新釈聖剣伝説   作:そんなバナナ

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其の二

 

「てめぇが最近アルトリアを餌付けしているクソ野郎か‼︎」

 

今日も2人分のパンを用意しいつも大体この時間帯に現れる来訪者を待っているとそんな怒鳴り声と共にドアが勢いよく開けられた。

 

あれからアルトリアは毎日のようにアーサーのもとに通うようになっていた。そしてアルトリアが来る度に2人でアーサーが焼いたパンを食べながら今日の授業はどうだとか今度はどんなパンを作るかなどのたわいのない話をするのだった。

 

王になるという野望があっさりと崩壊したアーサー少年。しかし彼はそれを全く引きずっていなかった。この世界が本当にFateの世界であるとしたら誰が王になったとしても間違いなくキャメロットは滅びるだろう。

そんな責任は背負いたいと思うはずも無く、さらに下手をしたら遠い未来に起こる聖杯戦争にて衛宮士郎に召喚される可能性があるのだ。アーサーは衛宮士郎との魔力供給(意味深)なんて真っ平御免であった。

 

そういうことできっぱりと人生の方針を方向転換したアーサーはそれ以来今まで適当にこなしていた立派なパン屋になる為の修行に真面目に取り組むことにしたのだ。

 

乱暴に開けられたドアから入って来たのは待ち人たるアルトリアでは無くアーサーと同じ程度の少年。

アーサーが突然の乱入者に驚いていると少年は入って来た勢いのまままくし立てる。

 

「てめぇ小さい時から餌付けしておいて幸せ家族計画のつもりか⁉︎」

「ちょっと!やめて下さい義兄さん!」

 

言葉の途中でアーサーに掴みかかった少年を彼の後ろから現れたアルトリアが無理やり引き剥がした。

 

「アーサーさん、先程は義兄がすみませんでした」

「いや、構わないけど……兄さん?」

「はい、こちらは私の義兄のケイ兄さんです」

 

なるほど、とアーサーは思った。きっと彼女の兄であるこの少年は可愛い妹に着いた悪い虫にお礼参りに来たのだろう。

それにしてもいくらこの辺りの治安が悪く無いとはいえ領主の息子と娘が2人してお供もつけずに出歩いても大丈夫なのかは疑問であったがアーサーは気にしない事にした。

 

それは兎も角、アーサーが今するべきは鋭い眼差しで己を見ている少年をなんとかする事であった。アルトリアの言葉を信じるのならば彼女の兄である彼は領主の息子である。

エクター卿は善良な人間として知られているが、その息子のケイまでが善良とは限らない。下手をすれば一家丸ごと首が飛ぶ可能性もあるのだ。そんな爆弾にはなるべく早くお帰り頂きたかった。

 

「初めまして、私はアーサーと申します。貴方の妹君であるアルトリア様には私の修行をお手伝いして頂いておりました」

「てめぇの名前なんて聞いてねぇんだよ、それよりも何時も何が入ってるかわからねぇもんをアルに食わせてやがったってのは本当か?」

「ハイ、何時も召し上がって頂いています。やはりよろしく無かったでしょうか?」

「アルトリアに食わせるメシはないって言うのかぁ⁉︎」

 

アーサーが考えうる内の最高の応対であった筈だが遠い未来にツンデレシスコンと呼ばれる男には話が通じなかった。

それにアルトリアにパンをあげるのはやめようかとチラリと考えた瞬間に慌てて横にブンブンと首を振るアルトリアを見ているとその選択肢は無くなった。

 

「よし分かった。おい、何時もアルに食わせてる奴を俺に出せ」

「なっ、それは幾らケイ兄さんでもダメです!」

 

ケイに自分の分を取られると思ったアルトリアは取られまいと必死に抗議する。

 

「分かりました。それでは此方をどうぞ。……アルちゃんには俺の分をあげるからそんな悲しそうな顔はやめてくれ」

 

アーサーから出されたパンを手に取ったケイは何気なく口に運んだ。実はケイはアーサーがアルトリアに毒を盛ったりしている事は想定していない。何故ならエクター卿と言っても所詮は田舎領主、その娘であるアルトリアを町人が毒殺しても大したメリットが無いからだ。

 

本当のことを言うと、今日ここに来たのは完全に妹に着いた悪い虫を追い払うための嫌がらせだ。最近アルトリアがコソコソと町のパン屋の息子と密会している事に気が付いたケイは初めから自分が味見をするという展開に持って行って適当に難癖を付けてアーサーを怒らせ、アルトリアとの仲も気不味くしてやろうと考えたのだ。

 

が、そんな考えはアーサーのパンを一口食べた瞬間に吹っ飛んだ。

ケイがまず感じたのは柔らかい食感だった。普通パンというものは固くてパサパサしていてお湯やスープに浸けてふやかしながら食べるものだ。これが修行中の身の作ったものであるなど信じられない。あっという間に食べ終わったケイは慌てて表にある店まで行きそこの売り物を購入する。

 

「固い……」

 

しかし、アーサーの師匠たる父と母が作った筈の店の売り物のパンは何時もケイが食べているものと変わらず固かった。ケイはどうしてもさっき食べたあの柔らかくてモチモチした食感の食べ物を口にしたくなった。

 

「おい、お前、アーサーと言ったか?さっき食べたパンはまだあるか?」

「何時も2つしか焼いていないもので……今アルトリア様に渡したので最後です」

 

ふと隣を見るとさっきケイが食べたパンと同じ物をアーサーから受け取ったアルトリアがケイからの視線に気付き、今にも噛り付きそうになるのをフルフルと震えながら必死に堪えていた。

 

「なぁアル、もし良かったら今俺が買って来た物とお前の手にあるものを交換しないか?こっちは店の売り物。未熟者が作ったものよりも数段美味いぞ」

「ケイ兄さんの頼みであってもアーサーさんのパンは譲れません」

 

アルトリアに取引を求めたケイだったがあっさりと断られる。

 

「では私も頂きますね」

 

そう言うや否やアルトリアはパンに齧り付きケイと同様にあっという間に完食した。

 

「やっぱりアーサーさんの作るパンはブリテン一ですね!私が太鼓判を押します!」

「いやぁ、ブリテン一って言うのは言い過ぎかな。まだまだウェールズ一くらいさ」

 

もはやケイは義妹とアーサーがそんな軽口を叩きあっているのを見ても何も思わなかった。ただ思考を占拠しているのはもう一度あのパンを味わいたいという考えだけである。

 

「先程の無礼は詫びよう。俺の名前はケイ。アルトリアの義兄だ。気軽にケイと呼んでもらって構わない。よろしく頼む」

 

そう言ってから空中に目を泳がせたケイはすこし赤面しながら言葉を続けた。

 

「ところでだな、お前が何時もアルに食わせてるパン、あれを今度から俺の分も用意してもらう事は可能だろうか?」

「ああ、勿論さ!俺の名前はアーサー、こちらこそよろしくケイ!」

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

こうして後の獅子王アーサーと百の舌を持つ宰相ケイは出会った。

その後アーサーとケイは友情を育み、アーサーが王となった後もケイはアーサーを、時には国を代表する宰相として、時には気の置けない親友として彼を支える事となる。

 

ーーーアーサーが選定の剣を抜くまで後10年………




ケイ「(これからは)僕たちずっと友達だよね」


次からはだいぶ時間が飛んで遂に選定の剣を抜くところに行く予定。

それではまた(・ω・)ノ
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