疑問
何故盗賊団のアジトを発見できたのか
何故殺すことを躊躇わなかったのか
何故クリュー無しに上位魔法を使えたのか
これは五日目と六日目の魔王に起きていた、裏の出来事である。
~五日目(裏)~
少しでも情報を集めるためスラムのボスであるハートに話を聞くためにスラムにやって来たのだが…そこは変わり果てていた。
「何だ…これは…。」
それは原型すら留めてなく、ただただ燃え広がっていた。
「ヒカナ!?どうしてここに!?」
「ハート…これは…?」
「レイゲア教団の仕業だ!何でも崇めるは前魔王だとかふざけたこと抜かしてる頭の可笑しい連中だ。」
「そうか、スラムの皆は?」
「全員避難させている、ただ…さっきよりも数が増えてるって事が一番の問題だな。」
指差す先には…白と黒のフードを被っている無機質な軍隊だった。
「チッ…ヒカナ、手伝ってくれるか?」
「殺さぬ程度なら加勢してやろう。」
「…分かった、止めは俺が刺すから出来るだけ援護してくれ。」
「うむ、では…行くぞ!」
魔石を握り締め、指先に集中する…。
「オラァァァァ!」
勇猛果敢にレイゲア教団の教徒に斬りかかり、道を開けるがやはり数が多いのであっという間に取り囲まれる。
「アースディバイド!」
地面から飛び出てきた岩石が腹を殴り、壁になり、武器を弾く。
「ナイスっ!」
その隙を突いて腹を岩に殴られし者の首を切り落し、壁に阻まれた者は腹を貫かれ、武器を弾かれた者は袈裟斬りにされた。
「くっ…撤退だ!」
「2度と来んなクソッタレめ!」
教徒の撤退を確認し、辺りにを見渡すと…有るのは死体の山と燃え盛る廃墟…正直これ以上この場に居たくない。
「…ヒカナ、こういった死体を見るのは初めてか?」
「ああ…場所を変えないか?正直…ここに居たくない。」
「分かった、じゃあ避難場所に案内する。」
「うむ…。」
それから黙って後ろを付いていくと…そこは街の廃劇場だった。
「ここくらいしか空いてなかったもんでな、勝手に使わせて貰ってる。」
「それは構わぬ…怪我人は?」
「重症な奴が89人、死んじまった奴が44人、軽傷は数えてねぇ。」
「そうか…。」
「…なぁヒカナ、アンタが思ってるよりもこの国は相当ひどい所まで追い込まれている…魔王の代理、辞めちまった方が楽だぞ。」
「…それはでき…ぐっ!」
全力で殴られた、だけど…ここで膝を着く訳にはいかない。
「ここは正しさだけで生きていける世界じゃねぇんだぞ!分かってんのか!」
「分かってる!だからこそ…だからこそ俺が変えなきゃいけないんだ!。」
「…どう言うことだ。」
「アークを寄越せ、俺の体に…無理矢理力を注ぎ込んで一定時間本物の魔王と同じ力を得る。」
「ばっ…バカかお前!確かにその魔石がありゃ怪我人を治す事だって出来るけどよ…。」
「うるさい!俺だってこんなことするのは怖い…でも!この国を変えてやるって決めてんだ!」
「…ああそうかい!勝手にしろ!」
乱暴にアークを投げ渡し、向こうを見る。
「モタモタすんな!重症の奴が死ぬぞ!」
「ああ…。」
アークの蓋を開け、中を覗き込む…。
視界がボヤけ、瞬きしたと同時に辺り一面が白い世界になった。
『やぁ、君が新しい魔王かい?』
「だれだ!?」
背後から声をかけられ、振り向くと眩い光を纏った少年が玉座に座っていた。
『僕?僕は…神様の一人かな?とにかく君に力を授けることが出来るよ、どんな力が欲しい?』
「…一定時間で良い、本物の魔王同等の力を来れ。」
『それは良いけどさ…せっかく久しぶりに開いてくれたんだし、何か知りたいことが有るんじゃ無いの?』
「…よく分かったな、俺が聞きたいことは…。」
『あのリザードの娘の安否とフー盗賊団のアジトだよね?勿論教えてあげるよ。』
…心を読まれているようで落ち着かない。
『そりゃあ心を読んでるからね、僕は神様だよ?容易い事さ。』
「…そうか、じゃあ勿体振らずに教えてくれ、時間が無いんだ。」
『うん、その代わり…君は人間だから何かしらの副作用も与えなければいけない。』
「何?」
そうなるとは思っていたが…あまり支障のきたさないものにして欲しい。
『そうだなぁ…一定時間殺すことに対する抵抗を消す奴にしよう、後から後悔がだーって来る奴…今ならキャンセル間に合うよ。』
「結構だ、早くしてくれ。」
『…分かったよ、全く…人間ってのは本当に強欲だね。』
玉座から飛び降り、こっちに歩いてくると…胸にナイフを突き刺した。
