新釈聖剣伝説 作:そんなバナナ
騒ぎを聞きつけた騎士達が広場に到着する前にロンディニウムを出たアーサー達は近くの森の中でマーリンから選定の剣に関する話を聞いていた。
「アーサー王よ、君が引き抜いた聖剣。真の名を
アーサーの手にある一呼吸置いてからもマーリンは目の前のアーサーに話し続けた。
「まぁそれでも並みの名剣とは比べるべくもないんだけれどもね。でも君がこれから相手をしなければならない魔竜ヴォーティガーンには全く通用しないだろう」
「ちょっと待ってくれマーリン、ヴォーティガーンって人間では無いのかい?」
何でもない事のように話したマーリンの話に聞き逃せない言葉を聞いたアーサーはすかさず尋ねた。
「君はそんな事も知らずにあの剣を抜いたのかい?ヴォーティガーンは白き竜の血を飲みブリテン島の化身となった。もはや彼は人間とは程遠い存在になってしまっているだろうね。どうだい、やっぱりやめるかい?君の存在が本格的に知られていない今ならまだその責務をアルトリアに引き渡すことができる。君はこのまま普通の生活に戻れるだろう」
ーーーなんて言ったってアルトリアはその為に育てられたのだから。
マーリンがそう言った直後アーサーは自分の隣にいるケイから歯を軋ませた様な音を聞いた。
「こんな状況になってしまったから君には話しておくけれど本当はアルトリアは先王ウーサーの娘なんだ。君が抜いてしまった聖剣はいずれ彼女が抜くはずのものでね、アルトリアはそれによって王となりヴォーティガーンや異民族を滅ぼす事を運命付けられた存在なんだ。どうだい、君よりもよっぽど適任だと思わないかい?」
「いや、俺は逃げないよ。敵がどんなに強大でも絶対に。ましてやここで俺が逃げたらアルちゃんがその尻拭いをする羽目になるんだ。そんな事は絶対にさせない」
「アーサーさん……」
そう言ってからアーサーは自分を見つめるアルトリアを見つめ返した。
「アルちゃん、安心してくれ。俺は君を必ず守ってみせる」
「あー、悪いんだが人の義妹を口説くのは他所でやってくれないか?というかやめろ」
2人が見つめ合いなんだか少しいい雰囲気になって来たところで今までずっと黙り続けていたケイが口を挟んだ。
ボリボリと頭を掻きながら気まずそうに2人を見るケイに対してアルトリアが赤面しながら必死に弁明する。
「ち、違うんですケイ兄さん。これは突然のアーサーさんの言葉に不覚にも一瞬ドキッとしてしまったというかですね、なんというか……」
「あぁ、もう十分分かった。つまり俺は俺が静かな間にアルに粉をかけたアーサーの野郎をぶちのめせばいいと言う訳だな?」
「全っ然分かっていないです!」
いつもと変わらぬ調子を戻した様子のケイを見たアーサーは彼に話しかける。
「良かった、やっと普段のケイらしくなったみたいだね。さっきは突然君にアーサー王なんて他人行儀で呼ばれて悲しかったよ」
「うるせぇ、人が真剣に悩んでいたことをぶち壊した挙句アルのことを口説こうとしてやがった奴なんて呼び捨てで十分だ」
「だから違いますって!」
「あー、君たちは私のことを忘れていないかな?」
完全に故郷の町にいた時と変わらぬ雰囲気に戻った3人を見ていたマーリンは蚊帳の外状態が気に入らないのか唐突に騒いでいる3人に声を浴びせる。
「最終確認だアーサー王、君はこのまま戦いに身を投じると言うことで良いんだね?」
「うん、そうだよ。俺は戦うよ」
「辛く激しい戦いになるよ?」
「覚悟はできている」
「その果てに待つのは必ずしも幸せなハッピーエンドと言う訳では無いよ?」
「少なくとも、今この場にいる2人だけでも守れるのならば自分には何も望まないよ」
「分かった。それでは君を王として育てよう。私はこれでもキングメーカーとしてそれなりに有名でね。これまでに十年を掛けたアルトリアに比べたら時間不足は否めないが何、立派な王様にしてみせよう」
アーサーの一通りの回答に満足したのかマーリンは自信満々に答えた。
「それで、アーサーはヴォーティガーンをいつまでに倒せばいいんだ?」
ケイがマーリンに訪ねる。
「そうだね、長く見積もって一年……というところかな?それ以上待っていたらブリテンはサクソン人達に征服されてしまうだろうね」
「一年なんてあっという間じゃねぇか!てめぇアルにそんな無理をさせようとしてやがったのか!?」
