浅見君は告らせたい   作:fukayu

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今回は原作のラブレター会。生徒会フルメンバーで臨みます。


かぐや様は止められたい

 恋文!

 現代ではラブレターとも呼ばれるそれは我々人類の長い歴史の中でも意中の相手に気持ちを伝える際に使われる表現として最も有名と言っても過言ではない。

 好きな相手の事を思い、自分が持てる文章力の全てで数枚に書き留めたそれは正に青春の結晶。

 

「ラブレター!? かぐやさんラブレター貰ったんですか!?」

 

 そんな青春爆弾がここ秀知院生徒会にも投下されようとしていた。

 

「そ、それでなんて書いてあったんですか?」

 

「その…………直接的に付き合ってくれとかは書いてなかったのですが、とても情熱的な内容で一度食事でもどうかって」

 

「えー! つまりデートのお誘いってことですか!」

 

 この手の話題に目が無い藤原書記はやや興奮した様子で今回爆弾を受け取った四宮かぐやへと質問する。それに対するかぐやだが、意外にもラブレターを受け取った経験はあまりないのか満更でもないと言った様子で返答していた。

 盛り上がる女性陣。それに対して、男性陣の反応は対照的だった。

 

(四宮にラブレターだと……? 莫迦な男もいるんだな……普段この俺を見て過ごしている四宮だぞ? その辺の男など喋る雑草程度にしか映らんことに気付かなかったのか? 四宮が相手にする筈もなかろうて)

 

 この男、白銀御行。

 元来メンタルが弱いにもかかわらずテンションが上がると恥ずかしいセリフを連発し、黒歴史を量産して後でもだえ苦しむサイクルを繰り返すこの男は一体どこからその自信が来るのかこの状況を楽観視していた。今日中に終わらせなければならない書類と向き合いながら聞き耳を立て続ける技術は日々のかぐやとの恋愛頭脳戦の中で培われたもの。

 情報収集を行いながらも仕事に向き合う姿勢は正に生徒会長の鑑。意中の相手に恋文が届いたとしても日々積み重ねたかぐやとの駆け引きの成果が絶対の自信となってこの男を揺るがすには至らなかった。

 

「それで……デートするつもりなんですか……?」

 

「もちろんです」

 

 が、その自信。一瞬で決壊!

 かぐやの発したたった一言で白銀の積み重ねてきた絶対の自信は脆くも崩れ去る!

 

(ち、血迷ったか四宮!? そんな顔も知らない相手の誘いにホイホイ乗るなんて……!!)

 

 握っていたシャープペンをへし折り、白銀の本日の業務は終了!

 生徒会長として書類に注いでいた全リソースを聴き耳に割り当てる。

 

「やはりどんな優秀で容姿のいい人だろうときちんと好意を形で示してくれる方でなくては駄目ですよね……勇気を振り絞って情熱的な恋文をくれる人です。きっと好きになってしまうに違いありません」

 

(!? そんな事が許されて堪るか! どうにかして四宮を止めなくては……!! だが、どうすれば!)

 

 残念ながら白銀に出来る事は限られている。

 もし、ここで引き留めようものなら――

 

『俺以外の男とデートなんて行くな四宮!』

 

『あらあら、私が他の人に取られちゃうのがそんなに嫌なのですか?』

 

『う、そんな訳では……』

 

『お可愛いこと……』

 

『!?』

 

 瞬間、白銀の脳内にこちらを哀れんだ表情で見下ろすかぐやの姿が写りだす。

 

(くっ、これでは俺が四宮を好きだと言っているようなもの! 告白同然の行為!)

 

 ようなものも何も実際にそうなのだが、彼にも男の意地というモノがある。自分から相手に好きだと伝えればその瞬間二人の力関係は確立する。そうなってしまえばその後どれだけ威厳を見せても『この人の方から告白してきたんですよ』の一言で白銀の威厳は影も形も無く無力化される未来が待っているだろう。

 男として、それだけは絶対に避けなければならない!

 

「かぐやさん本当に行っちゃうんですか……っ?」

 

「ええ、とても楽しみですわ」

 

 一見節操のないただの恋愛脳にも見えるかぐやの行動……

 

(行く訳無いでしょうが。この子、脳に花でも咲いているのかしら?)

 

 無論ブラフである!

 

(この私をデートに誘いたいなら国の一つでも差し出して初めて検討に値するのよ。誰が好き好んで慈善活動なんてするものですか!)

 

 かぐやとてどこぞの馬の骨とも知らぬ男とデートに行くなど御免である。これはあくまで白銀に引き留めさせる目的の戦略。

 

 恋愛頭脳戦!

 恋愛関係において≪好きになった方が負け≫は絶対のルール!!

 

 好きになる、好きになられるというのは明確なパワーバランスの序列であり、ガンダムとザク、ガブリアスとフライゴン、第9期とそれ以前! 

 両者の間には越えようのない明確な差が存在する。好きになると言う事は魂の隷属であり、告白とは魂の降伏宣言に等しい!

