☆プレーン・プレーン
オルタナティヴが出した案は、小さな個体をオルタナティヴの協力者たちとプレーンで食い止め、オルタナティヴ・ギャーサ・グラナティオの三人で大きなものを倒す、という分担であった。
武闘派二人はより歯応えのある相手との戦いを望んでいるらしく、二つ返事で了承していた。
プレーンにも異存は、まぁない。ギャーサに守られるという名目で強大な方に放り込まれるのは嫌だったからだ。
それに、小さな相手ならば上空から一方的な攻撃ができる。
オルタナティヴ曰く翼を持っていても滑空程度しかできないらしいため、プレーンがそっちに入るのは当然という部分もあった。爆撃や掃射は殲滅力に優れる。
さっそく2チームそれぞれでの行動になるため、プレーンはギャーサたちと別れ、別の魔法少女たちと合流した。
プレーンと同じくモチーフが日常的で平和的なため、恐らくは戦闘が得意ではない魔法少女たちだ。
何せ、星空にカウガールに箱がモチーフなのだ。機長と同じで戦う職業じゃあない。
「えと、プレーン・プレーンです」
「プレーン・プレーンさんですね。私はミルキーシューティングで、この子がアンチル。彼女は曙ヒトミです」
それぞれが頭を下げ、緊急チームが結成された。
互いの魔法くらい紹介しておいてもよかったかもしれないが、プレーンはほとんど別行動みたいな動きになる。知らなくても支障は少ないと思う。
彼女達は元から知り合いらしい。プレーンだけが魔法のことを知らないまま、そしてそれを言い出さずに持ち場に到着した。
森の奥から轟音が聞こえた。木を丸々一本叩きつけたような音だ。
それを合図にして、プレーンは大空へと飛びたった。
地上が一気に騒がしくなり、ミルキーは刃の欠けた包丁を構え、アンチルはどこかへ消え、ヒトミは縄を持った。
草むらががさがさと音を立て、多くの来客が現れる。2メートルほどの体躯の翼を備えたドラゴンだ。
プレーンはそいつらだけを単発の銃で狙い撃ち、着実に片付けることにした。木々や仲間を傷つけるわけにはいかないからだ。
プレーン以外の魔法少女たちも勇敢に立ち向かっていた。
ミルキーは竜をたやすく裂き、アンチルは奇襲でミルキーの背中をカバーするコンビネーションを見せてくれる。
特にヒトミはドラゴンを縄にかけ動きを止めてしまう、上空へ投げ飛ばすなどプレーンのサポートをしてくれた。
だが、潰しても潰してもドラゴンは湧いて出てくる。いったいどこにここまでの物量が存在していたのだろうか。
巨大なドラゴンを倒さなければ止まらない仕掛けなのか、はたまた誰かの魔法の影響なのかはわからない。
プレーンはいったん高度を上げ、周囲の森林を注意深く見た。
湧いて来ているのは、ある一点からのようだ。
その一点にはうっすらとピンク色が見える。魔法少女か何かだろうか。そちらへ近づこうと考えたとき、目下の木の上からドラゴンがすがりつこうと飛んでいるのを見て振りきるため速度を上げてしまった。
ピンク色のシルエットの持ち主に見つかる予定が早まり、どうしようかと思う。
すると視界の端でヒトミが縄にかけた先程のドラゴンを手にしてゴーサインを出しており、おかげで近づく決心がついた。
近づくにつれてシルエットははっきり見えるようになっていく。
肩の装飾やスカートがきらきらと桜色に彩られており、ドレス衣装の途切れ目である腹部や手はぴっちりの白いラバースーツに覆われている。
髪も美しく自然に従って流れていて、まるで桜の雨のようだった。
全体として淡いピンク色が主体のようで、オルタナティヴとは異なった、けれどどこか儚げという場所は共通した、そんな魔法少女がそこにいた。
彼女がこちらに気づいて近くの木に手をやると、突然その木が異常に広がった。プレーンの機体は呑み込まれ、損傷から消滅してしまう。
残ったプレーンだけが投げ出され、着地には成功したもののその場所は桜の魔法少女の目の前だった。
ドラゴンが湧き出していたのが彼女の魔法によるものだとすれば、恐らくは敵意がある。
