ゆかりんの幻想的日常記   作:べあべあ

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6話 つまりコントローラーが悪い

 和室。

 紫は機嫌が良かった。

 今日の晩御飯が好物のハンバーグであったこともそうだが、他にもあった。

 食べ終わるいなや、紫は立ち上がった。

 そして、口元のケチャップには気づかないまま、

 

「じゃ、行ってくるわ」

 

 と言うと、そそくさと部屋を出た。

 約束があった。

 仲間、または戦友、時には好敵手。

 待っている者がいた。

 例え、藍の冷たい視線にさらされることになろうとも、果たせばならない誓い。

 紫は指を伸ばし、空間を斬るように横に滑らせた。

 その軌道は黒い筋と化し、空間を裂き、広げた。

 楕円状に広がったそれは目を思わせ、事実、裂け目の黒い空間からは無数の目が覗いていた。

 紫は両手を天へ伸ばし、その先で合わせた。

 そして、水泳選手がプールへと飛び込むような形で空間の隙間へと、

 

「とぅ!」

 

 ダイブした。

 幻想郷には様々な生き物、人間や妖怪、はたまた神まで住んでいる。

 中には月人とかいう者までいて、その月人は竹林の奥深くにある永遠亭という所に住んでいる。

 その永遠亭の前では、長いうさ耳に長い髪の毛の少女が竹の葉を掃いていた。

 少女は、異変を感じた。

 自身が掃いている地面の先に黒い裂け目が現れたのだ。

 黒い裂け目は広がり、その中心からは大妖怪八雲紫がタケノコのように出てきた。

 

「あ、こんばんは」

 

 うさ耳の少女、鈴仙・優曇華院・イナバは慣れた感じで紫に挨拶をした。

 本来臆病な彼女がいきなり地面から生えてきた紫に驚かなかったのには理由がある。

 

「もう始めてるみたいですよ」

「分かったわ」

 

 主語は必要なかった。もう慣れているのである。

 紫は、永遠亭の中へと入った。

 本来たどり着くのは困難であるはずの部屋に、紫は簡単にたどり着いた。

 そう、招かれている。

 紫が部屋のふすまを開けると、中からちらりと目線を送られた。

 

「いらっしゃい」

 

 部屋の、いや永遠亭の主である蓬莱山輝夜。

 輝夜は挨拶を終えると、すぐに目線を元に戻した。その先にはテレビジョンという黒い箱があった。

 輝夜は、テレビジョンに向かって座り、手にはコントローラーなるものを持っていた。

 それらの物は紫が外から持ってきたものである。ためしに勧めてみたところ、大いに気に入ったようで、このように度々集まってゲームをする仲にまでなった。

 寝て起きて寝て起きて寝て起きて、とそんな生活をしていた輝夜が起きて何かを活動するようになったと、保護者の永琳は少しだけ、少しだけ喜んだ。

 輝夜の好みはロールプレイングゲーム。コツコツとレベル上げて魔王を倒すのが好み。

 繋がっているコントローラーは二つ。

 一つは輝夜、もう一つは、

 

「やった私の勝ちー」

「やっぱりこの手のは貴方の方が上手いわね」

「ふっふっふー」

 

 と、得意気に笑う悪魔の妹、フランドール・スカーレットである。

 アクションゲームの類いが得意。FPSなどもやるが、それはそこまで上手くなく、よく敵にやられて発狂する。発狂したフランは、コントローラーを優しく置くと、用意していたクマのぬいぐるみを引きちぎって気を静める。そのためフランの部屋には悲惨なぬいぐるみだったものが散らばっており、知らない者はドン引きする。でも知ってる者も引いている。

 ぬいぐるみ代もばかにならないと、姉のレミリアにたしなめられ、ベッドでじたばたすることに切り替えたこともあったが、いまいち発散できなくてやっぱりぬいぐるみに戻った。お得意様であるアリスのふことろは大いに潤った。

 

「今日は新しいカセット持ってきたわよ」

「え、ほんと?」

 

 輝夜とフランの顔に喜色が浮かんだ。

 

「三人で協力して出来るゲームよ」

 

