☆C/M境界
「ただいま」
「お帰りなさい」
今日もミルキーシューティングの帰りは遅く、また成果も無いようだった。
C/M境界はいま、ミルキーシューティングへと変身する羽々木星の家に住まわせてもらっている。
三条の家にはまだ戻れないだろう。熱川モエの件について、三条煙は指名手配されているも同然なのだった。
数日前のことだった。
C/M境界は久しぶりに連絡をよこしたオルタナティヴのことを心配し、ミルキーを連れて捜索に出ようとしていた時のことだった。
見覚えのない魔法少女に見つかって、保護されたのだ。
E市での惨劇は終息したと、魔法の国からの使者らしい魔法少女に告げられた。
試験官のネクロノーム、妖精のミコ、その双方からの連絡が途絶えていたことを理由に、候補生たちの保護あるいは討伐を使命として派遣されてきたという。
C/M境界とミルキーが話の通じる魔法少女だと知ると安堵の息を吐いていて、お人好しなのが読み取れた。
C/M境界とミルキーシューティングはそれでよかったのだが、オルタナティヴはそうではなかった。
彼女はトランホルンを二度も亡くしたように思われた。
彼女は博音家の奥でぼうっとしていらしく、そこにあったのは4つの死体だった。新鮮なものがふたつに、やや古いものがふたつだ。
なかには消息を絶っていた菅原渦や苺坂千代も含まれており、パフェクトスイート、トランホルン、ラヴリンス、そしてミュウジカの死亡が確認された。
魔法少女は17人もいたはずなのに、気付けば生きているのはたった3人しかいない。
オルタナティヴは見ていられないほど沈んだ顔でいて、ミルキーも慰めになど行かず、C/M境界にはそんな資格もない。
こうして、E市の惨劇は幕を下ろしたという。
全容を知るものはどこにもいない。不審死は不審死のままで、人類の歴史と変化のない日常に埋もれていくのだろう。
それでいいのかもしれない。たった数人の犠牲では、世界が変わるなんてことはない。
そう思っていると、少しだけ楽に生きていける気がした。
今に至るまでには、3人が保護されたほかにもうひとつの出来事があった。魔法の国からの処遇の決定である。
正式な魔法少女とは認めるが、ある程度の監視がつくのだという。これは当然のことだ。
音楽家の子供たちを危険視するあまりに起きた事件も世の中にはある。
それに、かの魔法少女狩りのように好き勝手に動かれては困るというのもある。
特にオルタナティヴは容姿をそっくりに似せていたし、C/M境界だってねむりんを思わせる姿のはずだ。
ただのかわいそうな少女と片付けるには不穏すぎたのかもしれない。
C/M境界にとっては、勿論不都合だった。犯罪者の始末が認可されるはずがない。
人助けをさせるのではなく、暗殺者を育てることになってしまう。
かといって黙っているのも性に合わず、普通の魔法少女活動をすることになってしまった。
不都合といえばもうひとつ。
三条の屋敷が使えない状態であり、寝泊まりをミルキーと共にしなければならないことだった。
ミルキーと一緒なのが嫌なのではないし、ミルキー自身に居てほしいと言われたのだから断れなかったことだ。
でも、幼少期の思い出が詰まった自宅に戻ることができないのはつらかったし、お隣の娘が魔法少女関連に巻き込まれていて人々が混乱しているのに居候させてもらうのは気が引ける。
それでも雨風を凌げる場所であり、人肌のぬくもりも与えてくれた。
ミルキーは毎日のようにアンチルを欠片だけでも見つけようと必死になっていて、帰ってくるのは遅かったけれど。
ミルキーは出かける目的をC/M境界に話そうとはしてくれないし、話してもらおうとも思えない。詮索せずともきっとアンチルのことだと予想がつく。
仮に欠片を見つけられたなら、彼女はオルタナティヴのもとへ行くのだろう。
オルタナティヴは何をしているのだろうか。彼女とは連絡がとれず、いくら掛けても返信はなかった。
☆オルタナティヴ
自分の無力さを知った。自分の魔法だけでは、ほんとうに救えたとは言えないのだと思い知らされた。
だから、オルタナティヴは考えなければならなかった。これからどう生きていくのか、あるいはどう死んでいくのか。
世界から悲しみを絶つことはきっとできなくて、魔法少女であっても一個人は一個人でしかないちっぽけな存在で、だったら何ができるのだろうか。
魔法の国からは、研究部門から話が来ていた。これほどの好機はない。
自分の魔法とは違う方法で現実を変えることができたなら、何度だってやり直せる。
オルタナティヴの時間は有限であるが、機械なら時間はほぼ無限にある。
オルタナティヴについた監査の魔法少女に話を通してもらい、研究部門に行かせてもらえるよう頼んだ。
話のわかる魔法少女がついてくれたことは、きっと幸運だった。
オルタナティヴが会ったのは、ペンで真実か虚偽を確かめることができるらしい魔法少女だった。
副部門長なのだと言われ、緊張し、別に緊張しなくてもいいと言われた。
副部門長が言うには、死に干渉できる魔法少女は非常にレアで、死人を生きていることにできる魔法の持ち主ともなればたいていの人物は欲しがるだろう、とのことだ。
一番欲しがっているのは彼女らの研究部門なのだろうが、そのぶん見返りも多く用意してくれているはずだ。
オルタナティヴの言う通りに動いてくれる可能性だってあるし、後ろ楯がないよりもずっと動きやすくなるに違いない。
オルタナティヴは迷いなく研究部門を選び、協力を申し出た。
ミルキーシューティングやC/M境界との連絡は断っている。
オルタナティヴはこれから事を起こしていかなければならない。
だったら、彼女らを巻き込むわけにはいけない。
あの事件を一緒に生き残った、たったふたりだけの魔法少女なのだから。