このままだと殺されるかもしれない。プレーンは歯を食い縛り、そして、上へと跳んだ。
ここで魔法が発動する。自分の周囲に機体を作り上げ、プレーンの逃亡は成功した。
プレーンはだめ押しで振り返ると、これも挑発になればと思って桜の魔法少女へ向けて中指を立てた。
桜の少女は口角を上げていて、挑発として受け取ってもらえたらしい。
彼女は透明な戦闘機目掛けて飛んできた。
触れられれば何が起こるかわからない。やや無理な飛行をし、強制的に振り払う。
木を伸ばすことで少女が更に追い、戦闘機は無謀な飛行を続ける。
こうして気をひき続けていれば、そのうちに小さなほうのドラゴンも全滅するだろう。
それまで、プレーンは逃げ続けなければいけない。面倒な役割ではあったが、重要な役割でもある。
大きなため息をつき、これ以上ないくらいに笑顔を作ると、プレーンの乗る機体は再びギリギリの角度に曲がりはじめた。
☆オルタナティヴ
ドラゴンの巨体は脅威だった。
大きい、ということは破壊力があり、攻撃範囲も広く、多少の攻撃ではびくともしないということだ。
オルタナティヴの思っていたとおり木を一本使っても殴っただけではダメージがなく、グラナティオの魔法で鱗の薄い繋ぎ目を狙ってようやく目を覚ましただけだった。しかもダメージが通ったわけではない。
他に有効打を与えられる場所というと、下顎と口の中だそうだが、そんな場所を狙うのは危険きわまりない。
オルタナティヴは素手でしかなく、グラナティオも短剣しか持っていないのだから、それらの弱点を狙えるのは長柄武器の槍を扱うギャーサだ。
故に、ギャーサに指示を出そうとしていたのだが、彼女はときおりどこかを気にしていた。
上空を見ては舌打ちをして注意を地上に戻している。今の状況で上空になにかあるとすればプレーン・プレーンのことだろうか。
再びギャーサが空を見上げたとき、今度は逃すまいと竜の爪が襲った。
力の弱い部分を把握しているグラナティオが止めに入り、オルタナティヴは手早くギャーサを抱き上げて離脱する。
竜の攻撃を引き付け、止めてくれているあいだに話をすませてしまおうと顔を寄せる。
「どうしたんですか?」
「いや、その、ごめん。プレーンちゃんのこと守るって、誓ってたからさ」
ギャーサの魔法は誓うほどに強くなる魔法、だったはずだ。その誓いを破ってはならないとも考えられる。
上空から聞こえてくるのはプレーンと何かが交戦する音だ。オルタナティヴは地上の様子も考え、グラナティオが善戦してくれているのを認め、どうしようかと思考を動かしはじめた。
ふと、甲高い機械音が響いた。端末だ。
届いた連絡はミルキーからのもので、小さな個体が湧いて現れなくなったため、全員で合流するという。
戦い向きじゃないといえ、魔法少女が三人も増えてくれるなら代わりになれるはずだ。
「ここはもう大丈夫です、だから行ってあげてください」
「……マジで? ほんとごめん、すぐぶっ飛ばすから!」
ギャーサはオルタナティヴに頭を下げて、プレーンのいる方へ木々の上を跳んでいった。
透明な機体が無理な軌道で飛んでいるのを何者かが追っているのに対し、その追っ手へギャーサが襲いかかるのが見えた。そこまで見届けて、オルタナティヴはドラゴンへと意識を戻す。
グラナティオの息が限界に近づいてきていたらしい。ドラゴンもだが、たがいに動きが鈍ってきている。
何度も向かってきている竜の腕とグラナティオのあいだに割り込んで腕を止めてやると、疲れの見える彼女に声をかけた。
「あとすこしだから、がんばって!」
特にヒトミの持つ縄であれば、攻撃を叩き込む隙を作れるはずだ。例えドラゴン相手でもコスチューム付属の固有アイテムは頑丈、多少はもってくれる。
その縄がかかるまで、耐えきるしかない。
横薙ぎに飛んでくる尾からグラナティオを連れて逃げようと飛び上がったところを狙われてしまい、腕に裂傷を負った。
あとすこし、という認識から来た気の緩みが原因だろうか。自分にできている切り傷を叩いて、痛みで気を持ち直させる。
