☆プレーン・プレーン
裏切り者がいると言われて実感があるわけでもなく、プレーン・プレーンはグラナティオ及びギャーサとつるんで行動していた。
戦う魔法少女がふたり、いざとなったら空へ逃げる足になれる魔法少女ひとり。けっこう相性はいいとは思う。
さらにプレーンの機体は透明だ。余程勘のいい相手でもなければ奇襲ができる。
裏切り者が襲ってきたとして、ギャーサとグラナティオのふたりに勝てる相手なんてあの巨大ドラゴンくらいしか思い浮かばなかった。
それに、ギャーサの『プレーンを守る』誓いはまだ続いている。
プレーンが安心していられるのはその誓いあってこその部分もあった。
「あ、そうだ。昨日メールが来たんだよ」
わざわざこんな言い方をするのだから、ここにいる誰かじゃない。
プレーンも身に覚えがなく、グラナティオの表情もはじめて聞いた者の表情である。
「運営からじゃなくて、か」
現状お知らせが新たに出ていることもない。
だとしたら、個人的なメールのやりとりか、運営からの賄賂か。
いずれにせよ、報告があるならば重要なことなんだろう。
「運営からじゃないよ。パフェクトスイートちゃんから」
パフェクトスイート。見覚えはあるような、ないような名前だ。
実のところプレーンは人の名前を覚えるのが苦手で、魔法少女なんてもってのほかなのである。
覚えていなくても、名前を呼ぶような機会がないからまだ平気なのだが、言われてもわからないことがあるのはちょっと困る。
「会いたいんだって、さ」
「こんなタイミングで呼び出しだと?」
「そ。なるべくひとりで来て欲しいって」
それは、今の状況で考えれば、ギャーサを消そうとしているとしか思えない。
1対多ならば戦う魔法少女とて魔法の餌食になるかもしれない。
ギャーサが応じるのは許さないと言おうと思ったが、グラナティオも、果てはギャーサ当人まで同じ気持ちらしかった。
「三人で行こうか。大丈夫、私たちは戦える」
裏切り者がいるのなら、返り討ちにするのみだと。
ギャーサがプレーン、グラナティオ両名の手をとって、一緒にいこうと微笑んだ。
「まったく、言うこと聞かれないと思ってましたよぉ」
そして背後から声がして、上空からの光が遮られた。見上げた先には大きなトラックがあるだけだ。
突如現れた車両がプレーンたちを押し潰そうと迫ってくる。
まず、ギャーサが車両に向かって飛び出した。
次に、グラナティオが続いて突っ込んでいった。
最後にプレーンが別の車両を作り、覆われていない上空にまで逃げ出した。
車両を突き抜けていったふたりとともに、プレーンは魔法少女の姿を確認した。
くるくる巻かれたクリーム、苺を彷彿とさせる衣装。あれはパフェクトスイートだ。
全員に視線を向けられたのが、つまり三人ともに避けられたことが予想外であったのか、目を丸くさせたのちに降参だと両手を挙げた。
飛んでいったギャーサが槍を突きつけ、相手を睨んで動くなと伝えていた。パフェクトスイートは素直に受け入れる他無いのだろう。
「今の不意打ちで駄目ですかぁ……こりゃ裏切っても返り討ちですねぇ」
ため息まじりに諦めるパフェクトスイート。
それでも魔法少女たちは周囲への警戒を怠らず、ただ呆然と見ているのはそのパフェクトスイートだけだった。
「あー、えっとぉ、これって私は殺される流れですかぁ?」
ギャーサはさあね、と答えを濁し、けれども試練の内容は裏切り者を殺すことなのだと告げた。
相手が知らないはずはなく、だからこそ焦ってギャーサを呼び出そうとしたんだろうが、どうも相手の気が抜けている。相手の性格だろうか。
「参りましたねぇ、これ。とりあえず話くらいは聞いていただけないでしょうかぁ?」
「身の上話とかは禁止ね」
「そんなまさか、でっちあげで病気の母とか嘘つきませんってばぁ。私の母親は健在ですから」
「禁止って言ったそばからそういうこと言うね。そういうの好きだよ」
「今告白されても困りますねぇ。とにかく逃亡の意志はこのとおりありませんわぁ」
パフェクトスイートが変身を解いた。下手をすれば他の魔法少女に狙われて日常生活にまで支障が出、非常の事態の時には変身するだけの一瞬の隙ができてしまううえに、魔法少女と比べればひ弱にもすぎる。
それらを以て、この少女、パフェクトスイートになる彼女は投降を表しているのだろう。
「おっけー。さっきのトラックがあんたの魔法として、無関係の一般人に変身したとかそういうことじゃないだろうしね」