「ああ、ちょっと落ち着きたまえ、そんなに揺らさないで」
ケイに力一杯揺さぶられたマーリンはまったく苦しそうなそぶりを見せずに続ける。
「まったく乱暴だな君は。でも良かったじゃないか、親友がその苦しいアルトリアの役目を受け持ってくれるんだ。これでアルトリアは安泰だ。まぁ最も途中でアーサー王が果てなければの話だが……。もしアーサー王に何かあったらその時はアルトリア、君にその役目が行くことになると思うけど問題ないかい?」
「アーサーさんに何か起こるなんてそんな事は絶対にありません!」
「うん?どうしてだい?」
「それは私とケイ兄さんが絶対にそんな事が起きないように支えるからです!私たち3人ならば百人力です!」
アルトリアは胸の前で拳を握り、ふんす!と鼻息を荒げた。彼女は自分が王になる者として生み出された事は知っていたが肝心の『王』となる動機も野望も持っていなかった。故にアルトリアは自ら民を救う王となる事を主張したアーサーを心から尊敬し、彼を支えたいと思ったのだ。
「そうかい……それじゃあもう今日は遅い。本格的に行動を始めるのは明日からにして今日はゆっくりと休むといい」
そういうとマーリンは森の奥へと消えていった。
「……なぁアーサー、本当に良かったのか?」
マーリンが居なくなったあと、ケイはアーサーにそう話かけた。
「何がだい?」
「おまえが王になるって事だよ。もちろんお前が逃げることによってその役目がアルに回ったら俺はおまえを許さないかもしれない。でも俺にとってはアーサー、おまえも大切なダチなんだ」
「それは俺も一緒だよ。君とアルちゃんを守れるのならば俺はこの命を捨てても惜しくはない」
「それが嫌なんだよ!」
大声とともにケイは突然立ち上がった。彼は本来アルトリアが関わる事以外はいつだって冷静で皮肉屋、自分の本心は滅多に人には見せない人間だった。
「俺はアルやおまえに『全てを救う神の代弁者』なんてものになってしまって欲しくはないんだ!」
それはケイの心からの叫びだった。彼は人は人らしく、打算や利害に塗れて生きるべきだと信じていた。だからこそアーサーがそんな存在になる事を認めたくはなかったのだ。
「ならないよ」
穏やかな顔をしたアーサーがケイに静かに語りかける。
「何?」
「俺が王になったら君とアルちゃんが支えてくれるんだろう?それならば俺はいつまでも『俺』でいられる。君が心配することなんて起こらないさ」
「……アーサー、おまえという奴は本当に……」
ケイはアーサーのその穏やかな口調によって荒ぶっていた感情が鎮まるのを感じた。その瞳を見ればまったく曇りがなく、その言葉は彼の包み隠していない本心からくる言葉なのだろう。その言葉通りアーサーは心の底から自分たちを信頼しているのだ。
「あの、お話も終わったみたいですしそろそろ寝ることにしませんか?」
先程から心配そうに2人を見ていたアルトリアが話が一区切りついたと見るやすかさずそう提案した。
「そうだね。それじゃあ俺とケイが交代で見張りをしているからアルちゃんはもう寝るといいよ」
「そんな、私も見張りくらいできますよ」
「アルちゃんは女の子なんだからここは俺たちに任せて。ケイもそう思うよね?」
「ああ。アーサー、今日は先に俺が見張ろう。おまえはアルと先に寝てろ」
ケイの口調から何かを察したアーサーは素直に従うことにした。アルトリアと共に旅用の布袋から寝具を取り出す。
「それじゃあお言葉に甘えて先に休むことにするよ。眠くなったらいつでも起こしてくれよ、お休み」
「ケイ兄さん、アーサーさんお休みなさい」
ケイはふともう既に寝入った2人の顔を見る。アーサーとアルトリアの寝顔を見ると自分よりもよっぽど兄妹らしく見えた。思えば顔立ちだけではなくお人好しさも危なっかしさもよく似た2人である。
「俺が守ってやらなきゃな……」
ーー
ケイは1人そう言ってから空を見上げた。
マーリン「やばいわー本当に時間ないわー(大嘘)」
アーサー「それでも俺はやる!」
日曜までにヴォーティガーンまで進めなきゃいけんのにペースが落ちとる……。
まぁ、次でカリバーンはポッキーのごとく折ってやるし?問題は無い……はず。
何時も誤字報告して下さる方々、本当にありがとうございます。