マーニーの学校復帰の日が来た。
彼女には友人も居るため、自宅学習と友人のノートの書き写しを授業の代わりにするという学校側の裁定が下っていたが、ある程度治ってくればそれも撤回される。
足の治療はいくつかの段階に分けられる。
病院に居ないといけない段階。車椅子を使って自宅で療養してもいい段階。そして現在の、車椅子で学校に通ってもいい段階。
車椅子がなくても歩ける段階、元通り走れるようになった段階、そのどちらもまだ遠い。
マーニーは相変わらず車椅子のまま、学校に通うことになったのだった。
「いい風が吹いてるな」
心配症な父親・ロイドの気遣いで、マーニーの登下校はマーロウが付き添うことになっていた。
日差しが暖めた肌を風が少し冷やすのが心地いい。
車椅子を押しながら風を堪能している青年は、街に吹く風一つとってもマーニーとは違う感想を抱く人間だった。
「これが季節によっては花粉症を引き起こす風に」
「嫌なこと言うなよマーニー……」
風はいいものも悪いものも運んでくる。
そもそもこのマーロウという男も、風のように突然やってきた男だった。
「しっかし今日は暑い……車椅子に座ってると、体と車椅子の間に熱がこもるとは……」
「おい男の前で服パタパタすんな。女らしさの欠片もねえな」
「見えないようにしてるから大丈夫」
しっかり者なのか、適当なのか。
この頭モジャモジャ女子高生は女子としての意識がちゃんとあるのか無いのかも、イマイチはっきりしない。
「はよーっすマーニー。足大丈夫?」
「ゆりかちゃん」
そんな彼女に校門前で、ちょっと軽そうな印象を受ける女の子が話しかけてきた。
挨拶一つ見てもマーニーの反応が柔らかく、特別親しい友人であるということが伺えた。
そしてマーロウがマーニーとその子の関係を察すると同時に、その子もマーニーとマーロウの関係を多少察する。
車椅子というものは案外、信頼関係が要るものだ。
無防備な背中を相手に預け、自分の体の移動を相手に任せるのだから当然だろう。
信用してない相手に自分が乗った車椅子を任せることは難しい。
車椅子を押す人、押される人を並べてみると、なんとなく見えるものもある。
「マーニー、その子は?」
「マーニー、その人は?」
「ハモるなハモるな」
何故初対面でこんなシンクロをしているのか。マーニーは目を細めた。
「マーロウ、こっちはゆりかちゃん。私の小学校からの友達。
ゆりかちゃん、こっちはマーロウ。私の足が治るまで手伝ってくれてる探偵さん」
どちらからともなく手を差し出し、二人はぐっと握手した。
「私若島津ゆりか。よろしくね、お兄さん」
「マーロウだ。よろしくな」
「へーマーロウ。名前がマーニーみたい」
「まあ名付け親は同じだしな……記憶喪失なんだよ、俺は」
『記憶喪失』というワードに、ぴーんとゆりかが反応する。
熱しやすく冷めやすい、面白そうなことにすぐ突っ込んでいくクセに口が軽い。
それがこの少女の性格だ。
そのあたりをよく理解しているマーニーは、ゆりかが面倒臭い絡み方をする前に会話を打ち切ることにした。
「じゃマーロウ、私達は授業あるから。お仕事頑張って。ほら行くよゆりかちゃん」
「おう、何かあったらすぐ連絡しろよ。花の女子高生」
「花の女子高生って言葉もう使わなくない……?」
格好付けて去っていくマーロウに、登校中の高校生達が"なんでこんな暑いのにあの人は黒い帽子かぶってんだろう……"という視線を向けていた。
「ゆりかちゃん、車椅子押してもらえる?」
「はいはい、ゆりかちゃんにおまかせよ」
「何故私の決め台詞をパクった」
なんやかんやゆりかに車椅子を任せるあたり、二人の関係が見える。
「マーロウさんって普段何してるの?」
「猫探しとか得意みたい。平日の昼間はバリバリ解決してるんだってさ」
「へー……探偵って感じじゃないね」
「何? 気になるの?」
「顔がいいからね!」
「だと思ったよ」
マーニーも美形に弱くないわけではないが、流石にここまでではない。
「ねえねえ、性格はどういう人なの?」
「えーと……良い人だよ。立派な人でもなく、かっこいい人でもなく」
「へー」
イケメンとお近づきになりたいなあ、という意志が見て取れる。
が、イケメンと火遊びをしたいなあ、という意思は見て取れない。
要するにミーハーなのだ、若島津ゆりかは。アイドルにハマるタイプではあっても、ビッチにはなれないタイプ。
「……お調子者でミーハーで妙な軽さがあるところだけは、ゆりかちゃんに似てるよ」
