朝起きたら体が軋む、最近ハードな練習を重ねてたからなぁ…。
「…夢じゃ、ねぇよなぁ…。」
改めて現実を直視すると大きなため息をついてしまう。
「このバカの代わりに魔王…か、結構面倒な事を引き受けちまったなぁ…。」
「んんっ…。」
クリューが寝返りをうつとそこには…大きな山二ツと渓谷が有った。
「…あれ?こいつ確か寝る前にパジャマを着てたよな?」
冷静に辺りを見渡すと…パジャマ一式とイチゴ柄の下着がベッドの脇に落ちていた。
「…変な誤解をされる前に逃げるか。」
それからそそくさと部屋から離脱し、素数を数える、大丈夫だ、ドイツ軍人は狼狽えない。
「何しているんですか?」
「アイエエエエエ!?」
後ろから気配もなく首筋にナイフを当てられる、
「ま、待ってくれ…俺はなにもしちゃいねぇ!」
「ああ、日加那さんでしたか、これは失礼。」
「ふぅ…助かった。」
「そう言えばどうでしたか?」
「え?」
「お嬢様の裸体、中々の賜物だったでしょう。」
「ぶはっ…!」
真顔でなんて事を…!
「巨乳、お好きでしょう?」
「嫌いじゃない、と言うか脱ぎ癖あったの知ってたでしょ。」
「さぁ…私には分かりかねます。」
「……。」
絶対に確信犯だ。
お母さん、お元気ですか?俺は今、執務室で王政やスケジュールの調整等をさせられています、正直つらいですが中々やり応えがあります。
「はー…朝起きたらクリューはアレだし、王政は大変だし…中々休みが取れないな。」
横から紅茶が差し出される、コフィンさんだ。
「休憩の合間に手紙ですか?」
「ええ…コフィンさんも休憩ですか?」
「いえ、お嬢様が相当へばっていらっしゃったので何が有ったのかと。」
「演劇のイロハをきっちりと教えてやろうかと、力としては魔王なんですが度量が釣り合って無いんですよ。」
「確かに…お嬢様は超絶ヘタレ役立たずですからね。」
「それは流石に言い過ぎな様な気が…。」
「日加那さん、クッキー焼いたんですけどたべませんか?」
「…撤回します、超絶ヘタレ役立たず魔王でした。」
「…(あれ?私何かしましたっけ…?)」
「で、わざわざクッキーを届けに来た訳じゃ無いんだろ?
「えへへ…やっぱり分かっちゃいます?一つ提案があるんですけど聞いていただけますか?」
「どうした?」
「魔王の能力に霊体憑依機能が有ったの思い出して…これ、持ってて下さい。」
「なんだこれ。」
「私の一部を霊体化して作った魔石です、どんなに離れてても私の力の一部を使える様になります。」
「お前の一部…?」
「はい、頭の方を見てください。」
「あっ…。」
二本有った角が無くなっている、これじゃ完全に魔王として更に見た目が下がってしまった。
「えへへ…見た目としては普通の女の子です、角は良い魔力の塊なんですよ。」
「…お前、ふざけてるのか?」
「え?」
「魔王と言うのは第一印象…つまりは見た目で決まるんだよ、それが普通の女の子?それでは戦う相手にも失礼だろ。」
「でも…。」
「言い訳すんな!…お前に魔王としての自覚が持てなければこれ以上は何しても無駄だ。」
「っ…!」
「コフィンさん、休憩時間が終わったので執務に戻ります。」
「畏まりました。」
少し急ぎ足でその場を離れる、大人気ないけど何か凄くムカついた。
コフィンさんが後ろから付いてきた、まぁ部外者がうろちょろしてるのは忍びないか。
「…魔王になるのは強制なんですか?」
「いえ、任意です。」
「辞めることは?」
「可能です、ですが…お嬢様は絶対に辞めないと思います。」
「どうしてそんな言い切れるんですか?」
コフィンさんは小さなため息をつき話し始めた。
「お嬢様には…たった一人の肉親が居ました、ですが二人で暮らすにはとても大変な位の貧乏だったんですよ。」
「え…?」
「そして決断の時が来ました、お嬢様は父に定期的にお金を送ることを条件に家族の縁も、絆も、名字すらも捨て去り魔王になりました。」
「それじゃあ…。」
「ええ、魔王を辞めてしまえば居場所もない名もない、それに父が普通の生活を出来なくなってしまうと言う恐怖で魔王をしているんですよ。」
「…間違っている。」
「え?」
「…ちょっともう一回説教してくる。」
「死体蹴りですか?」
「どっちかって言うと蘇生だと思うから心配御無用です。」
