初めての方はここまで読んでいただきありがとうございます。
後編の投稿が遅くなりましたがお楽しみください。
「なんですか!?」
エリスがそう言った瞬間、ゲージ0のまま復活を遂げたプレミシオン、今は名前が変わって《Remnant of The Abysmal darkness》(レムナント・オブ・アビスマル・ダークネス)がディアに向かって一直線に飛んで来る。
全身がヒビだらけでボロボロのそれがディアにぶつかる直前、ディアとその間にインベントリの中のクラリッサが突如としてオブジェクト化して割り込む。咄嗟にディアがそれを掴んでレムナントの攻撃を受け止めるとボス部屋全体が青い輝きで満たされ、それが消失すると見慣れぬ装備のプレイヤーとレムナントが青と紫が入り混じった障壁の内側で対峙していた。
「あれ、ディア?」
「のはずです。マーカーの位置もプレイヤーネームも合っていますけれど、あの姿は?」
「エリス達にも視えてるのか?」
キリトとアスナもこの世界においてはまさしく異形なその姿に、戸惑いを隠せていない。
「おいおい、なんだよあの装備、まるで伝説に出来る騎士のまんまじゃねぇか!」
エリスやノエル、キリトにアスナに視えた姿はそういったクラインの言葉は全く異なる姿。背に二つの翼と複数のバーニアのようなものを備えた藍に橙のラインが入ったSFチックな機械の鎧、半透明なそれがディアの身体に重なり、青い刃の大剣を構えいた。
当然このアインクラッドにそんな場違いな装備品が在るはずがない、が現に見えているその姿に一つの可能性が浮かび上がる。
「もしかして、キャストの姿なんじゃないか」
以前ディアが話していたように今のディアのアバターはキャストが二つ持つボディのうち人間体の方、仮に何らかの理由でパーツから構成されるキャスト体がアバターに反映されているなら、キリトの言う通りに今見えている姿はディアのもう一つの姿なのだろう。
何が起きたかと思えば結界の中でコイツと1対1か、しかも武器まで上書きされるとは。
「大剣はあまり好きではないが、やるとしよう」
再び突撃してきたレムナントは身動きのたびにヒビ割れが進行し身体が崩壊していき、放っておいても消滅するように見える。が、クエストログが更新され一つのサブターゲットが出ているのでそうするつもりはない。
《サブターゲット:レムナントに一定以上のダメージを与える》
レムナントの再度の突進を剣の腹でガードすると即座にステップで横に回り込んでガラ空きの胴体にサクリファイス・バイトのように剣をねじ込み横薙ぎにする。
すぐさま反撃の砲撃がゼロ距離で放たれるが、それをイグナイト・パリングの要領で弾き飛ばしてラッシュを叩き込むと今度は大剣が頭上から振ってくる。
「チィッ、さすがに重いな……!」
それをガードするがタイミングが悪く、受け止めた姿勢のまま身動きが取れなくなる。そこを逃すはずもなく畳みかけるように剣や砲での攻撃が繰り出されるが、その間隙を縫ってレムナントの懐に潜り込むと連続の水平斬りから縦斬りを一気に叩き込む。
この時点で既にレムナントの身体は1/3ほどが崩壊しており、残りの時間はそう多くはない。【仮面】が何かを伝えるとしたら隔離されたこのタイミングしかないはず、そう考えるディアはペースを落とさずレムナントとの攻防を続行する。
ディアとレムナントの戦いはボス戦に参加した攻略組から見ても、自分たちより上だと感じざるを得ない。1対1で先程までとペースの変わらないレムナントの攻撃を防ぎ躱し、隙をができれば可能な限り攻撃を仕掛けては僅かな予備動作を見逃さず反撃に備える。
「ディアの本気、やっぱり凄いね」
「そうですね、あんな戦いを何度も経験しているなら強くなりますよ」
経験の違いを身をもって実感しているノエルたちは本気のディアを見逃すまいとその戦いを目に焼き付ける。