「なっ…。」
『さぁ行ってらっしゃい!これから地獄の始まりだよ!』
「カナ…ヒカナ!」
「はっ…ここは…。」
「お前立ったまま気絶してたんだぞ、大丈夫か?」
「…ああ、それよりも早く案内してくれ。」
「分かった、こっちだ。」
後ろを付いていくとシートを倒し、氷や水で冷やしてる者も居れば薬草を摩ったものを張り付けてる者も居るが…薬が圧倒的に足りていなかった。
「ハートよ、重症の者から我の前に出せ、一瞬で治す。」
「あいよ!おいテメェら!手が空いてる奴から手ぇ貸せ!魔王様が治してくれるってよ!」
「何!?魔王様が!?」
「よし!これで助かる!軽傷の奴等も手ぇ貸せ!働くぞ!」
続々と運び込まれてくると同時に手から治癒魔法を放ち、焼けた肉や爛れた皮をみるみる治していく。
「後は栄養補給だ、後で城の食料庫から送らせる。」
「兄貴!スラムの炎が更に燃え広がって街の方に!」
「こんな時に…。」
「我に任せよ、後は頼んだぞ。」
「…すまねぇ、頼む。」
それから転位魔法でスラムに移動し、手から魔力を放出する。
「…クアドラ・ヒュドール!」
四方に飛び出した球体が弾け、辺り一面全てに水を散布した。
「…これで大丈夫そうだな、一度城に戻ろ…う…。」
多分魔力の使いすぎだろう、意識が…。
「もう、無茶しすぎです。」
倒れかけたところで優しく抱き止められた…この匂いは…。
「コ…フィ…ン…?」
「ええ、貴方のコフィンですよ…この短時間に随分無茶をなされていたようですね。」
「面目ない…だか急がなければ…ゼナが…。」
「大丈夫です…少しこのまま、お休みください。」
「助か…る…。」
瞼を閉じ、身を委ねると優しく頭を撫でてくれている、懐かしいなぁ…まるで…あの…ひ…と…。
「眠りましたか…カメイア、居るのでしょう?」
「…これ以上、その人に過酷な定めを与えないでください、もうその人は…。」
「黙りなさい…薬と食料をあの劇場に配達を、それと兵の用意を…フー盗賊団の討伐を発令します。」
「…分かったっすよ、でも…その人の優しさをこれ以上利用しないでください。」
カメイアは諦めたように溜め息をつくと竜モードにチェンジし、空高く飛び去った。
「…私だって、辛いんですよ。」
涙を流し、魔王が目覚めるまで優しく抱き止めていた。
~六日目(裏)~
あれ…?あの後どうしたんだっけ…確か怪我の治療のあとに火災の沈下をして…それから…。
「ゼナっ!」
「ん…?魔王様、お目覚めですか?」
「コフィン、今何時だ?」
「丁度午前5時ですね。」
「そうか…急ぎ馬の準備を…うぐっ!」
身体中の筋肉がすごく痛い、頭もガンガンする。
「無茶はいけませんよ。」
「でも…!」
「兵の用意は終わってます、場所も落ちてきた封筒に記されてました。」
「落ちてきた封筒…?」
ああ、あの自称神様の仕業か。
「さ、お嬢様が城で心配してると思いますので一旦帰りましょう。」
「分かった…そうだ、スラムの皆に物資を…。」
「スラムの方なら心配要りません、既に手配しております。」
「はっ、本当に気が利くメイドだな。」
「勿論ですとも、あら…?どうやら迎えが来たようです。」
空から一匹の白竜…もとい、カメイアがこっちに向かってくる。
「日加那さーん!」
「クリュー!?」
なんとクリューがカメイアの背中に乗りながらこっちに手を振っている。
「わわ…落ちる~!」
「あのバカ…!」
脚力と筋力を瞬時に強化して落下地点に走り、ギリギリのところでクリューを受け止めた。
「っと、無事か?」
「し、死ぬかと思いました…。」
「全く…無茶をするなっての。」
「え、えと…日加那さん、一回下ろしてもらって良いですか?」
「ああ、悪いな。」
クリューを下ろすといきなり抱きつかれた。
「心配しましたよ…だって『魔石の全力を全部使っている』なんて連絡きたら眠れなかったんですから…。」
コフィンさんの方をチラッと横目で見てみると少し俯いていた。
「悪い、ちょっとバタバタしてたもんでな。」
恐らくアークを使ったことを話すと余計心配してしまうと言うコフィンさんなりの配慮だろう。
「あ、減少しているようなので私の魔力を少し受け渡しますね。」
「助かる。」
魔石に光が灯り、体の痛みが少しやわらいだ。
「お話は済んだっすか?」
「ああ、乗せてくれるか?」
「勿論っす!ささ、どうぞ。」
乗りやすいように項垂れる、だけど流石に三人は定員オーバーかもしれない。