「なるほど、蘇生系の死体蹴りも有ると…勉強になります。」
「そうじゃないんだけどな…まぁ良いや、取り敢えず行ってきます。」
「行ってらっしゃいませ。」
急いでさっきの部屋に戻るとまだ微動だにせず俯いていた。
「…お前、怖いのか?」
「!!?」
「さっきコフィンさんから話を聞いてきた。」
「…慰めですか?あり…。」
「バカか、説教しに来たんだ…俺の師匠の言葉をそのままそっくりお前にくれてやる。」
腕組みをし仁王立ちをして言い放つ
「今を恐れて居るならその自分を越すことだけを考えろ、無理だったら今を諦めろ、諦めたくなかったら自分を越せ!拒否権は無い!」
結構恥ずかしいなこれ。
「だ、ぶっちゃけ意味はよく解らんし不可解だ、だがな…この状態のことを師匠は『夢』と言っていた…クリュー!」
「はっ、はい!」
ガッツリ演劇モードに入ってしまったがまぁ気にしないでおこう。
「貴様はろくでなしのヘタレ魔王だ、だがお前には変えれる価値がある…前は何がしたい。」
「私は…私は…。」
『クリュー、お前が魔王になるなんて父さん誇らしいぞ?』
「私は!貴方を越す魔王に成ることです!」
「…明日から練習メニューは2倍だ、覚悟しておけ。」
「はい!コーチ!」
所で2つ引っ掛かりを覚えた。
「…俺魔王じゃなくない?」
「いえ、充分立派な魔王です。」
「あとコーチってなんだコーチって。」
「違いますか?」
「やってることはコーチだけどさ…でもなんかトップを狙いそうで。」
「狙っちゃいましょう!目指せ一位です!」
「蹴り入れてやろうか?」
「ぼ、暴力反対です…。」
「また魔王らしくない台詞が出てんぞ。」
「す、すみません…。」
「落ち込むなよ…。」
その時チリンチリンと呼び鈴が鳴った、これはコフィンさんのだ。
「行ってみるか…。」
「わ、私も…行って良いですか?」
「つか付いてこないと魔王として機能が使えないだろ、早く来い。」
「は、はいっ!」
コフィンさんが若干呆れ顔で待っていた。
「お嬢様…立ち直るの早すぎませんか?もっと落ち込んだ姿を見たかったのですが…残念です。」
「鬼か。」
「メイドです、それよりお嬢様…クッキーを作るのは良いんですが…作りっぱなしですか…?」
「あっ…。」
「全く…本当に困ったお嬢様です。」
顔はスマイル100%だが後ろに見えるのは覇気を纏った世紀末の覇者だ。
「直ぐに片付けて来まーす!」
移動速度上昇の魔法をかけて厨房に行く、あんなスピードで走れば…やっぱり転んだ。
「全く…後でタイ式足つぼマッサージの刑ですね。」
「それ滅茶苦茶痛い奴じゃないですか。」
「でも健康にはなるのでご心配無く…それと日加那さん、これからは魔王様と呼ばせて頂きます。」
「え?嫌ですよ恥ずかしい。」
「半分は城の外でも威厳を保つためです、もう半分はは…乙女の秘密です。」
「決定事項なんですね…。」
「それと私には敬語禁止です、魔王なのですからそんなにペコペコしないで下さい。」
「えぇ…わ、わかりまし…。」
「因みに敬語を使うと加点+50するかもしれません。」
「よろしく頼むぞ!」
勢いで演劇モードに入れて加点を回避する、あぶねぇ。
「ふふ、では夕飯の準備でも致しますので少し城下町に出てみてはいかがですか?」
「え?そんな某将軍みたいな事して良いのか?」
「大丈夫です、宣伝をしておきましたから。」
「仕事早いな。」
「メイドですから。」
「じゃあちょっくら行ってくる、服装は?」
「一般的な衣装で大丈夫ですよ、財布はそこに金50枚と銀20枚を入れた物があるのでそれをお使いしてください。」
「そんな大金良いのか?」
因みに金1枚で5000円、銀1枚で500円、銅1枚で50円相等だ。
「ああ、スリだったらご心配無く、ちゃんと魔王様以外が触ったら腕が爆発四散するような魔法を掛けて居ますので。」
「ひっでぇな…まぁありがと。」
「ふふ、どういたしまして。」
財布を取り一応仮面を着けてクリューの魔石を持っておく。
「じゃあ…行って来ます。」
「はい、行ってらっしゃいませ。」
城の門の所で一人の兵士が虚ろな目で立っていた。
「門番ご苦労、これから少し町にでるから頼むぞ。」
「魔王様…の代理の方ですよね…失礼なことを尋ねますが貴方はまともな方ですか?」
「ああ、一応常識は持ち合わせている。」
「そう…ですか…それは良かった…。」
