久しぶりの更新となります、どうぞお楽しみください。
ズシャーーーッ!
「キャーーーーー!?どこまで滑るのー!?」
「喋るなノエル、舌を噛むぞ」
半ばパニックになっているノエルを落ち着かせようと努めて冷静な声でディアが言うが、彼もまた現状を把握するので手一杯だった。
”落ちた場所はおおよそ分かるが、暗い上に蛇行しているせいで今どこに居るのか分からん。最悪、城の外かもな”
そう考えたディアにギュウとノエルがしがみつく。
「ディア……」
その言葉でディアは自分が彼女とした約束を反芻する。
「安心しろ、死なせはしない」
そう、生きて彼女達を現実に返すと約束した以上、此処で死ぬつもりになっている場合では無い。
冷静に状況を整理しよう。二人が落ちたのは周囲に何も無い落とし穴、理不尽が存在しないこの
「大丈夫だノエル、この穴には終わりがある筈だ。だから、それまで離れるなよ」
ハッキリとした声でノエルにそう告げる。それを聞いたノエルは頷くと、絶対離れないようにとディアにしがみついた。ディアもノエルを離さないよう体を引き寄せる。
「コレで、どう!」
相手の懐に一気に潜り込んだ小柄な体格と、それに見合わぬ大きさの
「ハッ!」
さらにエリスが3連撃水平斬り《ホライゾンタル・デルタ》で残りのHPを削り切る。
「エリスお姉ちゃん凄いねぇ」
「エヴェイユさんもですよ。元々性に合っていたというのもありますけれど、こんなに早く短剣から転向出来るなんて驚きです」
エリスが気になったところ、ソレはエヴェイユの戦闘スタイルが武器と合っていないことだった。懐に潜り込んで一撃を入れて離脱するスタイルはどちらかというとハンマー系の片手重量武器向きで、手数を信条とする短剣とは合っていない。ステータスも戦い方のせいかSTR・AGI型で、次にVITとという一撃離脱特化のアタッカー。
それならばという事でメイスやハンマーを持たせて試していたのだが、一番しっくり来たのがモーニングスターだった。
「私は全然気づきませんでしたね。エヴェイユさん、良かったですね」
「うん、エリスお姉ちゃんのおかげだよぉ」
自分より年下の少女二人に感謝されたエリスが嬉しそうに応える。
「どんどん頼ってくださいね。10層に入ってからディアさんやノエルも頼ってくれ無いので嬉しさ半分、残念半分で……」
第1層で出会った頃はゲームのシステムが良く分からず、戦闘は上手いのに倒す効率が悪かったディアと全く何も分からなかったノエルも今や立派な攻略組。ノエルはまだ駄目なところもありますけど、ルチアさん達のおかげか少しはしっかりしてきましたし、私も自分の方向性でも考え直してみましょうか。
そんなことを考えて、少しばかり自分本位になってみようかと考えるエリスだった。
「そういえば、ディアさんとノエルさんは大丈夫でしょうか? 別れてからしばらく時間が経っていますけれど」
ふと口にしたベティの言葉に、エリスは即答する。
「大丈夫に決まっています。とはいえ、心配なので場所の確認くらいはしておいた方が良いですね」
ギルドメンバーのリストを出してそこから二人の現在地を確認するとunknown、今まで見たことが無い表記だ。そう思ったエリスはフレンドリストなども確認するが結果は同じ、念のため“どこにいますか?”というメッセを二人に飛ばしてメニューを閉める。
「どうしましたの?」
場所を確認するだけにしては時間のかかっていたエリスを心配したベティが声をかける。
「いえ、何でもありませんよ。二人ともクエストの中でローカルマップに入ったのか、詳しい場所は分かりませんが森の中にはまだいるようです。それより、この後はどうしますか?もう少しレベリングします?」
何事も無かったようにエリスを見て、二人はそれ以上に何も聞いてこなかった。
「そうですわね、少し疲れましたし街に戻ってお茶でも」
「さんせーい、エリスお姉ちゃんも一緒にお茶飲んでとお菓子食べよう」
「いいですよ。美味しいお店を教えてもらえそうで、少し期待しちゃいます」
ディアさん、ノエル、お二人なら心配ないとは思っていますが、お茶が終わる頃には帰ってきてくださいね。
