ソードアート・オンライン−−ギルド名『草生えるw』   作:tfride

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今年の正月は一人でした。






第5話 『ヒースさん、約束の物ですw』

 

 

 

「えーゴホン…本日は、アインクラッド『正月餅つき大会』にお集まりいただき、誠にありがとうございます――」

 

約1000人近くのプレイヤーを見つめながら、ヒースクリフは思った。

 

どうしてこうなったと…。

 

 

 

 

 

 

1月1日。

めでたくアインクラッド2度目の正月がやってきた。

現在55層の血盟騎士団本部前には、特設のステージから見下ろすだけでも1000人近い人数が見渡せる。

おそらく、もう少し先や物陰の裏などに目を向ければまだまだ人はいるだろう。

今、その数の視線にさらされながら、血盟騎士団団長ヒースクリフ…もとい、ゲーム制作者 茅場明彦は、このイベントの主催者たちを思い出した。

ギルド草生えるw。

名前だけ見ればおふざけの塊みたいな名前だが、実力と名前が一致しなかった。

 

ヒースクリフ達、血盟騎士団などの攻略組は、言わば攻略組と言われる最前線で戦うプレイヤーだ。

自分たちの磨かなければならない最大の武器は、それこそ個々の強さと集団での戦闘力だ。

レベルは自分たちの安全マージン。装備は敵を屠るためのエンジン。

そう表すかのように、基本攻略組のプレイヤーはレベルが高く、強いと言わせられるだけの力を持つ。

 

だが彼らはそれだけではなかった。

 

たった4人という人数的ディスアドバンテージを補うように、傘下ギルドとして商人ギルドを発足。ビーターという汚名をキリトというプレイヤーと共に被ることで有名になり、話題になり地力を固めた。

何より、『攻略組と全く変わらない個々の強さ』が彼らのギルドを上へと押し上げた。

当時無名であったヒースクリフが第一層ボス攻略にて見た、あの4人の合図無しの連携。

まるで長い時間をかけて訓練をし続けた道化師のように見えたそれは、彼には分かった。

 

あれは事前情報や訓練によるものではなく、信頼による`即席の連携`であると。

 

確かに個として彼らは攻略組の一個人としての戦力はある。だがその程度だ。

しかし、彼らは集団…特にあの4人での戦闘になれば話は別だ。

群れることによって圧倒的力を生み出す者たち…ヒースクリフはそう彼らを評価していた。

 

「――――では、餅つき大会を大いに楽しんでくれたまえ」

 

そう告げステージを後にするヒースクリフ。

その顔には、若干の笑みがこぼれていた。

もちろん大勢の観客の手前…もあるが、一番の要因は。

 

(草生えるwの諸君…私のゲームは楽しいか?)

 

あの4人に対する…製作者ゆえの嬉しさからだろうか。

 

 

 

 

 

 

現在55層主街区は…圧倒的賑わいを見せていた。

SAO商店のメンバーが出店しているのであろうか、今までにない数の出店数が立ち並び、血盟騎士団本部前には特設ステージによる餅つき。

周りのプレイヤーを見渡せば、何処から仕入れたのか着物に身を包んだプレイヤーがわんさかいる。

ふと大きめの出店を覗くと。

 

「リズベット武具出張店にようこそ!沢山仕入れた着物アイテムもあります!1着1000コルから販売しておりまーす!」

 

いつもの鍛冶装備の彼女ではなく、今日はピンクに薄茶色の刺繍が施された着物姿のリズベットが着物を販売していた。

売り上げは上々…どころか、飛ぶように売れているのだろう。いつも彼女の表情を観察しなければわからない程度の『えへっ』といった表情が浮き出ていた。

5人ほどの団体が着物に着替え出店を後にすると、その後ろから血盟騎士団副団長のアスナがそっと顔を出した。

よくリズベットのお店であるリズベット武具店を利用するためか、彼女の若干の違いに気づき、少々の呆れとともにあいさつ。

 

「明けましておめでとうリズ。売り上げは上々みたいね」

 

「明けましておめでとうアスナ。でへへへ、分かる?」

 

そのあいさつに若干照れながら答えるリズ。

するとアスナは続けて質問を重ねる。

 

「ホントに凄いわね…貴方の上司さん。特にこんなところでイベントを開催するなんて」

 

