新釈聖剣伝説 作:そんなバナナ
「あり得ない………」
青年によって剣が台座から引き抜かれた時、ロンディウムについてからずっとアルトリア達のことを影で観察していたマーリンはそう呟いた。
アルトリア・ペンドラゴン、先王ウーサー・ペンドラゴンとマーリンの『人に竜という概念を付与する』という狂気の計画によって生み出された彼女はいずれ理想の王となる宿命をもった少女だ。
十年、それがマーリンがアルトリアを王にするための用意に費やした時間だ。ケイとあと1人、ケイと彼女の町での友人である青年が共にいるのを見たマーリンは青年と共にいる限りアルトリアが王となろうとするとは思えなかったが、たとえ明日彼女が剣を抜くことがなくても別のタイミングで選定を受けさせれば良く、何だったら青年の死を利用しても良いとさえ思っていた。淡い想いを寄せる相手を不条理な死によって失えばさぞかし悲しみその様な悲劇を2度と起こすまいとより強く『理想の王』になる事を望むことだろう。
「私の十年を台無しにしてくれるとはね………」
そう呟いたマーリンは剣を抜いた青年がいる方向へ歩を進めた。
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アーサーは引き抜いた時と変わらぬ真剣な面持ちで手に持った聖剣を見つめながら内心大いに戸惑っていた。アーサーの懇願通りに抜けてしまったこれは本来彼の目の前にいる『理想の王たる者』として生を受けたアルトリアが抜くべきものだ。
天に掲げた聖剣から目線を下げた先にいるのは大きく眼を見開いたアルトリアと剣から溢れた魔力によってその隣まで吹き飛ばされたケイが尻餅をついたままポカンと口を開けている姿だった。
「いや〜おめでとう。偉大なる王の誕生だ」
真っ白い衣装に身を包んだ1人の青年がアーサー達を取り巻く騒めく人々の中から出てくるなりそう言った。
「マーリン!」
「やあアルトリアこんばんは。君とこうして直接会うのは初めてだね」
アルトリアによってマーリンと呼ばれたその青年は彼女との挨拶もそこそこに台座にいるアーサーに向かって悠然と歩いてくる。
「初めまして、私はマーリン。ただの魔術師さ。偉大なる王よあなたの名前をお聞かせ願いたい」
ケイとアルトリアのそばまで来たマーリンはそうアーサーに語りかける。
「俺の名前はアーサー、唯のアーサーだ」
「そうかい、ではアーサー王と呼ばせてもらう事にしよう。選定の剣を抜いた事でキミは王となった。もう2度と過去には戻れ無いが………覚悟はあるかな?」
夢の中で幼い頃から数え切れぬほど会っているアルトリアさえも怯んでしまう様な鋭い雰囲気を纏ったマーリンは同じ様に真剣な面持ちなアーサーにそう問うた。
「勿論だ」
マーリンには問われたアーサーは1度視線をちらりとアルトリアに向けてから再びマーリンを見つめてそう答える。
選定の剣はもう抜いてしまったのだ。
どうせここで否と答えても今更元に戻す事など出来ないだろう。
それに何よりも今自分が手に持った
「この身が滅びぬ限りこの手が届く全てを俺は救おう」
そう言ったアーサーの言葉を聞いたマーリンは歓喜に震えていた。唯の人間が奇跡を起こし王になり、ましてやその身にそぐわぬ大望を抱いたのだ。「こいつは面白い!」。マーリンにとっては本命のアルトリアがいるのならばこの人間は別にいつ死んでも構わないのだ。むしろこれでアルトリアが完成するまでの間ヴォーティガーンの視線を逸らすという時間稼ぎも出来るだろう。
もはやマーリンにとっては計画を無茶苦茶にされた事などどうでも良くなっていた。
胸に抱いた使命を果たしても、その高尚な志半ばで果てても苦悩の末に破滅しても構わない。
むしろ人である身でこちらが十年間の準備を必要とした事に取り掛かる、その結末を見るだけでも十分価値がある。
「アーサー王、それでは行こうか」
「えっ?」
都市の外に続く門に向かって歩き出したマーリンにアルトリアが尋ねる。
