウトしていくプレイヤーを尻目に、この四人はただ黙って英雄が消えた後を眺めていた。

諸悪の権化を自らを犠牲にして倒したキリト…否、あれはキリトのHP管理が招いた結果だ。

そう割り切るしかなかった。

 

四人の表情はゲームクリアを遂げたプレイヤーが浮かべる達成感と虚しさの表れか…。

知人を亡くした者が浮かべる悲観的表情か…。

それを知る者はこの場にはいない。

既にこのエリアはもぬけの殻。草生えるwの四人を残してこの場にいたプレイヤーは全てログアウトしてしまったのだろう。

 

静寂がその場を支配する中、破ったのはウサギであった。

ドカリとその場に座ると天井を仰ぐと。

 

「あーあー…終わっちゃったよ…」

 

その場にいる全員がその言葉に同意するように溜息を吐く。

 

「せめて100層攻略してから終わりたかったな…」

 

そう続けるローキ。

 

「これログアウトしたら病院だよな、喫煙所あるかな」

 

「心配するところそこかよ」

 

続けてニンジャとリクがぶっ飛んだ心配事を並べる。

 

 

――ゲームはクリアされました

 

 

相変わらずやかましいアナウンスが響くが、今の彼らにログアウトする気はなかった。

既にクリアされたゲームに興味はない。

しかし、この世界に二度と来ることはないと分かっているからこそ、今はこの余韻に浸りたいとのんびりと過ごしていた。

 

「にしてもお前のぎょぎょちゃんだかデメチャンだか死んじまったな」

 

「そうだったデメ吉ぃいいいいいいいいい!!」

 

「名前ガバガバかよ」

 

「今んとこ統一されてるからいいんじゃない?」

 

「じゅんまんじろうぅうううううううう!」

 

「もはや誰だよ」

 

「それ以前に22層に残したボス部屋のザコどうしよっか」

 

「そんな設定あったな」

 

「設定とかいうな」

 

「あれもどうせもう会わないんだから」

 

「あいつの名前何にしてんだウサギ」

 

「ザコ」

 

「もはや名前じゃねぇ」

 

「そういえばこの前風林火山の人たちと契約した商談の物どうしよっか」

 

「どっちにしたってもう無理だろ」

 

「基本的に鳥頭だから忘れてんでしょ」

 

「ひっでーな」

 

 

 

――ゲームはクリアされました

 

 

『うっせーな』

 

とっとと出て行けと言わんばかりに鳴り響くアナウンス。

しかし見えもしないシステムに向かって愚痴をこぼすこの四人。

 

 

 

 

――ゲームはクリアされました

 

 

――ゲーム§±ΔアΞれましタ

 

 

少しずつノイズが走り始めるアナウンスに、異変を感じたのか四人が顔を歪める。

どんどんノイズが濃くなっていく音声。

周囲の景色もノイズが混じってきており、この場、この状況がマズいことに気づいていく。

 

 

――ゲーμ!”$%

 

――ログアウトが認められません

 

――強制ログアウトを、執行します

 

 

その瞬間。

周りの景色のノイズは止み、一瞬何かしらのバリアのようなものが張られると、出入り口の扉が閉められる。

更に異変は終わらない。

 

四人の目の前に何かしらの数列が集まると、数字が形を成していく。

それは、全員が見知ったモノであった。

 

「おいおい…」

 

そう呟いてしまったのは誰だったか。

それもそうだろう。

それは完全にキリトの姿をしていたのだから。

いや、正確にはキリトの姿をした顔のない何かであった。

 

「おいまて、強制ログアウトってなんだ」

 

「スレに書き込もう」

 

「題名何にしようか」

 

「システムが殺しに来ている件について」

 

「それだ」

 

 

――強制ログアウトを執行します

 

 

「これ完全に殺しに来てるよな」

 

「あかんなこれ」

 

突っ込み不在の恐怖を通り越して死の恐怖にさらされている四人。

しかもその後続にどんどんキリトのデータを模したであろうアバターが現れる。

恐らく、ログアウトをしない四人をこの世界から取り除くために、ゲームオーバーをもって退出させようとする魂胆だろう。

その中でヒースクリフを撃破したキリトのデータを持ち出した。

 

そこまで考えて、四人はニヤついた顔で武器を構え始めた。

 

