魔法少女育成計画abyss   作:皇緋那

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5.作戦

 ☆プレーン・プレーン

 

 その日、無惨にも頭を破壊された死体を見つけてしまった。

 覚えのある身体つき、覚えのある格好の女性だった。

 だから、プレーンはわかってしまったのだ。

 

 魔法少女は目がいい。上空からでも見たくもないものまで見えてしまうこともある。

 

 その日見つけた凄惨な死体は鯨身刈葉だった。

 

 ギャーサが死んだという通知が届けられていたと知ったのもこのときが初めてで、プレーンは受け止められないままあたりを旋回するしかなくなって、グラナティオから至急の連絡がくるまでそのままだった。

 この連絡はギャーサの脱落の通知が来たことについてだろう。

 

 グラナティオには無事を問われた。ギャーサと一緒に居て、巻き込まれた可能性を考えてくれたのだろう。

 プレーンはひとまず自分が無事であるとの文を入力し、それからギャーサの死は本当だと打とうとして一度やめ、刈葉の身体を見つけたと書き直した。

 

 グラナティオの到着は早かった。

 お陰でどうにか決心して着陸できたし、グラナティオと一緒に彼女のもとへ行こうとしたけれど、プレーンは相当な不快感を覚えてしまった。

 魔法少女に変身していなかったらすぐに吐いていただろう。

 

「人間のお巡りさんに任せるしかないな」

 

 死体の処理なんて魔法少女の専門ではない。どうやって殺されたのかなんて関係があってもわからない。

 そう言い出したのはグラナティオだったけれど、彼女は本来E市にいるべき人間ではないらしい。

 

 いては面倒なことになると離れていき、プレーンは植野空に戻ってスマホで110番に通報した。

 何度か生臭さに気分が悪くなったけれど、こらえるしかなかった。

 

 必死で絞り出した「人が死んでます」という言葉に応じて警察がやってくる。

 事情を聞かれて通りがかりに見つけてしまったといい、中学生だからということもあってか怪しまれることもなかった。

 証言に嘘はついていないし、拘束されるのも嫌だったから好都合だった。

 

 たぶん、警察の方も相次ぐ不審死に参っているのだろう。

 熱川モエの事件で世間が騒がしくなっているのもある。

 

 運ばれていく刈葉を見送ったのち、プレーンに変身してグラナティオと合流した。彼女は、プレーンよりもギャーサの死がこたえているらしかった。

 

 元より口数の少ないグラナティオだが、今は話しかけても返事してくれそうにない。プレーンも立ち尽くしているしかなくて、苦し紛れに魔法の端末を30秒ごとに取り出して点けてはしまってを繰り返すしかなかった。

 

 お知らせが2件、裏切り者であるタルタロッサがいなくなったという内容のが来たけれど、恐らくどころかどう考えてもギャーサの死にはパフェクトスイートが関与している。

 ああして近づいてきたうえ、こっちに連絡をよこす気配もない。

 

 でも、あの怯えた瞳は本心からだと思う。

 プレーンは自分でも、パフェクトスイートを、ギャーサを、どう思っているのかわからなかった。

 

 グラナティオは明確にギャーサを仲間と思い、パフェクトスイートを敵と見ているだろう。目が復讐者のそれだ。

 大切な仲間が殺されたら仕返しを考えるのは当然のことなのだろう。彼女がパフェクトスイートを殺したところで、彼女を責められる者はいない。

 

 ヒトツキと呼ばれている彼女が地下のあんな場所を根城にしているとおり、誰も彼女と満足に戦えず、誰もが彼女を凶暴な実験動物かなにかだと思っていたのだろう。

 見世物にできるから捕まえていただけ。動物園のライオンと同じか、それよりもずうっと下の扱いだ。

 

 その彼女と渡り合えたのがギャーサだった。きっと、はじめて友達ができたように思ったんだろう。

 そんな存在を殺されたら憎む気持ちに埋め尽くされるのは、なんだかしょうがない気がした。

 プレーンでいえば幼なじみのあの少年だ。彼に死なれたら、復讐か後を追うことを考えてしまうだろう。

 

 少なくともプレーンには、グラナティオの心をどうこう言える資格はない。

 付き合いのあった魔法少女の死を嘆こうにも、どうすればいいかわからないのだから。

 

 話しかけられないまま一時間以上経って、日が傾き始めていた。

 

 今のグラナティオをひとりにすると危険な予感がする。ただそれだけで、プレーンはお知らせが次に来るまでの時間を無為に過ごしたのだった。

 

 だが、これからの時間は違う。『今まで魔法少女を殺してきた者の情報がある、来てほしい』という、運営からのお知らせとなっているのに、今までと毛色の違ったメールが届いていた。

 

 呼び出しの場所はE市で一番栄えている駅の周辺だという。

 そんな場所で派手な戦闘は起こり得ない。襲うとして、人気が多い場所を指定するのは悪手だと思う。

 つまり運営からの刺客なんかではなく、きっと文面も真実なのだろう。

 

 端末を確認する気力すら失っているらしいグラナティオだったが、プレーンがこのことを告げ、さらにパフェクトスイートの名前を出すと乗り気になってくれたらしかった。

 これで正しいのかわからないが、とにかく今は呼び出しに応じようと決めた。

 

 飛行機を飛ばしてきてみると、すでに人影がいくつかあった。先に集まっていたのは、オルタナティヴとあとふたりだった。

 片方は見たこともない。ラヴリンスやミュウジカの姿はあたりを見回してもなくて、どうやらこの5人で全員のようだった。

 