そう自分のギルドホームを指さし皮肉交じりに言い放つアスナにリズは申し訳なさそうに。

 

「そういわないで。私だって反対したけど、ここじゃなきゃいけない理由があったらしいし」

 

「理由?なんだろ…団長の太鼓持ちとか?」

 

その答えにリズはその場で腹を抱えて笑い出した。

その対応にあからさまに頬を膨らませるアスナ。

 

「あはははは…ごめんごめん。でもあの人たちはそんな事しないって。断言する」

 

そう言い放つ顔つきは、信頼というよりは諦めに近い顔をしていた。

そんな事よりも…とリズは商人の顔をしてストレージから1着の着物を取り出した。

 

「どう!この赤と白の着物!アスナに似合うかもって取っておいたの!」

 

いや、これは商人の顔ではない。着せ替え人形を見つけた女の子の顔だ。

そんな顔を見たこともないアスナは、しかし本能的に理解した。

 

断らねば遊ばれる。

 

「せ、折角だけどごめんなさい。これからイベントのお話を…」

 

「何言ってんの、折角のお正月よ?おめかしくらいしてきなさいよ」

 

「いやでも…」

 

「ほらほら早く!」

 

そう無理やりお金を払わずに渡された着物に目を向けると、白地に赤という自分がいつも来ている血盟騎士団の装備のような配色の着物であった。

金色の刺繍で日本の風景画のような山と雲の刺繍がさりげなく施され、彼女の目から見てもそれは綺麗の一言であった。

 

「…きれい…」

 

「でしょでしょ?着てみるだけでもいいからさぁ」

 

まるで悪魔のささやきであった。

うぅ…と唸るアスナに上等な餌を見せつけ、結果的にアスナは着物一式。

さらには自棄になって燕の銀色の簪も買ってしまった。

 

 

 

 

 

が、そんなことは知らない、いつもの4人(問題児)。

アスナが着物1着に相当な時間をかけるころ。

ステージのほうに視線を移せば、血盟騎士団の面々。名のある攻略組やらがある1点を見つめていた。餅を食べながら。

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおお?」

 

「おら、お前の筋力値はそんなもんか。あと3000個だぞ」

 

「はぁ!?3000!? んなもん無理に決まってんだろ!」

 

「出来るリク。頑張れ」

 

「ローキさん?少しは手伝ってくれてもいいんじゃないですかね?」

 

「もぐもぐもぐもぐ」

 

「…ニンジャ、アイツ(ウサギ)の所業は?」

 

「死刑」

 

「おし頑張る」

 

ステージ上を一人の餅製造機と化したリクがただひたすらに臼と杵を物凄い速度で打ち付けていた。

この臼と杵、食料アイテムである餅を作るための装置らしいが、アイテムが一つ出来上がる要因が筋力値であった。

そしてリクの筋力値で叩き付けると餅が1個完成する。

つまりは彼はあと3000回叩き付けなければならない。

もはや苦行である。

 

「なぁ、何やってんだ…あ、お餅配ってんのか。え、貰っていいの?…頂きます」

 

「やぁやぁキリト君!久しぶりだね!少しくらいこっち手伝ってくれても罰は当たらないよ!?」

 

「うるせぇ働け」

 

「だぁああああああ畜生ぉおおおおおおおおお!」

 

「こいつは何やってんだ…?」

 

「餅つき」

 

「いや公開処刑されてる様にしか見えないぞ」

 

すると流石に心中察したのかニンジャが他の見学中の人たちに交代として餅をつかせ、リクは裏へ休憩に。

そしてローキがいきなりキリトと同じステージ下に降りてきた。

 

「やぁキリト君」

 

「あれ、餅つき大会はどうしたんですか?」

 

「ニンジャが休憩に行っておいでって、よかったら一緒に見て回らない?」

 

「まぁ…一人で回るよりは…」

 

4人中最もまともな部類のローキが来てくれたことに安堵し、二人は主街区を回り始めた。

中には祭用の食品や、通常のアルコール。趣向品などが売っており、まさにお祭り状態であった。

 

「にしても君は俺には敬語を使うんだね」

 

「まぁ一応。もしかして気にしてます?」

 

「いや、気持ちはわかるよ。あいつらおかしいもん」

 

「そのセリフをほかの3人に言ってあげたらどうですか?」

 