暗さとスピード、激しい動きで時間感覚も麻痺してきたとき、ようやく穴の終わりらしき薄明かりが見えてきた。
「ノエル、出口のようだ」
「終わり、ッ!」
二人が落下の衝撃に身構え、再びの浮遊感の後に緩衝目的で設置してあったらしい水場に着水する。
急に出来事に慌ててしがみついてくるノエルごと、どうにかそこから這い出たディアがあおむけに転がり、しがみついたままのノエルは必然的にその上にのしかかることになる。
「ノエル、プレートの角が痛い」
「はっ、ゴメンっ」
実際には痛覚信号はある程度軽減されているのでそれほど痛くはないのだが、厚い布越しにでも金属がゴリゴリと当たるはあまりいい気分ではない。
「ふぅ、無事でよかったね」
「そうだな、生きているうえに安全地帯のようだし、ココから脱出する方法は少し休んでから考えるか」
約5分後、先程までの衝撃から立ち直った二人は先程の部屋から繋がっていた通路を歩いていた。出現するモンスター自体はさほどレベルが高くないものの、どれもダーカー系のものばかりで不慣れなノエルをサポートするようにディアがメインで戦っていた。
「やっぱり、ダーカーの相手は本業のディアの方が上手だね」
「とはいっても、俺もアークスになってまだ2年程度しか経っていないがな。ノエルだってSAOで槍使い、今はハルバート使いだが、そうなってもう2か月近いんだ。戦闘自体はだいぶ慣れただろう」
「それはそうだけど、ディア程勘は良くないし、初めての敵には上手く戦えないし、」
自分とディアとを比較して落ち込み始めたノエルの頭をディアが刀の柄で軽く叩く。
「むー」
「恨めしそうな顔をするな、それに俺だって最初から上手く戦えたわけじゃない。アークスになって最初の研修じゃ先輩に助けられなければ死んでいたかもしれんし、その後だって何度も危ない目に遭ったり自分より強い奴から逃げたこともある」
ヴォル・ドラゴンの火球に焼かれ、バンサー系に翻弄され、それでも死なずに生き残ってきたからこそここにいる。苦笑しながら当時の情けない、今となっては笑い話となったそれをノエルに聞かせてやると意外そうな顔から次第にディアと共に笑っていた。
「そっか、ディアもそんなことしたんだ」
「全くだ、今となってはなんてことはないが最初はずっと逃げるのを追いかけていてな」
「ふふ、それで息切れしたところを引っ掛かれたんだ。だけどちょっと安心した。ありがとうね」
ディアも最初は駄目なところがあったり、今みたいに何でも出来た訳じゃないんだ。
そう考えると今まで自分と比べて凄いと思っていたところも、自分の手が届かないところでもないのかな。
「そういえば、お前は現実ではどうなんだ? 身長からすると学生だろうが、少しくらいは教えてもらいたいものだ。まさか、散々俺の話を聞いておいて答えられないとは言うまい?」
ディアの話を聞いてしまったし、ちょっとくらいならいいかーという感じでノエルが現実でのことを少しだけ話す。
「私のことだよね。家はお菓子屋さんで学生っていうのは知ってるよね、普段は……あんまりコッチと変わらないかな? イタズラしたり遊んだり」
趣味や好きなファッションのことなど、取り留めのないことを適当に話す。
当然モンスターも出てくるが、少しずつダーカー相手も慣れてきたノエルは時たま大胆なフェイントで隙を作ってディアのアシストをしたり、同時攻撃で一気に倒したりと戦い方も広がってきた。
「中々やるじゃないか」
「ふふーん、凄いでしょ、って言いたいところだけど半分はディアのお陰かな。やっぱりいいお手本がいるから、それで動きをイメージして、後は半分くらいシステムアシストに任せれば結構戦えちゃうもん」
「まっ、そう思うならそれでもいいがな」
フフ、と軽い笑みを浮かべながらディアとノエルは突き進む。しばし進むとようやく出口らしいところが見えてきたが、お約束通りそこには扉が。この扉の先はイベントボス戦だろう。
「HPやアイテムの残量は大丈夫か?」
「問題なし、イベントボスくらいなら十分戦えるはず」
それじゃあ開けるぞと言ったディアが扉に軽く手を当てると懐から強烈な光が溢れ出し、二人は声を上げる間もなくその中に飲み込まれた。
