ソードアート・オンライン−−ギルド名『草生えるw』   作:tfride

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新年明けました。

気づけば半年。






新年明けました。


第9話『ダメージ0ってなんか怖くね?w』

神聖剣と二刀流の激闘の後に起こった大乱闘SAOファイターズ(ただの事案)の後日。

場所は55層にある主街区の中のカフェテリアの中。

忙しなく働くNPCやら、落ち着いてコーヒーに舌鼓するプレイヤーの席のさらに奥。

これまた珍しい組み合わせの面々がそろっていた。

方やリズベット武具店のオーナーであり、SAO商店のギルドマスターのリズベットは頬杖を突きながらのんびりと目の前の光景を眺めており、その隣では血盟騎士団、副団長のアスナが、リズベットと同じ方を向きながら目を点にさせていた。

その向かいには珍妙ギルドの代名詞である草生えるwのメンバー……ギルド唯一の常識人的存在をさらっと獲得しているローキが言葉を向かいの二人に向けた。

 

「そんなわけでキリト君の血盟騎士団入団を賭けた決闘の収入報告は以上かな。今度はリズちゃん達の別途費用だけだね」

 

「えぇ、それは分かったんだけど…」

 

「ん?総収入になると19,198,100コルだよ?賭博だけになると――」

 

「そうじゃなくて…いや、その桁が可笑しい総収入も訳分かんないけどそうじゃなくて」

 

「そう?正月の時はこの十倍の――」

 

「だからそうじゃなくてね?」

 

と、桁のぶっ壊れた話を聞いてフリーズしかけているアスナを放置してリズベットは、ローキの隣を指さす。

 

そこには大量の書類と格闘しているニンジャがいた。

この世界にも紙とペンの機能が備わっているのか、ただひたすらに目の前の勘定報告を睨み付けペンを走らせ…というより、もはやテーブルにまで跡が残ると錯覚するほどに…まさに刻み付けるかのように怒りを込めて書き込んでいるニンジャが…。

 

「これはいったい…」

 

「ただ単にサボって溜まった仕事を片付けているだけ」

 

そのローキの言葉に憐れみを向けるでもなく…ゴミを見るような目つきでリズベットはため息を一つ。

 

「ニンジャさんって…」

 

「今はマジで話しかけるのやめてくれ」

 

カスである。

 

しかしそのやり取りのさなか、頻りにウィンドウを閉じて開いてを繰り返すアスナに気が付いたローキ。

 

「アスナちゃん、何やってんの?」

 

その言葉に手を止めて、苦笑いをしながら謝罪をする。

 

「いえ…その、今日キリト君がクラディールとゴドフリーの三人で演習のようなものをすると聞いていて…少し気になって」

 

その三人の名前…特にクラディールについてはローキも…というより、草生えるw4人が彼をストーカー呼ばわりしていたため忘れるはずもないのだが…聞き覚えがあった。

元アスナの護衛役であった男。

故にストーカー

 

そしてキリトとの一騎打ちの末返り討ちにされた男。

そしてその際にアスナの自宅を警戒していたと公言した男。

まさにストーカー。

 

そして元アインクラッド開放隊殲滅作戦の際に、アスナが心配だからと作戦に立候補した男。

ガチのストーカー。

 

こうして思い返せば何とも背筋に悪寒の走る話ではあるが…とここでローキ。

 

「まぁ確かにスt…クラディールとキリト君の仲はよくないかもしれないけど、気にしすぎじゃない?」

 

何かを言いかけた気もするがこの際無視しよう。

 

「それもそうかもしれませんけど…」

 

そう言いつつもしれっとマップ確認を忘れないあたり、余程気になるのだろう。

 

「そういえばあとの二人はどうしたんですか?」

 

あとの二人…リクとウサギのことだ。

 

「あの二人はほかの商店に配達と集金に行ってるはずだよ。もうすぐ帰ってくるはず」

 

「あの二人も…特にウサギがしっかり働いてることに驚きなんですが…」

 

そう苦笑いで語るリズベット。

その時…不意にアスナが立ち上がった。

 

「どうしたの?…アスナ?」

 

リズベットが顔を覗き込むと、アスナの顔色が明らかにおかしい。

何かを悟ったような…否。

何かに気づき、そして絶望しているかのような顔だ。

 

「…どうした?キリトに何があった?」

 

場の雰囲気が変わったことに反応したのか、それとも仕事がひと段落したのか。

ニンジャも疑問をぶつける。

しかし机に立掛けたレイピアを手に取ると。

 

「すみません、失礼します!」

 

そう言って一目散に店外に掛け出ると、流石は閃光のアスナといったところか。

残像が見えるかの勢いで消え去っていく。

 