「言ったさ。そしたら『常識がなんぼのもんじゃ』って――」

 

「――あ、もういいです」

 

「そう言わないであげて。現実だと結構面倒見の良い常識人だよ?」

 

んなバカな…とキリトは他の面々が仕出かしてきた悪事という悪事を思い出す。

いや、悪事ではないのだが。

気持ちはわかるけどね。とローキが付け加えると、一軒の出店に差し掛かる。

するとキリトは一人見覚えのある女性が店の前に佇んでいるのを見つけた。

 

「似合ってるじゃんアスナ」

 

「もう、上手く乗せてきたのはリズじゃない…」

 

「仲睦まじいところ失礼。リズー」

 

ローキは一歩後ろから声をかけると、目の前の店員…リズに話しかけた。

 

「あらローキさんいらっしゃい。一人?」

 

「いや二人。キリト君紹介するね、こっちは鍛冶職人のリズベットさん」

 

「どうも、リズベット武具店のリズベットです」

 

「んでこっちはソロプレイヤーの…あれ?」

 

ふとローキがキリトを紹介すべくリズと着物姿の女性…アスナに視線を向けると…。

 

「アスナ…」

 

「キリト君…」

 

お互い顔を見合わせたまま動かない。

運命の出会い…というよりは、少し訳ありな再会。といった方が正しかった。

 

「アスナ…ってことは第一層の攻略で一緒になったアスナさん?」

 

そうローキが尋ねると、アスナはこちらの顔を見るなり驚いたように答えた。

 

「はい、そうですけど…ってローキさん。お久しぶりです」

 

「あはは、お久しぶり…ぬおぉ?」

 

いきなり腕をリズに腕を引っ張られ強制的に少し屈んだ体勢になるローキ。

 

「な、なにリズ」

 

「え、なになに。どういう状況?修羅場?」

 

「あーそのことについてはまた後で…。リズ、悪いけど黒い着物ない?キリトに似合うような」

 

いきなりのリクエストに困惑するも、在庫の中から黒一色の着物と草鞋が出てきた。

この際これでいいかとそのアイテムを受け取り、キリトに差し出しながら。

 

「そうそうキリト君。これ僕たちが販売している着物装備なんだけど着てみない?」

 

「えーっと、いいですよ。そんなにお洒落に興味ないですし」

 

「まぁまぁそういわずに」

 

そう言って半ば強引にキリトにアイテムを渡すローキ。

なんだかどこぞの武具店店主のようだなと少し顔がほころぶアスナ。

仕方なく言われるがまま装備すると、落ち着いたご隠居のような雰囲気を醸し出し始める。

 

「ありゃりゃ、よく似合ってるじゃん」

 

「本当ですか?なんか爺くさいような」

 

「そんなことないって、あぁ悪いんだけど僕はリズと少し打ち合わせがあるから、アスナと少し回ってきなよ」

 

「は?」

 

「へ?」

 

二人ともその言葉に思い思いに反応し、再び顔を見合わせる。

が、そんな事お構いなしにローキは二人の背中を押して。

 

「いってらっしゃい!」

 

「ちょ!ローキさん?」

 

気づけばローキは既にリズと話し込んでいるのか、こちらを向いていない。

自然に向きはお互い向かい合う形となっていく。

特にアスナは彼に言いたいことの1つや2つあるのだろう………なにより、アスナを置いて第一層から消えたのはキリトや草生えるwの四人たち。

言葉を言いかけては止まり、また考えるを繰り返しているようだ。

少しばかりキリトはどうするべきか考え。

 

「今は…イベントを楽しまない?」

 

「…はぁ…そうね。楽しみましょ」

 

何も考えないことにした。

キリトには珍しく、誰かと一緒に行動しようとした瞬間でもあった。

 

 

 

 

その様子を遠目から見つめるリズとローキはふぅと一息つくと、少しばかし事情を説明した。

第一層攻略会議で一緒になったこと。

ビーターとして自ら責を背負おうとしたこと。

 

「へぇ…あの黒い方がそんな事を…」

 

「まぁ悪い子じゃないのは確かだし。邪険に扱わないでくれ」

 

「扱うもんですか、ただのとばっちりじゃない」

 

「それもそうか。ところで着物の売り上げは?」

 