光が収まり二人が目を開けると、先程まで居た石造りの通路とは全く異なる光景が目の前に広がっていた。
「えっと、ここ何処? 空もなんだかオレンジというか紫というか変な色だし、草は全部枯れてるのに花とか実は光ってるし、凄い不気味」
「壊世区域、にしては何か違うような気がするな」
「カイセイクイキ?」
ノエルの疑問にディアが答える。ダーカーやダーク・ファルスの大元である【深遠なる闇】の影響によって時間や在り方が壊れた世界、あらゆるエネミーがより攻撃な姿と能力を持つ屈指の危険区域だと。
「ヤバくない?」
自分のハルバートを握り締めたノエルがそんなことを口にする。
「現実のならな、ここには幸いエネミーの反応もないしボス戦の舞台になっているだけだろう。覚悟は良いな?」
「それなら大丈夫、ディアもいるし勝ってエリスのところに帰ろう」
「あぁ、ノエルもいることだしどうにかなるだろう」
二人が一歩踏み出した途端、何処からともなく紫の光球が無数に尾を引きながら集まり一つの形を成した。何処か歪な紅い人型に白の鎧、その所々は欠けたようになっており先程まで戦闘をしていたようにも見える。HPバーも4段中3段が空になっており、残る1段分を削ればいいという事だろう。名称は。
「《Vision-Hunal》、ヒューナルの幻影?」
今ここで戦っているのが欠片にせよ複製にしよ、幻影というのは何か違和感を感じる。
その疑問は一度頭の隅に仕舞い込み戦闘に突入する。
「正直コイツの動きは予想がつかん、しばらくは様子見しながら行くぞ」
「なら、私が軽く当てて逃げるからディアは上手くサポートして」
「無理はするな」
頷いたノエルが軽く突きを入れるがヴィジョン・ヒューナルは右腕を変化させた剣でそれを軽く弾くと、一度退いたノエルに追撃してくる。それをディアに鞘に納めたままの太刀で防がれると逆袈裟に切り上げ、舞うように連続で攻撃を仕掛けてくる。
「ヌンッ!」
「わわっ!?」
その合間を縫うようにディアも抜刀するとノエルと共に攻撃と攻撃同士をぶつけ合う。とてもじゃあないが様子を見るなどと悠長なことを言っている場合ではない。
このままでは埒が明かないと感じたノエルと軽くアイコンタクトを交わすと、その意図を察したノエルが重攻撃ソードスキルを発動する。
「これでも、喰らえ!」
左斜め上から穂先の重量を生かした斧の斬撃とそれを振り抜いた勢いをそのまま乗せた突き、2連撃重攻撃《スパイラル・デュオ》がヴィジョン・ヒューナルに放たれ、それを防御しようと剣を盾のように構える。
「俺も居るぞ」
その防御の空いた部分、ディア達から見て右側に潜り込むと太刀を目線当たりに両手で構え、姿勢を低く落とした状態のディアも同様に重攻撃スキルを放つ姿勢を整えている。
「《
捻じ込むように繰り出しされた突きはノエルの攻撃を防御することに専念していたヴィジョン・ヒューナルの脇腹に深く突き込まれ一気にHPバーの2割ほどを減らす。
連続で二人共が重攻撃スキルを放ったために硬直が発生するが、一気に大量のダメージを喰らったことで相手も後退しその間に体勢を整え直す。
「ふぅーっ」
「手強いね」
「そうだな」
旋月はディアの習得しているソードスキルの中では最も単発威力の高いものだ。それが直撃しても2割、しかもノエルが半ば囮のような形で隙を作ってようやくとなると、次から同じ手は通用しないと考えた方が良い。この世界のエネミー、特にボスクラスはある程度の学習能力を備えているため同じパターン攻撃は通用しにくい。
「ならば、今度は」
一気にディアが踏み込むと今度は迎撃するかのように剣を振りかぶり、ディアの未来位置にそれが落ちてくる。
「っ!」
それに反応したディアが急制動で動きを止めると同時、その勢いのまま抜刀して斬り付ける。予測とズレた位置にディアが止まったことで軽い一撃とはいえ無理な動きで防御しようと動きを変えたヴィジョンは不格好な姿勢で防御に成功するが、端からディアの攻撃は上手い角度で放たれており、弾かれたところから攻撃に転じる。
そこから反撃か防御か、どちらにせよ一度おかしな姿勢になったところから動こうとすれば動きに無駄や無理が生じる。そこを逃すディアではなく剣に一撃入れてさらに動きを遅延させる。
