ソードアート・オンライン−−ギルド名『草生えるw』 作:tfride
ごふっ
人の評価は他人が決めるものである。
これは人間社会に生きる霊長類としては避けられない。
どんなに陰湿な人間でも信頼さえ得られれば世は事もなし。
そう、他人の評価によってその人間の価値は決められるに等しい。
≪本日未明、地下トンネル掘削作業中に突然の崩落が起こり、これにより従業員数十名が重症、現在意識の明確な作業員は一名――≫
良し悪し関係なく評価を下される身からすればたまったものではない。
≪つまりここでラムアタックするとオブジェクトが干渉してゲッタンを起こすんだよ≫
故に、人とは残酷なのかもしれない。
≪お前が殺したんだ! お前は人殺しだ!≫
一つの悪意で、何人もの無関係者が巻き込まれ、一人の標的が黒く染まっていく。
まるで必要悪と言わんばかりに吊るしあげられていく。
しかし、全世界を敵に回したとしても、たった一人の味方がいれば。
『さぁ兎人、遊ぼうぜ』
それもそれで、世は事もなし。
■
「なんでついて来たとも言わないし、メッセージに気づかなかったことも謝るけど、もっと他に合流方法あっただろう。なんで運営に喧嘩売るような事しか出来ないんだお前は」
「人生で必要なことはその場で最善を尽くすことなんだよキリトくぅん」
「板と一緒に俺に突撃かますことがお前の最善なんだな」
「まじすみませんでした」
ウサギがまたやった、慈悲はない。
毎回冒頭の始まり方がウサギのヤラカシの現場からスタートな気もするが、この章の主人公はウサギだから仕方がない。
何よりベニヤ板で空中浮遊して追ってきたウサギに対して、リーファの目が完全に未確認生命体を見ているようになっている。
「まぁ閑話休題としよう、とりあえずウサギに説明すると、俺たちは今グランドクエストをクリアするために向かっている、ここまではいいか?」
「どんとこい超常現象」
するとキリトが前方の山を指さして続ける。
「今俺たちが向かっているのはルグルー…なんだっけ」
「簡潔に説明すると私たちは今、中間地点の地下都市に向かっているわけ、そこで一旦休憩よ」
「との事です」
「キリトはあれだな、将来尻に敷かれるタイプだな」
「尻に敷かれるって何ですか?」
その言葉と共に出てきたのは、15cm定規よりも小さいかもしれない小人、しかも羽が生えている。
その小人がキリトの肩に降り立つと、その黒髪を靡かせながらウサギに視線を向ける。
「なぁにこれ、パ〇ク?」
「それベル〇ルクの妖精ね、これはプライベートピクシー。キリトはユイって呼んでるけど」
「ちょっ、ユイ!」
そのピクシーの持ち主であろうキリトは慌てふためく様子でユイを両の手で抱え説得を試みる。
「勝手に出てきちゃダメだって…」
「でもパパ、あのウサギって人はSA…」
「分かったから後でね」
そういって致し方なく胸ポケットに突っ込み一息ついた後、残った二人に視線を移す。
「あーっと」
「ねぇリーファ、幼児虐待ってピクシーにも適応されると思う?」
「話が飛躍しているからあえてスルーするけど、もう少し対応考えないといけないのは確かね」
「しっかたないだろう!!」
「そういえばユイってキリトの子…」
「よし出発進行!」
相変わらず引き攣った顔で急ぎ足に進んでいくキリト。
その様子にウサギは…。
「これ完全にイキリトの方だよね、絶対」
若干不透明だったキリトという人物の背景が明確に映った。
■
「うーみーはーひろいーなーおおきーいーなー」
「突き落すぞダメ人間」
「まぁまぁそう言いなさんなってリク。禿げるぞ」
「うるせぇ」
「え、もうリク禿げてるの?」
「マジ突き落してやろうか」
「こうやってスキンシップを図っているおじさんの苦労は?」
「犬に食わせろ」
「ここにランサーはいないぞ」
「猛犬を煽ってんじゃねぇよ」
「煽られてるのはリクの自尊心」
「おいローキ、変わるか?」
「やだ」
今現在残った三人は交代で空を飛び、羽を休憩中は他二人が担ぎ上げて5分づつ飛ぶというローテーションを組んでいた。
これならば10分おきに地面を歩くこともなく、速度低下を加味しても十分時間を稼げる方法である。
するとニンジャがうーんとうねり声を上げている。
「どうした人類悪」
「俺は召喚するならシャーロックかジェームズがいい」
「犯罪王が来たら世界が終わる未来しか見えない」
「んでどうしたの?」
「いや、なんかね。このゲームのエンドコンテンツって一定種族が空を飛べるだけだろ?」
「何か問題?」
「いや、オンラインゲームとしてどうなのそれ」
ニンジャの言う通り、エンドコンテンツとはそのゲームの終着点。
