オッサンはヒーローにならない   作:なっとう

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注意

設定の無駄遣い。
作者はニワカ以下。


オッサンの受験

 

 

 

 〈力をもつ者は、立ち上がって皆のために力を使うべきだ〉―――。事実として、そう考えている人は多くいる。

 

 そしてそれはまた、俺が転生したこの世界でも同じようだった。

 

 はっきり言って、俺はできた人間ではない。強力な〈個性〉がありながら、それを人助けに役立てる〈ヒーロー〉になろうとしなかったのがいい例だろう。責任を背負う覚悟はないし、限界を超えて挑戦した先に掴めるかもしれない成功よりも、目の前にちらつく失敗を恐れる小心者だ。自分本位なオッサンである。

 

 〈力を持つ者〉が当たり前にヒーローを目指し奮闘するこの世界で、俺は彼らとは外れて普通の道に踏み出した。

 そんな俺が周りからどう見られるか。考えるまでもないことだ。弱い個性や無個性でもヒーローに憧れる者がほとんどなこの世界で、〈強力な個性〉という〈資格〉を持ちながらヒーローになろうとしない俺は、簡単に言えば、嫉妬や軽蔑の眼差しを向けられるようになった。

 

 ……とは言え、そんな視線を向けてくるのはほんの1握りだけだ。 

 その多くはヒーロー育成高校の受験を断念した同学年。大人たちがそんな目を向けるはずもなく、卒業してしまえば大して気になることでもない。人付き合いはあまりしてこなかったので、親しいと呼べる友人もあまりいない。俺は周りから、〈個性は強いけど無気力なやつ〉と認識されているらしかった。オッサンくささが滲み出てしまっているらしい。

 

 ……話を戻そう。

 

 家に帰って面談の結果と自分の意志を伝えたところ、父親は「迷惑をかけないならそれでよし、好きに生きろ」と言って呵呵と笑い、久々に頭をぐりぐりと撫でてきた。同じくらいの身長になった今でも、なぜか手のひらの大きさだけは負けた気がした。

 心は40代のオッサンだが、やはり肉体年齢に精神が引きずられているんだろうか。柄にもなく「ありがとう」と零してしまった。肩の荷が降りた気がした。自分でも知らないうちに、どうやら俺は、ヒーローにならないことに対して葛藤を抱いていたらしかった。本当に柄でもない。俺はそんな人間じゃない。

 

 しっかりしろ、40代だろ。そう胸の内で独りごちたが、もう心は年相応になりつつあると自覚した。親の愛情は偉大だった。

 参ったな、と俺は苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

 

 普通の高校に進む。そうと決まれば最善を尽くすのみ。ヒーローとしての道を歩まないことに対するつまらない罪悪感を打ち消すように、俺は勉強に打ち込んだ。朝と夕方には健康的な体を目指すべく筋トレと体力作りも行い、自分に出来る最善を尽くそうと努力を始めた。念力が使えると、ついついさり気なく補助力として念力を使ってしまうことがある。日頃から体を動かさないと、この歳にして2度目の中年太りを経験することになりかねない。

 

 ……まあそうやって、努力を始めた。しっかりと努力してはいたのだが。

 

 どうやら俺は変わらず駄目な人間であるらしい。第1希望の高校に無事に受かったと合格通知を受け取った瞬間、俺のモチベーションは一気に平常運転に戻ってしまった。戻ってしまったのである。なんと言うか、安心して。

 「もう2度と高校受験なんてやってたまるか!」と夜空に向かって叫んだのは実に気分がよかった。

 

 そんなこんなで勉強も筋トレも手を抜き始めてから数日、ついに迎える入学式の日。つまり今日。年甲斐もなく高まる胸を押さえて、しかし緊張に強ばる肩の力を軽い呼吸を繰り返して必死に抜きつつ、これから3年間通うことになる高校の制服――学ランだった――に身を包んだ俺は、見送りに出てきてくれた両親に「行ってきます」と一声かけて、その1歩を踏み出した。両親とは後で合流することになっている。空を見上げると、よく晴れた、実にいい日であった。

 

 

 「自己紹介……」

 なにごともなく2度目の高校の入学式を終え、クラスでホームルームとなった。教科書類を配布されたり、校則について説明を受けたり……としたあと、クラス担任となった50代の男の先生は、余った時間を自己紹介の時間とした。曰く、「出席番号1番から順番に、名前、出身校、趣味、最後に一つ自己アピールを……まあなんだ、適当に言ってくれ」。俺が言うのもなんだが、顔に疲れが浮かんでいる、随分とオッサンくさい先生である。名前は〈石垣活人〉と言うらしい。趣味は漫画を読むこと。生徒からの質問に、〈個性〉は体を石のようにすることだ、と答えていた。適当に自己紹介を終えた石垣先生は、「じゃあ、1番」と前に座る女子生徒に促した。俺も視線を彼女に流す。ポニーテールの彼女は立ち上がった。

 「赤川水月です。出身は山乃木中学です。趣味は……映画鑑賞です。えっと、トランプマジックが得意です。これからよろしくお願いします」

 ぱらぱらと拍手が上がる。俺も手を叩きながら、ふとマジックについて考えた。

 

