魔法少女育成計画abyss   作:皇緋那

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第8章 食卓で嗤う
1.ミュウジカinブッチャー


 ☆ミュウジカ

 

 真愛夜をはじめて食べたあとでも、博音架菜はいままでと変わらずに過ごして行こうと思っていたのだが、通勤の電車の中でふと思い立ってしまったことがあった。

 

 母校の最寄り駅に近くなったときのことだ。

 架菜と真愛夜が中学生だったころは、親の都合でE市の中学校に通っていたと思い出して、なぜだか寄ってみたくなった。

 

 魔法の匂いでも嗅ぎ取ったのか。妹に関係なく過ごせていた学校生活に今の自分を重ねているのか。

 自分でわかるはずのないことだ。

 

 ただひとつ確かなことは、今の架菜がとても晴れやかな気持ちでいることだ。

 博音架菜の人生はここから始まるのだ。

 

 いつもは使っていない小さめの駅で降りた。確か、こっちの駅にある噂は幽霊タクシーだっただろうか。

 乗り過ごしそうな人たちが多く通っていく通りを潜り抜けて、架菜は誰もいない場所でミュウジカになる。

 

 あとは中学校まで遠くはない。急ぎの用事は仕事を休めばなんにもないのだ。ゆっくり行ってもばちはあたらない。

 そう思って、人目は多少気にしていこうと思ったのだが、思った途端に目的地の方向から爆発音がした。

 これはミュウジカを急かしている音か。

 

 出迎えの祝砲だと笑って速度をあげると、すぐに学校まで着いてしまった。

 途中ですれ違った魔法少女らしい影もあった。

 魔法少女が減った今となっては貴重、かもしれない。

 

 ラッキーだったけれど、ミュウジカは途中で止まるのんびりした性格でもなく、向こうも急いでいて、追いかけるほど気にしてはなかった。

 

 学校に着いたら、校庭のまわりを覆うようにある森の中から様子を見た。

 

 爆発の原因と状況を見る。逃げる魔法少女がいれば、追う魔法少女もいるんだろう。

 きっとラヴリンスとも、博音真愛夜とも違う味が楽しめるはずだ。

 そうしたら、また骨の髄までしゃぶりつくしてやろうと思うと、ミュウジカの口元はゆるんだ。

 

 校庭には大きなクレーターがひとつあり、屋上にはぼろぼろの魔法少女の影がふたつほど見える。

 満身創痍なら襲えばなんとかなるとも言えるが、2対1になれば話は別かもしれないし、この状況で不意討ちを成功させるのは難しいと思う。

 あの傷が戦闘の跡なら、速度には頼れない。後回しにしよう。

 

 それよりもずっと魅力的なものをミュウジカは数秒で見つけた。

 

 あれは異常に目立つ。人でできた樹だなんて悪趣味なオブジェなんてはじめてみた。

 あれならミュウジカの魔法を使うまでもなく何年でももってくれそうだ。1本くらいは分けてくれないだろうか。

 

 あの肉の樹は校舎を襲おうとしているようだった。あれを止めるのはミュウジカの管轄にはどう考えてもならない。

 まず戦うのは好きじゃないし、思えばこの学校での生活にだって不満も憤りもあっただろう。

 

 テストの結果だけで順位をつけられ、いくら頑張っても両親の言う「妹に教えられる」レベルにはなれなかったこともそのひとつだ。

 博音架菜の人生を払拭し新たなスタートを迎える名目なら、いくらでも壊していい。

 少なくともミュウジカの認識はその程度だった。

 

 ただ眺めてだけいると、何かが突っ込んだのか衝撃が起こり、人でできた樹は無惨にも弾けてしまった。

 千切れた破片はその場で消失していき、ミュウジカはちょっぴり残念なきもちになる。

 いい加減真愛夜の味だけでは物足りなくなってくるかもしれないと心配していたため、あの樹ならいい刺激になれると思ったのだが。

 

 先の弾けとんだ場所に、目を凝らすと少女が三人見えた。説明会の時にみかけた覚えがある。機長と、桜と、セーラー服だ。

 それぞれなんという名前だったかまでは思い出せなかった。そういうのを覚えるのはラヴリンスの役目で、もういないのだからしょうがにことなのだ。

 

 見ていると、機長の首が折られ、その実行犯であるすでに片腕を失っていた桜の魔法少女がセーラー服のに腹をぶち抜かれて死んだ。

 

 自分以外が人を手にかけるところはいままで目撃したことはなかったが、別に面白くも新鮮でもなかった。

 本当に新鮮だったのは、桜の少女の遺骸のあるところに明らかに腹をぶち抜いただけでは足りない量の肉が現れていることだった。

 

