ゆかりんの幻想的日常記   作:べあべあ

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3話 黒白には染まらぬ忠義の色

 ――いきなり会うのもなんだか怖い。

 

 大妖怪なはずの八雲紫は、ご丁寧に門の前にスキマの出口を作り、そこから体を出した。

 西洋調の門の前に想定の人物が立っていた。

 門番、紅美鈴である。

 目が合った。

 美鈴は頭を下げ、中へ誘導するように手を動かした。

 何かを察したような美鈴に、もう帰りたくなる紫だったが、ここまで来て引き下がれない。

 足を進める。

 通り過ぎざまにちらりと美鈴の顔を確認すると、えらく真面目な顔をしていた。

 さらに帰りたくなった。

 ここの門番はシエスタ仲間だったはず、――過去にあのような表情だったことは……。

 紫はちょっとブルーになった。

 嫌々ながら大きな扉を押す。

 中には誰もいなかった。

 

「さて、どこへ向かったものかしら」

 

 扇子を取り出し、口元に当てる。

 

 ――こっそり帰れるのではないだろうか。

 

 先ほどの門番の感じだと、ここの当主に会う必要があるみたいだが、この館の構造を把握していないので迷った。ここの当主は複雑な上、よく構造をいじる。

 

 ――迷ったことにして帰れるのではないだろうか。

 

 そうやって考えているうちに、人間のメイドがやってきた。

 なんか損した気分になった。

 

「――お嬢さまの元まで案内いたします」

 

 こちらの返答の前に、背を向け歩み始めたので、ついていくしかなかった。

 

 ――急用が入ったことにすれば帰れるのではないだろうか。

 

 なんてことを考えながら、むやみに広い館をしばらく歩いていた。

 やがて、メイドの足が止まった。

 メイドは振り向くと、頭を下げた。

 

「あまり刺激されないようにお願いします」

 

 意味が分からなかった。分かりたくなかった。

 目の前の扉がやけに大きく感じた。

 ここに来る前の道のりを思い返した。

 門番の真剣な様子、瀟洒なメイド。

 

 ――あら?

 

 下剋上の雰囲気が見えない。これは口八丁でうまいこと乗り切れるかもしれない。

 紫は扉の取っ手に手をかけた。

 品のある一室が紫を出迎える。

 

「おや、何やら珍しい客じゃないか」

 

 当主は記憶通りの姿で、豪奢な椅子に座っていた。いつも通りのくそ生意気な感じで、偉そうにこちらを見ている。

 

「うちに何用かな? お前がやってきたということは何かあるのだろう? ちょうど退屈していたところなんだ」

「……まぁ、そうね」

 

 八雲紫の奥義。適当に濁らせて誤魔化す。

 胡散臭い雰囲気も相まって超がつくほど効果的である。

 

「して、それは余興くらいにはなるのだろうな?」

 

 あごを撫でながら、クツクツと笑う紅魔館の当主レミリア・スカーレット。

 威厳と畏怖を感じさせる雰囲気に、紫は良い対処法が浮かばなかった。

 ちらり、後ろを見るとメイドの十六夜咲夜が目を伏せているのが見えた。

 

「その前に、お宅のメイドさんを少し借りてもいいかしら?」

「ん? あぁ、別に構わんよ」

 

 紫は、部屋を出た。

 扉をきっちり閉めると、一緒に出てきた咲夜に言った。

 

「何かそこまで変わってない気がするのだけど」

 

 咲夜はあからさまに驚いた表情をした。

 

「大きく変わっております。――お気づきにならなかったので?」

 

 そう言われると気づかなかったとはプライド的に言えない。

 紫は今のレミリア、昔のレミリア、それぞれ思い浮かべ、その違いを探った。

 

「……髪が伸びたとか?」

「ちゃんと見ました?」

「……えぇ」

 

 ぶっちゃけ分からない。

 もうどうでもいいからさっさと終わってほしくなった。

 

 ――やはり適当に誤魔化すか。

 

「私の前だとあのような感じだった気がするわ。霊夢の前ではもう少し面白味のある感じだった気もしなくはないけども」

 

 普段一緒にいると微細な変化でも感じれるもので、咲夜は、もしかしたら紫は何も理解出来てないのではと疑い始めた。

 