ギャーサがあっさりと槍を降ろし、パフェクトスイートの正体である少女と対峙していた魔法少女ふたりは思わず驚きの声をあげた。
ギャーサは少女を見て、少女が何か企んでいるような笑みを作ったのに対して笑い返した。
少女は笑みを崩さぬまま着ている制服のポケットを探り、学生証を取り出してプレーンに手渡してくる。
恐る恐る受け取ってみると、本当にただの学生証らしかった。
名前は苺坂千代。残念ながらプレーンたちの中に高校生はいなかったが、実在の高校の名前だ。
「これでも信じられなければ調べてくれればいいですよぉ」
彼女はわざわざ人間時の生活まで晒している。こうなると逆に怪しくなってくるというものだ。千代の方を警戒しつつ、ギャーサの対応を待つ。
と、ギャーサもまた光に包まれ、よりまともな服を着た女性の姿へと変化した。
予想外に次ぐ予想外の出来事にグラナティオもプレーンも何も言えず、名刺を渡して握手を求めはじめたギャーサを見ているしかなかった。
「……いいんですかぁ? こんなのに乗っちゃって」
「いいの。じゃ、話をして」
その場に堂々と座り、他の魔法少女たちにも座るよう促し、千代に話をさせようとした。
どっちも不思議な雰囲気で調子が狂うタイプだ。
千代の話は疑問の投げ掛けからはじまった。
おかしいと思いませんか、という同意しか求めていないだろう言葉からだ。
しかも返答は求めないでさらに言葉が飛んで来る。
「今までの試験は第1も第2も魔法少女の資質を問うもの。人助け、戦闘、どちらもそれぞれのセンスが求められますぅ」
「裏切り者を見抜くのはそうじゃない、ってか」
「えぇ。確かに派閥争いなんかに巻き込まれれば必要かもしれませんがぁ、魔法少女像としておかしいんですよぉ。裏切り者を用意して殺させるのが条件?
そんなの、手を汚した者こそが魔法少女だと言っているようなもんですぅ」
考えてもみれば。これは魔法少女の選抜試験だ。
躊躇いなく人を殺せる非情さが魔法少女に必要ならば、現実社会はもっと荒んでいる。
魔法少女による原因不明の殺人が横行するに違いない。
「何が言いたい?」
グラナティオは千代を疑っている。
ただ自分達を惑わせる話をするためだけに正体まで晒したのかと疑問に思っている。
「この試験はどこかの地点で乗っ取られた」
「今の運営は正当なマスターではないと?」
「えぇ。私たちをスカウトしたあの妖精の主じゃなくなっているんですよぉ」
プレーンは彼女の言葉を受け、過去を思い返してみることにした。
自分に仕事を与え、幽霊船の噂発生の間接的な原因となった妖精、ミコ。小さな人が飛んでいる異様な光景をそこにいるだけで産み出す魔法存在。
と、プレーンはそういうイメージしか抱いていないのだが、別に彼女に問題があったようには思えない。
魔法少女に対して真剣に語っていた。無償の人助け、人知れず街を守る者、天の使い、理から外れたナントカカントカ、みたいな。
後半になるにつれプレーンも覚えていないくらいつらつら喋っていたはず。魔法少女に殺し合いをさせるなんて反対するだろう。
よって、この試験をやらせている元凶はミコのマスターとは考えにくいかもしれない。
「マスター入れ替わりが真実だとして、言っちゃっていいの?」
「駄目ですねぇ。たぶん、裏切り者が死んだので試験クリアって通知が来るかかわいそうな一般魔法少女として消されるでしょう」
死ぬかもしれない。そう平然と言ってみせる千代。
プレーンより年上でもまだ高校生なのに、恐くないのだろうか。
じっと彼女の顔を見ていると、可愛らしい唇が怯えて震えていた。
「それで、その、ですね。できれば守ってほしいと言いますかぁ」
自分が裏切り者役であり、死ぬことが予定されていた。そんなことが知らされれば怖いに決まっている。
グラナティオだけは警戒を解いていなかったが、プレーンもギャーサも彼女を半ば哀れむ形で信用しかけていた。
「いいよ、守ってあげる。あぁ、でも魔法で援護くらいはしてね」
「待てギャーサ、いくらなんでも鵜呑みにしすぎではないのか」
「んー、でもなぁ。目が本気だよ」
ギャーサに怯えている子犬の瞳だと言われ、千代は目を逸らした。
グラナティオは納得こそしていないらしかったが、ギャーサの方針に従おうとは思っているらしい。
「何はともあれ。よろしくね、千代ちゃん」
「……ありがとうございますぅ、刈葉さん」
二人の握手でこの場は終わりのようだった。このあとはプレーンが三人を送り届ける時間になるだろう。