 

 プライドの高い両者において自ら告白するなど有ってはならない!! ならば己の知略と技術を以て相手に告白をさせる以外にない!!

 

(自然に四宮のデートを阻止する方法は無いか? 考えろ何か手はある筈だ!)

 

 問われる知性!

 

(無駄です会長……私は会長が頭を垂れて素直にお願いしない限り絶対に取り消したりしません)

 

 巧妙な策略!!

 

 それが恋愛頭脳戦! 二人の間で繰り広げられる決闘なのである!!

 

(何か! 何か手段は無いのか!? このままでは、このままでは四宮がっ!!)

 

 追い詰められる白銀、持っていた半壊状態のペンを落とす!

 それを拾い上げたのは彼の頼れる仲間たちだった。

 

「大丈夫ですか、会長。ペン落としましたよ?」

 

「おいおい、これ壊れてるぜ? ったく、一体どんな筆圧で書いてるんだか?」

 

 生徒会会計石上優。

 同じく、庶務浅見徹。

 静観していた彼らがついに動いたのだ。

 

「さっきから聞いていたけど。かぐや様、そういう話題は少し配慮に欠けるんじゃないですか?」

 

「あら、浅見君。どうしてかしら、私は初めてもらった恋文をどうしようかと藤原さんに相談していただけですが」

 

「オレにはそうは聞こえませんでしたね。全く、今時ラブレター如きで…………オレ達に対する自慢ですか!?」

 

 この男、浅見徹。

 中等部時代『孤高のソロプレイヤー』を自称し、周囲との距離を取ったり取られたりしていた彼に当然ながら恋愛経験は無い。

 しかし、その手の病は時と共に緩和していくもの。現在の彼は恋愛に憧れる一介の男子高校生であり、その想いは先程から素知らぬ顔をしながらSNSに拡散するという暴挙に出るほどであった。

 

「大体それ、本当にラブレターなんですかね? ……こんな事あまり言いたくありませんが、四宮先輩がからかわれているという線も考えられますよ」

 

 この男、石上優。

 高等部への進学当初、不用意な発言で女子生徒を傷付けてしまって以来、クラス内で孤立している彼に当然ながら恋人はいない。

 だが、それ故にモテに対する負の感情は最早ヒトのそれでは無く、自前のノートパソコンで仕事をこなしていると思われていた彼にハッキリとした意識は無く、既に私怨によってのみ動く亡者と化していた。

 

(よぅし、よくやった!! ……石上は何か様子が変だが、とにかくよくやった!)

 

 思わぬ増援に余裕を無くし、機能不全に陥りかけていた白銀の脳に再び活気が戻る。

 

「会長、ここはオレ達に任せておけ」

 

「ええ、必ず破局に追い込んでやります」

 

「お、お前達!!」

 

 思わぬ形で深まる男子達の結束。それに対し、かぐやは予想外の伏兵にやや表情を引き締めていた。

 

(っく、会長や藤原さんは兎も角、この二人が私に盾突くとは……思わぬ邪魔が入りましたね)

 

 戦力比的には1対3。藤原がどちらに付くかわからない以上最悪一人で彼らを相手取らなければならない必要があるかもしれない。

 

(どうやら私もリスクを負わなければならないようですね。例えこの場の全員が敵に回ろうとも……このまま貫き通す!!)

 

 だが、かぐやに退く気は無かった。

 

「あら、あらあら、みんなして私のこの手紙が気になるのかしら?」

 

「む、それは……」

 

「ええ、気になりますね。これでも僕達は生徒会なので、これが万が一悪戯だったとしたら生徒達を守る為にも調査しない訳には行きません」

 

 かぐやの発言に尻込みをする白銀を余所に石上が突っ込む。

 

「まぁ、まだそんな事を言っているのですか? 石上君、貴方がどうしてそれほどムキになるかわからないけれど、そんなに気になるならどうぞ自分の眼で見てみたらどうかしら。名前も書いてないですし、こんな紙切れ1枚で何かがわかるとは思えませんが……」

 

 そう、この手紙には肝心の送り主の名前が無い。あるのはデートの日時と待ち合わせ場所だけだが、そもそも行く気の無いかぐやにとってはどうでもいい事だった。彼女の目的は白銀の気を引く事のみ、その為の手段でしかないこのラブレターの事などそれ程気にしてはいない。

 

(まぁ、この私に惚れたと言う事は別におかしなことでも無い寧ろ普通の事ですから悪戯という線は有りませんけどね。一応送り主の方には利用させてもらった手前、あまりこの件は大事にしないように気を付けませんと)

 

 既に半分用済みという扱いなのか割とぞんざいな扱いで石上にラブレターを渡し、次なる白銀の行動に対する策を巡らせようとするかぐやだったが、

 

「差出人不明ですか。ますます怪しいですね……浅見先輩、筆跡鑑定ソフトの起動お願いします」

 

「わかってる。今先日行った生徒会アンケートから全校生徒の筆跡を入力し終えたところだ。悪い、会長勝手に生徒の個人情報を使って」

 

「構わん、許可する!」

 

「えぇ!?」

 

 彼女は何も理解していなかった。

 モテない男達の苦悩とリア充撲滅に対する執念を――。

 

(ひ、ひっせきそふとって何? 語感から筆跡を調べるみたいだけど、そんなの1人1人調べてたらいつまで掛かるかわからないじゃない! こんな事は早く終わらせて私は次の段階に進みたいのに!)

