魔王代理の演劇物語   作:雪亜

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魔王になった役者

母さん、お元気でしょうか?

 

俺は今、東京行きの新幹線でこの手紙を書いてます、いや、書いていたと言うべきでしょうか…今は…謎の粘液生命体に囲まれています。

 

「えーと…意思疏通は…。」

「ピキャー!」

「出来なさそう、逃げるにしても囲まれているし…でもゲームならここで勇者とかが助けに来てくれるはず。」

 

とは言ってもここは無人の荒野、誰もいないのである。

 

「いや、夢と言う伏線もある!このスライムだって…。」

 

噛みつかれた、痛い。

 

「だめか…死んだな!」

 

その時後ろに誰かが現れた。

 

「まさか本当に勇者が!?」

「えーっと…あのー…ごめんなさい、勇者じゃ無いんです…でもでも!助けに来ました…。」

「…え?」

「わ、私は…魔王の…うぅ…恥ずかしい…。」

「いやいや!頑張って!と言うか助け…あれ?」

 

いつの間にか取り囲んで居たスライム達は逃げ出し俺と目の前の少女と二人きりだった。

 

「わ、私は魔王の…クリュー・ブルフェイアル!私の領地で…あれ?居ない…。」

「さっき逃げ出していたよ、とにかく助かった。」

「い、いえいえ…どういたしまして…。」

 

不思議な雰囲気な少女が

 

「そう言えばさっき魔王だとか言ってたような…。」

「は、はい…593代目魔王のクリュー・ブルフェイアルです…とは言っても他の魔王達も居るので大してめずらしく無いんですよ。」

「魔王が跋扈する世界か…嫌な世界だな、俺は…。」

「日加那 享さん…ですよね?」

「は?何で俺の名前を?」

「細かいことは私のお城でお話ししますので付いてきて貰えますか…?」

「うぇー…きなくせぇー…つっても何にも分からないし付いて行くか。」

 

回りには町なんて何一つ無いから行くところなんて…。

 

「ありがとうございます!では失礼して…転送魔法で飛びますので気を付けてくださいね。」

「魔法も有るのか…。」

「じゃあ…行きますよ…えいっ!」

 

カッと光が走った、と言うかこの光の強さは閃光手榴弾に匹敵するレベルである。

 

「着きまし…どうしたんですか!?」

「目がぁ…目がぁぁぁ!」

「あっ…私の魔力が強いばっかりに!ごめんなさい、ごめんなさい!」

 

割りとマジで死にそう、どこぞの大佐もこんな気持ちだったんだろうな…。

 

「どうしましたか?…お嬢様、もしかして生身の人に転送魔法を?」

「ご、ごめんなさい…。」

「全く…キュア。」

 

少し冷たい声と共に目の痛みが引いていく。

 

「大丈夫ですか?」

「え、ええ…ありがとうございます…。」

「魔王様を後できつく叱っておきますのでお許しください。」

「ひっ…。」

 

メイドさんからギロリと睨まれ更に縮みこむと同時に更に泣き出す始末である。

 

「いえ、こちらこそ助けて貰ったのでなんとも…。」

「取り敢えずお詫びとして夕食をご馳走致します、それまでごゆるりと…。」

「じゃあ私も…。」

「お嬢様は課題値+50です、説教室行きにならないだけでも感謝してください。」

「ま、また増えた…。」

「課題値って?」

「魔王として名乗るに必要な数値です、数値が低ければ低いほど名の有る魔王となります。」

「今の数値は?」

「…今ので丁度3000です。」

「もしかして俺をこの世界に呼んだのは。」

「…私です。」

「俺に数値を下げさせるために読んだのか?」

「…ごめんなさい。」

「俺は普通の人間だし何にも力を持って無い、OK?」

「い、いえ、別にそういうわけじゃ無いんです、ただ…魔王の役…とか出来ませんか?」

「役?演劇とかなら得意だが…まさか。」

「うぅ…私、あなたの演劇に惚れ込んでしまって…ごめんなさい…。」

「俺はまだ売名とかし始めてすら無いんだが…。」

 

本来はこれからする予定だったが既に知られていたとは…。

 