「待って下さい、もう今日は遅いですし何よりも明日ケイ兄さんの試合があるんですよ?」
「最早その必要は無くなった。何故なら明日の大会は選定の剣を抜けなかった騎士達が剣を無視して王を決めるために開かれるものだからね」
一拍おいてからさらにマーリンは続ける。
「このまま騎士達の中にアーサー王が居るのは危険なのさ」
「何故ですか?騎士の方々はアーサーさんの手助けをして下さるのでは?」
「アルトリア、キミには色々な事を教えたと思うけれど……。残念ながらアーサー王は君とは違い高貴な生まれでは無い。騎士達が素直に従うとは限らないんだよ。むしろその王位を認めず王を害そうとするものまで現れるかもしれない」
勿論これはマーリンの嘘である。荒々しい気性を持つ彼らと言えども腐っても騎士。少なくとも非常時のブリテンにおいては民の事を1番に考えているし、そもそも明日の大会が開かれる理由からして民の期待を裏切らないためであった。
希望の光となる剣を抜いた者が現れたのならば全力でその者の力になるはずである。
しかしマーリンはあえてその事を言わない。何故ならアーサーにはより困難な道を進ませたいのだ。アルトリアは立派な王になる為に起きている間はもちろんの事、寝ている間でさえも努力を続けてきた。
アーサーはそんな彼女の物である場所を奪おうとしているのだ、少しくらいこちらから苦しめても許されるだろう。
「分かりました……。あの、私もマーリンとアーサーさんに付いて行っても良いでしょうか?」
「もちろん、むしろキミのことは最初から連れて行くつもりだったとも。構わないよね、アーサー王?」
「あぁ」
「それで、私たちはもう行くけれどキミはどうするんだいケイ?」
アーサーから同意を得たマーリンは突如今まで触れなかったケイに話しかける。
「私たちに付いてくるかい?それともこのまま大人しく家に帰るか……。好きな方を選びたまえ」
そうマーリンに問われたケイは、しかし状況を正確に理解出来ていなかった。親友と義妹が王となる最後の夜に浴びるように酒を飲み、その後義妹を王にしてしまう物に向かって八つ当たりをしていたら急に親友が当然のように義妹が引き抜くはずの剣を抜き、王になってしまったのだ。例え平常時であったとしても理解は困難だったであろう。
ケイはアーサーを見た。義妹の代わりに王となった親友は、マーリンに問われた己を気遣うように見つめていた。そんな親友の、アーサーの瞳からお前はここで帰れと言われたように感じたケイは震える唇から懸命に言葉を繰り出した。
「俺は……俺はお前達に付いて行く。いや、付いて行かせて頂きたい………アーサー王よ………」
ケイには幼い頃からの親友がもはや手の届かないほどの高みへ行ってしまったような感覚がした。そしてそれは実際に間違っていない。もはやアーサーは全ブリテンの王となる存在、ケイの知っていたパン屋のアーサーでは無い。
よって彼は臣下としてアーサーに付いて行くことを決めたのだ。
「もちろんだよ、ケイ。君には俺と共に来て欲しい」
◆ ◆ ◆
こうして4人は旅路についた。
卑王ヴォーティガーンを討つまでのその短くも困難に塗れた旅はアーサー王を王たるに相応しい者に成長させたという。
獅子王アーサー、その激動の生涯の幕開けである……。
マーリン「何をするだァー!」
この時はまだ王になる理由を持っていないアルトリアは自分では無い人間が王になっても別になんとも思っていません。むしろ王の資格を持っていたアーサーへの尊敬マシマシに。
アーサーが口調が普段と少し違うのとケイがやけに弱気なのはalcoholがまだ抜けていないから。
マーリンはアーサーを認めるまでは西遊記の御釈迦様並みに意地悪です(ファンの人ごめんね)。
次話はカリバーン消失とDXエクスカリバー入手。ちょっと話の展開が遅れてるので巻きで行かなければ………
とりあえず眠いので寝ますzzz
いつも誤字報告してくださる皆さん、ほんとうに感謝です!