「上々。今ログインしているプレイヤー人数分集めといて正解よ。もう残りも少ないもの」

 

「そんなにか」

 

「えぇ。ところでこの着物だれが作ったの?」

 

「ニンジャ」

 

「へ?」

 

「ニンジャ」

 

「…聞かなかったことにするわ」

 

「え、なんで?アイツ裁縫マスタリーしてるよ?」

 

「なんでよ…」

 

戦闘職なら戦闘スキル取りなさいよと一人愚痴るリズだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅーー……」

 

口から白い煙を吹かせながら、ニンジャはステージから少し離れた血盟騎士団前のベンチに腰掛けていた。

とある事情により煙草のようなアイテムはないかと、このヤニ切れニコチン中毒者は探していたところ、似たようなアイテムを見つけたのだ。

その名も『タバコ』

まんまじゃねぇかと使用してみると、やはり疑似的な信号が脳に渡っているのかそれで満足してしまった。

贅沢を言うならメンソールがよかったと愚痴をこぼすニンジャ。が、まぁ今はこれで我慢するかと落ち着いた。

 

休憩時間を利用してステージや出店から離れれば仲間や男女のペアで歩く人が多く、ニンジャはその少ない人だかりを見つめながら休憩していた。

 

ふと、後ろか音がする。

それは鉄や布が擦れ合う独特の音だったと理解し、首だけ後ろに向けると。

 

「やぁニンジャ君」

 

「これはこれは…血盟騎士団長殿」

 

ニンジャの皮肉を前にしても彼は動じず、彼の隣にゆっくりと腰かけた。

 

「意外だな。かの団長だったら広い部屋で高価な椅子に座っているもんじゃないのか?」

 

「随分と辛辣だな。私もこういった場所で座るのはやぶさかではない」

 

「否定しないのな」

 

「事実だからな」

 

しばしの沈黙が二人を包む。

傍から見れば血盟騎士団の団長と草生えるwのギルドマスターのツーショット。アルゴだったらこの間に入って情報の一つや二つもぎ取ってきそうであったが、生憎二人を引き離す要因はいまだ現れなかった。

 

「にしてもよくこの人数を集めたものだ」

 

「そりゃそうだろ、皆娯楽に飢えてんのさ」

 

「その基準であれば君達は娯楽に飽きているといった具合かね?」

 

「まっさかぁ。飽きてるなら提供すらしねーよ」

 

再びしばしの沈黙。

再び沈黙を破ったのはヒースクリフ。

 

「ところで、ギルド同盟の件については考え直して―――」

 

「やだ」

 

「―――言わせる隙もないか」

 

「ならこっちも一つ…俺らみたいな変わり者ギルド誘ってどうすんの?」

 

「変わり者か…だがレベルで見て君達と私達のレベル数値は変わらないだろう」

 

「おう、レベルはな」

 

「それだけではない。確かにアスナ君は50人ほどの集団を纏める力があり、閃光のアスナと呼ばれるだけの実力を兼ね備え勝利を収めてきた」

 

その話に聞いていないのかタバコの煙をもう一吹きするニンジャ。

だがヒースクリフは構わず続ける。

 

「だが君達は?戦闘での集団指揮はしたことはないだろう…しかし500人以上のプレイヤーを束ねこのようなイベントを何回も開催し、そして君らは―――常人にはできないチームワークの良さを持っている」

 

「俺たちを随分と買いかぶってんな」

 

「私の部下が『最前線の』モンスタートラップを作動させてしまった時に君達は彼等を無傷で連れ戻してきたらしいが?」

 

「気のせいだ、いやぁー歳は取りたくないね」

 

「可笑しいな、私は記憶力がいいほうだったんだがね」

 

「したらば部下の記憶違いだ、クビにしてしまえ」

 

そう言うとニンジャはタバコを一口吸うと路上へ投げ捨てる。地面に触れオブジェクトが崩壊する様を見届け口を開いた。

 

「それに前にも言ったけど、俺たちは最前線ならまだしも、ボス攻略する気はない。他をあたってくれ」

 

「なぜそこまでしてクリアを拒むのだね。私達のような攻略組が全員死亡したらどうするつもりだ」

 

「『出たくなったら攻略を始める』さ。それまではこの世界を好きに満喫するよ」

 

「…今は出たくないのかね?」

 