「……いつものお嬢様なら誰もいなくなった後にカップを落としたり、何もないところで転んだりしています。しかし、今のお嬢さまはそのようなことはめったにありません。すぐさま分散してしまわれる集中が、ちゃんとあるべきところに向かっています」

「いいことじゃない」

「そうではありません。そうでは……」

 

 渋顔で唇を噛む咲夜。

 紫は、よく分からないままだが少し気の毒になってきた。

 

「……もう一度話してみるわ」

 

 紫は重く感じる扉を開けた。

 

「――待たせたわね」

 

 レミリアはちらりとだけ視線をやった。

 

「構わんよ。それで私に聞かせてくれる話というのは?」

 

 流し目のまま口角を上げたレミリアは中々にさまになっていた。このままなら、求聞史紀のレミリアの欄にカリスマの四文字が記載されるであろうほどに。

 方針はもう決まっている。

 紫は扇子を広げ、口元を隠すとふふっと笑った。

 

「隠しておいた方がいいかもしれませんわね」

「ん?」

「勘の良い貴方なら理解できるのではなくて? 知ってしまうということの弊害を」

 

 レミリアはあごに手を当てて考えるそぶりを見せた。

 

「これから先に起こることを知らないでいる方が楽しめる、そういうことか?」

「えぇ、さすがですわ」

「そうか、それなら仕方な――」

 

 やった! 上手くいった!! そう思った紫だったが、そうは問屋がおろさなかった。

 バンッと盛大な効果音がレミリアの言葉をさえぎった。

 音の方向へ視線をやると、紅白の巫女、博麗霊夢がいきり立っているのが見えた。

 

「紫、あんたもいたのね。まぁ、それはいいわ」

 

 霊夢が紫からレミリアへと視線を移すと、顔を険しくした。

 

「で、あんたは何のつもり?」

「さて、何のことかな?」

「赤い霧のことに決まってんでしょ。それだけじゃない、各地で阿保共が何か異変起こしてるみたいだし」

 

 紫は目をまるくした。

 

「え? 霊夢、それ本当?」

「なんであんたは知らないのよ。知ってるからこそここにいるんじゃないの?」

「私は何か起きる前に来ただけよ」

 

 紫は焦った。後で絶対藍に小言を言われてしまう。

 

「――とにかく退治するから、行くわよ紫」

「え、私も?」

「何言ってんの当り前じゃない」

 

 扇子で隠して周りには見えないが、その内の口元は下がりに下がっていた。

 気が進まない。気が進まないったら進まない。

 しかしどう見ても両者ともやる気満々だった。

 

「霊夢、私もやるわ」

 

 後ろで控えていた咲夜が前に出てきた。

 

「はぁ? なんであんたが?」

 

 ――何だか分からないけど、これはしめた。

 

「それじゃあ、私は見学してようかしら」

 

 わざと怪しげに笑いながら距離を取った。

 霊夢は不満気にため息をつくと、レミリアへと向き直った。

 

「もう面倒だからさっさと終わらせるわ」

 

 それを見るレミリアの表情は、いまだ余裕然としていた。

 

「もういいのかい? しかし、まさかお前がそちらにつくとわね」

 

 紅い眼光が咲夜を射抜いた。

 咲夜も怯えを見せることはなく、軽く頭を下げたのち自らの主を見返した。

 

「――申し訳ありません」

「いや、これもまた面白い。飼い犬に手を噛まれるというのも悪くない。怒っては無いが、お仕置きは必要だな」

 

 咲夜はナイフをレミリアへと突き付けた。

 

「これは私の忠節の証。死ぬまで変わらないお嬢さまへの敬愛と敬服をこの場にて示しましょう」

 

 レミリアは口をつり上げた。嬉しくて堪らないような笑みである。

 

「今夜も楽しい夜になりそうね」

 

 まだ昼である。

 しかしこの狭い部屋で、いや部屋自体は広いが戦闘するには狭いといえる部屋で、一体どう戦うのだろうか。

 紫は妙案を思いついた。

 人間二人が頑張ってる隙をついて、スキマをアレしてレミリアに触れ、アレをアレすれば元に戻るんじゃないか。

 

