魔法少女育成計画abyss   作:皇緋那

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3.Fighting Stile

 ☆プレーン・プレーン

 

 運営から届けられた「人死にが出た」というメールを読んで、プレーンは戦慄していた。

 さらに次に第1試験の結果が届けられており、そこに死んだとされる魔法少女の名前は載せられていなかった。

 

 魔法少女として、生き物として。抹消されてしまった、ということであろうか。

 つい名前を探してしまったプレーンはひどく後悔し、途端に怖くなった。

 

 だが運営は休ませてくれないらしい。立て続けに通知音が鳴り響き、弱りかけている心に拍車をかける。

 かつてないほどに画面が更新され続け、運営から、オルタナティヴから、ギャーサから、誰もがプレーンを責め立てる。次はお前だとまくしたててくる。

 頭の処理がどうしても追い付かなくて、端末が床に落ちて空虚な音をたてた。

 

 いったん落ち着かなければならない。プレーンは自分の鼻をつまんで力を込めて耳抜きを、目を閉じて深呼吸を数度して、友人の少年のことを思い浮かべた。

 頭の中の彼は「くうちゃん」と呼び掛けて、プレーンを元気にしてくれる。

 

 ひとまず端末を手にとって、最初に運営からのおしらせメールを開いた。

 いつも通りのファンタジーな装飾の数々が血塗られたようにも見えてくる。

 

 さっさとスクロールしてしまって、本文に到達した。

 連絡は第2試験の内容についてであり、しかもそれはドラゴンの討伐だという。

 この街のどこかにいるドラゴンを協力して打ち倒し、生き残るというものだ。

 

 架空の生物ということは、魔法のかかった生物であり、魔法少女に傷をつけられる存在であるということだ。

 運営自らが手を下さず、あくまでも試験という形で戦死者を出したいのか。プレーンの疑いは根拠のないものだったが、今の彼女を怖じ気づかせるには十分だった。

 

 試験とはいえ、ドラゴンが討伐されればすぐに終わってくれる。栄誉ある戦死に魅力なんて感じられないプレーンが動く必要はない。

 世の中には戦う魔法少女がいるのだから。ギャーサやグラナティオのように、殺し合いに自ら身を投じる魔法少女たちが。

 

 そのギャーサの送ってきたメールの内容はというと、話したいことがあるから来て欲しいとのことだった。

 ついに人死にが出てしまったため、改めて話しておきたいこともあるんだろう。プレーンはそうひとりで納得して、ネクタイを締めたりと外出の用意をした。

 

 ギャーサは前回もそうだったけれど、直接会って話したい人間らしい。

 プレーンに機動力があるため簡単に応じてやれるが、あんな裏社会に足を突っ込まなければ会いにいけないグラナティオは難しそうだ。

 

 と思っていたのだが、呼び出されてやって来た高層ビルの屋上にはギャーサだけでなくグラナティオもまた待っていた。

 

「あ、来た来た」

 

 彼女はいつも通りの軽い態度で寄ってくる。本当に重要な話なのか怪しくなる。

 どころか、相手が運営からのおしらせたちを読んでいるのかとも思う。

 

「今日は第2試験の話なんだけど」

 

 その一言で読んではいるとわかった。

 そして次に来るのが今最も聞きたくない言葉でないことを、プレーンは願った。

 その願いに意味がなことを知っていたし、きっと彼女は無神経なのだろうとは思ったが。

 

「一緒に戦ってくれないかなーって」

 

 案の定の言葉、だった。

 プレーンは自らの唇を強く噛み、返答を待つギャーサに胸中をぶちまける。

 

「私は、死にたくない」

 

 必死に振り絞るような声しか出なかった。

 

「まだやり残したことなんていっぱいある、だから、私は戦えない」

 

 ギャーサは意外な反応だったと言うふうに目を丸くして、プレーンのことを眺めていた。

 

「……そっか、じゃあ仕方ないね」

 

 諦めてくれたのだろうか。予想外に聞き分けがよく、プレーンは胸を撫で下ろす――

 

「ここに誓うよ! 私がプレーンちゃんを守るから、プレーンちゃんも私と一緒に行こう!」

 

 ――ことが、できなかった。

 

「なっ、なんで! 私は戦えないって!」

 

「だから、死にたくないなら死なせないって言ってるの」

 

 わけがわからない。こっちが否定していると言うのに強引に通し、プレーンを戦場に駆り出そうとしている。

 そんなのは駄目だ。あのときの破壊衝動は熱気にあてられただけで、楽しかったなんてのは一時だけの感情だ。

 ここで彼女に全てを委ねてもプレーンにメリットはない。ないはずなんだ。

 

「私が信じられなくてもいい、いざとなったら逃げ出せばいい。ちょっとだけ、付き合ってほしいんだ」

 

 口をぎゅっと結んだプレーンの手を、ギャーサがいきなり握ってきた。

 高層ビルの端、フェンスに向かって引っ張られる。ギャーサに力では勝てず、抵抗できない。

 無理矢理地面から離されて、ふたりの魔法少女は数十メートルを自由落下し始めた。

 

「さあ、行こう!」

 

 ギャーサの言葉の意味が数秒間わからなかった。けれど、プレーンを信じる目が彼女を動かして、その魔法を使わせる。自分のまわりを固めて乗り物にする魔法を。

 

 瞬時に空気から形成された飛行機が安定し、自由落下を止め、ふたりを機内にいる状態に変える。

 前に運行を始めた飛行機の中で、ギャーサはプレーンに向かってハイタッチを求め、プレーンもまた仕方なさそうながらそれに応じた。

 

「……ところで、グラナティオは?」

 