「はい?」
鳥の巣頭の毛先を弄るマーニーの心境を、ゆりかが察することはできなかった。
マーロウからの伝言が来たのは、昼の三時頃の休み時間だった。
『放課後校門前で』
依頼が来たのかな、とマーニーは要件にあたりをつけるが、親友のゆりかは何やら邪推しニヤニヤしてマーニーを肘で小突いてくる。
「デート? マーニーも隅に置けないね」
「仕事でしょ」
「またまたー、そんな照れなくても」
「マーロウがこんなに自然に女性をデートに誘えるわけないじゃん」
「し、辛辣……!」
あのイケメン何したの、とゆりかが問うがマーニーはガン無視。
クラスメイトの波峰りあ、真希田マキの手を借りて昇降口まで辿り着き、マーニーは校門前でマーロウと合流する。
なのだがマーロウの左右に、意外な顔を見た。
「あれ、良太郎君に葉香ちゃん」
「ご無沙汰してます、師匠」
「こんにちは、マーニーさん」
「おうマーニー。今日は暑いからな、ガリガリ君買ってきたぞ」
「いいねえ、さっすがマーロウ。あと師匠はヤメレ」
マーロウの左右に居たのは小学生の男女。
名を、久儀良太郎と町名葉香と言う。
何度かマーニーが依頼を受けた小学生で、お遊びレベルではあるが、彼と彼女もいわゆる少年探偵というものをやっていた。
マーニーと彼らの関係はちょっとややこしい。
まずTV局のプロデューサーが、マーニーに関わりその能力を見たことで、マーニーをモデルにした番組を作った。
それが久儀良太郎を探偵役として、大人の補佐を付け、番組で実際に依頼を受けてそれを解決するというもの。
良太郎は要するに、マーニーをモデルにした番組の探偵役なのである。
それから色々あって、良太郎は本物の推理力を持つマーニーを本気で尊敬しており、『師匠』と呼び慕っているのだ。
良太郎と付き合っている葉香は、その度微妙な顔をするのだが。
良太郎は形から入るタイプなのか、トレードマークは頭に乗せた大きな白帽子。
白くて幅広な帽子が、周囲の人の目をよく引くようになっている。
彼もまた、帽子をかぶる探偵だった。
「なんか知らんが良太郎って名前には親近感湧いてな!」
「凄いんですよ師匠! この人帽子落とさないようバック宙できるんですよ!」
しかし何やらマーロウと良太郎の仲が良い。
マーニーがちょっとビックリするくらい仲良くなっていた。
良太郎が小学校を下校し、この学校の近くでマーロウと会って、その後校門前で話していたのだとしても、せいぜい一時間かそこらくらいしか接していないはずなのだが。
(『りょうたろう』って名前か、響きが似た名前の知り合いでも居たのかな……)
○ょうたろう系の名前の知り合いがマーロウに居たのではないか、という推論は一旦脇に置いておき。マーニーはぼーっとしている小学生女子の方に話しかける。
「置いてけぼりで寂しくなかったの? 葉香ちゃん」
「うーん、良太郎くん楽しそうだし……
マーロウさん話聞きながら見てるだけでも面白いし……別にいいかなって」
「……彼女ほっぽって男とはしゃいでる彼氏にはビシっと言っていいと思うよ」
「彼女ほっぽって師匠とはしゃいでる時もあるので、別にいいかなって」
「うっ」
寛容な葉香を見るに、どうやら割れ鍋に綴じ蓋らしい。
好きに生きてる男の子と、男の子が好きな女の子。
ある意味絵に描いたような小学生カップルだった。
「マーニー、お前弟子とか居たのか。俺はまったく知らなかったぞ」
「あ、そうじゃなくてですね! 僕にとっての心の師匠っていうか……」
「マーロウ、これ以上かき回さないで」
いつの間にかマーロウが良太郎を肩車している。仲が良すぎじゃなかろうか。
これ以上脱線すると本題に入れないと判断したのか、マーニーは良太郎と葉香に要件を聞くべく話を切り出した。
「それで、今日は何か依頼があるのかな?」
依頼人は久儀良太郎。
依頼は、『あるゲームを探して欲しい』というものだった。
「ワンダースワン?」
「ずいぶん古いゲームだなあ……」
しかも、相当レトロなやつを。
「色、タイプはこちらの指定したものでお願いします。
日当とは別にゲーム本体のお金も出しますので……」
「良太郎くん、やっぱり」
「葉香ちゃん、今依頼中だから静かにしてて」
しかもカラーか白黒か、本体の色はどうか、という指定までついていた。
これは相当難しい。
なのだがマーロウの意識は、依頼の困難さにではなく、今一瞬小学生二人の間に垣間見えた、一抹の違和感に向けられていた。
(……?)