「ふむ…随分と疲れているようだが休んで無いのか?」
「ええ…恥ずかしながら…。」
「…命令だ、明日から2日休暇を取れ。」
「え?でもそんな…。」
「そんな疲れた顔で門の前に立っていられては安心できるものも出来ん、代わりの者を遣えるから休め。」
「…有難う…ございます…!」
「礼には及ばん、ただし休暇が終わればまた仕事に戻って貰うからな。」
「はい!」
「良い返事だ、では我は町に出るからそれまでの間頼むぞ。」
「行ってらっしゃいませ!」
国どころか城の中までああだとは…全ては一から…か。
それから露店街まで辿り着いたら少し場の空気が淀み始めたが未だに活気は衰えない。
「ふむ…随分と旨そうなパンだな、店主!これはいくらだ?」
「銅2枚ですが…。」
「では5つ貰うぞ、銀1枚で足りるか?」
「魔王様からお金を取るなんて…そんな恐れ多い事出来ませ…。」
「愚かな事を言うな、王とて払うものは払う、それとも我の顔に泥を塗るつもりか?」
「いえ、あの…毎度。」
「ふっ、また来る。」
紙袋から一つパンを取り出して食べようとするが仮面を被って居たことを忘れていた。
「我としたことが…。」
仮面を外しパンを食べる、焼きたてだったため結構熱かったがとてもふっくらしてて食べたことがないくらい美味しかった。
「うむ、旨いな。」
次に目についたのは見たことがない赤い実だった。
「婦人、これは甘いか?」
「は、はいっ!うちのコルマの実は絶品のハズです!」
「そうか、一つ貰おう、いくらだ?」
「銅5枚で…お釣りの銅5枚です。」
「うむ、そんなに畏まらんでも良い、次に畏まったら懲罰な。」
成る程、自分で使ってみて分かった。
滅茶苦茶効果覿面やん…。
「さて…と、メイド長からとやかく言われる前に帰るか。」
帰路に着こうとしたらなにやらナイフを持った男が複数出てきた。
「なんだ貴様らは。」
「へっ、フー盗賊団のしたっぱだよ魔王サマァ。」
「ふむ、要約すればごろつきの集まりか、それが何のようだ?」
「怪我する前にその財布を出しな。」
こいつら…では痛い目に遭わせよう。
「そうか、では持っていけ。」
財布を地面に放り仮面を被る。
「へっ、話がわかんじゃねぇ…ぐぁぁぁぁぁぁ!」
ごろつきが財布を拾った瞬間に腕が爆発した。飛び散った腕は最早灰所ではなく塵になった。
「どうした?拾わぬのか?」
「て、てめぇ…何しやがった!」
「ああ、言い忘れていたがメイド長が我以外が触ったら爆発する魔法をかけていたと言うことを忘れていた、許せ。」
「舐めやがって…!ぶっ殺してやる!」
飛びかかってきたが腕を軽く振り、真空波がごろつきの体を吹き飛ばした。
「脆いな…民の平穏を破り去るようならこの場で消すが…どうする?」
「っ…!逃げるぞ!」
走ってごろつき達が逃げ去った際に何か袋を落としていった。
「これは…?」
「あ、あのー…大変申し上げにくいのですがそれさっき私の店から盗まれた宝石でして…。」
「そうだったのか、中身を確認せよ、足りないものが有れば我が兵を出し取り戻しに行こう。」
「で、では失礼して…全部無事です!ありがとうございます魔王様!」
「うむ、次からは防犯用に束縛魔法でも覚えておけ、何かと役に立つ。」
「は、はい!」
町で行動をして知名度を高めないと…前の奴がやったことを忘れずに、もっと良い事をしないと…。
それから普通に帰路に着き、門番の手配と町の治安の強化を命じて一息つく。
「はー…結構疲れたな。」
「お疲れ様です、今食事をお持ち致しますね。」
「ありがとう。」
「お嬢様を添えて。」
「oh…。」
あいつ食事中にべらべら喋るからなぁ…。
「ご指名有難うございます!クリュー…。」
「チェンジで。」
「畏まりました。」
「え!?ちょっ…冗談じゃないですか!羽交い締めしながら部屋から出そうとしないで下さい!」
「うん、まずは何で魔王がキャバ嬢の真似しながら入ってくるんですかね?」
「えーっと、それはー…。」
「男性の好みを聞かれたのでキャバ嬢かスクール水着か花魁系の着物くらいかなと。」
「偏屈すぎるわ!」
このメイドは危険すぎる。
「さて、お嬢様で遊ぶのはここまでにして…。」
「遊んでたんですか!?」
「はい、遊んでました。」
「っ…!」
ショックの余りガ○スの仮面みたいな顔になっている。
