ソードアート・オンライン−−ギルド名『草生えるw』 作:tfride
12月24日。
現実ではクリスマスイヴとなり、イベントシーズンのど真ん中。
その流れはアインクラッド内でも変わらないのか、ほとんどのプレイヤーが雪の降る35層に降り立っている。
いや、本当の目的はその日限定で現れるボスモンスターのドロップ品が目当てなのだろうが…。
とにかく、人の動き方というのは仮想空間も現実も変わらない。
が、ここに変わった動きをする輩が4人。
35層の『噂のボス』への道。
その道すがらを、喉が引き千切れるほど大声で歌う4人組。
「
『リア充死すべし慈悲はない!HEY!』
「
『サンタ八つ当たり最高だ ! yah!』
なんとも頭のおかしい歌であるが、本人たちはいたって真面目なのだから始末に悪い。
しかも事あるごとに通りすがりの男性プレイヤーに
「お前は彼女いるか」
と伺い、yesと答えれば拳のみで殴りつけ、罵倒し、そして無視して突き進む。
なんとも滑稽である。
ちなみにウサギはリアルでは既婚者。
なので、前日にしこたまシバかれ洗脳じみた言葉を延々と呟かれたのは知らない方がいい。
時々青い装備が特徴的な集団に喧嘩を売られ…。
リア充死すべしと叫びながらタコ殴りにしたのも知らない方がいい。
数分後にこれらと会いまみえる事になるキリト君に、合掌…。
■
―――俺のせいだ…。
そう心で呟きながら、キリトは雪の道を歩いていた。
―――俺のせいだ…。
半分洗脳じみた心の呟きに…泣きたくなった。やり直したくなった。
自分があの時もっと強ければ。
もっと慎重に進んでいれば。
そもそも…。
―――彼らに関わらなければ…。
そんな後悔と、もしも…というありもしない妄想を思考の中で繰り返す。
なぜあの時彼らと関わってしまったのだろう。
たった『一人で』ビーターという汚名を背負い、寂しかったのだろうか。
それとも皆と笑顔でいられる彼らが羨ましかったのだろうか。
「理由なんてどうでもいい…」
そう、問題は理由じゃない。
結果だけ見れば、自分が関わらなればよかった…と、思考がはじめに戻り、延々と繰り返す。
それからキリトはハイリスクなレベリングをするようになっていった。
まるで自分を罪の業火で焼くように。
だがそれも今日までだ。
否、終わりなどない。
許してくれるかさえわからない…、いやきっと許してはくれないだろう。
還魂の聖結晶…これがあれば、死んだプレイヤーすら蘇る。
これでみんなを生き返らせれば…。
その思考のみがキリトの体を突き動かす。
許してもらおうなんて思わない。
けれど自分にはその義務がある。
「ケイタ…テツオ…ササマル…ダッカー……サチ…っ!」
待っていろよ…そう心にもう一度懺悔の燃料を過剰に投下し、キリトは歩き続ける。
その時である。
「訳の分からんイベント増やすな!」
『訳の分からんイベント増やすな!!』
「公然で堂々とイチャイチャするのをヤメロ!」
『公然で堂々とイチャイチャするのをヤメロ!!』
「…なんだあれ?」
なんとも珍妙な行進に…思わずキリトは放心する。
先ほどまでの葛藤すら置き去りにして後ろを振り向けば、なんだか見知った4人組。
ああ、アイツ等だ。
「でた…」
思わずそうキリトが呟いてしまうのも無理はなかった。
最近血盟騎士団やアインクラッド解放軍、聖龍連合などに続いて語られるギルド。
ギルドネーム、草生えるw
最初は何の冗談かと思い見てみれば、アイツ等(問題児)だった。
もうそこからキリトは考えるのをやめた。
SAO商店が最前線の主街区に必ずいたり、やけに珍しいアイテム売ってたり、その商店が草生えるの傘下だったり、その4人が主催となって各地でイベント開催してたり。
もうこの世界の生活で彼ら関連の物事を見たり聞いたりしない方が困難であるが、あきらめた。
そのうちの一人、リクがこちらに気づきやがった。
「あ、キリト見っけ」
その言葉とともに4人は凄まじい速度でキリトの前に迫ってくる。
お前らなんのスキル使ったらそんな速度出せるんだよとか思ったが、この際知らん。
「な、なんだよお前ら…俺はこれから」
「キリトくぅん」
「は、はい」
少し抵抗しようと試みるも、アッサリ失敗。
しかも4人があからさまに血の気の多い顔をしているからなおの事たちが悪い。
いや…一人顔が死んでいる…確かウサギだったか。
が、キリトのそんな胸の内を無視して全員口をそろえて聞いてきた。
『君はリア充かい?』
もはや恐怖だった。