 多くのゲームのプレイ人数が二人か四人用で、ちょっとやりづらいこともあった。それを解消すべく、紫は三人用のものを見繕ってきた。それまでは、四人用のゲームをやる際、毎度うどんげを捕獲して面子に加えていた。うどんげはFPSに関してはやたらと上手く、軍にいた経験がうんぬんと言いながら調子にのって他三名をぼっこぼこにしまくったこともあった。しばらく生きた心地がしなかったとかなんとか。

 ちなみに輝夜が一人でやっている時、冗談交じりに永琳にドクターマ○オをやらせたこともあった。すると、引くくらい上手かった。輝夜が永琳に尊敬のようなものを覚えた初めての瞬間だった。

 その件からしばらく後、永琳が輝夜からゲームのやりすぎだとゲームを取り上げたことがあった。その際に永琳はこっそりドクターマ○オをやっていた。うっかり見てしまった可哀想なうどんげは、永琳ににっこり笑顔で口止めをされていた。その後、謎の嗅覚で察知した輝夜に問い詰められ、口止めの失敗がバラされたくなければゲーム機を奪取してこいと命令されたこともあった。

 それらの話を聞いた紫は、こっそりテト○スやぷよ○よを練習している。マスターして勝ちを確信出来るようになった後、永琳に勝負を挑む計画である。

 

 協力プレイを始めた、紫、フラン、輝夜の三名は画面にくぎ付けになっている。

 

「あ、そのアイテム私がっ、あぁっ」

「よっしゃ、ぶっ壊して――、ちょっ、そこ邪魔!」

「もう、どうしてこのこいつは不死身じゃないの? 私の分身みたいなもんでしょう?」

 

 協力プレイが可能なゲームだからといって、出来るかどうかは別である。協力が出来ない人種というのはいる。

 しかしプライドだけは高いので、難易度をEASYにする気はさらさらなく、NORMALにするわけでもなく、いきなりHARDからスタートしている。

 皆揃って見栄っ張りだった。

 

「――ちょっと貴方、下手すぎじゃない?」

「え、それってもしかして私に言ってる?」

 

 輝夜の言葉に紫が反応した。

 

「反応したってことは、自覚あったのね。生まれたてのヤギかってくらい、ふらふらじゃない」

「違うわよ。これはコントローラーがちょっと古くてこうなのよ」

「あら、じゃあ私のと代えてみる?」

「いやよ。なんでわざわざそんな面倒なことするのよ」

 

 みみっちい争いに、突っ込みが入った。

 

「どっちともそんなに変わらないんだけど。ルーミアとチルノが争ってるみたいなもんなんだけど」

「ああ?」

 

 二人ともキレた。

 その瞬間、「ゲームクリア」という音声が流れ出た。

 ほぼほぼフラン一人でクリアした。

 

「ほらね?」

 

 画面に映るクリアの文字に、二人とも「ぐぬぬ」としか言えなかった。

 しかし、悔しさは残った。

 

「……これはいったん止めて、ジャンルを変えましょう」

 

 紫はそう提案した。込められた思いを訳すと、苦手ジャンルにしてボコす。

 同士もいた。

 

「いいわね。私も賛成だわ」

 

 輝夜である。内心まで紫と同じである。

 それから色々なゲームで盛り上がった。

 そして、やがておひらきに。

 別れ際でのこと。

 

「今度は新しいゲーム機を持ってくるわ」

「新しい」

「ゲーム機?」

 

 期待を隠せない輝夜とフランに、「ふふふ」と得意気になる紫。

 

「――今度はオンラインよ!」

「オンライン?」

 

 スキマ妖怪が頑張ってアレをアレすることにより、実現したオンライン。

 

「家にいながら離れた所にいる同士とゲームがプレイ出来るということよ」

「天才!」

「賢者!」

 

 上がった称賛の声に、紫の鼻はにゅっと高くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 後日。

 画面上に文字が表示された。

 

てるよ「あ」

ふらんちゃん「あ」

ゆかりん「ちゃんと見えてるわね」

 

 仮想空間上で、なんかそれっぽいキャラが三体、くるくる回っていた。

 そしてそこから少し離れたところでピンク色の髪をしたキャラがそれを見ていた。

 