その短い質問に、ニンジャは立ち上がり大きく伸びをする。

ヒースクリフは変わらずニンジャの…草生えるwのギルドマスターの言葉を待っていた。

すると首だけをヒースクリフにむけニンジャが口を開く。

 

 

 

 

 

 

―――あぁ、出たくないね。こんな最高の遊び場を提供してくれた茅場明彦に感謝したいくらいだ。

 

 

 

 

 

 

そう言い放つとニンジャは再び前を向いた。

そろそろリク達の準備が終わっているだろうと、気持ちだけ立ち去る準備をしていた。

 

「君達は、変わっているな」

 

「よく言われる」

 

その言葉の真意を理解しないままニンジャはじゃあなと歩き出した。

一人取り残されたヒースクリフは、しばらくそこから動かず…夕焼けが自分を照らすまで残った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おわったぁあああああああああああああ」

 

「お疲れさんぴょん助。にしてもよく逃げなかったな」

 

「リク、片づけ終わったぞ」

 

「お、サンキューエギル。あとクライン、逃げなかったんじゃない」

 

「どういうこと?」

 

「『次逃げたら安全地帯に全裸で放置する』ってニンジャが」

 

『あ、はい』

 

何時もとは異色の四人ではあるが、相も変わらずウサギは奇声を上げていた。

その四人は今、先ほどの餅つきステージだった場所…。

すでにステージは撤去され、周りの出店も撤退を始めていた。

 

ふと端のほうを見ればリズベット、ニンジャ、ローキが、目を点にしながらウィンドウを捜査していた。

 

あれはほっといて良いだろうとそのまま放置し、撤退作業を始めようと…。

 

「なぁリク、さっきの福袋…よかったのか?」

 

ふとクラインがそんな質問をしてきた。

さっきのとは、イベント終了目前に行った『先着100名様無料福袋』というものだった。

クラインもあの福袋の詰め込みを手伝ったが、中身はハイポーションやらレアな素材などが一人分にしては詰めすぎなほどに入っており、正直クラインも主催者側にいなければこぞって手を伸ばしていたほどであった。

 

「しかも100人無料配布っていうのは…もう少しコストパフォーマンスを…」

 

「あぁ、それなら問題ないっしょ」

 

エギルの言葉を途中で止めたのは、余った餅を頬に詰めたウサギだった。

 

「だってあれ解放軍から奪ったもんだし」

 

「そうか、ぴょん吉もふとっぱらなええええええええええええ!?」

 

ノリと勢いで不自然な言葉を流そうとしたが、クラインの理性がそれを許さなかった。

 

「おま、うう奪った?軍から?」

 

「うん」

 

「はぁあああああああああ!?」

 

昨日道端で100円拾った、みたいな軽いノリでそう返されるクラインは、もう終わりだ…とでも言うような感じにへなへなとその場に倒れ伏した。

 

「お、俺何であれ作っちゃったんだろ…」

 

「安心しろって。今週中に軍はなくなるし」

 

「は?」

 

今度はエギルの目が点になった。

 

「お、おい俺その話聞いてないぞリク」

 

「え、だって言ってないもん」

 

「勝手に話をしないでください。もし聞かれたらどうするんですか」

 

不意にリクの後ろから声をかけられ、その声の主を辿ると、アスナが立っていた。

さすがにもう着物姿は恥ずかしいのか、何時もの閃光のアスナらしい服装へと変わっている。

 

「お、いたいた。おーいキリトの嫁~」

 

「なっ!?」

 

ニンジャの不意打ち過ぎる言葉に顔を真っ赤にしつつ、圏内であるというのに思わずリニアーを放ったのは悪くない。

 

「…で!何の御用ですか!」

 

「いやほら、お前さんとこの団長に場所代払わなね。はいこれ受け取って、約束の……『100万コル』」

 

「は?」

 

するとアスナの目の前に現れるウィンドウ。

そのウィンドウには、アイテム譲渡『1'000'000Cor』の文字が…。

 

「……はうわ…」

 

「アスナさぁあああああん!?」

 

あまりの金額の多さに気を失うアスナ。

それを見て大げさに駆け寄るクライン。

溜息を吐くエギル。

 

そしてその光景を見て『笑う』四人だった。

 

 

 

 









今年の正月は一人でした。













一人でした。

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