「伏せて!」
急に背後から聞こえたノエルの声に迷うことなく姿勢を低くしし鞘に納めると頭上をハルバートが通り過ぎる。音とライトエフェクトの破片からすると直撃とはいかないようが、確かにヒットしたそれに重ね、ディアも《既朔》を2連撃で放つ。
「もう一撃」
と構えた瞬間、ヴィジョンは右腕の剣を解くと左腕を砲にも杖のようにも見える形に変化させると光弾を一発放った。
「ディア!?」
「クッ!」
予想外の一撃に左腕を盾にするようにしてどうにか直撃は避けたが、手甲とコートの袖はボロボロになりHPも一気に3割ほど減らされた。……直撃のことはあまり考えたくないな。
「大丈夫!?」
「どうにか、とはいえぬかったな」
ポーションを飲み干すだけの時間はあったが、間欠的に光弾が放たれ二人共回避や防御に専念する。発射される間隔は短いわけではないものの、ヘイトを多く集めているディアはHPが回復するまで攻撃に転ずるのは難しい。ノエルも不慣れな遠距離攻撃を防いではいるものの、しばらく膠着状態が続く。
ディアのHPがある程度回復し二人共ポーションを飲みつつ光球の直撃を避けながら攻撃を仕掛ける、どうにかヴィジョン・ヒューナルのHPも残り1割程度まで減らしたところで急な変化が起きる。
再び右腕を剣に変化させると二人をまとめて薙ぎ払い、先程までより一回りほど大きな光球が放たれた。
「ヤバい感じだ、ノエル全力で逃げろ!」
「分かってるよ!」
武器を納めてダッシュで逃げる二人、動き自体はのろいものの若干の追尾性があるのか二人の方にじわじわと寄ってきたソレは途中でターゲットをノエルに定めたのか地面に落ちつつゆっくりと進んでいく。
「コッチ、来るなーーー!!」
となればディアの取るべき行動はただ一つ、発射した姿勢のまま動きを止めたヴィジョンをひたすら殴ること。
「オォッ!」
連続で《既朔》を放つが硬い、先程までより大幅に防御力が上がったのか軽減スキルが発動したのか分からないがとにかく硬い。普段は十分な間隔を開けてから放つため気にならないが、発動に必要なSPが尽きる前に削り切れるか微妙なところだ。
「ヤバ、ヤバいから!」
ひたすら連続で斬り続け、体感時間が引き延ばされたディアは残り僅かとなった自身のSPとヴィジョン・ヒューナルのHP、地面に着弾しノエルを飲み込もうと広がる光を同時に認識していた。
「ハアアアーッ!」
HPがほんの僅か、もう一撃ソードスキルを入れればというところで《既朔》の最後の一発が放たれ、それがヴィジョン・ヒューナルの身体に食い込んだのとノエルの視界が光に包まれたのはほぼ同時だった。
あぁ、これは駄目かもしれない。ディアも一生懸命で、私との約束守ろうとしてくれたけど私が弱かったからかな、もうちょっとAGIがあれば、もう一歩踏み出せれば。
”安心しろ、あの幻影は既に倒れている。私のことも自分のことも恥じることはない、私を頼むぞ、槍使い”
「え?」
聞いたことのない低く落ち着いた声、だけれどもそれは一瞬ディアの声のように感じてしまった。そして、その声の言う通りに私を飲み込もうとしていた光は薄れていって、私のところに来たときはさっきまでの恐怖とは逆の温かさすら感じる穏やかなものとなって消えていった。
「…ル…! ノ…ル! ノエル!」
その声を聞いている間、というのも変かもしれないけれど気を失っていたのかディアの呼び声が聞こえる。
「う…ん、ディア、ちゃんと聞こえてるよ」
真剣な顔で私を抱えていたディアはその声に安心したみたいで、険しい顔のままだけど、息を吐いて安心したようだった。
「良かった。お前を守れて、約束を破らずに済んで」
あぁ、そっか、ディアがあんなに必死で戦えるのはこういうところなんだ。
「ねぇ、ディア。私も約束するね、勝手に死なないのディアに約束を破るなんて思いをさせないこと。またディアに心配させちゃったら、また無茶させちゃうでしょ?」
私なりの決意表明、もう二度と心配させない、少なくともディアが自分の戦いに専念できるくらいには、のはずだったんだけど。
ペシッ!