「ハッ!」
再び放たれた砲撃を避け、一気に間合いを詰めて再び連続で攻撃を叩き込むとレムナントはそれに耐えかねてダウンする。当然それを逃すはずはなくオーバー・エンドのごとく大振りな左右の水平斬りと縦斬りを放ち、最後の縦斬りがレムナントを深々と切り裂くと全身のヒビが一気に全身を覆いつくしてその場で身動きを止める。
《サブターゲット変更:レムナントに止めを刺せ》
変更されたターゲットに従うなら、これで終わりのはずだ。
「【仮面】、お前の真意を測らせてもらうぞ」
眼前のレムナントに手に持った大剣を突き立てるとそれは抵抗もなく柄の辺りまで突き刺さり、そこから噴出した膨大な青と紫の粒子が障壁の中を埋め尽くすと周囲のプレイヤーたちから窺うことが出来なくない。その内ではディアリーンと【仮面】が対面していた。
「時間もないから手短に話す。此処にいる私は貴様の時間の私の残滓のようなものだ、いくつか地球に関して伝えたいことがある」
そう言うと【仮面】はディアリーンに手を伸ばし、ディアリーンはその手と自分の手を合わせる。すると、ディアの脳裏にいくつかのイメージが流れ込んでくる。
―――廃棄、漂流、衝突、そして孤独と自分を認めさせたいという感情
巨大な青い何かと共に感じたそのイメージ、そして次に別のイメージが流れ込んでくる。
―――自尊、諦念、破壊と創造
こちらは巨大な龍のイメージと共にそれを感じる。
「エーテルから取り出した事象を基に演算し作り出したイメージだ。その意味は私にも理解しかねるが、何かの役に立つだろう。それと【若人】に気をつけろ、貴様が眠っている間にアイツが復活しかけた。貴様のせいで時期がずれるだろうが、おおよそ半年から一年後のことだ。本来は私がその影響を抑える役だったのだが、今回は貴様にも果たしてもらおう」
幾つかのイメージというか情報の伝達と時間遡行に伴う事象のズレの修正、【仮面】が俺に託したかったのはこれか。
「分かった、此方のことは引き受けよう」
「任せるぞ。それと、あの子をよろしく頼む」
【仮面】はそう言って姿を消し、障壁も消えたことで粒子が薄まるその場に残されたディアは一人呟く。
「分かっているさ、お前は俺なんだからな」
粒子が晴れるとボスフロアは入って来た時と同じ状態に戻り、その中心に立つディアの頭上にはフロア攻略を達成した《congratulation!!》の文字が踊っていた。
しかし、周囲にはボス攻略を終えた歓声が上がることはなく重い沈黙と困惑が場を支配していた。そんな中、どこからともなく拍手が聞こえ、その音の方に全員が視線を向ける。
音の主は剣の紋章のパーティのリーダー、彼がディアに拍手を送っていたのだ。
「実に見事な戦いだった、こうして称賛を送るのに十分すぎるほどに」
「どうでもいい、それよりそっちの連中は無事か? 大分無茶をしたようだったが」
彼の後ろにいたメンバーは無言でその健在ぶりと自身の活躍を示威するようにボロボロの盾を地面に打ち付ける。
「我がギルドにそのような心配は無用だよディア君」
「俺を知っていたのか」
「あぁ、ギルド《星辿旅団》の団長といえば方々で話題になっている人物だからね。なんでも、やたらと強い団長と情報通の参謀、その2人に連れ回される団員がいると」
無言の抗議をエリスとノエルに送るとそっぽを向かれるが、今回はいいとしよう。
「そうか、それならばそっちの名も聞いておこう。今回世話になった礼もしなければならない」
「ギルドKob、《血盟騎士団》団長のヒースクリフだ。今後は我々もボス戦には積極的に参加させてもらうので、そのつもりでいてくれると助かる」
さっきのはそのためのアピールのつもりか、自信たっぷりにそういったヒースクリフとディアに一人のプレイヤーが絡んでくる。
「ちょっとエエか、ワレはなんでボスと一騎打ちなんてできたんや?」
