魔法少女育成計画abyss   作:皇緋那

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3.五線譜の上で

 ☆C/M境界

 

 カッシェーラとブロッサム+を倒した日から、ネクロノームと連絡がつかなくなった。

 

 思えば、あんな相手を信用した方が悪かったのだろうか。

 現在は魔法の国に戻っているのか。相手の所在がわからないため、どうしているか知ることは叶わなかった。

 

 パフェクトスイートは恐らく臆病だ。C/M境界は彼女を追い回したからわかる。

 つまり、本来であれば殺人者がいなくなり犠牲は増えないはずだ。

 

 それが、新たにグラナティオという人死にが出てしまった。

 このことをネクロノームに問わなければならないのだ。

 

 手がかりもなく街を巡り、テレビ画面から流れる人死にの話を聞かないよう集中し、それでも相次ぐ不審死のニュースが目に入る。

 大学生も、中学生も、小学生までもが犠牲になっている。こんなことがあっていいはずがなく、C/M境界は震えるほどに強く拳を握る。

 

「誰かお探しですの?」

 

 目的の人物らしき声がした。

 振り向くと土気色の肌をしたエルフの兵隊という姿の少女がいる。間違いなくネクロノームだ。

 

「そうだよ、お前を探してた」

 

「あら意外。パフェクトスイートさんではなく、私?」

 

「聞きたいことがある」

 

 ネクロノームの頬がぴくりと動く。あれは、こちらを快く思っていないときの表情だ。

 つまり、知られたくないことがあるとみていい。

 

「黒幕は死んだはずだ、なのになぜグラナティオが殺される」

 

「殺したのはパフェクトスイート以外ないでしょうに、わざわざ聞くんですのね」

 

「あぁ、だってあいつはやってないからな」

 

 彼女による復讐に、動機は十分なようで十分ではない。

 カッシェーラを殺したのがグラナティオなのは目の前で見た、間違いない。

 

 しかし、C/M境界にはパフェクトスイートが復讐に燃えるような人間ではないと思える。

 カッシェーラのまっすぐさもあっただろう。それに、ブロッサム+に命じられることはもう二度とない。

 

「まぁ、彼女はやっていませんの。意外に鋭いですのね」

 

 全てを知っているかのような反応だ。サスペンスものだったなら、ネクロノームが自供して終わっていたかもしれない。

 だがこれは現実で、まだ事件は続く。

 

「やったのはミュウジカ。あの件に関しては、我ながらひどい子を魔法少女にしたもんだと思いますの。

 だって、私がわざわざ触れずとも凶行に走ってくれるんですもの」

 

 ミュウジカは確か、ラヴリンスと一緒にいた魔法少女だったか。

 ラヴリンスが死んだことで、精神を病んだのか。

 

「いいえ?彼女自ら妹を殺したんですのよ」

 

「え……?」

 

 C/M境界には理解ができなかった。ラヴリンスとミュウジカが姉妹だった、これはいい。

 ねむりんとC/M境界だって姉妹だった。しかし、その相手を自分の意思で殺す?

 そんなことがあり得るのか。あり得ていいのか。

 

 姉とは三条煙の心の拠り所であり、姉もまた持ち前のマイペースさで煙を癒してくれていた。

 だから、訣別なんて考えられないし、姉妹なら一緒に生きていこうとするものだと、思考が固定されていた。

 

 ネクロノームの言葉に嘘はない。

 彼女はわざわざ管理者端末の画面を見せてきた。そこには博音架菜と博音真愛夜の身分証明書の画像が表示されており、ラヴリンスには面影があった。

 

「やっぱり。楽譜通りより面白くなるんですのね」

 

 くすりと笑い、ネクロノームは両手で窓を作ってみせた。問い詰めようとする顔まで、楽しそうに見ている。

 

「何を言っているんだ、って顔ですのね。当然、私も試験官なりに筋書きは作っておいたというだけですのよ」

 

 元から筋書きを用意していた、とは。

 誰かが死ぬことまで想定して魔法少女を集めたということか。

 

「あぁ、ええと……そうですわ。あなたには教えた方がいいでしょう。もちろん、人死には大勢の予定でしたの」

 

 C/M境界は抑えきれずに吠え、周囲のモニターに魔法を行使しネクロノームに叩きつけようとした。

 しかし、簡単に対応される。地面に激突した液晶が割れたのみでネクロノームに影響はなかった。

 

「話は最後まで聞くべきですのよ?」

 

 今までまったく関与しようとしていなかったためにわからなかったが、この魔法少女は前線に立って戦える。

 メトロノームを抜きにしても身体能力があり、感情だけで動いて勝てる相手ではない。

 

 頭でわかっているつもりでいても憎悪は溢れてくる。ネクロノームの長い耳が、あの憎き音楽家と重なり、歯を強く食いしばる。

 

「そう焦らないでくださいまし。あなたはちゃんと主役に選んでありましたし」

 

「んなことは問題じゃない」

 

「出自が魅力的ですわよね、クラムベリー最期の試験における最初の脱落者、その妹とは」

 

 抑えなければいけない。言っても言葉だけに留めなければ。

 いくら憎らしくても、ネクロノーム相手に勝てるだけの材料もなく、孤立無援のC/M境界は耐えるしかない。

 

 三条合歓をお前が語るな、と吐き出しても、攻撃に移れない。

 唇を噛み、ネクロノームの減らず口を聞いているしかない。

 

「あぁ、でも意外でしたの。あんな戦わずに死んだ気力も頭もない魔法少女の妹が、こうして殺意を剥き出しにしてるなんて。あぁ、こわいこわい」

 