「痛い…」
「そういう余計なことは考えるな。俺が約束したのは俺の勝手だ、そこを勝手に背負い込もうとするな」
呆れたと、とでも言いたげな顔でデコピンされた、結構本気なのに。
「まぁ、好きにすればいいさ。俺も約束したのが勝手なら、お前の考えもお前の勝手だ。けど、勝手を通すならそれなりに強くなれ」
別に嫌な訳じゃないんだ。勝手を通すくらい強くなる、当面の目標は決定だね。
……あれ? ちょっと待って、今の私って?
背中に地面の感触、無し。ディアの腕、私の背中。顔、見上げる高さ。
これってもしかして、お姫様抱っこ!?
「キャーー!」
多分、SAOに来て一番の勢いで飛び上がると唖然としたディアの眼の前に着地する、けど姿勢を崩して倒れかける。そこでディアに腕を掴まれて、変に意識してるせいか思わず手を弾きながら立ち上がってしまう。
「……大丈夫か?」
「うん! 全っ然、大丈夫! 大丈夫だから!」
心臓がドキドキしてる、はずだけどここだとドキドキしないんだね。うん、知ってるけどそんな気がする。男の人にお姫様抱っこなんて、人生でも初めてだよ。
「しかし、これでクエストクリアのはずなんだが……」
その言葉で我に帰ったノエルが周囲を見渡してみると光の粒子が赤黒から空色に変じながら吹き出しているボスはそのままに、まるで時間が止まったように周囲は動きを止めていた。
「バグとかラグ?」
「いや、エーテル通信に理論上のラグは存在しないし、バグにしても進行が止まるなんて致命的なものをカーディナル・システムが放っておくはずはない。何かの演出か、それともまだ先があるか」
前者には期待を、後者にはそれが無いことの祈りを込めてディアが口にした時、世界がセピア調に変色するとともに世界は動き出した。
「しぶとい!」
そう言ったディアがヴィジョンヒューナルに攻撃を仕掛けようとするが何かがおかしい。違和感を無視して攻撃を仕掛けるが、それは霞か何かを斬ったかのようにすり抜ける。そして、HPバーもエネミー名も表示されないままヴィジョン・ヒューナルは再び戦闘体勢に入るが二人には目もくれず傷口から粒子、フォトンを噴き出したまま二人が最初に立っていた場所を見据える。
「何が起きている?」
「もしかして、これムービーなんじゃない? さっきまでので戦闘は終わりで、ここでこれから起きることは見ているだけ」
「なるほどな」
いうなれば、これも一種の過去改変だろう。自分たちが居なければ歩んでいた歴史、そこに自分たちという異物が交わったことで生まれた新たな未来がここから始まるのだ。
「誰か来たよ」
「そう……」
ヴィジョン・ヒューナルの見つめる先、そこに辿り着いた二人の姿を見てディアは言葉を失った。巫女であろうマトイそっくりのNPCと騎士であるこの世界で出会った【仮面】、二人が手に持つのはクラリッサとコートエッジ、そこまでくればディアには薄っすらとこの後の展開が、二度目にして三度目の光景が読めてしまった。
「ノエル、分かっているとは思うが」
「うん。エルフの本に書いてあった通りなら、結構ハードな展開だよね」
その後はおおよそエルフの伝承とディアの思った通りに進んだ。
二人のNPCがボロボロになりながらもヴィジョン・ヒューナルを追い詰め、最後に二人が止めを刺す。そこで、僅かだが大きな違いが生まれた。
「
「うそっ!」
