魔法少女育成計画abyss   作:皇緋那

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4.美しい人へ

 ☆プレーン・プレーン

 

 ブロッサム+の前にまで誘導してきたネクロノームはというと、やるべきことがあるのだとすぐに退場していった。

 あの魔法少女が考えていることを探るのは、きっとプレーンの仕事ではない。

 

 今果たすべき仕事は目の前の敵を撃滅することだった。

 

「またお会いできましたね、プレーンさん。とっても嬉しいです」

 

 わざわざ中学校の校庭に出没したブロッサム+の出迎えは決して嬉しいものではない。なぜ戻ってこなくてはいけなかったのだろうか。

 この校舎には、きっとプレーンの姿を知っている者が何人もいることだろう。見られたらまずいのではないか。

 

「余計なことを考えなくてもよいですよ」

 

 これから撃ち合う相手に言われても困ったものだった。

 眉を寄せたプレーンに、ブロッサム+はくすりと笑う。

 

「それともこう言うべきですか?

 ここで私を倒さないと、この中学校ごと全滅させてやる……なんて」

 

 冗談を言っている体だったが、冗談には聞こえなかった。悪寒が走り、プレーンの呼吸は早くなる。

 あの校舎には、あの少年もいる。彼は新しい道で幸せになるのだ。それを邪魔させたくない。

 

「みんなが死ぬのは嫌だ。だから、戦うことを考える」

 

「ありがとうございます。それでこそあなたは美しいお方」

 

 何やら褒められたけれど、容姿で言えば明らかにオルタナティヴの方がいいだろうと思った。

 

 ブロッサム+は言いたかったことを言い終えたからか、それ以上は口を開かず。その白の長手袋をした手を胸に当てていた。

 うっすらと桜の色を纏わせ、手が当たっているブロッサム+そのものに魔法が使われている。

 まさか、ドラゴンを湧き出させていたように、量産する魔法なのか。

 

 その予測は半分外れており、もう半分だけは合っていた。

 光に囲われたブロッサム+の身体の一部からは光の柱が伸びた。そして、それを突き破るようにして人間の身体の部位が現れる。

 二の腕からは手が増え、肩からは腕そのものが生える。

 

 膨張が終わらぬうちに、すでにブロッサム+を中核として出来上がった肉塊は動き出していた。

 オルタナティヴやプレーン目掛けてではなく、中学校の校舎へ向けてだ。

 

 魔法少女の身体の塊になったあのブロッサム+なら、校舎くらい叩き潰せる。

 もしそうなったら、何人の生徒が犠牲となるだろう。きっと、百人でもすまない。

 

 全滅させてやる。そんなさっきの言葉を現実にさせてはならない。

 

 プレーンは戦闘機をまず作り、オルタナティヴへ向けて上にでも乗るように叫んだ。

 この機体にはガトリングがついている。これなら効果が多少はあるかもしれない。

 

 攻撃を開始した。魔法少女の肉体が飛び、それでも肉塊に変化はなかった。

 いや、一度抉れたものの他の場所が膨張して補っているに過ぎないが。

 

 オルタナティヴが飛びかかり、拳で腕の群れを次々とちぎり、潰していく。

 だが追い付かない。さっきまで目の前にいたはずのブロッサム+の姿はいっこうに見えず、ただ枝分かれを繰り返すのみだった。

 

 脚でも、腕でも、胴でも、首でも、何を切り離してもひたすら不気味に大樹のごとき巨体を取り戻すばかりだった。

 もはや魔法少女と呼べる相手ではない。ドラゴンを増やしていたあのときの妨害よりずっと厄介で、しかも避けて通れない問題だ。

 攻撃してくるオルタナティヴでさえも生えては伸び続ける腕で呑み込んでしまおうとする。

 

 プレーンは思わず、ただの戦闘機を乗り捨て新たな機体を作って空中で乗り換えた。

 

 歴史の話で聞いたことのある機体で、たしか零戦とかいうはずだ。

 爆撃によって大きくダメージを与えれば、すこしは元に戻るまでに時間が必要になるだろう。

 その時間があればオルタナティヴは脱出できる。

 

 なるべく校舎にまで損害が及ばないよう、なるべく遠くから爆弾を投下し、呑み込まれかけていたオルタナティヴの道を拓いた。

 

「ありがとう、危なかった」

 

 零戦に取りついたオルタナティヴの礼には笑顔で返した。

 それから、まだまだ向かっていこうとする彼女に話しかけた。

 

「このままじゃキリがない」

 

「でも戦わなきゃ」

 

 そりゃそうだ。こんなところで諦めていたら、きっと、ではなく確実に空のクラスメイトが死んでしまう。

 空のことをくうちゃんと呼んでくれる彼女たちが、魔法少女とも血飛沫とも無縁なはずの彼女たちが。

 

「だから、ひとつ提案がある」

 

 そう聞いたオルタナティヴは驚いた顔をしたのちに、さっきの強がる表情ではなく真剣な眼差しでこちらを見るようになった。

 

「聞かせて」

 

 プレーンは落ち着いて息を吸い、考えを言葉にする。

 

「まず。オルタナティヴはあの周りをできるだけ削ってほしい」

 

 本体の部分を倒せばあの膨張も止まり、この試験のことも収まるはずだ。そこを一撃で決める。

 

「この機体で攻撃するから、オルタナティヴは全力の一撃で大丈夫。お願い」

 

 とても作戦と呼べる代物ではなかったが、いま出来るのは自分がどうしたのかを共有し、状況を打破できるかもしれない可能性に賭けること。

 そして、彼女にも乗ってもらうことだ。覚悟は決まっている。

 