「じ、実はですね、数年前の大きな演目での姿を見てからファンになってしまって…それ以来魔法で覗き見とかして見てたんですよ。」

「覗き見とか無いわー…。」

 

流石にドン引きした、気の弱い魔王が魔法の力を使って覗きするとは思いもしない。

 

「そんなひどい…あの…もしくは私を、立派な魔王に育てて貰えませんか?」

「は?既に魔王だろ。」

「そういうわけでは無くて…立ち振舞いとか、声の張りかたとか、そこら辺を…。」

「お嬢様、勇者一行が向かって来てます…迎撃の準備を。」

「ど、どうしましょう!私がこんな性格だって事がバレてしまう…。」

「一つご提案が、日加那様、大変勝手なお願いではありますが魔王様を助けては頂けませんか?」

「助けるって言ってもな…俺にそんな力なんて無いし。」

「力なら私が幾らでも貸しますから!取り敢えず立ち振舞って下さい!」

「むう…。」

「じ、じゃあ元の世界に帰します!それでどうでしょうか!」

「…致し方ないか、演技するだけだからな?」

 

その時にパァと顔を明るくして俺の手を握りしめた。

 

「ありがとうございます!ありがとうございます!」

「取り敢えず演劇衣装を装着するから待ってろ。」

「はい!」

 

大きな鞄から幅が広いマント、少しボロく仕立てた鎖帷子風衣装、龍の仮面を着けて声色を変える。

 

「んっ…我は…何て名乗れば良い。」

「クリュー…じゃダメなのでクリューダにしましょう。」

「分かりました、我はクリューダ・ブルフェイアルである、良し。」

「完璧ですか?」

「いや、100%ではないですね…ちょっと集中。」

 

後は意識を集中するだけ…思い出せ、あの人のように…

強く、気高く、本物の王が如く!

 

「…我はクリューダ・ブルフェイアルである…。」

「…お嬢様より断然素晴らしい演技力です。」

「では王座に案内してくれ。」

「畏まりました。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数分して謁見の間に案内された。

 

「…ご武運を。」

 

メイドさんが素早く姿を消す、転送魔術だろうか。

 

「クリュー…頼むぞ。」

「は、はい……。」

 

扉が勢いよく開け放たれ『三人』人間が入って来た。

 

「よく来た勇者達よ…そのような非力な姿で我の元にたどり着いた。」

「魔王よ!貴様が働いた悪歴の数々…償えると思うな!覚悟して貰うぞ!」

「…散るが良い!」

 

俺の背後からクリューが炎の極大魔法を解き放つ、えげつない威力だ。

 

「くっ!これが魔王の実力か…!」

「…どうした?もう終いか?所詮人は人、非力な存在には変わりないか。」

「余計なお世話だ!うぉぉぉぉ!」

「ふん…。」

 

腕をふるい氷魔法が相手に直撃する、もう立っているのも限界のようだった。

 

「…ここまでか…せめて…あいつが居てくれれば…。」

 

何やら事情がありそうだと思いクリューにアイコンタクトを行い攻撃を辞めるようにした。

 

「実につまらぬな、なぜそのような非力で我に挑んだ?」

「…お前の持っている財宝の1つに俺達の最後の仲間が患っている病気を直すものがある…世界の平和なんて建前でしかない。」

「ほぉ?実力不足である上に欲で戦ったと言うことか?」

「なんとでも言うが良い、俺には…どうすることも出来ないからな…。」

「…(その宝は何処に有る?)」

「…(多分財宝庫の奥だと、全然使い道が無いので大分埃被っているでしょうが使えると思います。)」

「…(すまないがこいつらに譲ってやってくれないか?礼の一つだと思って。)」

「…(別に良いですよ、召還魔法で出しますね。)」

「…(助かる。)」

 

受け取った宝を膝の付いた勇者達の前に軽く投げる。

 

「なっ…何の真似だ。」

「勇者ともあろうものが欲で戦う…実に滑稽で愉快であった、褒美を取らす、持って行くがよい。」

「…感謝する。」

「我は魔王、故に人間である貴様に感謝される道理はない、早く我の前から去るが良い、我は気が短い。」

「…今度こそ、お前を倒す!それまで…それまで、他の奴に倒されるなよ!」

「ふん、元より誰にも倒される気など無いわ。」

 

