ソードアート・オンライン−−ギルド名『草生えるw』 作:tfride
ごめん、今回も草生えない
決勝を終えたリクを待ち受けていたのは複数のギャラリー、そして同じく本選参加権を手に入れたキリト。
その後ろで殺気ガンガンで彼を見つめるシノンだった。
遂にバレたかと小さくため息を吐いて軽い挨拶をキリト、シノンに済ませその日は手早くGGOから彼はログアウトした。
数時間ぶりの現実世界、使い古されたベッドの上で目を覚ました彼はアミュニスフィアを取り外すとゆっくりと上体を起こし時間を確認する。
もう夕暮れも過ぎて夕闇が顔を見せた頃、そろそろ晩飯の準備に取り掛かろうかと起き上がった拍子に目に入る、長押に掛けられた額縁の中の写真を…今はもう居ない祖母の顔を一瞥すると振り払う様に自室を後にした。
彼がSAOで過ごした二年間は確かに彼の成長の糧となったが、同時に多大な代償が支払われていた。
雨川陸人、全国の男子生徒の平均よりもずば抜けて身長が高かった彼は生まれつきの身体つきの良さ、加えやや力加減が上手くできない子供であった。
優しく、物事に素直、次男だったこともあり周りの大人の顔を伺って分け隔てなく、言ってしまえば表面上は優等生を演じて来ていた。
怒られない様に、他人に迷惑を掛けない様に。そんな風に生きていながらもやはり根は子供、やんちゃ盛りだった彼は悪戯も程々に、気の合う友人と健やかに人生を歩んでいた。
しかしその恵まれた体と力は彼を苦難の道へと誘う。
切っ掛けは彼の友人が校内の不良、背伸びが過ぎた上級生に絡まれ暴力を振るわれていた事だった。
校内では身体が大きいだけの普通の生徒として認知されていた彼は初めてその場で、激情に駆られる。
自分たちの居ない所で暴力を振るわれ、虐められていたという事実、それに気づけなかった自分自身。そしてそんな行動に走る相手が彼はどうしようもなく許す事が出来なかった。
その頃には身長180を超え、身の丈以上の膂力を備えていた彼が複数とは言えまだ成長途中の中学生数人を相手すれば結果は火を見るよりも明らかだった。
事の発端が起きたのは授業開始10分前、クラスメイトである友人がまだ教室に戻ってこない事に違和感を覚えた彼が一人校内を探し回わり、暴力を振るわれ友人の身体に煙草の火が押し付けられる直前だった。
彼の校内全体に響き渡るような怒声により教師陣、学校の生徒等が騒ぎ始める5分後には決着はついていた。
コンクリートの壁に力任せに叩き付けられ意識を失った生徒、鼻の骨が折れ血を流しながら蹲る男子生徒、腕をあらぬ方向に曲げられ悲痛な嗚咽を流す者。
そして――
『てめぇの顔面も整形してやるよ…』
傍らで怯える友人に目もくれず主犯格の顔に煙草の火を何度も押し付ける陸人の姿がそこにはあった。
結果、救急車及び警察が出動する事態となった学校は授業は中止、救急車に運び込まれる上級生達を尻目に友人に駆け寄った陸人を待ち受けていたのは彼を蝕む呪いの鎖だった。
『く、くるなぁ!!』
友人による拒絶は彼の心に深く突き刺さり、そして彼はこの一件から孤立する事となり。あられの無い噂が卒業まで付きまとう事となる。
幸いな事に彼の更なる報復を恐れた上級生たちの言葉と大事にしたくない学校側の意向により、彼は厳重注意という形で締めくくられる。
そして同時に彼は次の校内の畏怖の対象として孤独を強いられた。
受験期、両親があまり家に居ない彼は相談する相手が祖母か兄しかいなかった手前、出来るだけ地元から離れた高校にすると告げるだけ告げてなるべく人目を避けた。
苦も無く登校1時間程の高校に進学した彼はあまり問題を起こさない様に務め日々を過ごしていた。
そしてあの頃からふとした瞬間に現れる『激情』に一抹の不安を抱えるようになり。同時に他人が嫌いになりつつあった頃。
その日もその日とて中学三年間で固まってしまったしかめっ面を治す方法を探しながら、中学の頃に始めたオンラインゲーム内で数人の仲間内からある誘いがかかる。
『おっつー、今度新しくβテストで新作ゲームが出るんだけど面白そうだからやろうず。え?拒否権?ねぇよ?』
これがきっかけで陸人、リクは草生えるwのニンジャ、ローキ、ウサギとデスゲームを始める事となった。
あえて言うならば大体これのせい。
SAOの一件以来、彼の激情は沈静化の一途を辿った。
時折ウサギに対して
それは…ラフィンコフィン制圧のあの時ですら…。
彼にとってSAOでの二年間は正に極限まで張り詰めた緊張感で行う、やり直しの利かない遊びだった。
…が、それが終わりを迎え、ALOでのキリトへの協力行為も終わった頃。
ゆっくりとソレは顔を覗かせてきた。