 先行したオルタナティヴが振りかぶり、上半身にあたるパーツたちを吹き飛ばしたのを見て、プレーンは零戦を動かした。

 肉の塊に透明な戦闘機が急接近していく。近くへ、近くへと、大きく凹んだ部分目指して突っ込んでいく。

 機体が触れようとしても、プレーンは勢いをゆるめず、むしろ加速させた。

 

 弾丸と化した機体は肉塊と衝突。先の校庭での衝撃よりも大きな衝撃を起こす。

 が、今度は衝撃を吸収して周囲の代わりに弾け飛ぶものがある。

 

 爆発がブロッサム+がいるであろう中心へ突き刺さっていき、衝撃は肉塊の表層を内側から弾けさせ、枝分かれの源流になった魔法少女の部分を露出させ、さらに傷つけていった。

 

 ブロッサム+の魔法によって出現したものはちぎれたり死亡したりと機能を停止してしまうと消えていくらしかった。

 が、プレーンの目の前には腕が一本転がってきた。消えないということは、あれは本体だろうか。

 

 プレーンは周囲を見渡そうとして、思い通りに身体が動いてくれないとはじめて知った。

 首を回せるように身体を浮かせられるほどの体力が残っていないのかもしれない。

 

 それもそうだ。ブロッサム+をあれだけ壊した爆発を、最も近くで受けたのだから。

 本当ならとっくに死んでいるはずだ。特攻をかけ、生きて帰るなんて、どれだけの耐久がある魔法少女ならできるだろうか。

 全身が動こうとしてくれないのは当然のことだった。

 

 言うことを聞かないくせして、身体中が痛む。

 目の前に落ちているものが手袋に包まれたブロッサム+の腕だと判断するので精一杯だ。

 

 プレーンが作った零戦には元から脱出口が用意されていなかった。

 自分を犠牲にしてでも高威力の攻撃を叩き込み、攻略してやろうととっくに決めていたのだ。

 

 自爆によって、ブロッサム+はあの肉の塊ではいられなくなったか、あるいはそうではなくてもこの腕を見る限り大きな損害を被ったことだろう。

 

 プレーンは誰かの役に立てている。

 流されてこんなところまで来てしまったけれど、ブロッサム+を止める手助けができた。

 たとえ早計であっても、そう思うと心地よかった。

 

 ノイズまみれの聴覚が僅かにオルタナティヴの声を拾っている。プレーンのことを呼んでくれているようだ。

 そちらを向くことはできないけれど、彼女はプレーンを思ってくれている。

 

 プレーンは幸せ者だ。ぼろぼろの表情筋で笑顔をつくってどうにか安心させてあげられないかと思った。

 

 薄れていく意識の中、自分の身体が浮いていくように感じた。いや、浮かされている。

 首筋にすこしだけ誰かの感触がある。オルタナティヴだろうか。

 

 プレーンはできたばかりの仲間、次に戦う魔法少女である友人のことを思い浮かべ、自らの首があり得てはいけない方向に曲げられたと気づくのに一瞬のタイムラグがあった。

 

 最後に浮かんだのは、あの少年のことだった。

 もしかしたら、植野空は彼に恋い焦がれていたのかもしれない。

 

 

 ☆オルタナティヴ

 

 プレーンの無謀な自爆攻撃によって、ブロッサム+を包む肉は剥がれた。

 が、片腕を失い、自らの身体から生えていたいくつもの枝葉を奪われてなおも、あの魔法少女は立っていた。

 

 爆風が晴れたかと思うと、辛うじて生き延びていたプレーンに近寄り、その首を折ってしまったのである。

 しかも美しい人だなんだと呟きながらだ。

 

「やっと見つけた、美しいもの。平凡な少女のちっぽけな勇気と、その末路だなんて、気づけませんよ。でも、最期に出会えてよかった」

 

 事切れて、元の少女に戻ってしまったプレーンを眺め、恍惚の表情を浮かべている。

 

 こうなってしまったら、一刻も早く彼女の身体を確保しなければならない。

 死因と現在時刻の時間の差だけ、魔法を使っているオルタナティヴは行動不能になるからだ。

 

 逃げるそぶりも見せない相手を殺した経験なんてなかったのに、初めての受け入れられる死は腹部を貫いたことによるものだった。

 ブロッサム+だった少女は腹部に大穴を開けて、残る部位も散り散りになっていった。

 

 ブロッサム+も、またこの学校の生徒だったらしい。変身前の制服が織姫の着るものと同じだった。

 がが彼女に構っている暇などない。ここで死んでいるのは、どちらもこの学校の女子生徒だ。目撃されて言いふらされたことで大事になる可能性は高い。

 それを避けるため、迅速に処理をするしかない。

 

 プレーンだった少女のぼろぼろの身体から皮膚を拝借し、すぐに離脱する。

 

 プレーンの死は織姫のせいだ。あんなことをプレーンが考えていると推測できなかったオルタナティヴが悪いのだ。

 

 まだ生暖かい植野空の体組織に、オルタナティヴは2度口づけをして魔法を起動しようとした。

 

 だが、何かが起きてはくれなかった。

 目の前の光景は血がついた皮膚の欠片のままで、オルタナティヴは過去に飛んでいない。

 

 オルタナティヴが呆然としていても、返答はなかった。カッシェーラを倒したC/M境界とグラナティオが到着するまで、悲しい世界に変化はみられなかった。

 

 

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