 なるほど、妊婦の魔法少女を殺すとこうなるのか、と思った。

 

 セーラー服の魔法少女は逃げていなくなってしまった。

 死体に近づきたいと、カラスよりも早くに急いでいった。

 

 まずは桜の少女の肉片を口にいれる。落ちていたものであるせいで、砂がじゃりじゃりと音をたてる。

 鳥の砂肝を食べているみたいだという感想にしよう。架菜はまだ食べたことのないもののため、砂肝の味は想像の域を出なかったが。

 

 次はどちらにしよう。桜の少女でも、もっと腹部周辺なら違う持ち主のものかもしれないし、機長に変身していた少女の味もみてみたい。

 悩みどころだったから、存分に悩んだ。数分唸っていると、ちょっと幸せだった。

 真愛夜に好物を取られる心配がないのだ。

 

 やっぱり、好奇心は大事にしたかった。

 先に味見するのは機長の少女だ。彼女のところへと移動し、さっそくその腕に触れた。すべすべだ。

 

「オルタナティヴはどこへ行った」

 

 視界に影が射した。また誰か魔法少女が来たらしかった。

 しかもちゃんと生きている。顔を上げると、傷だらけで口元に血の跡があるのに、しっかりと立っている拘束具まみれの魔法少女がそこにいた。

 ミュウジカは疑われているのだろうか。

 

「これはお前がやったのか」

 

 言葉には悲しみと憎しみがこもっている。

 だがやってないのは事実だ。素直に首を振る。

 

「なら、こいつらの知り合いか」

 

 そうとも言えない。通りがかっただけだ。

 そういうと、相手はなぜか納得してくれたようで、隣に屈んできた。間近で見れば見るほど首筋が綺麗だ。

 

「残った魔法少女は5人しかいない。お前は、ミュウジカか」

 

 これにも素直に頷いた。他の魔法少女を騙るメリットはいま特にない。

 相手がこちらを同類だと思ってくれているなら、騙るまでもないだろう。

 

「お互い親しい相手を亡くした身だ。相手のぶんまで生き延びよう」

 

 こうして死に直面した遺骸のすぐそばで、彼女はそんなことを言った。

 ミュウジカはまた頷き、ラヴリンスのぶんまで生きてやろうと思った。

 

 無論、彼女を殺したのはミュウジカだ。

 彼女にずっと縛られてきたぶん、自由を謳歌してやろうという意味での、相手のぶんまで、だった。

 

「ここに居たら人が来る。さっきみたいに疑われるのは嫌だろう」

 

 今度は殺人鬼というイメージが植え付けられる。そんな状況は嫌だ。

 でも、まだ味見は終わっていない。もう少しここにいたいと考え、それを告げた。

 

「そうか。見送りたいのなら止めない。私だって、そいつのこと……」

 

 なにかをいいかけたようだが、やめてしまったらしい。悲しそうな表情を繕おうともせずに去っていってしまった。

 寂しい背中が遠ざかっていく。さすがは戦う魔法少女、ミュウジカより手負いでも速くて、すぐに見えなくなった。

 

 彼女がギャーサだったかグラナティオだったか、ミュウジカは思い出せないまま別れることになった。

 

 にしても、あの首筋はよかった。歯応えもきっと架菜好みなことだろう。

 今度かじらせてはくれないだろうか。いや、お願いしてもダメに決まっているか。

 

 さて、ミュウジカはそろそろメインディッシュの味をみなければ。

 足元に転がっているすべすべの少女の肌を撫で、その腕を持った。一部、ちぎられて持ち去られたような痕がある。

 

 せっかくだからそこをたべさせてもらおう。ぜいたくにも直接かぶりつき、よく噛んでたべる。

 

 この少女はどちらかといえば肉そのものというか、よけいな味付けがなく食べやすかった。

 もう片方の味をみたら、持ち帰らせてもらうのもアリだ。

 

 お次は、桜の少女の腹にしまわれていなければならなかったもの。

 まずさわってみると、体液のせいですべすべだとは思えなかったかわりにやわらかかった。

 

 等しく腕の部位を食べようとして、どこがどこか確認に手間取っていると、遠くから声が聞こえ始めた。

 人が来たらしい。急いで一口かじり、食感はやわらかいくせに特においしくなく、飲み込む気になれずそこらへんに吐き捨てた。

 

 持ち帰るならあの機長の少女がよかったという感想を抱き、名残惜しいながらも死体から離れ、さっさと撤収してしまった。

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