今から考えると切っ掛けは何だったのだろうか。
簡単だ。
育ての親とも言える祖母が他界してしまったからだ。
正に『失ってからでは何も出来ない』とはこの事だ。
恩返しもままならない。
今でも時折覗かせる凶悪性。
そうじゃないと歯を食いしばる自制心。
あの時に戻れればと思い返すSAOの記憶。
『さぁヒースクリフ―――』
『さてとカーディナル―――』
『だから陸人、思いっきり―――』
もはや思い出すこともままならない、きっと忘れてはならない…四人で掲げたはずのナニか。
それが今の雨川陸人だった。
■
「んで? 俺が何したよ?」
BOB決勝戦2時間前、態々新規キャラをしっかりコンバートで作り上げて顔を見せに来た草生えるwの面々を前にリクはゴーグルを外し顔を歪める。
対する三人、一人は寛ぎながら煙草を吹かし、一人は所持金の許す限り料理を口に突っ込み、最後の一人は事なかれを貫き通すようで沈黙を貫いている。
最初に口を開いたのは外道筆頭、ニンジャである。
「俺達、ハンドガン縛りって言ったよね?」
「ハンドガンだろうが。」
悪びれもなく平然と即答したリクは、拡張マガジン搭載のグロッグを取り出しテーブルに放り出す。
そう、間違ってはいない。
拡張マガジンにより本来のグロッグよりも大幅に装弾数が増えていたり、グロッグの設定でハンドガンでは異例のフルオート搭載でもグロッグはハンドガンである何も悪くない。
「うーん、実際何も悪くない定期。」
苦笑してそう返したローキを横目にニンジャは徐に隣のウサギを見やり何か言ってやれと催促した。すると
「面白くないからダメ」
「ブチ殺すぞテメェ」
最早遠慮の欠片も無い即答を叩き付けてリクはニンジャを睨みつけ言い放つ。
「そもそも、BOB本選決勝は30人によるバトルロワイヤル! ステージが広大! その上に時間設定は午後、ハンドガン縛りの制約ならせめて乱戦にも対応できるこの装備が一番無難なんだよ。それをSAAでやれってのが無茶苦茶だ!!」
「サブマシンガンだけで小規模大会制覇したお前に言われても現実味ねぇんだよ。」
実はリクはGGOに再びログインした当初、三人にどれほどの技術があるのか見せてほしいと頼まれ小さな大会で馴染のあった装備で挑みサブマシンガンだけで優勝したという過去がある。
そのあまりにも初心者離れした技術と実力に呆れられハンドガン縛りを余儀なくされていたのだ。
「けっ…それで…。本題は何だ?」
小さく舌打ちをする事で不本意ながら了承という意を見せながらリクはそう口にする。GGOのBOBは同じ系列であるALOからでも予選、本選共に中継されるもので態々彼らがGGOに入ってまで観戦に来るとは思えなかった。
こうして自分の目の前に現れグダグダ言葉を交えるには理由があるのだろうと彼は勘ぐったのだ。
「ん? いやいや、別に何も? ただGGOはアングラな一面があるからな、アレを俺達は期待してきた」
意味ありげな笑みを浮かべニンジャが指さした先にはグロッケン中央を陣取ったトトカルチョ、何人ものプレイヤー映し出された参加プレイヤー一覧に唸りを見せ、飛ぶように金が行きかいしていた。
それを見てここに来てまで博打かよ、と呆れを露わにしたリクの表情にニンジャは煙草を吹かしてそっぽ向きローキは苦笑を浮かべるだけだった。因みにただ飯を貪るだけの哺乳類はリクの視界には映っていない。
再び視線をその参加者一覧に向けたリクは自然と自分の名前がどのあたりにあるのかと、視線を巡らせ気づいた時には顔を両手で覆う。
「結構な人気者だぜぃ、リク君」
人を小馬鹿にしたような声音で告げたニンジャの言葉に、やかましいと一言で切り捨てたリクは立ち上がり本選の準備があると三人に告げて踵を返した時だった。
「―――『死銃』は実在する可能性が高い。早死にすんなよ。」
「………『ラフコフ』を予選で見つけた…。俺が消えた時はソイツが『亡霊』だ……。」
ゲームは違えど、確かに通じ合っていた意思はそれとなく情報を交わし切り上げる。
…が、通り過ぎていく陸の背後から、バレない様にニンジャが立ち上がり、彼のゴーグルの留め具に折り畳んだ紙を一枚嚙ませた。
「ニンジャ、今の何?」
「ん?…もしもの保険」
仮想現実を舞台に再び、生死をかけた不条理劇の幕が上がる。
追記しておくならば、あの後リクは10万ずつキリトとシノンに投資して、それを三人に勘付かれ一悶着があったりする。
Gmail整理してたらTwitterからのメールで、この小説のタイトルが乗っていたから、まさかと思って検索してみたら何人か検索してくれてて…。
しばらく放心してたら煙草の煙が目に入って
「フォンヌ!?」
って言ってた
フォンヌって何?