それはエンディングであったり、終了後の無敵武器であったり、オンラインゲームで言えばラスボス周回のための強力武装だったり。
しかしそのコンテンツが無限に空を飛べるだけとなると、どうしても飽きが来る。
それは永遠にコンテンツが続いてほしい製作者側としてはあってはならない事態だ。
SAOはまだクリアに開放という目標があったからこそ、エンドコンテンツはなくクリアのみが設定されていたが、それは別の話。
故にニンジャが疑問を抱くのも無理はない。
「つまりエンドコンテンツは見せかけで何か他のエンドコンテンツがあると?」
「そこらへんはエギルに聞いた方が早いかもな…ただ」
「ただ?」
そこまで言ってニンジャが溜めたのは、一度考えに間違いがないかの整理であると知っているため、二人はニンジャの返答を待つ。
「…この世界自体がハリボテの可能性があるかもな」
その時のニンジャの顔は、まさしく人類悪の顔をしていた。
■
「そう落ち込むなよキリト、幻惑魔法だよ?」
「幻惑魔法なんだよ…」
そう洞窟の中で落ち込みながらトボトボと歩き続けるキリトの背中をさすっているウサギ。
スプリガンの得意魔法が幻惑魔法だけだとリーファにカミングアウトされた本人は、黒だからと選んだ当時の自分のセンスを呪い、またそのキリトにカミングアウトした彼女はやってしまったかと頬を掻く。
が、そこでユイがポケットの中から顔を出し。
「パパ、何かが接近しています!」
その一言で全員が一斉に身構えだす。
いや、一人だけのんきにユイを見つめながら…。
「なんかあれだな。アーマー〇コアのAIみたいで便利だな」
「言ってる場合か!」
「早く隠れるわよ!」
「いや、もうそこにいるじゃん。何かは分かんないけど手遅れだって」
そう言いながら指さすウサギの先に、恐らく小動物であろうか…蝙蝠のような何かが宙を舞っていた。
「なんだあれ、小動物?なんだろう」
「動物…まさか!?」
その言葉に攻撃魔法で先制するリーファに対して、他二人は何が始まったと困惑するばかりだが、当の本人は焦りの見える顔で続ける。
「あれは使い魔! プレイヤーの目になる魔法よ!」
目…つまりは監視や偵察に使用される使い魔召喚魔法の一種。
これが示す情報はただ一つ。
「あーつまりガッツリ監視されていたんだね。誰見てたんだろう。キリト?」
「全!員!」
とリーファに蹴りを入れられせかされる様に走り出した2人。
現在彼らはルグルー回廊の道中。目的の中間の町まではもう少しといったところ。
もしこの場所でデスを残す事になれば、二人は初めからやり直すことになる。それは避けたい現実だ。
が、何かを思いついたのかウサギが誰かに向けてメッセージを打ち始めた。
「ウサギ、何やってんだ?」
「ちょっと仲間に遺書を」
「縁起でもないこと言わないで」
洞窟を抜け、橋に差し掛かり、目の前に見えるのはようやく待ち望んだ休憩スポット。
「もうすぐよ!」
その言葉がまさしくフラグであるかの如く、街と橋の間に巨大な土壁が盛り上がっていく。
「くそ!」
すかさず剣を抜き壁に向かっていくキリトの反応の良さは相変わらず一級品。
しかしそれをあざ笑うかのようにまったく歯が立たずはじき返される。
「今のリーファのセリフ完全にフラグだったよね」
「え、私のせい?」
「絶対違うから、気にしなくていいから。なんだったらウサギの遺書の下りが一番フラグだから」
「ぶははははは、全部私のせいだ!!」
ウサギがぼこぼこにされたのはモチのロン。
そうして三人を壁と挟むように橋の入り口から流れてくるのは、立ち塞がるサラマンダー一個小隊。
突入して早々仲間割れの如く一人をボッコボコにしている光景を見て若干可哀そうに思ったとか思ってないとか。
何とかして対処法を模索する三人だが、完全に八方ふさがりには違いないだろう。
「ねぇリーファ、これ川に飛び込んだら死ぬ?」
「落としてあげましょうかお兄さん?」
「ひぇ」
「むしろ落ちてくれ…」
「おぉ味方がいない、悲しい」
しれっとキリトにすら見捨てられて可哀そうなウサギ君。
同情はしない。
「んまぁ現実逃避はここまでにして――」
「ウサギの場合はどこからどこまでが現実逃避なんだ」
「――実際正面突破しかないよな」
「腹立つけど私は賛成…」
ウサギに珍しく同意したリーファは対するサラマンダー部隊の人員と装備を見て冷静に分析していく。
「盾が数人に前衛はほとんど無し、しかも後衛の魔法職があれだけいるってことは…」
「完全に俺かウサギ対策ってところだな」