 ――さすが妖怪の賢者。賢い者と書いて賢者。さすがだわ。

 

 紫が自画自賛うちに、戦闘は白熱してきた。

 霊夢と咲夜の即席のコンビはそれなりに上手く機能していて、レミリアを回避に専念させれていた。そもそもレミリアの機動力を生かすには空間的制限が邪魔をしていた。レミリアは部屋の家具等をふんだんにつかい、テーブルをかち上げ盾にしたり、シーツやカーテンを切り裂き敵の目をあざむいたりと上手いこと避け続けていた。

 楽しい夜(昼)というハンデもありながら、それら全てをふくめて楽しんでいた。楽しみが強まれば熱中となり、熱中が強まれば盲目となる。

 紫はチャンスの到来を悟った。

 隠すために自身の後ろにスキマを作り、右手を突っ込んだ。

 そして霊夢と咲夜の攻撃からレミリアの回避位置を推測し、その地点にスキマを繋げ、回避してきたレミリアにタミングを合わせた。

 触れた。

 突如肩に触れられ、レミリアは何事かと肩を凝視したが、間もなく気を失い倒れた。

 

「――お嬢様!」

 

 咲夜が即座に駆け寄った。

 色々察した霊夢は、ジト目で紫を見た。

 

「……手を出すならはじめからそうしなさいよね」

 

 霊夢は紫に詰め寄った。

 

「分からないからこそ効果があるのよ」

「そんなんだから胡散臭いとかいわれるのよ」

「はいはい」

 

 紫は、寄ってきた霊夢の頭を撫でたが、すぐさま払われた。

 

「つれないわね」

「うるさいわね。まだ解決してないんだから、さっさと行くわよ。まさか行かないとか言うんじゃないでしょうね?」

 

 もちろん言うつもりだった紫。

 先手を取られて、言葉を失ってしまった。

 誤魔化すために視線をずらすと、ちょうどレミリアが上半身だけ起こしたのが見えた。

 

「…………」

 

 その状態のままレミリアは部屋を見渡すと、ぽかんと口を開けて固まった。

 

「……なんでこんなになってるの? お気に入りの家具がなんかぼこぼこなんだけど」

 

 咲夜は安堵した表情でレミリアの背をさすった。

 

「ていうか霊夢じゃない。どうしたの? 珍しいじゃないうちに遊びに来るなんて」

 

 元気な笑みのレミリアを見た霊夢は、紫の手を引っ張った。

 

「ほら、行くわよ。まだたくさんあるんだから」

 

 話の流れがレミリアにはさっぱり分からない。しかし、持ち前の勘の良さでぼんやりと理解した。

 

「何だか分からないけど面白そうなことしてるんでしょ。私も行くからちょっと待って、っあ――」

 

 勢いよく立ち上がったレミリアは誤ってスカートを踏んでしまいその場にべちゃっと倒れた。

 レミリアが顔を上げると、霊夢と紫は立ち去っていた。

 

「ぁえ? なんか普通に置いてかれたんだけど……」

 

 咲夜はレミリアの小さな手を掴んだ。

 

「――死ぬまでついていきます」

「え? あ、うん」

 

 その後、霊夢と紫は異変解決の為に各地を飛び回った。

 全てが終わるころには夜になっていた。

 異変が終わればとりあえず宴会である。

 紫に霊夢、異変と知るや即座に駆けつけ藍と行動を共にしていた魔理沙の四名で、小さな宴会を開いた。

 すっかり出来上がった霊夢は、高らかに盃を掲げ、

 

「まだまだ飲むわよぉ!」

 

 と、宣言した。

 赤い頬の霊夢は紫にもたれかかる。

 

「霊夢、ほどほどにしとくのよ」

「うるさいわねぇ。こんなに良い酒隠し持っといて、ケチケチすんじゃないわよ」

「まったく、その通りだぜ」

 

 魔理沙はぐぐっと酒を喉に流し込んだ。

 これから幻想郷中から様々な人と妖怪と酒が集まってくる。小さな宴会もいずれ大きくなり、歌え踊れやの大騒ぎ。沸き立つ心を酔いに乗せて、息を吐く。

 幻想の夜はまだまだこれから。




ゆかれいむゆかれいむ
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