「やっぱりゲームの最後は理不尽な敵って決まってるよな」

 

「無敵な敵がいっぱい?」

 

「それ負けフラグだから」

 

「かがやけーりゅうせいのごとくー」

 

「俺たちが無敵になるんだよ」

 

「ノーコンティニューでクリアすんのか」

 

「そうしないと死ぬんだが」

 

その言葉を最後に、全員がこの世界の刺客をみやる。

圧倒的理不尽。

絶対到達不可能な境地を要求するゲーム。

なんともゲーマー心をくすぐるイベントを相手に、皆が皆再び声をそろえて言い放つ。

 

 

『さぁカーディナル。遊ぼうぜ』

 

 

 

そこには、世界(カーディナル)に挑戦するチャレンジャー(プレイヤー)がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼方まで続く空がとても清々しい。

キリトに敗れて、英雄とその恋人を見送った後、茅場はただひたすらに自壊する自分の世界と己の死を待っている。

眼下にゆっくりと崩れていく浮遊城を眺めながら、今までの自分の行いを思い出した。

デスゲームが開始され一年が過ぎたころ。

時たま自分だけログアウトしコンソールに向かいバグを取り除く日々。

映し出されるエラー項目に悩まされ日に日にログインしている時間が短くなっていく。

更にはカーディナルすら仕事を放棄しバグの修正もほったらかし。

自分のベッドの隣に胃薬の箱が増えていく。

 

なんでだろう。目頭が熱い。

 

この話はやめておこうとコンソールを開きログアウトを確認した。

現在のログイン数は自分を含め5人。

これに関しては予想ができた。

残りの四人、確認してみればあの四人組…草生えるwの四人組であった。

あのギルドならば残るはずだ。自分の招いたゲームの終焉を楽しむはずだ。

だからこそ…あの四人がボス部屋にやってくると分かっていたからこそ、あの部屋の崩壊は一番最後に設定していた。

この世界の消滅と同時に自分の脳の大出力スキャンが始まり、サーバー自体が消えてなくなる。

その崩壊に巻き込まれればログアウトはおろかネット世界からの脱出すら困難になるのであろう。

スキャンされたもう一人の自分が彼らを手助けする可能性は100%ではない。

だからこそ崩壊の手順を変えてでもあの四人には…自身のファンには余韻に浸ってほしかった。

 

思い返せば様々な敵と相まみえてきたが、そのほぼ全てが自分で作り出したMOD…。

キリトとの戦いも心躍るモノもあったが、あの四人との死合は茅場の心をさらに滾らせた。

ましてやあの四人の最後の一手がキリトであるとは思いもしなかった。

プレイヤーとして圧倒的なセンスを見せつけてきたキリト。

だがそれと同じように茅場の興味を惹かれる存在であったと思わせるほどに、草生えるwというギルドは良いプレイヤーたちだった。

 

僅かに顔を綻ばせて再びコンソールを確認する。

既に崩壊は7割進んでおり、いい加減残っているプレイヤーも退場させなければ…。

そう思いログインプレイヤーを確認すると、相も変わらず残っている四人のプレイヤー。

興味に負けその場の映像を眺めることにした茅場は――

 

――息を飲む光景を目の当たりにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まさにそれは開戦の狼煙。

死闘の始まり。

生き残りを賭けた戦い。

呼び方は様々あれど、100人中100人がそういった生死を分かつ戦いだと思うだろうこの場面。

しかしこの4人にはどれも当てはまらない。

彼らにとってこれは遊び。

休日に友人同士でやる対戦ゲームの開戦の合図よのうな、高揚感。

彼らにとってこの場所はどこまで行ってもゲームなのだ。

ゲームマスターが言った。これは遊びではないと。

だがいつの時代もその選択権はプレイヤーに委ねられる。

方や時間潰しのために始める者もいれば、方や世界大会の為、失敗許されない今後を賭けた者だっている。

だからこそ、この場面一つとっても4人からすれば二年間に及ぶゲームプレイ歴の一部でしかならない。

そしてそれは今後も変わらない。

彼らに対してのターニングポイントにはなり得ない。

 

遊ぼう。

彼らはそう言った。

 

それは彼らにとって開戦の合図であると同時に。

 

 

死力を尽くして対峙するという遊戯の合図でもあった。

 