「ちちちち、違います…」
思わずそう答えた。
いや、リア充だったとしてもきっとNOと答えただろう。
何よりもYesと答えたら…なんだか死を迎えそうな気がした…精神的に。
するとキリトの答えに満足したのか、とっても爽やかな笑みを浮かべながら…。
「そうか、ニンジャさんは君を信じてたよ。さぁ行こう同士よ、サンタを殺しに」
「キリト君、君とは友達さ。何か困ったことがあったらこのリクになんでも相談してくれ。さぁサンタを殺そう」
「あ、もう察してると思うけど、諦めて。え?解放?たぶんサンタを殺したら」
「…リア充…ふふふ…リア充…ふふふ」
なぜかウサギのみ洗脳チックに自らの天敵を呟きながら目が白黒反転しているが気にしない。
既に許容量を限界突破し、もうなんだか心霊現象でも見ているような気分になってきたキリト。
そして引きずられるように道を進んでいくと、ふとあることを思い出した。
「な、なああんた等。もしかしてこの先のボスを討伐しに行くのか?」
「あぁ、この先の諸悪の権化を消しに行く」
「諸悪…?」
もうなんでもいいや。
「…ならとにかく。あんた達も蘇生アイテムが目当てなんだろ?」
「さんた…ころす…サンタ…殺す」
「こいつは何があったんだ…」
「クリスマスの洗礼に呑まれた」
「まじか…」
キリトと若干…というより大分会話がかみ合わないが、無理やり会話を進めていくと…。
「蘇生アイテム?知るかサンタ殺しに行くんだよニンジャさんは」
「あっはい」
紆余曲折あったがこんな感じにまとまった。
一応蘇生アイテムが他4人に渡った場合はキリトに渡すことも了承して…。
「…ホントにこいつらサンタボスを殺しに行く『だけ』?」
どんだけ現実で悲しい出会いやら別れを遂げてきたのだろうか。
今は絶対に聞けないだろうそのタブーにほんのチョットだけ気になったキリトであった。
途中ネジが融けた4人と同行する羽目になったが、ようやく目的の場所にたどり着いた。
情報が正しければあと1分。
装備の確認や回復アイテムのチェックをしてると。
「今こそサンタをぶち殺す時!」
『イヤァーァ!!』
「もうなんなの…」
頭痛がするキリトを無視して話を続ける4人。
「サンタ殺すべし慈悲はない!」
『サンタ殺すべし慈悲はない!』
「でもサンタが可愛かったら?」
「許す!!」
「そのサンタもう出てきてるけど」
ローキがそう呟き、皆が彼の指さす方向に視線を向けると。
植物と巨人と牧師が合体したようなサンタクロースが出てきた…いや、正確にはサンタじゃないのだが。
結論から言おう…可愛くない。
『殺す』
「結論早くないか?」
もういいやと呟き剣を抜くキリトの目には、一層輝きつつ…殺意に満ちた4人がいた。
■
「…なんだったんだ……」
そう呟くキリトは現在35層の主街区にいた。
時間は既に午前3時。
結局のところ、ボス戦は30分もかからなかった。
なぜかキリトよりも気合の入った4人が。
『死に晒せ!!』
と叫びながら大暴れしてくれたせいだろう。
と、キリトは手元のウィンドウにある蘇生アイテムに視線を落とす。
死亡10秒以内での使用によって、死亡したプレイヤーを蘇生できるアイテム…。
それだけで深くため息をして、ウィンドウを閉じる。
結局のところ、月夜の黒猫団を蘇生する事にはいたらなかった。
それだけが唯一、キリトの心を深くえぐるも…。
「ありがとう同士よ。お礼にこれは受け取ってくれ。友情の証さ」
なんてリクが爽やかなキラキラ笑顔で蘇生アイテムを渡してきたときには。
(…あー…俺、このアイテムでみんなを蘇生するのか…)
と、その時少しばかり引いたのは言うまでもない。
なんとも珍妙な連中との遭遇に若干の罪悪感の念が薄れたキリト。
12月25日…ふともうすぐ正月だと、キリトは思った。
どうせまたあの4人はイベントなり、なんなりするのであろう…と思い、ふと街の掲示板に目を向ける。
すると、その中の1枚に注目した。
【SAO流のお正月はこちら!1月1日はぜひ55層の血盟騎士団本部前の餅つき大会へ】
【1月1日0時 第1層、10層、20層、30層、40層、50層、55層にて花火打ち上げ】
【9時30分 当開催責任者等のあいさつ】
【10時 餅つき大会開始】
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【開催責任――ギルド『草生えるw』】
「ほらぁ…」
思わずそう呟いたキリトは悪くない。
みんなはリア充かい?