てるよ「あなたが、新しい仲間?」

ゆかりん「そうよ。ほら、あいさつして」

さとりん「はじめまして」

ふらんちゃん「お、よろしくー」

さとりん「よろしくお願いします」

 

 さとりんという文字が頭の上に出たキャラの周りを、三体のキャラが回りだす。

 ゆかりんが足を止めた。

 

ゆかりん「ところで、どうやってかんじにするの」

ふらんちゃん「何それ? 分かんない。阿阿阿」

てるよ「本当ね。阿阿阿」

 

 画面上、止まったゆかりんの周りをふらんちゃんとてるよが駆け回る。

 

ゆかりん「あああ。 aaa.are? tyotto nihonngoga utenai」

ふらんちゃん「何してんの(笑)」

てるよ「超うける(笑)」

 

 紫は席を立った。ちょっと涙目。

 向かうは、藍のところ。

 藍は布団でぐっすり寝ていた。幸せそうな寝顔である。

 

「ちょっと藍、藍」

 

 ゆっさゆっさと揺らす。

 

「起きてってば」

 

 藍の眼がわずかに開かれた。

 

「んぅ? 橙?」

 

 現実は非常だった。

 

「日本語がうてないの。助けて」

「…………」

 

 藍は言葉の意味が理解したくなかった。

 

「ねぇ、藍。このままだと私、みんなにいじめられちゃうわ」

 

 藍は理解した。

 なんだかよくは分からないが、このままでは自分は再び寝ることが出来ないことを。

 藍は紫が服をひっぱる方向に行くことにした。

 

「これよ、これ」

 

 紫の自室へと案内された藍の目には、いつの間にか増えていたテレビとゲーム機、そして画面にどこか見覚えのある姿のキャラクターが映った。

 

「……なんですか」

 

 嫌がらせですか、いじめですか。そう続けそうになった藍だったが、言うのも面倒でやめた。

 

「いいから、これ、日本語にしてよ」

 

 藍はここで紫の要求を理解した。

 すぐさま終わることで安堵しつつも、こんなことで起こされたのかとイラ立ちもした。

 藍は外の世界に行った時によくコンピューターを使う。上司へのお悩み相談室というHPがお気に入りで、行く度に長文を書き込んでいる。結構常連である。

 藍は次なるお悩み相談文を脳内で書きだしながら、紫のお悩みを解決してやった。

 

「それじゃ、私は寝ますね。眠いですので」

 

 もう起こさないでくれと伝えるために、藍は超がつくほどに気だるげに去っていった。

 しかし、紫の視線はすでに画面にいっていた。

 画面上。

 

ゆかりん「それじゃ、始めましょうか」

 

 漢字が打てるようになって、紫のテンションがちょっと上がった。

 

ふらんちゃん「どこいく?」

てるよ「私たちはもうクリアしたから」

 

 上がったテンションが引っ込んだ。

 

ゆかりん「これ、二、三日前に渡したばっかよね?」

ふらんちゃん「クリアした―」

てるよ「私とふらんちゃんのタッグにかかれば余裕でクリアだったわ。寝てないけど」

ゆかりん「進行度合せないとつまんないじゃない」

ふらんちゃん「ごめんて」

てるよ「つい、――ね?」

ふらんちゃん「ねー」

 

 紫は三度、深呼吸をして気持ちを落ち着けた。

 

ゆかりん「次は気をつけてよね」

てるよ「善処するわ」

 

 だいたいこいつら、いつの間にここまで仲良くなったんだ。紫は内心毒づいた。

 しかし、ここには仲間がいるということを思い出した。

 そう、一人じゃない。仲間がいる。

 さとりんに近づいた。

 

ゆかりん「仕方ないから、初心者同士仲良くしましょうか」

さとりん「そうですね。私も早く上手くなるように頑張ります」

 

 「うんうん、初心者ぽくっていいわ~」とかリアルで呟きながらにやにやする紫。実はこの先、残酷な現実が待っていることを知らない。

 二日で上級者と化した引きこもりズに先導されながら、初心者ズは仲良く経験を積んでいった。

 初心者さとりんが覚醒して、敵のパターンどころか、仲間の動きまで読んで行動しだすまでは。




わりと困ったちゃん  ×
わりと困ってるちゃん ○


フランちゃんはあっちの方に引っ張られてしまう
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