ウサギ対策かはさておき、攻撃を後衛の火力集団に届かせないための部隊配置を見ても、部隊同士の衝突ではなく、個人を目的とした部隊。
しかもまだ攻撃魔法による遠距離攻撃を想定したリーファならやりようはあるかもしれないが、これは完全に剣による戦いを余儀なくされるキリトに対する戦法であろう。
「ウサギ…一緒に前衛に出てバックアップを頼めないか?」
「ほほう、キリトから提案とは『珍しい』ね」
「ちょっとキリト君!」
キリトからの提案にウサギはにやつき、リーファはその提案に異議を立てる。
「この状況でリーファには支援魔法で俺たちの支援を、ウサギには盾を何とか開けてもらってその壁の隙間から俺が突っ込む」
「…まぁ時間稼ぎにはなるか」
「さっきからウサギは縁起でもないことを…はぁ」
その提案内容に折れたリーファは後方に下がり、キリトはその長剣を引き抜いた。
その行動にウサギは一度メッセージボックスを一度確認すると、短剣を引き抜いてキリトの隣に並んだ。
「…『珍しい』?」
ふとキリトがウサギの言葉に疑問を持ったのは内緒。
■
破裂する爆発音。
鳴り響く金属音。
赤い群衆に立ち向かうは三人の剣士たち。
立ち並ぶ盾の壁をウサギが飛び掛かり力で押すが、数人がかりの盾をこじ開ける間もなくその後方から火球が押し寄せる。
その一撃に成す術なく晒されるキリトとウサギに後方からリーファの支援魔法がかけられる。
キリトと二人で飛び掛かれば盾は退かせるが時間がわずかに足りず火球の餌食。
一人で飛び出すも力業に頼った方法では意味がない。
リーファは唯一の回復担当になるため前線に立たせるのは危険。
状況は絶望的。
しかしキリトの信念……パーティーメンバーを見殺しにするのは何があっても自分の中で良しとはしない。
状況に気持ちが焦り行動が粗悪になる典型的な状態。
その後ろで回復魔法を唱えるリーファも、自身の魔力残量を気にしながら焦るほかない。
唯一心に余裕をもって状況に当たっているのはウサギのみ。
「俺が生きている限り…パーティーメンバーは死なせたりしない」
その信念は真に素晴らしい考え方だ。
だがその思想に憑りつかれ、餌にされれば自滅する諸刃の剣。
幸いそれらを嗅ぎ分ける嗅覚を有するキリトだからこそ、今まで好成績を残してはきたが、いずれも只の綱渡りに過ぎない。
しかも状況が更に悪いことに、恐らくキリト対策であろう魔法攻撃要因が過剰と言える人数配置されている事。
(十中八九、俺っていう不確定要素の排除のために呼び出された奴らだよな。キリトだけならこの半分で良いわけだし)
波状攻撃と言わんばかりに二組に分かれた魔法使いが一撃ごとの間隔を詰めるために交互に魔法を唱えていく。
これにより長時間詠唱の必要な魔法を打つ暇はなく、かと言って正面突破の余力はない。
確実に殺しに来ている。
「もうすぐ奴らはHP切れだ! やれ!!」
隊長風の男の声と共にそれまで個別に詠唱していた魔法使いたちが一斉に呪文を唱え始める。
正に最後の一撃。
絶体絶命までの数秒間。
「くそ!!」
流石のキリトも怒りを露わにするも、打てる対策はもうない。
最後の悪あがきと言わんばかりにリーファが防御魔法を唱えているが、それも残りMP的に一回限り。
焦りが顔に出て思考を黒く塗りつぶす。
が、そこの問題児だけは違った。
「なんか花火みたいで綺麗だよな。そういえば『たまや、かぎや』ってどういう意味なんだろうね」
なんて突拍子もないことを聞いてい来るもんだから流石のキリトも剣の腹でひっぱたく。
正直に言おう、クソ痛い。
「お前! この状況分かって言ってるのか!?」
「んー絶体絶命都市?」
「水じゃなくて火にやられそうなんだよ!」
「大丈夫大丈夫、確かに目の前のおっさん達は異様に怖そうに見えるけど――」
「分かっているな…ら……」
まるでトンチンカンなやり取りをする二人だが、キリトが思わず言葉を止めてしまったのは、単純明快。
それは長い戦いの最中で見たモノ。
この世で最も胃が痛くなる光景で、この世で最も頼りがいのあるアレ。
キリトはその笑みを……思わず気が抜けて溜息をついてしまうような、もう何でもいいやと諦めてしまうような。
「―――俺はもっと怖~い奴らを知っているよ」
あの四人のニヒルな笑みを連想させる顔だったからだ。
魔法が放たれる刹那の瞬間。
人が認識できない極僅かな時間の隙間、それはやってきた。
「ほら来た」
刹那。
巨漢のサラマンダーが斧を片手に一人の魔法使いを叩き潰すため、空からやってきた。
「No chance of surviving.≪生きては返さない≫」
「今日もアサルトでウルフだな、リク」
■
上から来るぞ!気をつけろ!