「それで?今晩のメニューは?」
「ハンバーグです、暇だったので歌って踊りながら作りました。」
「怒られてしまえ。」
でも食べたら凄く美味しかった。
夕食後、ようやく用意された自室で一息ついているとノックの音が転がった。
「はいほはいほーっと。」
演劇ようぐをカバンに入れてからドアを開けるとクリューが居た。
「どうした?」
「えへへ…遊びに来ました。」
「うん、黙って寝てろ。」
バタンと戸を閉めると戸を叩き始めた。
「うるせぇ!新聞の受け売りは結構だ!」
「そんなひどい…。」
いや、お前は新聞業者だったのかよ…。
「…入れ、つっても遊ぶもんなんて何にも…。」
クリューの後ろを見てみると大量のボードゲームが鎮座していた。
「私の部屋に置いてあるものをありったけ持ってきました!」
「オセロ以外全部置いてこい。」
「えー…。」
「早く。」
「うぅ…持ってくるのに苦労したのに…。」
とぼとぼと浮遊魔法で持ち上げながら部屋に戻っていった。
「今がチャンスだ。」
戸を閉め鍵を掛ける、これで入って来れ無いはず…。
「鍵を掛けるなんて…結構大胆なんですね…。」
「…何故居る。」
「コフィンさんがボードゲーム一つ一つにポータルを設置したのでそこをちょちょいと…。」
「おのれ…孔明の策か…!」
どうやら諦めて遊びに付き合うしかないようだ。
「えへへ…夢だったんです、親以外とこうやってボードゲームするの。」
「ボッチか…友達も居ないなんて可哀想に。」
「友達位は居ますよ!?…犬ですが。」
「ボッチじゃねぇか。」
割りと本気でボッチだった。
「む…じゃあ私が勝ったらボッチなんて呼ばないで下さいね。」
「ああ、その代わり俺が勝ったら…指一本を貰おうか。」
机の上にナイフを突き立てる。
「ひっ…!」
「俺は一切手を抜くつもりは無いが…どうする?」
「な、何か…荒野に居るギャングの首領みたいです…。」
「話を逸らすんじゃねぇ、誇りか指か…早く選べ。」
「指でお願いします…。」
よし、これで調子に乗ることは無くなったな。
それから普通にオセロを初め、おどおどしながらクリューが尋ねてきた。
「そ、それにしても…随分と演技の幅が広いんですね。」
「まぁ、悪役に徹することを主にして練習してきたからな。」
「何で悪役を?」
「…バカみたいだが、俺の中で一番かっこいいのは悪役だ、だからその背中を『踏み倒すために』俺は悪役に徹する、更に俺の背中を見せないために早足で駆ける、それだけだ。」
「踏み倒す…追い付くんじゃ駄目なんですか?」
「まるっきり駄目だ、追い付いたとしてその先に何を得るかが一番重要だからな。」
「成る程…他にはどんな悪役を出来るんですか?」
「脱出劇の黒幕とか軍の総帥とかだな。」
「本当に悪役ですね…。」
「かっこいいからな、これで終わりだ。」
白が多かったのに一つの手で一気に黒に変わるとクリューが驚いた。
「あ、あれっ?さっきまで私が優勢だったのに…。」
「それにしてもお前は悉く罠に掛かるよな、更にはこことここ、更にここも落とし穴だ。」
「でも沢山取れてたし…あっ。」
「やっと気付いたか、お前は全体を見る目が無いな。」
「じ、じゃあもう一回…。」
「その前に…さ、好きな指を選べ。」
「え!?さっき指を取るって…。」
「俺は賭けるものを選べと言ったんだ…覚悟は、出来てるな?」
「ひっ…ひゃぁぁぁぁぁぁ!ごめんなさーい!」
凄いスピードで逃げたしていった、冗談なのに…。
「脅かしすぎたかな?まぁ良いか…ふぁぁ…もう寝るか。」
オセロを廊下に置き、鍵を閉める…が、何か立て付けが悪いせいでガタガタする。
「あのやろう…コフィンさんにチクってやろう。」
それはまぁ明日で良いか、取り敢えず寝るためにベッドに寝転がる。
「俺が魔王代理…か、俺もそれなりの覚悟を決めないとな。」
これから起こることは全く予想さえも出来やしないこの世界で本当にあいつを…クリューを立派な魔王に出きるのだろうか…あいつは優しい性格だから途中でギブアップするかもしれない…だとしたら、俺が…。
「いや、俺は元の世界に戻るんだ…あの人の約束を守るために…!」
布団を被り眠りにつく、明日は…どんな事が起こるのか…な…。
次回「リザードウーマンの一週間(前編)」
少し長めになってしまいましたが満足です。