「魔王様、私とお嬢様は後から参りますので先に御一人で行ってくださいませ。」
「良いのか?」
「ええ、むしろ早く行ってあげてください。」
「…カメイア、飛んでくれ。」
「はぁーいよぉー!」
勢い良く飛び立ち、馬車とは比べ物にならないくらい早く城前までたどり着いた。
「…共に駆け抜ける強者共よ!我こそはと賊を討たんが為に!我の前に忠誠の剣を掲げよ!」
兵士が皆ザッと足並み会わせ、剣を空に掲げる。
「では行くぞ!」
「「「ウォー!」」」
声高く雄叫びを上げ、馬で駆ける兵士と共に凄まじいスピードで目的地である国境近くの山に飛ぶ。
「ぐぅ…!」
「大丈夫っすか!?」
「なぁに、軽く風が強いだけよ、そのまま飛ばしてくれ。」
「は、はいっ!」
目的地である入り口近くでは打ち落とそうとする賊がいるが、氷の槍を3本精製し、頭の上から突き刺した。
「…本当に、躊躇いが無くなってしまってるな。」
後悔なんて微塵も出てこない、何一つとして疑問も浮かばない…。
「アレっすね!」
「そうか、我は飛び降りるが故、着陸の必要はない。」
「了解っす、じゃあ御武運を!」
「うむ。」
するりと飛び降りるが浮遊魔法でダメージ無く着地する。
「な、何だテメェ!」
「…賊には名乗る事は無いが…まぁ冥土の土産だ、教えてやろう…我はクリューダ・ブルフェイアル、魔王だ!」
手から放つ黒い雷で門番と思われる奴を全員焼き殺し、扉を蹴破る。
「ほぉ…随分広いのだな、まぁ…歯向かった賊は皆殺す、ただそれだけだ。」
小走りしながら賊を殺し、鉄格子の鍵をついでに壊していく。
「邪魔だぁ!」
「た、助けてく…ぐへっ。」
「ば、化けもんが…これでもくらえっ!」
大筒の大砲から発射された弾を受け止め、投げ返す。
「返すぞ。」
「うわぁぁぁぁ!」
飛び散る血と肉の焦げる匂いを何一つ介さず、ただ前に進む。
「む…!あそこか…。」
「魔王様っ!」
「伏せろ!ヴァイオレンスサンダァァァァ!」
赤紫の雷が迸り、ゼナを取り押さえていた男二人の上半身を焼き消した。
「何だてめぇ!」
男には何一つとして目もくれずゼナを介抱する、こんなにぼろぼろになってと怒りが吹きあがる。
「ゼナ、無事か。」
「は、はい…ううっ…。」
「よく、持ちこたえたな…少し、眠っておけ。」
睡眠魔法を唱え、強制的に眠らせる。
「…さて、これで心置きなく貴様を殺せる…覚悟しろ。」
「ハッ!ここは俺様の根城だぜ?直ぐに増援が…。」
「ああ、それなら私が全て心臓をえぐり抜いたので死んだと思いますよ?」
「ご苦労、では…コフィン、奴に『最上級の絶望』を味会わせてやれ。」
「畏まりました…では魔王様はゼナさんを連れて外に。」
「分かった。」
転送魔法を唱え洞窟入り口まで飛ぶとゼナの容態を確認する。
「…やはり怪我を負っているな、回復させておくか。」
手から治癒の光を浴びせ、打撲や擦り傷を治していく。
「…ふぅ、本当に無茶をしてくれる。」
俺も人の事を言えた口じゃないけどな。
「ちょいとそこのお方。」
「新手か!?」
手に魔力を溜め込み、すぐさまVサンダーを撃つ準備をする。
「違う違う、だからその物騒なモンを下げておくれよ。」
「…では問おう、貴様は何者だ。」
「そうだねぇ、その子の産みの親…とでも名乗っておこうか。」
「母親だったのか…それはすまないことをした。」
「いや、育ての親は別さ…まぁ、その子は微かに覚えてくれていたようだけどね。」
「そうか…それで、霊体になってまで我に何用だ。」
「…アンタ魔王だろ?だったら一つ頼みたいことが有るのさ。」
「何だ?非礼の変わりに聞いておこう。」
「あそこの地下牢に死体が有っただろう?アレを少しでも良いから生き返らせておくれよ。」
「何故だ?」
「…今さら言えた口じゃないけど、その子にお別れ位言いたくてね、頼めるかい?」
「…あい分かった、では早速連れてこよう。」
ゼナを取り敢えず床に寝かし、転送魔法でまた牢に戻る。
「誰も居らんか、よっと…。」
血が滴る死体に触れ、治癒と同等に魔力を込める。
「うぐっ…。」
コフィンさんから教えて貰ったんだが死霊系魔術は周りに居る死霊が術の対象を乗っ取ろうとするため、全ての負荷を負わなければいけないとの事。
それにしても酷いものだな、さっきまで殺していた奴等までもがこの体を求めて襲ってくるとは…。
『死ね!死ね!死ね!』
死霊の声も響くオプション付きかよ…だけど…俺は…!