勘が動いて目を走らせるマーロウに、マーニーはこの依頼の困難さを更に詳細に伝える。
「ワンダースワンはちょっと前にレトロブームが来た時に市場から消えちゃったんだ」
「マニアの手元にしかないわけか……捜し物は俺達の本領だが、さて」
今では探しても見つからない、市場では絶滅した幻のゲーム。
それがワンダースワンというゲームの評価であった。
「ま、いいか。日当五千円、経費は別で。マーニー&マーロウにおまかせを」
本日のお仕事は、ワンダースワン探しである。
一旦事務所に帰ったマーニー&マーロウだったが、そこで何故か居た緑川とかちあった。
「なんでお前居るんだ、緑川」
「今日友人と喧嘩して気不味いんだ、だから……」
「……あー、早めに仲直りしろよ」
かくかくしかじか。マーロウが話して、緑川が聞く。
「なるほど、幻となったレトロゲーム探し……」
「悪いが手貸してくれないか? ちょっと人手が要るんだ」
「ほう……私の力が入り用か。いいぞ、ボランティアもたまには悪くない」
どうやらこの少女、団体行動に誘って貰えただけでも嬉しいらしい。
友達と喧嘩していてちょっと寂しく、人恋しいのだろうか。
「マーニーは?」
「二階で通販を片っ端から当たってる。
マーニーは中古のゲーム買って遊ぶ趣味があるからな」
「それは女子高生ではなく男子高校生の趣味じゃないのか……?」
「はっはっは、探偵やってる女子高生とか変わり者しかいないに決まってんだろ」
「それは私にも喧嘩売ってるんだな? そうなんだな?」
悪女ばかりの街もあれば、女子高生探偵が何故か複数居る街もある。
多様性とはそういうものだ。
「さて、行くか緑川」
「どこからあたる?」
「中古のゲーム取り扱ってる店を片っ端から回るんだ。玩具店も含めてな」
「……地道な作業になりそうだ」
黒帽子の青年と黒帽子の少女は、手分けしてワンダースワンを探し始めた。
ワンダースワンは世界線によってはショボく終わる可能性も、天下を取った可能性もあったかもしれない。ゲーム機なんてそんなものだ。
マーニーが色々と検索をしてみても見つからず、手詰まり感がし始めた所で緑川からの着信。
もしや、と思い期待しながら電話を取るマーニー。
『ワンダースワンはなかったが、店員さんから四八(仮)というゲームを勧められたぞ』
「絶対買っちゃダメだよ楓ちゃん」
自分は騙されるような人間じゃない、という意識があるから騙されやすい。緑川楓はよくあるそういうタイプであった。ほどほどにチョロい。
期待を裏切られて通話を切ったマーニーは、そのしばらく後に今度はマーロウの電話を取る。
時刻は既に夕暮れ時だった。
『さっきあたった店の人に聞いたんだがな。
どうやら在庫のデータベースによると、その店の支店には在庫があるらしい。中古でな』
「ネット検索じゃ引っかからないローカルなデータベースかー。
検索エンジンも万能じゃないし、やっぱり探偵は足がないと困るなあ」
『検索を頼む、キーワードは―――』
マーニーが適当なワードで検索しても見つからなかったような通販注文ページを、マーロウが見つけた店名をキーワードにして発見する。
「あったあった。ようやく一個見つかった……」
少女は安堵の声を漏らして、後で電話で予約を入れておこうと決め、ホームページに表記された電話番号をメモする。
ついでに父のロイドが今日仕事でその店の近くに行っていることを思い出し、今日の帰りに買ってきて貰おうとも決める。
『これでとりあえずは依頼達成か』
「マーロウ今から帰って来る? それなら晩御飯ラップかけないで置いておくけど」
『いや、悪いがすぐには帰れねえと思う。ロイドのオヤジさんにもそう言っといてくれ』
電話の向こう側で、帽子を髪に押し付けるマーロウの姿が、何故かマーニーの脳裏にありありと浮かんでいた。
『俺にはまだ、探さないといけないものがありそうだ』
電話を切って、マーロウは空き地の前で袖まくりをする。
スタッグフォンを鍬型虫の形態に、スパイダーショックを蜘蛛の形態に、バットショットを蝙蝠の形態に、フロッグポッドを蛙の形態に、デンデンセンサーを