と幻聴が聞こえてきそうなほどに、あまりに突然の襲来だった。
全身空色を基調に赤いラインが入った全身装備を身に着けたサラマンダーが獲物を見つけたかの如く嬉々とした表情で周りのサラマンダーを睨み付けた。
既に死亡判定の出た魔法使いがいた場所にめり込む斧を片手で無理やり引っこ抜くと、準備運動の如く首をゴキゴキと鳴らしだす。
「き、貴様一体何のつもりだ! 同族に刃を向けるなど――」
いきなりの襲撃と同族に襲われたという衝撃が入り交じり、若干の混乱を示す部隊長の言葉を遮るように、現れたサラマンダーが口を開く。
「囲ってボコすなんて弱い者いじめしてる赤達磨グループのお前らと一緒にするな、この禿げ」
「誰が禿げだ!」
そこで我を取り戻した部隊長が、指をさしながら指示を出す。
「ええぃ! 目標をこの男に変更! 灰に変えてしまえ!!」
その怒号に気を入れたサラマンダー部隊は、各々距離を取りながら魔法を唱え始める。
その中心で斧を肩に担ぎながら、一言。
「なら此処で炭になる予定の俺からひと言……『エリック上田』」
「お前みたいにアホな高さから紐無しバンジーできるか」
と橋の入り口から、これまたアホみたいな速度で飛んできたのは刀使いのレプラコーン。
一瞬で部隊長との距離を詰め首目掛けて一閃。
綺麗な断面図を残し首と胴体は離婚した。
「ってかこんなアホな事してないで…ローキ!!」
その言葉と共にいつの間にか待機していたスプリガンが既に詠唱を済ませ用意していた魔法を放つと、黒い煙幕が前方に向かって吐き出される。
その煙幕が完全に視界を覆う前にそそくさと三人は逃げ出し、キリト達の方へ一直線。
「ってなんでこっち来るんだよ!」
とキリトの叫び空しく、既に到着してしまった三人。
が、レプラコーンがキリトの肩掴んで一言。
「いやいや、ちゃーんと勝算あっての行動よ? ところでキリトくーん」
「な、なんだよ。ってかなんで俺のネーム知って…」
「幻惑大好きスプリガンにはモンスターに変身する魔法があるんだよな?」
と、その質問にキリトは一瞬心臓を掴まれる間隔を覚えた。
その魔法は、キリトが考えていたこの状況を打破する一手に含まれていたからだ。
「他人任せ…と言われればそれまでなんだが、その魔法を使って、ぱぱぱーと赤達磨たちをやっつけてはくれませんかね?」
「いや、モンスターに変身できるって言っても、俺はこの世界のモンスターをほとんど知らない初心者で――」
「んなわけないでしょ。知っているはずだよ?」
ゆっくり、ねっとりと放たれる言葉に、キリトは一瞬眩暈に似た感覚を覚えるも、その言葉に耳を離せなくなってしまった。
完全に、意識をもってかれたに近いかもしれないその感覚に、若干の困惑を覚えるも、それを無視してレプラコーンは続ける。
「強ーくて、怖ーくて、自分でも恐怖を覚えたモンスターをお前は知っているハズだ。思い出せ、そしてそれを体現しろ。奴らを――」
その言葉に自然と詠唱を口に出す。
そうだ、俺は知っている。
俺が一瞬でも恐怖したあのモンスター。
「――狩れ」
その瞬間、74層の恐怖が降臨した。
「お前何した、催眠術でも使ったのか?」
「やる気というか、ラブ注入的な?」
「キモい」
「ははは、どストレートで凹む暇もねぇや」
赤達磨が一人を残して全滅したのは言うまでもない。