「キバオウ君止めたまえ。LAボーナスは俺が手に入れたし、それは此処に居る全員のシステムログに証明しているだろう。ディア君がアイテムを手に入れたとしてもそれは彼が進めていたクエストの報酬として当然のものだし、彼はそれに見合うだけの苦難を乗り超えている」
ディアベルとしても思うことはあるのだろうが、ディアがクラリッサのクエストを進めていなければボス部屋に入ることも難しかった事実がギルドリーダーとしてそのメンバーが言いがかりのような真似をすることを許さなかった。それでも、キバオウは続ける。
「ちょっとディアベルはんは黙っていてくれへんか。そもそも、ワレだけがそのカギを持っていたのはなんでや? 5層でのダンジョンボス戦は? さっきの一騎打ちは? なんでなんや!!」
キバオウの声に周りのプレイヤーたちが「そういえば」「アイツ、なんか裏技でも使ったんじゃ」「チーターじゃないのか」と訝しみの声を上げる。
”どうしたものだかな、周りの連中からどう思われようとも一先ずの目的は果たしたわけだしエリス達と別れて飛び火を防ぐのも手だが、約束もあるわけだ”
キバオウや周りの声を極めて如何でもいいと思っているディアだが、同じギルドのメンバにまで変な疑いが係るのは好ましくない。逡巡の後、ディアはある言葉を発した。
「単に俺がVR版PSO2のα版プレイヤーだったというだけだ。恐らく、俺のナーヴギア内にあったデータがSAOに仕込まれていたコラボクエストの条件を満たしただけだろう」
あくまでも偶然、実際には【仮面】が自分の仕組んだメッセージに確実に到達させるためのものだが、ここに至るまでディアもそうとは知らなかったし、昨日の会談までクラリッサがメインクエストの鍵になっているとは知らなかった。
そう弁明するディアにキバオウは尚も噛み付く。
「だとしても、なんでそないなこと言わんかったんや! やましいことでもあったんちゃうか!?」
「お前の言うことも一理あるがこれのクエストが始まったのは第一層だ。そんな早期に始まったのに俺以外の誰もこのクエストを受けていない、その時点でアインクラッドの攻略に直接関わる、しかも一人しか受けられないクエストがあると思えるか?」
大剣から長杖へと姿を戻したクラリッサをその手に持ちながらディアは話す。
自身がこれを手に入れた部屋でほかのプレイヤーが同じように手に入れられるか確かめるために流した情報が赤武器入手クエストであること、情報屋のアルゴはこれのことを知っていること、5層のダンジョンボス戦時に偶然DKBと鉢合わせ、その時にこれの欠片を手に入れるのを見ていたこと、ほかの欠片も含めてキバオウとディアベルには目の前でそれを見せていたことをこの場に居る全員に暴露する。
「なっ!? それは、その……」
「あぁ、確かに俺とキバオウ君は5層で彼が今手に持っているアイテムの欠片を手に入れたの知っていた。だからこそ、ボス部屋を開けるためにそれを貸してもらうよう頼んだんだ」
周囲が再びざわめきだす。高潔だと思われたディアベルが自分たちだけが知っている情報でボス部屋の開放を行わせ、攻略の主導権を握ろうとしていたのは間違いないからだ。
「そのことで非難されるのは仕方がないが、キバオウ君の言うようなやましいことはディア君には無いと思う。仮にそうならば5層で俺達にその杖の欠片を見せることはなかっただろうし、俺にそれを貸すはずはないと思う」
そう、この部屋が封印されていたこと、そのカギを手に入れたというのは昨日の攻略会議でディアベルが言い出したことだ。そもそも封印されていること自体がこのフロアに至るまで分からなければ、逆説的にそれまで手に入れたものがメインクエストに関わっているかも知りようがない。キバオウの言うままにディアを批判するのは、誰もが同じ理由で非難される口実を作ることになる。