それぞれ変えて、空き地の草場や土管の周りを数の力でくまなく探し始める。
「ここのどこかだな。さて、明日の朝までに見つかるか……」
オレンジ色の夕陽の光と影が混じって、昼間ほど目当ての物が見つけにくい環境になっていた。
依頼の翌日。
普段起きないような早い時間に、久儀良太郎は目を覚ました。
目覚ましはまだ鳴っていない。パパとママにも起こされていない。何故目覚めたのだろう、と思っていると、自分の体を揺らす二つの小さな影が見えた。
「……コウモリ? クモ?」
バットショットとスパイダーショックが、良太郎の体を揺らしていた。
大人になるとクモに触れなくなる人は多いが、子供の頃だと触れていたという人も多い。
ましてやメモリガジェットはそこそこかっこいいデザインの小型メカなのだ。触れられている良太郎にも"かっこいい"という感想はあっても、嫌悪感は見られない。
二体のメモリガジェットは、良太郎の袖を引いてどこかに連れて行こうとする。
「え、待って、待って、今着替えるから」
良太郎は着替えて、ガジェット達に引かれるままにどこかへと連れられていく。
その途中で、自分と同じようにフロッグポッドとデンデンセンサーに誘導されている町名葉香を発見した。
「葉香ちゃん? おはよう」
「おはよう、良太郎くん。そっちも事情は同じみたいね」
どうやら四体のガジェットの目的地は同じようで、二人はガジェット達に連れられ早朝の道を歩いて行く。
つまらないことを話して、なんでもないことで笑って、楽しい時間を二人きりで過ごした。
楽しい時間は目的地までの道中をあっという間に終わらせて、公園で待っていた黒帽子の青年の前に、少年少女は辿り着く。
「悪いな、兎のメモリガジェットはねえんだ。不思議の国には連れて行けねえな」
右手の上でスタッグフォンを転がすマーロウが、袖捲りして薄汚れた姿で、良太郎と葉香を公園のベンチにて待っていた。
「まずは依頼の達成だ。ほらよ」
マーロウの左手には、注文通りのゲームがあった。
「ありがとうございます。でも、こんなに朝早くじゃなくても良かったのでは……」
「お前らからすれば、事が発覚する前に……少しでも早く手に入った方がいいだろ?」
「っ!」
「……全部お見通しでしたか」
目を逸らす葉香。良太郎はレトロゲームを受け取って、申し訳無さそうな顔をする。
「違和感があって、それで疑問を抱いたんだ。
最初に気になったのはお嬢ちゃんのその爪だ。
身なりに気を遣うお嬢ちゃんだってのは服装や髪を見て分かった。
だから気になってたんだよ。爪の中に土が入った跡が少し残ってたのがな」
「う」
葉香がさっと手を後ろに回して隠すが、今更隠してももう遅い。
「履いてる白い靴に、取れない染みになった汚れはなかった。
なのに靴には真新しい泥や汚れがいくつも付いてた。
つまり普段は汚さない靴を、思わず汚してしまうようなことがあったってことだ」
「ご明察です」
「ちょっと聞き込みしたら面白い話が聞けた。
葉香ちゃん、叔父さんが昔から大切にしてたゲーム機を借りてたんだってな」
「……っ」
「つまり君は、それをなくしてしまったんだ。
君は焦った。良太郎はなんとかしてやろうと思った。
だから同じゲーム機を、同じ色のを良太郎が買って誤魔化そうとしたわけだ」
葉香は申し訳なさそうに俯いて、良太郎が頷く。
テレビ出演で稼いでいる彼にとって、ゲーム機の一つや二つは安い買い物だろう。依頼自体を葉香が止めようとしていたことを考えれば、主導者は良太郎であったと推測できる。
探偵に依頼をし、自腹でゲームを買い、彼女の失態を帳消しにしようとした。
良太郎のその決断は、小学生ながらに男らしいものだった。
「依頼はそのゲームを探して欲しい、だったよな」
良太郎の手の上においたワンダースワンの上に、マーロウはもう一つ、同じ色で同じ型のワンダースワンを置いた。
「こいつで依頼完遂とさせてもらうぜ」
「「 ……え!? 」」
わけがわからない。
何故二つあるのか。
