新釈聖剣伝説   作:そんなバナナ

2 / 8
其の一

 

常勝の獅子王アーサー・ペンドラゴン。

ヴォーティガーンとの王座を掛けた戦いやローマ皇帝との決戦。そして最期の時となるピクト人との死闘など彼の人生は闘争そのものであるといっても過言では無いが、実は彼が初めて剣を握ったのは選定の剣を抜いた時が最初だと言うことは俄かには信じられない事実である。アーサーが住んでいた当時の町では馬上試合などの武勇を競う大会は数多く開かれていたものの騎士の息子でも無く町のパン屋の跡取り息子であった彼にはその様な武芸の数々はあまり縁の無い物であったらしく専ら大会の見物人相手に商売をしながら試合に出場していた親友のケイ卿の応援をする程度であったという。

 

領主の息子であるケイ卿と後に全ブリテンを統べる王となるとはいえその時はまだ平民であったアーサーは2人が10歳になるかならないかの時には友情を育んでいたらしい。

 

今回はそれを含めたアーサー・ペンドラゴンの生涯、その最初の部分をお教えしよう。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

先代の王ウーサー・ペンドラゴンの家臣であったエクター卿が治める地に住み、幼い頃からおよそ平民には相応しくない純金のごとき髪とまるで王家に連なるもののような気品漂う容姿を持ち13を過ぎる頃には町一番の色男と呼ばれるようになった青年アーサー、それが今世の彼である。

今世という言葉で察しのいい人は気が付いたと思うがアーサーはいわゆる前世持ちと言うやつなのだ。

 

前世持ちと言っても別に『かつて世界を恐怖に陥れた魔王を討伐した勇者で世界に危機が訪れる度に転生する宿命を持っている』とかそんなカッコいいものではなく唯の人間であった筈であるのだが、他の知識は覚えているのに残念ながら自分の事は詳しく思い出せないのだ。

 

アーサーが自分が転生者である事を認識したのはちょうど6つからそこらの時、町で突然現れた選定の剣の事を耳に挟んだ時のことであった。その時彼の頭に鋭い電流が走り前世に身に付けた知識が蘇ってきたのだ。

 

選定の剣と言ったらそこから導き出されるものはただ1つ『アーサー王伝説』である。

 

アーサー王伝説とは先王の子であるアーサー王が選定の剣を抜く事によって王となる話。そして彼の今世の名はアーサーであり、町のしがないパン屋の跡取り息子であるが実はパン屋夫婦の実の子ではなく、赤ん坊の時に拾われたと言う話を近所の意地悪な人間から教えられていた。これはすごい事である。突発的に思い出した前世によって『アーサー王伝説』を知ったアーサーはもしかしたら自分は先王の子であり王となる人物なのではないかと浅はかに考えた。つまり剣を抜き、王になろうとしたのだ。

 

しかしながら住んでいる町から剣が現れたロンディウムまでの道のりは遠く簡単に行けるものでは無い。この時代庶民で住んでいる町から外に出る人間は少なく、当然家族旅行なんていうものも存在しない。何度か1人で行くことも考えたがまだ子供の体では飛び出していっても途中で力尽きることは間違いないだろう。そのためアーサーは成人してから何やかんや理由をつけて旅に出てそれから行く事にしたのだ。

 

結果的にその判断は正しかったといえる。何故ならこの世界はアーサーが主人公の『アーサー王伝説』などではなかったからだ。

アーサーがその事に気が付いたのは今から10年程前、何時ものように将来王になる予定のアーサーにとっては全く意味の無い退屈極まりないパン作りの修行を1人で店の裏の調理場でやっていた時のことであった。

 

やる気がないと言ってもそこは腐ってもパン屋の跡取り息子、何度も見ていた父や母の作業姿は目に焼き付いておりアーサーの作るパンは中々の出来であるため一通りコネ終わったパン生地は窯に入れると中々良い匂いを辺りに漂わせていた。

 

焦げることもなく綺麗に焼けていざ試食と言う時にアーサーはふと窓の外から視線を感じることになった。その視線の持ち主は当時はまだアーサーと比べて半分ほどの年齢であろう金色の髪を後ろに纏めた可憐な少女だった。

 

一から自分の手で作るパン作りは中々体力を使う。となれば食べなれた味なしパンでも育ち盛りの空きっ腹には極上のものだ。当然簡単に手放すと言う選択肢はない。そもそも表の店まで行けば幾らでも売り物のパンが売っているのだ。それに腹を空かせた男子にどう見ても相手が金を持ってなさそうだなんて言うことは関係ない。

 

「そんなに見てたってあげないぞ!」

 

そう外にいる少女に対して言い切り焼きたてほやほやを思いっきり頬張ろうとした瞬間、一瞬で捨てられた子猫のような悲しそうな表情に変わった少女を見たアーサーは何となくそのまま口に運ぶのが居た堪れなくなり仕方がなく半分少女に分けてやることにした。

 

ちぎって渡した後、目を輝かせて瞬きもしない間に食べ尽くした少女と少しずつ打ち解け合い、彼女の話を聞くとどうやら現在剣の修行をしているのだが、その厳しさに耐えかねて逃げ出してきてしまったらしい。

朝食も食べずに飛び出した彼女を待っていたのは途轍も無い空腹だった。

お腹は空いた。でももう訓練には戻りたく無い。町を彷徨いながらそんな事を考えているうちに何処からか漂ってきた良い匂いをふらふらと追いかけてここまでやってきたそうだ。

 

「今日はご馳走様でした。このご恩は必ずお返しします」

「お礼なんていいよ、別に売り物でも無い俺の練習作だったから」

 

自分も空腹だったとはいえやっぱり誰かに自分の作ったものを食べて喜んで貰えるのは嬉しい事だ。それが美しい少女だったら尚のこと。

そんな少々浮ついた気持ちでアーサーは言葉を続けた。

 

「よかったらまた来てよ、俺が作ったものでよかったらご馳走するから」

「良いんですか⁉︎ それなら是非ご相伴に預からせていただきたいです!」

 

アーサーがさりげなく次回の約束を取り付けた瞬間少女は再び目を輝かせ百合のような笑顔を見せた。

 

「家の人も心配しているだろうし今日はもうそろそろ帰るといい」

 

「ところでまだ自己紹介をしていなかったね。俺の名前はアーサー、君は?」

 

「私の名前はアルトリア・ペン……。いえ、アルトリアとお呼び下さい」

 

この時再びアーサーを鋭い電流が貫いた。

 

少女と会った時から薄々変な感じはしていた。アーサーに勝るとも劣らない美しさの金色の髪、彼女の頭からぴょこんと生えた一本の毛、よく見ると分かる彼女が着ている上質な衣服、そしてここがエクター卿の治める地だと言うこと。極め付けは少女がとっさに言いかけたアルトリア・ペンドラゴンと言うであろう彼女の本名。

ここから導き出された答えはただ1つ。

 

この世界はFateの世界でブリテンの王となるのはアルトリアであり、アーサーは主人公でも何でもなかったということだ………。

 




アーサー「君の名は」

ケイ兄さんは次話から出てくる予定。ビザンツ帝国はルキウスが居なくなってからまた出来たことにするのでタグを1つ消させて頂きました (*´-`*)ゞ ポリポリ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。