 すっかり忘れていた魔法少女の名を口にした。そう、すっかり忘れていたのである。置いてきてしまった。

 ギャーサもやっちまったというような顔でいる。彼女も忘れていたのか。

 

 噂をすればなんとやらで、機体にがしゃんと衝撃が走った。

 突然のことに驚き、ドラゴンかと思い悲鳴をあげかけ、それを押し殺して身構えたが、飛行機の前方についている窓からグラナティオが不機嫌そうな顔を出してきたため警戒は杞憂であった。

 いったん着陸させ、彼女も機内に入れてあげるべきだろうか。思案しつつも進行は止めずにいると、グラナティオが魔法の端末をこちらに見せてきた。メール入力画面で、「私のことは気にせずに行け」とある。

 

 そういえば、ギャーサに行き先を聞いていなかった。彼女に聞こうと振り向くと、また魔法の端末が突きつけられていた。

 表示されているのはプレーンの端末にも届いてはいたがまだ見ていなかったオルタナティヴからのメールと同じもののようで、内容は思いの外重要なものだった。

 

「ドラゴンの居場所と協力のお願い……?」

 

「確か、ドラゴンに殺されてしまう被害者をなくすため大人数で確実に、かつ迅速に排除しようっていう名目みたい。

 でも、確かオルタナティヴってトランホルンと仲良かったから敵討ちかな。どちらにせよトラップかは行って判断しようと思ってさ」

 

 ギャーサの情報と絶対の自信はどこからきたのだろう。とにかく、行き先はそのメールにある集合場所でよさそうだ。

 近所の裏山にドラゴンだなんて幻想の生き物がいるのは驚きではあるが、仮にクラスメイトや友人――幼馴染みの彼が襲われては困る。

 目指すは集合場所として示された裏山のふもとのあたりだ。

 

 誰もいないことを確認し、近隣の建物の上に置かせてもらって飛行機から降り、周囲を見回す。

 するとどこかで見た気のするような星空のスカートが見え、山の中へ入っていった。ついてこい、ということか。

 

「どうする? 行くのか?」

 

 ずっとしがみついていたらしいグラナティオは疲れも見せずに問うてきた。

 現状、それ以外に選択肢はないだろう。ギャーサも了承し、プレーンたちは歩き出した。

 

 星空の魔法少女についていき、奥へ奥へと進んでいく。

 けっこう進んだあたりまでくると、星空の少女の協力相手だろうか、魔法少女がひとり立っていた。

 

 灰色の学生服のアレンジらしい衣装で、決して派手でない花がついている。

 モチーフを守りつつもあまり飾らないふうにする、といった雰囲気。誰かの原案を地味めにリデザインしたのだろうか。雰囲気はけっこうプレーン好みな容姿だ。

 

 その彼女は、プレーンたちがここに招かれてきたのだと気づくと手を振ってくれた。

 塗りつぶされている校章や目立たぬ花たちが揺れている。

 ギャーサが喜んで振り返し、けっこうな速度で近寄っていった。

 

「あなたたちが討伐に協力してくれる……?」

 

「そうそう、はじめまして。私はギャーサ、でそっちの際どい格好なのがグラナちゃんで、着エロなのがプレーン・プレーン」

 

 なんとか追い付いたところ、なにやら失礼な紹介をされていたような。

 

「うん、覚えときます。私はオルタナティヴ、よろしく」

 

 握手を求められ、ギャーサはがしっと握り返していた。

 ちょっと驚いたようすからオルタナティヴも笑って力をこめる。

 なんだかちょっと暑苦しいが、どちらもフレンドリーな魔法少女のようで、コミュニケーションは円滑に進んでくれそうだ。ひとまず安心。

 

「んで、ドラゴンはどこ? そっちに何か作戦とかあって?」

 

「竜の巣はどこかわかってます。作戦は、まだありません」

 

「そっか、私たちは勝手にやれってこと?」

 

「いいえ。作戦なら今からできますから、問題ありません」

 

 オルタナティヴが自信たっぷりに首を振り、自分の魔法の端末を取り出して現状の説明をはじめた。

 画面の地図アプリにはすこし離れた位置にしるしがつけられており、恐らくそれがドラゴンの巣の位置だろう。

 

 そこはいつも1体、巨大なドラゴンが守っているという。翼を持たず、恐らく家を守っている。

 一方で翼を持った小さなドラゴンも多数存在しており、小さなといっても2メートルもの体長があるという。不安になるしかない状況だ。

 

 ふとギャーサとグラナティオの様子を横から盗み見ると、にやりと口角をあげ、嬉しそうだった。

 戦闘狂というやつだろうか、プレーンは戦士の魔法少女ではないので、彼女らの心理はよくわからない。

 

 続く説明では、小さなものを一匹でも殺せばいいものでなく、恐らく殲滅か巨大なドラゴンの撃破が必要だという。

 

「あぁそうそう、いっこ聞いていいかな」

 

 オルタナティヴが首をかしげ、次の言葉を待つ。

 

「あの子殺したのそいつだよね?」

 

 初対面の相手に無神経すぎやしないか。人の心中を察することができないのか。

 さっきもすごく強引で無理やりな方法によって連れてこられたわけで、プレーンは納得できない。

 

 オルタナティヴはギャーサを睨んだ。そして、悲しそうにこう言った。

 

「恐らくは。だから、これは弔い合戦です」

 

 ギャーサのにやつきがさっきよりも大きくなっている。悪趣味というか、まあ悪い顔だ。

 

 周囲にたちこめる気まずい空気は、プレーンが作戦会議に戻そうと話を振るまでそのままで、とてつもなく居心地が悪かった。

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