そう考えた二人の小学生は、後に置かれた方のゲーム機が、なくしてしまった方のゲーム機であることに気が付いた。
「お前らの友達にちょっと聞き込みさせてもらった。
ゲーム機をなくした日と、その日お前らが遊んでた場所も分かった。
そこを探したら、見つかったってわけだ。
ま、遊んでる途中にうっかり落としたんだろうさ。よくあるこった」
マーロウが薄汚れていた理由を、良太郎と葉香は理解する。
彼はずっと探していたのだ。日が沈んでも、夜になっても、朝になっても、ずっとずっと。
自分を頼ってきた依頼人に、最高の結果で応えるために。
「マーロウさん、なんでそんなに汚れてまで……」
「良太郎。お前が、誰かのために真実を隠して戦う男の目をしてたからだ」
「―――」
「十分だ。それ以上の理由は要らねえ」
白い帽子をかぶった小学生探偵の小さな男気に、マーロウは応えてみせた。
「ごめんなさい!」
そうまでされては、葉香も黙って周囲の厚意を受けているだけではいられない。
彼女は深く頭を下げ、謝った。
「叔父さんの大切な物をなくしちゃって、本当は最低なことしてたって分かってて。
謝ろうとして、でも怒られるのが怖くて、勇気が欲しくて良太郎くんに相談して。
良太郎くんがなんとかしてくれるって言ってくれて。
良太郎くんにそんなにお世話になるっていけないことだって分かってたのに……
でも、助けて貰えたことが嬉しくて、強く止められなくて、なんだか強く止められなくて……
ごめんなさい……ごめんなさい、ごめんなさい……! ごめんなさい……!」
「気にすんな、リトルレディ。
お前には最高のパートナーが居た。そいつを喜んでいいんだ、お前は」
でも叔父さんにはちゃんと真実を言って謝るんだぞ、とマーロウが言えば、葉香は強く頷いた。
申し訳なさそうにしている良太郎にも、彼は声をかける。
「お前はパートナーを助ける決断をした。
その決断は間違ってねえ。俺が保証してやる。
男の仕事ってのは要するに決断だ。決断できれば、残りは後からついてくる」
「マーロウさん……」
「次にその子がまた大切な物をなくしたら、お前が探すんだ。お前も探偵だろ?」
「……はいっ!」
帽子を取って頭を下げる良太郎。それと同時に頭を下げる葉香。
「「 ありがとうございました! 」」
小学生らしい元気な感謝の言葉に、マーロウはニカッと笑って、二人の髪をぐしゃぐしゃにしながら頭を撫でた。
女の子の葉香が文句を言ってくる前に、良太郎が照れて何かを言う前に、マーロウは二人に背を向けて去っていく。
二人の子供をここに連れて来たガジェット達も、マーロウと一緒に去っていく。
「せっかくゲーム機が二つあるんだ。対戦でもして遊んでな。学校に遅れるなよ」
青年が公園を出ると、そこには車椅子に乗ったマーニーと、車椅子の手押しハンドルに寄りかかる緑川が居た。
「悪いな、こんなに朝早く買った方のゲーム機届けてもらって」
「徹夜であの子達のゲーム探しておいてよく言うよ。お疲れ様」
マーニーが呆れた顔でマーロウをねぎらう。
「あーもうお前、いくらなんでもその顔はないぞ。
動くなよ、ほっぺたに着いてるその泥今取ってやる」
「おいバカやめろ緑川! お前は俺の母親か! 自分で拭けるっての!」
ハンカチで頬の泥を取ろうとする緑川に、子供扱いに近いその扱いに抗議するマーロウ。
「ったく、お前らは……あーもう、俺は帰って飯食ってシャワー浴びて寝る! 決めたぞ!」
マーロウが歩き出し、その横に車椅子のマーニー、車椅子を押す緑川が並ぶ。
「そう言えばマーロウ、あれは言わないのか?
『お前の罪を数えろ』ってやつ。
あの女の子に叔父に謝れと言ったということは、よくないことだとは思っていたんだろう?」
緑川楓は思うままを口に出した。
マーロウは呆れた顔になる。
それが当然のことであると疑いもせず、彼もまた思うままを口に出した。
「子供に罪なんて問わねえよ」
なんだかなあ、とマーニーは思った。
本当に甘々だなあ、とマーニーは思った。
でも、口には出さなかった。