次に飛び出した先だが、すでに読まれていたのか、痛みに反応した一瞬がいけなかったのか、大きな口が待ち構えていた。
このままだと胃袋へ直行になってしまう。勢いを殺そうとするが、当然向こうからも迫ってくる。
間に合わない。光が失われ、唾液の滑りがふたりを包もうというとき。
「ごめんなさい、遅れました!」
竜の頭が止まった。縄をひっかけられ、引っ張られている。
それにさっきの声。つまり、ミルキーたちが間に合ってくれたのだ。
縄の耐久力が無くなる前に地に足をつける。もがくドラゴンを前にして、ミルキーとアンチルがオルタナティヴを出迎えた。
「お前、その怪我は」
「大丈夫、このくらいなんともない。グラナティオは疲れてるだけ」
彼女を降ろしてやると、まだまだ自分の足で立てるようだった。
これなら大丈夫だ。オルタナティヴの腕は十分に使える。
「……大丈夫じゃない。怪我人が戦線に出るなよ」
アンチルが立ちはだかった。ミルキーの制止も聞いていない。これはアンチルなりの気遣いなのだろうか。
だが、その思いに応えることはできない。オルタナティヴは、友人を助けなければいけないのだから。
「私があいつを倒す」
アンチルを押し退けて通り、オルタナティヴが構えた。
「お前は自分が傷ついてもいいって言うのか」
「……誰かを助けるためなら、言うよ」
竜を押さえていたヒトミの縄が切れ、ミルキーが急行する。
輪に入れるという用途に使えなくなってしまった縄はミルキーの魔法の影響を受け、今度こそと強固にドラゴンを縛り上げる。今なら確実に行ける。
地面を蹴って、オルタナティヴが飛んでいく。
一直線に竜の下顎に突き刺さり、拳が振り抜かれ、下顎からちぎれ飛び、さらに上顎までもが爆散した。
ここまで頭部を破壊すれば確実だ。オルタナティヴの着地と同時に制御を失った巨体が重力に負け、地に沈んだ。
「……終わった」
竜の討伐に成功したのである。端末の着信音が響き、第二試験クリアのメールが届いていることを確認する。
返り血にまみれたオルタナティヴにアンチルが駆け寄った。その目には単純な喜びや達成感ではない、複雑な感情が宿っている。
「ミルキー、あの方位磁針」
ヒトミに呼び掛けられた彼女は慌てて針のないそれをスカートの中から取り出し、魔法の影響下に置いた。光の針でトランホルンの居場所が示される、はずだったのだが。
針は目標を見失ったようにぐるぐると回っている。
「ねえ、ミルキー」
「……亡くなっていても遺体に反応するはずです。つまり、トランホルンさんは恐らく、もはや遺体すら存在していないかと」
友達になったのに、変わり果てた姿でさえ会うことができない。
そんな現実を突きつけられ、四人のあいだにあった勝利の喜びは凍りついていた。
☆プレーン・プレーン
桜の魔法少女との追いかけっこは、巨竜が地に倒れ伏す音で終わりを告げた。
小さな竜を大量に湧き出させる役目が終わったから、だろうか。
ギャーサが来てくれたことによって枝や槍の応酬になり、おかげでプレーンは楽に立ち回ることができたのだが、その時間も長くは続かず、ギャーサはすこしもの足りなさそうにしている。
それは桜の少女も同じだった。彼女が動きを止めたとき、これからが面白くなるのにとこぼしていたのをプレーンは聞いていた。
彼女が名残惜しそうに口を開く。
「わたしの名前はブロッサム+。ええと、プレーンさんにギャーサさん、でしたよね?
覚えておいてくださいな。そのうちまたお世話になるでしょうし。ある程度、楽しかったですよ。ありがとうございました」
一方的に言いたいことだけ言ってしまうと、ブロッサム+は木々の中へ消えていった。わざわざ追う気にはなれなかった。
どうして彼女が試験攻略の邪魔をしていたのか、など謎は残っている。けれど、第二試験は無事に終わったとのお知らせが来ていた。
ギャーサとプレーンはハイタッチで勝利の喜びを分かち合い、グラナティオを迎えに行くために透明な戦闘機へと乗り込んだ。