勇者達が居なくなった所を見計らい、クリューが出てくる。

 

「お疲れ様でした…本当に格好良かったです!」

「はー…疲れた、それより元の世界に帰してくれよ。」

「えーと…それがですね…ごめんなさい!嘘着きました!」

「…は?」

「じ、実は…あっちの世界に物を流すのは…1000ポイント以下じゃなきゃ駄目なんですよ、アハハ…。」

「…今ので何ポイント下がった?」

「た、多分150ポイントだと思います…。」

「ふざけるなー!」

「い、痛いです!暴力はやめてくださーい!物理は弱いんです!」

「知るか!」

「あの…お楽しみの所を悪いんですが、少しの間魔王をやりませんか?一応お給料も出しますし不自由ない生活をお約束しますが…如何でしょう。」

「…給料による。」

「そうですね…ざっと前金で1億円、1000ポイント以下になった時点で3憶円出します。」

「…納得はまだしてないけどお金が余り無かったし母さんを安心させてやりたいから、その話に乗った。」

「ほ、本当ですか!」

「うるせぇ堕落魔王、お前にみっちりと教え込んでやるから覚悟しろ。」

「ひぃ…!」

「では寝室にご案内致します、荷物をお預かり致します。」

「あ、すみません…。」

「いえ、お気になさらず…魔王様…いえ、お嬢様の事、お願いしますね。」

「…あいつが本当の魔王なんですよね、まだ信じられないです。」

「それはそうです、この間まで一般民でしたから。」

「え?」

 

一般民…?あいつが?

 

「…二ヶ月前に交代の時が来たんですよ、以前の魔王は本物の愚か者でしたから始末されたんですよ、他の魔王に。」

「なっ…始末って…まさか。」

「ええ、正確には魔王の力を奪われ首を切り落とされたんですけどね…それによって奪われた魔王の力はお嬢様を選んだ…と言うことです。」

「…あいつは、魔王になりたかったんですかね。」

「それは解りません、ただ…覚悟無く引き受けたわけではないと言うことだけ覚えて頂ければ。」

「覚悟…か、まず人前に姿を表すだけでも駄目なのに何で…。」

「着きました、では何か御用がありましたらこちらのベルを鳴らしてください。」

「どうも…。」

 

部屋の扉を開けてみると完備、素晴らしい位のベッド、そして何故か仕切りのある空間が有った。

 

「凄い…にしても何だこの仕切り。」

 

広いベッドの丁度中央に急造で作られたような感じだ。

 

「えへへ…気に入って貰えました?」

「…ここお前の部屋?」

「そうです…えへ。」

「…。」

 

続行でベルを連射しメイドさんを呼ぶ。

 

「如何なさいました?」

「部屋チェンジで、何もなくても良いので個室でお願いします。」

「畏まりました、ではこちらへ。」

「ち、ちょっと待って下さい!訳が有るんです!コフィンも止めて!」

「コフィン?」

「私の名です、それより止める意味が分からないのですが。」

「えーと…まだ部屋の整備がまだだったんだよね?」

「10分有れば余裕で仕上げますが。」

「…今日一日で良いので私の部屋で寝てください…いろいろお話したいことがありますので…。」

「ガチ泣きだよ…。」

「ふぅ…仕方有りませんね、すみませんが今日だけで良いので泊まって頂けませんか?」

「確かにこのまま泣かせて居るのもアレですしね…分かりました。」

「ありがとうございます…お嬢様いい加減泣き止みなさい。」

「あ"り"がどーござい"ま"ず!」

「何なんだコイツ…。」

 

 

 

 

 

 

それから結局延々と演技のすばらしさを一晩語られ朝日が昇りメイドに怒られる魔王と言う奇妙な光景を見る羽目になった…拝啓、母さんへ、泣き虫で人見知りの魔王と出会い、魔王代理としてこれから生活するはめになってしまいました、もしこの手紙が届いたら笑って下さい、

 

 

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