「うるせぇ…全て纏めて消してくれる!」
もう片手で浄化魔法を払い、張り付く死霊を消していく。
「はぁ…はぁ…。」
またしても魔力を殆ど枯渇させてしまったが…どうやら成功したようだ。
「…感謝するよ、ってアンタ…人間だったのかい?」
「はっ…人間が魔王の代役やっちゃ可笑しいかよ。」
「別に断っても良かっ…。」
「ゼナが喜ぶ…からだよ。」
「…そうかい、アンタみたいな男だったらゼナを任せれるようだ。」
「当たり前だ、俺を…誰だと…。」
力が…体に入らない…そろそろ契約の限界か…。
「ちょっと!大丈夫かい!?」
「うっ…!」
殺してきた全ての光景が脳裏に過っていく、俺は…何を…!
「ぉえぇぇぇぇっ…!」
ああ、気持ち悪い…気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!
吐いても吐いても気持ち悪さが止まらない、もういっそ殺して欲しい、殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ…!
「魔王様っ!」
コフィンの声がする…だけど…もう…。
「しっかりしてください!貴方は全てを覚悟の上であの箱を使ったのではないのですか!?」
「お…俺は…。」
「大丈夫です…私も貴方の罪を共に背負います…だから、どうか…また前を向いてください。」
「…ありが…とう…また…迷惑を…かけ…る…。」
もう意識すら保てなくなり、その場で気絶してしまった。
「…ええ、共に背負いますとも…冥界であろうとなんであろうと…御供しますよ。」
コフィンは抱き寄せて意識のない日加那にキスをした。
「…帰りますか、貴女も付いてくるのでしょう?」
「ああ…ついでに入り口付近で寝てる娘も頼むよ。」
「畏まりました。」
転送魔法で先に入り口付近まで飛び、日加那とゼナを二人担ぎ上げ城まで転送魔法で戻った。
それから昼過ぎで寝過ごし、最近慣れ始めた毛布の感触で目を覚ました。
「ここは…。」
「日加那さん、おはようございます。」
「クリュー…。」
「あ!まだ少し寝てて下さいね、さっきコフィンさんに『動かさないように見張ってて下さい』なんて言われちゃいましたし…。」
「…悪い、少し一人にさせてくれないか?ちょっと…元に戻るまでの時間が欲しい。」
「…ダメです。」
「え?」
「今日加那さんを一人にさせてしまうと…絶対壊れてしまいます…だから…その…私に、甘えてください。」
驚きだった、まさかこの間までビービー言ってたクリューがここまで成長してるとは…。
「…生意気な事を言うなよ、クリューのくせに。」
ダメだ、ここで、挫けて、しまっては。
「うぅ…それとも私じゃダメですか?」
「…全く、そんな言葉どこで覚えてきたんだか…こっちに来い。」
「は、はいっ!」
目を輝かしながら近寄ってくると優しく抱き締めた。
「日加那さん…。」
「悪い…もうちょっと…このまま。」
「…いくらでも甘えちゃって大丈夫です、私は…貴方の近くに居ますから。」
それから20分間クリューに見えないように泣き続け、ゼナが起きるまで待っていた…だが何故クリューとコフィンは俺に対してこんな思い入れがあるのだろうか…俺はその疑問を思い続けていた。
正直もっとドロドロさせていくので胸糞も増えるかもです