仮面のNPCが自らの身体でヴィジョンの剣から巫女を守ると、彼の持っていた大剣が浮き上がり自身とヴィジョンを貫き縫い留めた。それはディアたちとの戦闘でヴィジョンにできた傷口をちょうど貫くようになっており、逡巡する巫女は悲壮な表情を浮かべながら手に持ったクラリッサから無数の光を放って陣を形成するとその中心にいる【仮面】の中にヴィジョンが吸い込まれるようにして消える。そして【仮面】の姿は1層であったのと同じ、SAO風ながらもディアの知る黒と紫を基調とした姿に一瞬だけ変化し、そこから同じ色のヴィジョンに変化を遂げると光の陣が収束して捕縛され迷宮区の方へと飛び立った。
「あの感じだと、このフロアのボスってあのNPCとクエストボスが合体したのだね」
「そうだな」
半分上の空でノエルの言うことを聞いていたディアが見つめているのは残された巫女、その手の錫杖はちょうどディアの持っているクラリッサの破片とほぼ同じ位置にヒビが入り、今にも壊れそうになっていた。そして、巫女もまた力を使い果たしたのと間接的とはいえ騎士を封印したことのショックからかうなだれていた。
そのまましばらくいると、残った力を振り絞るように割れゆく錫杖を支えにして立ち上がり、それを強く握りしめる。すると、巫女を中心として光の奔流が生まれ、自身もその一部となりながら錫杖の先端に吸い込まれていき、全てが錫杖に吸い込まれるとその姿は見慣れたクラリッサのものへと変化した。
「あれってディアの集めてたのと同じものだよね、どこに行くのか見ておかなきゃ」
「そうだな、この層で完成させなければならないし大切だな」
そんな会話をディアとノエルがしていると、限界まで蓄えた力とそれまでの疲労に耐えかねたかのように3つの破片へと分かれ、先端を除いた2つは何処か下層へと降っていった。
それらの破片は既にディアが所持しているもので残り1つ、先端はどうなったかと思っていると急に風景のすべてがセピア調に色褪せ始め、ココに来た時と同じく眩い光に包まれると二人は元の扉の前に立っていた。相違点といえば扉が開かれており、その中には淡い光を放つ小さな祭壇があった。
「あの中にクラリッサがあるのか。それにしても、あのイベントの意味が今一つ分からないな」
「うーん、このフロアのボスの正体とクラリッサの欠片のが報酬なのかな? なんでディアじゃなくて私のクエストでなのかは分かんないけど」
祭壇へと向かいながら二人はそんな会話をする。
可能性があるとすれば一応伝承に則り巫女役にノエル、騎士役にディアを据えたという事だが、どうなのだろうか。
「けど、伝承だと巫女と騎士は封印の時に二人共居なくなってるんだよね? 普通のゲームなら勝ち負けで分岐して負けた方が伝承ルートだったかもね。負けたら死んじゃうかもしれないから、こっちのルートしか私たちは選べないけど」
「しかし、そうなると伝承は変わっていたりするのだろうか? 9層にあるエルフの書庫に戻って確認したいな」
ともあれクラリッサの先端部を祭壇の中から回収したものの、どうやって外に出ようか?
元の入り口以外に通路もないようだし、などと思っていると急に祭壇が揺れ出して上昇していく。
「流石に帰りは楽チンだね。だけど、どこに出るんだろ?」
「少なくとも、安全地帯であることを祈っておけ」
「うん、祈る」
今話も最後まで読んでいただきありがとうございます。
☆15が実装されましたが皆さんのもとには届いているでしょうか?
自分のところにはまだ来ていません、というか14タクトしか来ません。
15にして交換してしまおうかと考えているのですが、OPが0のところから拡張するのが……
皆さんも、OP付けレア堀頑張りましょう。
多忙なもので執筆が遅れがちですが、ちょこちょこ書いていきますのでお付き合いください。
では、またのお話で。