「もちろん、俺がPSO2のαテスターであったことを隠していたのはすまないと思っているが、守秘義務もあり言い出すことができなかった。できるならばこのことは秘密にしてもらいたい、仮に話せばお前たちがエスカから不利益を被る可能性もある」
「もう分かったわい! このままなんか言ってもワイのいちゃもんにしか聞こえへんし、この位で勘弁しといたるわ」
この場は若干のわだかまりを残しつつもキバオウがこれ以上の追及をやめたことで収まった。ほかのプレイヤーたちが11層への階段を上っていき、最後にその場に残されたのはディアたち星辿旅団とキリト・アスナの5人。
「それで、ディアはこれからどうするんだ?」
一先ずの区切りであるクラリッサの修復に10層攻略と先程の一騎打ち、そこで何かを手に入れたはずのディアはこれからどうするのか、キリトが問いかける。
エリスとノエルもディアの答えを待つようにじっと見る。
「当面は自分のギルドの強化だな。人数も増えてきたし、クラリッサの件が終わったからその分の時間で見れる範囲では死なないで済むようにしたい。最終目標は100層攻略といったところか」
ニヤリと笑みを浮かべたディアが答える。
アークスの自分ならココで自殺してログアウトしても脳みそが焼き切れることはないが、ノエルとエリスとの約束もあるし、SAOの中でできた繋がりを安易に切るのは惜しい。
「それに、協力者のスカウトもしていない。今のところはここの4人が候補だし、他にも何人か当たりをつけたプレイヤーも誘いたい」
本来の目的はそちらなので、どのみち最後までここには残るつもりだったようだ。
「え!? 私もアークスの協力者候補なの!?」
「当たり前だ、事情も知っていて付き合いの長い上にクラリッサを見て変わった反応を見せた時点で候補として十分だろう」
「なんだか嬉しいかも。ココだけじゃなくて、リアルでもディアの役に立てるんだ」
少しだけ誇らしげな気持ちになったノエルがディアとノエルの手を引く。
「よし! 11層に行こう!」
「っと」
「ノエル、そんなに急がなくても」
結果、その場に置いて行かれる格好になったキリトとアスナは二人きりになる。
「それじゃ、俺達も行くか」
「う、うん」
呆気にとられたような顔から真剣な表情に変えたアスナがキリトに問いかける。
「キリト君はさっきのディアさんが言ってたこと、どう思ってるの?」
「アークスの協力者候補ってことか? 興味がないって言えば嘘になるけど、まだわからないっていうのが本音かな。ディアが嘘をついているとは思えないけど、ちょっとVRゲームが強いだけの人間をスカウトする理由がよく分からない。アスナはどうしたいんだ?」
キリトの懸念はエーテルや具現能力者のことを知らない一般人としてはもっともな感想だ。
対するアスナはディアの話に強い興味があって、乗り気のようにも見える。
「ちょっとだけ、やってみてもいいかなって思ったの。自分でやりたいって思ったこと、そんなに無かったから悩んじゃって」
「なら、一度ディアに相談してみたらどうだ?」
「んー、そうじゃなくて」
自分が期待していたのとは違う答えが返ってきたのか不満げな顔を見せるが、仕方がないとあきらめたのかそれ以上何も言わずにアスナは話を変える
「私たちも行きましょ、キリト君」
「お。おう」
アスナの問いにどう答えるべきだったのか、まだまだ女性の扱いというものが分かりかねるキリトは悶々と考えながら11層への階段を上る。
ようやく10層攻略完了、ここからはちょいちょい階層飛ばすと同時に原作のキャラは影が薄くなるかもしれません。
次回の投稿も遅くなるかと思いますが、お待ちいただけると幸いです。
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