その一部始終を見ていたのか、入れ替わるようにリクとウサギが入店してきた。

 

「なんだ?アスナちゃんスンゴイ勢いで走っていったけど」

 

その言葉にローキが隣に視線を向ける。

 

「どう見えた?」

 

その言葉にニンジャは顎に手を当てながら。

 

「動揺と焦り…話の流れから見て…誰か死んだってところだろ」

 

「それは分かるさ」

 

「でもキリトじゃないだろうな。だとしたらこの場で悲しんでるだろう。だから…」

 

その言葉に今この時点で合流した二人は静かに指示を待っていることにしたのか、黙ったままである。

 

「だから?」

 

「この階層じゃキリト達もやられる事は無いだろう。故に一番可能性が高いのは、ゴドフリー、もしくはクラディールが死んでいることであって」

 

「三人の関係性的に一番あり得るのが、クラディールがゴドフリーを殺した…」

 

その言葉に四人は一斉に動いた。

 

 

 

 

 

後のアスナ本人の談。

 

「丸く収まったからもういいです」

 

お察しかもしれませんが、クラディールがひどい目にあいます。

さぁみんなで彼がどうシバかれるか当ててみよう。

 

 

 

 

 

 

殺人ギルド。

いわゆるレッドプレイヤーの集まりである集団の中でも、特に群を抜いて注意するべきは。

皆からラフコフと呼ばれるギルドだ。

 

ラフィンコフィン。

笑みを浮かべた棺桶のマークを体のどこかに刻み、殺害を続ける。

 

 

そんなギルドの一人…クラディールを前にして、一歩も動けないキリトがそこにはいた。

場所は主街区を離れた荒野の谷の中。

休憩だといわれて渡された飲み物の中に仕込まれた麻痺毒にやられ、動けなくなったキリトとゴドフリー。

そこに死神がやってきた。

 

「ひゃひゃひゃ…ひゃひゃひゃひゃひゃ!! 偉そうに命令しやがって!! 俺からアスナ様を奪ったアイツ『等』が悪いのによぉおおおお!!」

 

仲間を…自分の同志を情け容赦なく刺し続ける様はまさに殺人鬼。

やがてその刃が自分に向けられ、残り僅かになった瞬間。

視界から死神が消えうせた。

 

「っ…ヒール!!」

 

その言葉とともに視界はクリアになり、安堵とともに目の前の人物に焦点が合った。

 

「…ア…スナ…」

 

目の前にいるのは、血盟騎士団が副団長であり、この場にいないはずのアスナの姿。

 

「主街区でマップを確認してたら、ゴドフリーさんのアイコンが消えて…もしかしてと思って…」

 

そう語るアスナの肩は上下に揺れていた。

ここから主街区までかなりの距離だ。

それをゴドフリーが死亡してから今に至るまでの間に駆け付けたのだとしたらかなりの速さだ。

 

「まっててねキリト君」

 

そう言って立ち上がるアスナの顔は、クラディールに向き直るころにはまさに鬼の形相。

一歩踏み出すごとに相手の足は一歩下がる。

 

「ま、待ってくださいアスナ様!!これはただの事故です…そう!訓練中に事故が――」

 

瞬間、クラディールにはアスナの右腕がぶれた様に見えた。

気づけば自分の左ほほにダメージエフェクトが走る。

 

ここまで来て言い逃れするのか。

何よりゴドフリーが死に、キリトが瀕死。

そしてクラディールがキリトに剣を叩きつけているさまを見たアスナに、もはや部下の釈明を聞く気など更々無かった。

次々に放たれる連撃。

刈取られていくHP。

着々と死へと近づいていく最中、クラディールの醜悪な思考が打開策を見出す。

 

「ひ、ひぃいいい!! 助けてくれ!! 命だけは…!!」

 

その寸でレイピアの切先を首元で止め、暫らく思いとどまったのち。

 

「……去りなさい、そして二度と私たちの前に姿を現さないと誓いなさい」

 

そう言って背後を向けてしまったアスナ。

 

 

 

刹那。

振り上げられる殺意。

 

 

 

虚を突かれたアスナ。

 

 

身を挺して庇おうとするキリト。

 

 

 

 

 

そして…。

 

 

 

 

動くことなく放心したクラディール。

 

 

 

 

 

「…っ……?」

「何が…」

 

剣を振り上げたまま放心したように動かなくなってしまったクラディールに、キリトとアスナは互いに顔を見合わせてから、もう一度クラディールに視線を向ける。

 

 

「なんじゃそら…」

 

そう言うクラディールに、何かを感じ取ったのかキリトが背後を向いた。

それにつられアスナも背後を見る。

 