 16人もいたはずの魔法少女が、これしかいない。既に何人が死んでしまったんだろう。

 

 ラヴリンスやミュウジカには、後で何かしら問われれば答える程度でいいかとひとりで納得した。

 死んだとも言われていないのだから、都合が合わなかっただけなんだろう。

 

 プレーンの知らない魔法少女は印象的な見た目をしていた。

 エルフ耳で、血色が悪くて、軍服のような格好で、魔法少女の中でも目立つ。

 たいていの魔法少女は着替えればどうにかなるかもしれないが、あれは無理だ。

 あれより無理な姿の魔法少女といえば、きっと下半身が人間じゃないとか、いっそのことロボットとか、そんなくらいのもんだろう。

 

 その彼女がプレーンたちのものとは違うデザインの端末を持っていて、彼女が運営からのお知らせだといって呼び出してきた本人なのかもしれない。

 オルタナティヴともう一人がいるまわりに立って軽く輪を作り、隣になったオルタナティヴに「元気でよかった」だなんて挨拶されんがら、話が始まるのを待った。

 

「では、みなさまお集まりですわね」

 

 ラヴリンスやミュウジカはそのみなさまに含まれていないようだった。連絡が行っているのだろうか。

 

 全体の顔を見回して、安心したように頷くと、知らない魔法少女は全員が待っている話を始めた。

 

「まず。ここにいるのは、オルタナティヴ、C/M境界、プレーン・プレーン、グラナティオ、そしてこの私ネクロノーム。

 来ていないのは2名ですの。ま、許容範囲でしょう。今回は重要ですが、来る気配はないので話してしまいますわ」

 

 来ていないふたりは考慮されないという。仕方がないことだろうか。

 ネクロノームと名乗った魔法少女が本題に入る。

 

「今後の試験についてですけれど」

 

 裏切り者として発表されたタルタロッサは、運営に反抗して試験を乗っ取った者だという。

 ブロッサム+、パフェクトスイート、カッシェーラがその協力者でありまだ危険は潜んでいるとも言い出した。

 

「なんでそんなことがわかるんですか?」

 

 オルタナティヴが言った。ネクロノームという名前も顔も見覚えがない。

 第一試験ではラヴリンスとミュウジカが免除扱いということで別枠の表記がされていたが、どこにもネクロノームなどという名前はなく、この印象的な容姿もなかった。見ていたら覚えているだろう。

 人を送り迎えしているのが日常であるプレーンは他の魔法少女より活動範囲が広いことを考えても変だ。

 

「それは、私がミコの元マスターだからですの」

 

 ミコ、その名前は記憶にあった。妖精マスコットだったはずだ。

 

 つまり、元はネクロノームとミコで試験の運営をするつもりが、タルタロッサたちに奪われたと言いたいらしい。

 

「この管理者端末も私名義でして」

 

「もういい、ネクロノーム。重要なのはこれからの話だ」

 

 C/M境界というらしい、長いおさげの子が割って入った。彼女は話を進めたいからこうしている。

 プレーンはよくわかっていなかったが、ここで口を出す勇気はなく、黙っていると話が次に進んだ。

 

「そうですわね、もう決めているんでしょう。どうしたいかくらいは」

 

 C/M境界も、グラナティオほど最近に突き落とされた様子ではないものの同じ瞳をしていた。

 彼女は復讐の炎というよりも、呪いの鎖でくくりつけられているようだった。

 つまり、彼女も殺し(・・)たいんだろう。

 

「ここまで進んでしまったら、もう私じゃ揉み消したりは無理ですの。

 でも、私は事故で行動不能になっていたとして、参加者の勇気ある行動に助けられた。そんなシナリオならどうでしょう?」

 

 試験を突破した後、やむを得ず悪人を倒したという認識であったなら確かに周囲の評価は殺人者とはならないと思う。

 

 でも、プレーンにはきっと真似できない生き方だ。

 誰かを殺すなんて、自分からやろうとするほど追い込まれていない。

 まわりに流されてきただけの植野空にそこまでの強い意思はまだ存在していなかった。

 

「さて、今後の方針は決まりですのね。当分はわざわざ仕掛けず、居所や根城の情報が手に入るまで」

 

 ネクロノームの言葉はそこで遮られた。全員の端末が鳴ったのだ。

 全員がネクロノームを見る。彼女自身も皆と同じように目を丸くしていて、驚いている。

 

「私の操作ではありませんの。自動で送信されるお知らせなんて、ひとつしかないですわ」

 

 そのひとつが問題であった。ネクロノームの言うことが本当なら、この通知は誰かが死んだことを知らせるものだ。

 

「ラヴリンスだ」

 

 誰かが言って、背筋が凍った。

 説明会くらいでしか会ったこともなく、目立った動きもない魔法少女だったけれど、そんな魔法少女が殺されたという事実が怖かった。

 

 ネクロノームはあわてて纏めようと言葉で繕った。

 

「ええと、これは恐らく通り魔的犯行ですの。でも、彼女の端末からこっちの情報が漏れていれば最悪の展開がありえますわね。見つけたらヘタに手は出さないで、報告優先で」

 

 特にグラナティオやC/M境界に言い聞かせているようだった。

 

 集合場所が漏れた可能性を考え、今回は解散になった。

 プレーンはグラナティオに話しかけようと思ったが、彼女は気づいたときにはもう姿を消していて、プレーンは残されてしまった。

 

「ひとりにさせてあげよう?」

 

 背後から、オルタナティヴにやさしく肩を叩かれた。

 やさしく忠告されたような気がする。復讐に首を突っ込んではいけないのだと、諭されたような。

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