それをカーディナルも理解していたかと錯覚するように、全員の踏み込み第一歩は全くの同時。

レベル90前後の総勢52人。

8パーティーのレイド対4人パーティーの刃の交差はニンジャが先頭を切った。

装備するための最低限のステータス以外を俊敏に極振りした身体を捻り、キリトを模した敵の一撃を掻い潜る。

空かさず刀身を鞘から抜き放ち、敵を抜き切った後180°回転しながら一閃。

速度では埋められない一撃のダメージ量を数で補う戦法である彼は、しかしその一撃でかき消えていく敵に一度目を見開かれるも続けざま襲いかかる敵に思考を放棄。

追いつきその槍を再長距離で構え突き刺し掛かるローキの一撃にも一瞬で消えていく。

 

「コイツら中身空だ」

 

「ジョボ」

 

崩壊の進んだカーディナルでは100%キリトというデータを再現できなかったのだろうか。

その身体は脆く、ウサギが試しに脳天に瓦割りを叩き込むという、武器すら使わない一撃で沈んでいく。

 

「柿ピー砕いてるみたいだな」

 

「あーなんか柿ピー食いたくなってきた」

 

「豆も食えよ」

 

「は?豆じゃねぇだろ大豆だろ」

 

「いやいや、あれ落花生だから」

 

「柿ピーのみを貪り食うことこそ至高」

 

「何でもいいから戦って」

 

「仙豆でも食ってろ」

 

ツッコミ不在のトンチンカンをかます4人。

その油断からか、ウサギの頬を敵の一撃が掠める。

それだけのわずかな攻撃でウサギのHPは4分の1消えていく。

自分たちの視界の端から仲間の体力が一気に削られる様をみて、緊張が走った。

 

もしこの一撃をまともに受けてしまえば、重症以上死亡以下。

 

取り敢えず即死な攻撃力を持った一撃を振りかざす敵。

 

さらには倒された端から次々とリポップしてくる。

 

とりあえず無限湧き。

 

一撃で此方を殺してくれる攻撃力。

 

とても脆いが止めどなく復活してくる50人近いモブ。

 

だが4人は相変わらずその足を一歩前に進める。

リクの一撃が4.5人を薙ぎ払い。

ローキの槍が剣戟の合間を縫って突き刺さり。

ニンジャの刀が首を切り裂き。

ウサギの短剣が急所に突き刺さる。

時間の経過と共に連携が密になっていくカーディナルの奴隷。キリトの幻影。

しかしそれ以上の速度で…究極の緊張感の中で4人の連携もその真価を発揮していく。

 

 

――――排除レベル上昇

 

――――ボス インストール

 

 

その瞬間にキリトを模したMOBが消え去り、四人の目の前に巨人が出現した。

その体は全体的に白く、巨体に見合った大きな顔面を四人に向けると片手に持つ大剣を一度振りかざすと図体に見合わない速度で迫りくる。

すぐさま後ろにばらけて出方を見ようとした彼らに対して、地面に向けて一撃。

その瞬間大量の木の根のようなモノが飛び出し四人に襲い掛かり、翻弄していく。

リクですらその身を後退させ、全体重をもって押さえつけるのに対して、他の三人は紙一重のところで何とか避けていく。

防御すればそのまま吹き飛ばされると分かっているため、何とかして敵に近づこうとするも、近づけば大剣の一撃。

遠距離、中距離、近距離をすべてカバーするその巨体に、しかし彼らの表情は変わらない。

良い玩具を見つけたかの如くニヒルな笑みを崩さない四人に、巨体は目を光らせ……。

 

 

刹那。

 

 

 

目の前の脅威が消滅した。

 

 

消失した怪物と入れ替わるようにその場に立ち、四人を眺めているのは白衣を着た男性。

忘れもしない、この世界を作った茅場明彦本人だった。

 

「不満はあるだろうが、まずはアインクラッドの崩壊を一時的に止めていた事に感謝を述べてもらいたいな」

 

駄々をこねられることを分かっていたのか、茅場の第一声はそれだった。

その言葉に対して、四人は顔を見わせると、とても落胆したようにその場にへたり込んだ。

 

「んだよぉ…これからがイイ所だったのに」

 

いつも通りリクが悪態をつくも、茅場はその苦情を聞き流し。

 