 

そして悟った。

 

 

『………――や―――――う――』

 

 

あぁ。

 

 

『―きゅう――う―――でぃ――』

 

 

きた。

 

 

『野球しようぜクラディール!!』

 

 

そう言いながら駆けてくる草生える四人組。

そしてその背後から凄まじい気迫で走るSAO商店役100人。

 

「や、野球…?」

 

そうキリトが疑問符を浮かべた瞬間。

先頭を走るリクが、片手に持つ角材で。

 

 

 

 

クラディールをおもいっくそフルスイングで撃ちはなった。

 

「は?」

 

 

空中を2、3回転しながら顔面で着地するクラディール。

 

「ご、ごふ…き、貴様ら一体…」

 

「なぁクラディール、野球しようぜ」

 

そう言い放つリクに続くように、その場にいる100人+4人が一斉に言い放った。

 

『お前ボールな』

 

その瞬間、再びクラディールの顔面に衝撃が走る。

そしてそのまま再び錐揉み回転しながら地面にヘッドスライディング。

 

ここまでくるとダメージで死にそうだが安心してほしい。

角材は武器ではない。素材アイテムだ。

ダメージ設定は一切していないのか、ノーダメージで吹き飛ばされ、そしてどんどんその場から離れていく。

打っては走って打っては走ってを繰り返し、そのまま主街区へ進んでいく様はまさに圧巻。

いったいどれほどの精神的ダメージがクラディールに加算されているのか。

 

 

「…行ったね」

 

「…そうね」

 

 

この二人が知る由はない。

 

 

 

 

 

 

 

そうは問屋が卸さないかのようにローキが二人の後ろにそっと近づくと。

 

「さて始まりました第一回SAO大バッティング大会」

 

「へ?」

 

「この大会はクラディールを角材でどれだけぶっ飛ばせるかという競技になります」

 

「つかクラディール限定ですか」

 

突っ込むキリトを無視して話を進めるローキ。

 

「実況は私、草生えるwのギルドメンバーであるローキと」

 

「聞いてくれ」

 

「解説は血盟騎士団副団長アスナさんになります」

 

「へ?私?」

 

「アスナさんよろしくお願いします」

 

「よ、よろしくお願いします」

 

「アスナ、断ってもいいんだぞ」

 

そう言っている間にも現状は刻一刻と変わっていく。

よく見れば商店メンバー100人はキャップ帽をかぶっており、その手には計測器やらメモ帳やら旗やら巻き定規やらを持っていた。

 

「ちょっとまて、巻き定規どっから持ってきた」

 

「NPCからパクってきた」

 

「返してこい」

 

一撃。

 

「今回の計測の結果は74mですね。この結果をどう見ます、解説のアスナさん」

 

「なんで角材であそこまで吹っ飛ぶんですか」

 

「ギャグ補正って知ってます?」

 

「おいやめろ」

 

 

 

リク。

 

 

ボール(クラディール)を相手のゴール(主街区)にぃいいいい?」

 

 

 

クラディール。

 

 

「しゅぅううううううううううう」

 

 

「お前が言うのかよ!!」

 

 

 

 

 

 

その後、クラディールは投獄され。

 

その夜にキリトがアスナにぶっ飛ばされることもなく。

 

キリトとアスナは血盟騎士団を休団し、めでたく結婚…。

 

 

 

…した事実は秘匿にされていたのだが、あのバカ四人が結婚式をプロデュースした結果…は後日として。

 

新居として22層のログハウスを購入した――。

 

 

「買っちゃったね…」

 

「貯金をほとんど使いつくしちゃったけどな…」

 

そういう二人は普段の服装ではなく、私服でログハウスのバルコニーから景色を眺めていた。

 

「キリト君…」

 

「アスナ…」

 

これから今までの激戦を繰り広げていた生活から離れ、二人の静かな生活が…。

 

 

 

―――そう、購入したのはいいのだ。

もちろん静かでいいところだ。森の中にあり主街区からも離れているため隠居という形としてはここ以上に優れた場所は無いだろう。

ただ一つ問題があるとすれば。

 

 

「……あ、ども。お邪魔しちゃってます」

 

『…』

 

1日に一回は必ずウサギが天井に刺さっていることだろう。

 

 

「キリト君…」

 

業者(他の三人)を呼ぶか」

 

 

 

 

 

 

 

キリトとアスナのログハウスの500m先に位置する川沿いに建てられているボロ屋。

片側の壁が崩れており、人が住める環境ではないと思っていたが…。

 

そこが草生えるwのギルドホームであり。

 

ウサギのデバック実験場であったらしい。

 

 

 

 

二人に平穏は訪れない。

 
























明けました。

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