魔法少女とアカデミア   作:ささみの照り焼き

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魔法少女と恋の味

 ☆

 

 

 

「それじゃあ、改めて作戦を確認するよ?」

 

 緑谷くんたちの試合も講評も終わり、次は私達の番だ。

 核兵器という体で設置されているハリボテを前に、私は人差し指をたてて魔法陣を展開する。

 その魔法陣の模様はこのビルの見取り図になっていて、1階、3階、4階に一つずつ点があった。

 

「尾白くんは『個性』を最大限活かせるように、核のある広いフロアで待機と警戒。葉隠さんは道中に待機されているのを警戒されるだろうから、敢えて1階で開始直後の奇襲を。失敗したら尾白くんのところまで戻ってね?」

「了解」

「分かった!」

 

 少ない時間で考えた穴だらけの作戦だが、ヒーローチームの『個性』が分からない以上、初見殺しの奇襲か待ち構えての防衛戦ぐらいしか方法がない。

 それは向こうだって同じだ。『個性』を把握されると対策を立てられる可能性があるから、なるべく短期決戦に持ち込もうとしてくるはずだ。まあ、時間が経つほど有利になるような『個性』なら別だけど。

 

「それじゃあ、私は遊撃として3階に行くから、何かあったら連絡してね」

 

 最後に尾白くんと葉隠さんに伝えると、私はさっそく自分の配置場所へと向かうのだった。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「こりゃないよ……」

 

 息が真っ白になるほどの寒さの中、私は手のひらを擦り合わせながら呆れ混じりに呟いた。

 

 オールマイトの合図によって試合が開始した直後、ビルが丸々凍らせられた(・・・・・・)

 恐らく、障子くんではなく轟くんの『個性』だと思うのだが、これは流石に理不尽ではないだろうか。応用能力に長けた私が言うのもなんだけれど。

 

「とりあえず、葉隠さんは捕まっちゃうだろうから尾白くんの所に行かなきゃ」

 

 私は直前で空中に魔法陣を出してその上に乗ることで回避したが、尾白くんも葉隠さんも空中に浮く手段がない。そして葉隠さんは不自然に浮き出た足跡何かで気づかれている可能性が高い。

 そうなると、申し訳ないが葉隠さんの事は諦めて、尾白くんを動けるようにした方が効率的だ。

 

「ごめんね葉隠さん……」

 

 透明なのに身振り手振りが幻視できるほど元気な彼女に謝りながら、私は移動を開始した。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「大丈夫……じゃ無さそうだね、尾白くん」

 

 案の定と言っては失礼だが、尾白くんは足を縫い付けられるように凍らされていた。

 無理に動いては皮膚が剥がれると判断したのだろう、尾白くんは悔しそうに顔を歪めながらも大人しくいている。

 

「今溶かすね、少し待ってて」

「あ、ああ、ごめん。……また救けられちゃったな」

「気にしなくていいよ。困った時はお互い様、私が困った時に尾白くんが手を貸してくれればそれでいいよ」

 

 尾白くんの足元の氷を溶かしながら、私は「あ、そうだ」と顔を上げて、

 

「お礼代わりと言ってはなんだけど、甘味の美味しい所を紹介してくれないかな? 私、甘い物好きなんだ」

「……ハハッ! ああ、とっておきのお店を用意しとくよ」

 

 可笑しそうに尾白くんが笑い、氷を溶かし終わった私も立ち上がって微笑む。

 

「さて、尾白くん。動けるよね? ――どうやらお出ましのようだよ」

 

 そして、このフロア唯一の入口から、驚いた表情の轟君が姿を現した。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 4階に到達した焦凍は、その表情を驚愕に染めた。

 建物全体を凍らせたというのに、魔乙女はともかく尾白が動けていることに驚いたのだ。

 

「……てめえら、どうやって」

「質問されて素直に答えるほど、ヴィランは甘くないですよ」

 

 焦凍の言葉を遮るように、魔乙女がとんがり帽子のツバを上げた。

 小さく舌打ちして、足元から再び氷を伸ばす。

 

「尾白くん、こっちに!」

「ああ!」

 

 即座に反応した魔乙女が魔法陣を展開し、尾白と一緒に足場にして氷を避ける。そして魔乙女が尾白に何事かを伝え、それに尾白が頷いた瞬間、尾白はその場から姿を消した。

 

「……テレポートか」

「はい。尾白くんでは轟くんの相手は難しいと判断したので、障子くんの所へ送らせてもらいました。……どちらも手数の増える『個性』持ちです、相手にとって不足はないでしょう」

「こっちの『個性』も把握済みかよ……ッ!」

 

 次は氷塊を生み出して放つ。しかし、魔乙女の目前に現れた大きな魔法陣で全て防がれた。

 