「さもなくばこのアインクラッドごと消滅という選択肢もあったのだが」

 

「やっぱゲーム側が殺しにかかっている」

 

「世の中世知辛いのじゃ」

 

「フ〇ックユー」

 

「あれ女の子が言ったら可愛いやつで、俺らが言ったらキモいだけだから」

 

「やっぱ世の中世知辛いな」

 

「暴言も吐けないこんな世の中じゃ」

 

 

 

「続けていいかね?」

 

仕方がないと四人は立ち上がり、とっととゲームを終わらせようとログアウトしようと…。

 

 

 

「その前に、一つ聞いていいかな?」

 

その行為を妨げるように茅場が話しかけてきた。

唐突の質問に指を止め顔だけそちらに向けると、茅場明彦は続ける。

 

 

 

 

「これは一人の人間として質問なのだが…

 

 

 

 

…君たちは一体何のためにこのゲームを続けてきたのか……それなりに頭がいいことは自覚しているが、これだけは分からなかった。教えてくれないか」

 

 

そんな事かと四人は互いを見やり、そして一斉に口を開いた。

 

 

 

 

 

『遊戯に死力を尽くして楽しみを求めるためだ』

 

なんの曇りもない表情でそう答えた。

 

その言葉に満足したのか、茅場は一度顔を下げ…しかし理解したかのようにうっすらと笑みを浮かべながら。

 

 

 

「ありがとう」

 

 

その言葉と共にコンソールを操作すると、四人のアイテム欄に≪???≫という表記の欄が追加された。

 

「せめてもの餞別だ、受取りたまえ」

 

 

その言葉と共に、四人の視界は白くなっていく。

茅場が託したモノと、僅かな達成感、現実への帰還への落胆、その他様々なものを胸に秘めて……。

 

 

 

 

 

 

 

 

彼らは決して精神異常者ではない。

 

死力を尽くして楽しむため。

 

つまりはそういうことだ。

 

彼らはただ単にこの世界に遊びに来た、プレイヤーだったというだけの事。

 

それがデスゲームだろうと、なんだろうと。

 

 

遊ぶということに対して全力なだけ…。

 

 

そんな子供のような…しかし己のすべてを賭けたような生き方に…茅場は少しうらやましさを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

キリト…桐ケ谷和人が最初に感じたのはアルコール消毒剤の独特な臭い。

次に今までに感じたことのないような体の重さ。

恐る恐るナーヴギアを外すと、ごわついた長髪が腰まで一気にずり落ちる。

生きていることに対しての安堵か、最愛の人にまた会えるかもしれない高揚感か。

どんな感情かは分からないが、心電図をもぎ取り、点滴の台を杖代わりにしながら病室を出た和人は、現実の体を引き摺って歩き始める。

 

またアスナに会いたい。

 

現実の自分のこの目で彼女を映したい。

 

そんな欲望にも似た願いで軋む体にムチ打ち―――

 

―――しかし看護師の言葉に思考を止める。

 

 

 

 

「笹原さん!! なんで起きて早々煙草吸ってるんですか!! しかも男子トイレで!! どこから買ってきたんですか!?」

 

「あだだだだ…分かったから腕掴んで引き摺らないでください、軋む体にムチ打ってタバコ吸いに来たんですから」

 

「その前に精密検査が先です!!」

 

と、男子トイレから二人がかりで運び出される男性。

 

あぁ、と和人が目にしたのは、まぎれもない草生えるwリーダー。

とその後ろから手すりを駆使して自力で立ち上がっている伸びきった天然パーマの男性。

 

 

「だから言ったじゃん、止められるって」

 

「けど木郎よ、喫煙者にはどうしても我慢できない時があってだな」

 

「いやここ病院」

 

「買ってきたよー」

 

「お、兎人、気が利くじゃん」

 

「赤嶺さん!! 購買に行ったんですか!?」

 

「あ、看護師さんも食べます? とりあえず買えるだけ買ってきたんで」

 

「兎人、俺にもくれ」

 

「おぉ、陸人。お前痩せたな」

 

「忍はやつれたな」

 

「それみんな同じだから」

 

「それもそうか」

 

 

 

 

 

 

「あぁ…」

 

なんとなく現実に戻った気がしないのは。

 

きっと和人の気のせいである。
















引っ越しました

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