 だが、合歓を貶められることには耐えられなかった。

 今度は飛びかかり、持っている魔法のメトロノームを狙う。

 

 すぐに察されて蹴りで対処されてしまい、C/M境界は簡単に吹き飛ばされた。

 道の真ん中に叩きつけられ、アスファルトが心なしかへこんだような感覚がした。

 

 同時に、接続が無理矢理切られぶつんと鳴ったに近い感覚もあった。パフェクトスイート戦での傷が祟ったのか、下半身が言うことを聞いてくれなくなっていた。

 

「こんなにも面白いのに、ここで切り捨てることになるなんて。非常に残念ですの」

 

 そうは口で言っていても、感情がこもっていなかった。

 本当に殺す気でいるわけではないのか、それとも残念だと思っていないのか、ネクロノームはその答えが出る前に頬からひとすじ血を流した。

 

 視線がC/M境界から逸れ、頬にできた傷の原因を見た。

 ネクロノームに傷をつけられるのだからもちろん魔法少女だ。

 

 銃弾がかすったらしい痕はオルタナティヴをはじめどの魔法少女とも重ならない。魔法の国が嗅ぎ付けでもしたかと思うと、立っていた魔法少女には見覚えがあった。

 

「ごめんなさい。邪魔させてください」

 

 魔法少女が構えていたのは引き金が割れているプラスチック製の銃だ。元は子供たちが水をかけあうために使っていた玩具だろう。

 その魔法少女の魔法によって、使えなくなったものが強化されていた。

 壊れた水鉄砲でも、本物の拳銃を越える威力を発揮してくれる。

 

 それこそ、ネクロノームの頬を傷つけられるほどに。

 

「ミルキーシューティング!? 何故ですの、確かに死亡の通知は届いてましたのに!」

 

 ネクロノームもC/M境界も、その魔法少女を知っていた。だからこそ、戸惑いが生まれる。

 ミルキーシューティングは本来ならすでに死んでいるのだから。

 

「話はあとです。行きましょう」

 

 C/M境界の手がとられ、ミルキーに背負われた。

 ネクロノームの心の隙があるうちに駆け出し、遠ざかっていく。

 

 幸い追ってくる気配はない。荒い運転だったが、下半身がまともに動いてくれないC/M境界にとっては救いだった。

 

「あなたを囮にしました、ごめんなさい」

 

 まずはじめに、ミルキーは謝るところから始めてきた。

 何を言い出すのかというと、ミルキーはもう一度ごめんなさいと呟く。

 

「すぐ助けなければいけなかったのに、ネクロノームから情報を引き出すためにだなんて言い訳して、飛び出して行けなかったんです」

 

「それは助けてもらった私が文句を言えることじゃないだろう」

 

 ミルキーがいなければ、もっとネクロノームに好き放題されていたに違いなかった。

 だったら、感謝はしても文句を言う筋合いはないし謝られることもなかった。

 

 すこしのあいだ背負われていて気づいたが、ミルキーは目的をもって動いているようだった。

 終われていないのに駆けているのではなく、その場所へ急いでいる。

 

 E市に拠点を持っていないC/M境界にはどの住宅街も見覚えがなく全て同じにしか見えなかったが、ミルキーはじきにわかるといった。

 

 突然現れた彼女を信用していいのか。そんな思考が脳裏をよぎる。

 いや、C/M境界のこの身体では、逃げようにも逃げられない。丸一日は休息が要る。

 

 ミルキーが立ち止まり、C/M境界は投げ出されかけた。立ち止まった場所は何の変哲もない民家だ。

 表札には「虹ヶ路」と書かれている。これが名字か。珍しいというか、派手で目立つ名字だ。

 いったい虹ヶ路家に誰がいるのかと思い、ミルキーに背負われたままで呼び鈴が押されるのを眺めていた。

 

 ミルキーを迎えたのは中学生くらいの少女だった。

 

「ごめんなさい、いきなり押し掛けて」

 

「ミルキー? どうして……」

 

 少女はミルキーの名を知っていて、かつ生存には驚いていない。

 来訪してきたほうに驚いている、という風だった。

 

「あなたの力が必要なの、虹ヶ路織姫。いえ、魔法少女『オルタナティヴ』」

 

 このとき、少女がオルタナティヴの正体であることを知り、目の前でその変身を見た。

 

「わたしの力は……」

 

 変身した後の姿でも、オルタナティヴはうつむいていた。

 C/M境界には理解が追い付かず、頭が状況についてきていなかったためその理由を推測することはできなかった。理由は本人の口から語られる。

 

「わたしの力は使えない……魔法が発動しないの」

 

 オルタナティヴの魔法は『誰かを助けられる』もので、時を遡り生存を確定させるらしい。

 説明を聞いてもよくわからなかったが、それが発動しないという。

 

 ミルキーの目的に必要なものなら、目的は果たせないということになる。

 

「魔法をもう一度使うために戦うんです」

 

 ミルキーの言葉は予想外だったのか。オルタナティヴの表情は変わった。

 

「どういうこと?」

 

「あなたの魔法は、ネクロノームによって封じられている可能性が高いということです」

 

 C/M境界は置いてきぼりにされたまま、話が進んでいく。

 しかし、人を助ける魔法があるのなら、使わない手はない。

 

 それに。ネクロノームを許すことはできなかった。

 はじめから人を死なせるつもりでこんな試験を始めた者が、善良なはずがない。

 

 この日、三人の魔法少女は手を取り合い、動機は違えど過去のために戦うと決めたのだった。

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