「いえ、鎌を掛けただけです。まあ見た目である程度の判断はできていたので、ほぼ確定事項でしたが。逆に、轟くんの『個性』は把握出来ていませんでしたから、こうして面と向かって確認できたのは重畳でした」

 

 淡々と、特に誇るわけでもなく、魔乙女が言い切る。

 先程は正直に答えないと言っていたのに、一転して長々と話しているその表情は、まるで当たり前のことだと言わんばかりだった。

 

「……少し喋りすぎましたね。それでは轟くん、

 

 

 

 ――お覚悟を」

 

 

 

 直後、部屋を埋め尽くさんばかりに展開された魔法陣から、無数の光弾が発射された。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「私、こういう屋内戦って結構得意なんですよね。相手の回避範囲が限定されている状況での範囲攻撃とか、楽でいいじゃないですか」

「…………」

 

 ね? と肩を貸している轟くんに同意を求めるが、憮然とした表情で視線を逸らされるだけだった。

 

 ちょっとやり過ぎたかな、と反省する。

 『個性』で生み出した生物にだけ当たり判定がある光弾の一斉掃射は、私の得意とする戦術の一つだ。オールマイトに言わせれば「反則に過ぎる」この攻撃を、轟くんは生物ではない氷の壁で防ごうとし、壁をすり抜けてきた光弾を全身に食らっていた。

 

「すいませんって、さっきから謝ってるじゃないですか。そろそろ機嫌を直してくださいよ、次からは手加減しますから」

「……そうじゃねえよ」

「そうじゃないって、何がですか?」

「……負けた自分が情けなくて、機嫌が悪いんだよ」

 

 青臭ッ! と、私の脳内で18禁ヒーロー『ミッドナイト』が興奮気味に叫んだ。青春大好きな彼女は、今のような青臭いことが大好きな人なのだ。

 鼻息荒く鞭を振るう彼女を脳内から追い出し、轟くんの顔を見る。

 憮然とした表情は変わらないが、その横顔からは何処か拗ねている子供のような印象を受けた。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 対戦結果は、私たちの大勝利に終わった。

 轟くんはもちろん私の光弾でダウン、からの捕縛。そして障子くんはといえば、なんと葉隠さんに捕縛されていた。

 

 私が轟くんを倒した少し後、奇跡的に気づかれていなかった上に凍るのを回避していた葉隠さんが、尾白くんと戦う障子くんの背後から近づき、拘束条件であるテープを巻き付けたのである。

 運が良かったといえばそうだが、葉隠さんが動ける状況でなくとも私が援護に行って捕縛していただろうから、結果は変わらなかっただろう。

 

「さて、今回のMVPは誰だと思う!?」

 

 そして、今は対戦後の講評タイム。

 オールマイトがクラスのみんなに訊ねると、自然と視線が八百万さんへと集まった。先ほどの講評がみんなの中で評価され、再び講評を求められているのだ。

 

 そんなクラスメイトたちの視線を受ける中、八百万さんは少し悩むようにして、

 

「正直難しいところだと思います。

 轟さんの『個性』による制圧は迅速で回避するスキがありませんでしたが、1人で全て終わらせようとしていた故の詰めの甘さがありました。

 凍らせた後、障子さんに動ける人物がいるか確認していれば、魔乙女さんが尾白さんの救助に向かったことも、葉隠さんが動ける状態でいた事が確認できたはずです。

 

 障子さんは、轟さんの『個性』に圧倒されたのでしょうが、事態の解決を轟さん1人に任せてしまっていました。そして、テレポートで現れた尾白さんの対応に集中するあまり、背後の葉隠さんに気づけなかった。最初から索敵に集中し、轟さんと一緒に行動すれば両者ともに不意をつかれることは無かったはずです。

 

 ヴィランチームの方々は、各々役割を理解して最適な行動を取っていましたが、尾白さんは1度動きを封じられたこと。魔乙女さんは葉隠さんの安否を確認しなかったこと。逆に葉隠さんは、安否を伝えなかったことが、それぞれの失敗だと思います。

 もっとも、葉隠さんに限っては、それが敵味方両方への奇襲にもなったので一概に失敗とはいえないかもしれませんが――」

 

「も、もういいぞ八百万少女! くぅー! また殆ど言ってくれちゃって……!」

 

 悔しそうな嬉しそうな、微妙な表情のオールマイトが止めたことによって、八百万さんの講評は終わった。

 自然とクラスメイトたちから拍手が巻き起こる。八百万さんは、照れたようにはにかんでいた。

 

 

 八百万さんの言う通り、私は葉隠さんの安否を確認しようとしていなかった。事前に用意されていたイヤホンマイクがあったというのに、だ。

 私の場合、いざとなったら自分1人でどうとでも出来るという事実からくる慢心だが、チームの一員としては失格な行動だろう。

 