 〈超常〉である〈個性〉が普通となったこの世界で、マジックはもはや娯楽として成り立たなくなりつつある。本来不可能な不思議なことを成し遂げて観客の驚きを引き出すのがマジックだが、透明人間もバラバラ人間もテレポーターもいるこの世界で、マジックは、〈個性でできることをわざわざ個性を使わずにやっているだけ〉と見なされがちであるらしかった。大衆が求めているのは〈技による繊細なパフォーマンス〉よりも〈個性によるド派手なパフォーマンス〉。そういうことだ。同じような理由でオリンピックも衰退してしまったらしい。

 

 ぼんやりとしているうちに、俺の番まで回ってきたらしく、石垣先生から「じゃあ、次、4番」と呼ばれた。まったく自己紹介の内容は纏まっていない。参ったな、考えごとなんてしてんじゃなかったか、と胸の内で軽く息を吐き、俺は立ち上がった。

 「今﨑悠久です。颯見中学出身です。趣味は……あー、音楽を聴くことです。それから……」

 最後に一つ自己アピールを。そうは言われても、1番の彼女のように特技があるわけでもないし、特にこれといって自慢できるようなものがある訳でもない。堂々と人に語れるような夢もない。参った、考えとけばよかった。仕方なしに、俺は適当な特技をでっち上げることにした。

 「ボーリングが得意です。よろしくお願いします」

 我ながらつまらない、微妙な自己紹介だったと思うが、言ってしまったものは仕方ない。椅子を引いて席についた俺は、頬杖をついてまたぼんやりとしながら、後に続くクラスメイトたちの自己紹介を聞くことにした。前の2人、2番と3番の自己紹介は聞きそびれてしまったが、まあどうということはないだろう。

 

 「〈個性〉は〈発熱〉です。よろしくお願いします」――「〈個性〉は〈猫〉です」――「〈個性〉は〈フグ〉です」―――……。

 こうして聞いていると、自己紹介の中に〈個性〉の紹介をしている人が結構いる。それなりに強そうな〈個性〉から、ネタとして笑いを誘う〈個性〉まで様々だった。

 

 今の世の中では、〈個性〉の有無で会社の採用試験の合否が分かれたり、より良い〈個性〉を持つ人が優遇されたりとするらしく、〈個性〉はその人の価値を決める要素の大きな割合を占めていると言える。

 例えば、小中学生のクラスでの立ち位置は〈個性〉の強弱と有無によって決まると言っても過言ではない。それがこの世界だった。

 かく言う俺は、小中学では〈近寄り難い変な奴〉というポジションを獲得していた。有り体に言えば、クラスで浮いていた。勝手に〈キレたら怖い〉だとか〈裏で不良を束ねている〉だとか言う根も葉もない噂を囁かれていたような気がする。

 特に気にはしなかったが――何が言いたいかと言うと、つまりそれだけ〈個性〉が人に与えるイメージというものは大きいということだ。〈個性〉による偏見とも言える。俺が無個性の人を見て同情の気持ちが湧いてしまうのは、俺自身も〈個性の有無〉というフィルターを通して世界を見てしまってるからかもしれない。ほとほと嫌になるが、そういうものなのだ。

 現実は厳しい。

 持って生まれた者が得をする。それはこの世界でも、俺の前世の世界でも同じであるようだった。

 

 「ままならないもんだな……」

 「なにが?」

 「――っ!?」

 ふと零した独り言に返答が返ってきたことに肩をビクリと跳ねさせて、俺は声の主を見上げた。心臓がうるさい――と言うか、心臓に悪い。誰だ、唐突に話しかけてきたのは。

 果たしてそこに立っていたのは、出席番号1番のポニーテールの彼女、確か名前は――アカガワミツキとか言っていたか――だった。

 「――あ、ごめんなさい。みんなが帰っていくのに、君だけいつまでもぼんやりしてるから……気づいてないのかな、と思って」

 そう言って、彼女は気まずそうに苦い笑みを浮かべた。彼女の言葉に教室を見回す。誰の姿もなかった。

 「……もしかして、ホームルーム、終わったんですか?」

 「終わったよ。今日はもう下校」

 「……参ったな」

 俺はぼんやりとしたまま、ホームルームが終わったことにも気づかずにいたらしい。状況を理解した途端、羞恥に顔がかあっと火照った。なんて阿呆なんだ、俺は。彼女に教えてもらわなければ、もっと思考の深いところまで沈みこんでしまっていたかもしれない。ああクソ、恥ずかしい。俺は両手で顔を覆って「はぁああ……」と溜息を吐き出した後、わざわざ教えてくれたカワサキさんに礼を言った。

 「ありがとう、助かりました」

 「どういたしまして。じゃあ、私は帰るね。ばいばい、今﨑くん」

 「ああ……さよなら」

 

 教室から出て行った彼女の背中を見送って、窓の外を見た。まだ明るい。時刻は午前十二時……両親はどうしているだろう。もう家に帰ったか? スマホを取り出して見ると、通知が二件来ていた。

 〈悠久、早く出て来い。人を待たせるな〉とは父親から。〈大丈夫? 何かあった?〉とは母から。メッセージを読むに、校門の前で待ってくれているらしい。慌てて詫びを含めた返事を送ってから、リュックを肩にかけて教室を出る。

 廊下を走りながら、俺の心は既に今日の昼飯へと移っていた。

 

 




一応、続きを書いてはみました。
(なお、作者はヒロアカ2巻までしか読んでいない模様)

6月14日:誤字修正。
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