 素直に反省点として受け止めた私は、今回の失敗を次に生かそうと心にとどめたのだった。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 その後、緑谷くん以外には大きな怪我もなく、クラス全員の対戦は行われた。

 みんなそれぞれの『個性』を活かした活躍ができていたように思う。特に八百万さん。彼女が講評で見せていた頭の回転と知識の幅は、戦闘でもしっかりと活かされていたように見える。

 それに、彼女が恥ずかしながらも演じたヴィランの役は、1部八百万さんに近寄りづらい雰囲気を感じていたクラスメイト達に、良い印象を残したことだろう。逆に、私に露出狂疑惑をかけてくれた彼は、あまりに迫真の演技すぎて引かれていたが。

 

「なんだか、相澤先生の自由な授業の後だから普通すぎて拍子抜けという感じね」

「普通な授業もまた! 私たちの自由さ!」

 

 まあ、相澤先生のアレは自由というか『千尋の谷に突き落として上から嫌味を言ってきている』的なタチの悪さを感じるけれど。

 それも彼なりの合理主義の元行われているのだから、ただ理不尽なだけではない、というのが不器用さを感じさせるところだ。

 

「それじゃあ! 私は緑谷少年の様子を見てくるから、みんなは教室に戻っとくように!」

 

 バビュン! と、土煙を残しながら走り去っていくオールマイト。突然のことにみんなは少し唖然としたが、疑問を浮かべつつも教室に戻り始めた。

 

「オールマイト……」

 

 私は彼の授業を受けられるということに浮かれていて、少し前まで彼の『個性』の制限時間のことを忘れていた。恐らく限界近かったのだろう、彼は去り際口元に手をやっていたから。

 緑谷くんのことも合わせて気になるが、午後の授業をすっぽかす訳にもいかない。

 

「愛ちゃん? 早く行こっ!」

「えっ? あ、うん。お茶子ちゃん」

 

 私の手を引っ張りながら歩き出したお茶子ちゃんに、私は素直に着いて行った。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「オールマイト! 体は大丈夫ですか?」

「しーっ! 魔乙女少女、しーっ!」

「え、あっ。……すいません」

 

 放課後。私はどうしても緑谷くんとオールマイトのことが心配になり、保健室を訪れていた。

 扉を開けるなりオールマイトの姿が見えたので、思わず少し大きな声で聞いてしまったのだが、慌てた彼に注意されて扉を閉める。忘れそうになるが、今の姿(トゥルーフォーム)のことは一部のヒーローたち以外には秘密なのだ。

 

「それで、体の方は? それと緑谷くんも」

「ああ、私は大丈夫だよ。心配をかけたね。……それから、緑谷くんの容態だが、かなり酷いものだった。右腕の複雑骨折と左腕のやけどはほぼ完治したが、体力の関係でリカバリーガールの治療は後日となった」

 

 オールマイトの視線の先では、点滴を受けながらベッドで緑谷くんが眠っている。

 大きな怪我は無さそうだが、オールマイトの言う通り細かい擦り傷などが残っていた。腕にも包帯が巻かれていて、しばらく安静にする必要がありそうだ。

 

 後遺症などが無さそうで安心したところで、雄英の保険医であるリカバリーガールが居ないことに気づいた。

 オールマイトの話では在庫の切れた包帯を補充しに行ったとのことで、代わりにオールマイトが緑谷くんの様子を見ていたらしい。

 

「済まないが魔乙女少女、私も少し所用があるので私の代わりに彼を見ていてくれないか?」

「ええ、もちろん構いませんよ、オールマイト。リカバリーガールにも言っておきます」

 

 オールマイトは、助かる、と私の頭を軽く撫でて、

 

「それはそうと魔乙女少女、『個性』の制御が前に見た時よりも更に上達していたじゃないか。A組のみんなの手前贔屓することは言えなかったが、私は君の成長が見れて嬉しかったぞ!」

 

「――――――――」

 

 それじゃあ、とオールマイトは周囲を確認してから保健室を出ていった。

 

 私は頭に残った熱に浮かされたような足取りで、何とかパイプ椅子に座る。

 ぽーっと焦点の合わない視線が宙を泳ぐ。いつもは引き締めている頬が、意に沿わず緩むのを止められない。

 撫でられた感触を思い出すように両手を頭に置いた私は、

 

「……えへへ」

 

 恋に浮かれた生娘のように、にへらと笑った。

 

 

 

 

 

「あれ、ここは……? 確か、僕はかっちゃんの爆撃で……」

「あ、起きた? 緑谷くん」

「えっ? 魔乙女さ――すっごく顔緩んでるけど何があったの!?」

「えー? んー、ひみつかなー」

「本当に何があったの!? 何時もクールな魔乙女さんのそんなに緩んだ顔、僕初めて見たんだけど!」

「ひみつだよー、えへへ」

 

 

 

 ☆

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