 

 四宮かぐやは基本的にアナログ人間である!

 暗算が出来るので電卓は使わない。グーグルマップは使わず『MAPる』を使う! 物を調べる時はググらず百科事典を用いる!

 広辞苑に乗っているものだけがこの世の中で知りえる全てだと信じている彼女は驚くべきことに今の今までネット環境を必要としなかった。天気予報やニュースを調べる時は幼稚園の頃から愛用しているガラケーを使えば済む。

 

 普段生徒会でパソコンは使っても使用するのはあくまで書類作成などの必要最低限のソフトのみ。彼女の認識では筆跡鑑定などは書道の達人等一部の専門家が使用する事の出来る技術でしかなく、当然ながら筆跡鑑定ソフトの存在など知る由も無い。

 

「か、会長? お二人は時間が掛かりそうですからこの話はまた後日にしませんか? ほら、それこそデートが終わった後にでも――」

 

「いや、このまま続行する」

 

「会長!?」

 

 一見、白銀の言動はラブレターの相手が気になると言っているようなものだ。

 だが、しかし!

 

「どうした、四宮。俺はこいつらと同じでこの学園に悪質な悪戯が広まっていないか調べているだけだ。何かおかしい事でもあるのか?」

 

 白銀は現在の状況を利用する事にした。これはあくまで生徒会長として生徒の安全を守るために調べるのであって断じてかぐやの事が気になっている訳では無い。そんな大義名分を持った彼は一切躊躇する事は無かった。

 

「構わん二人とも、全校生徒とは言わず世界中から送り主を特定してやれ!」

 

「了解!!」

 

「特定、終わります!」

 

「ええ、もう!?」

 

 男子の私怨を原動力にした3人の行動力は凄まじく、かぐやの予想をはるかに超えるスピードで今回の元凶を突き止めようとしていた。

 3人とかぐやが固唾を飲んで読み込み中の画面を見守る中、いよいよ下手人の正体が明かされようとしていた。

 

「こ、こいつが」

 

「四宮先輩を」

 

「嵌めようとした極悪人か!!」

 

 最早男子の中に本当にかぐやに対してラブレターを出した者がいると考える者はいなかった。

 

「さ、3人とも、待ってください!」

 

 天才と言われる四宮かぐやと言えどもこんな状況は予想していなかった。

 ただ、白銀の心を揺さぶれればよかった。ここまで大事になっては流石のかぐやと言えども覚悟が鈍る。

 

(こ、こうなったら仕方ありません。本当はデートなど受ける気はないとハッキリ言うしか……)

 

『そんな事をして俺の気でも引きたかったのか? お可愛い奴め』

 

(駄目、出来ない!!)

 

 瞬間、かぐやの脳裏に溜め息を付きながらこちらを見下ろす白銀の姿が再生される。

 この間、わずか0.1秒。極限状態によって引き伸ばされた体感時間の中でかぐやは自らのプライドによって発言を阻止されるという無駄に器用な事をやってのけていた。

 

 誰もが自らの煩悩と私怨の赴くままに行動する中、その場にいた最後の1人が動き出したのに気づく者はいなかった。

 

「えい!」

 

 可愛らしい掛け声とともに石上のノートパソコンの電源が切られる。

 その声の主こそ最初にかぐやの話を聞き、誰よりも本来の意味で驚いていた藤原だった。

 

「みんな最低です! 顔も知らない誰かがかぐやさんの事を思って本気で書いたラブレターを悪戯じゃないかって疑うなんて! 人間性を疑いますよ!!」

 

「っう!?」

 

 石上優、ノックアウト!

 私怨でのみ動く生ける屍であった彼には藤原が放つ純粋な意思に耐えられるだけの力は無かった。

 

「だが、藤原書記。悪戯じゃないにしろ、持ち主位は突き止めた方がいいんじゃないか?」

 

「これは本人達の問題です。かぐやさんと過ごせる時間が少なくなるのは悲しいですが、私達にどうこう言う資格はありません!」

 

「ぐはっ!?」

 

 白銀御行、手詰まり!

 本人達の問題と言われた以上、これ以上の介入は相手に気があると言っていると同義。恋愛頭脳戦において実質の降伏宣言に白銀の脳は拒絶反応を起こし、機能停止にまで追い込まれる。

 

 そして、一瞬のうちに二人を撃破した藤原の矛先は最後の一人に向けられる。

 

「藤原ちゃん、オレに何言っても無駄だぜ。これでもかぐや様との付き合いは長いからな、安全かどうか確かめるためにも調べさせてもらう」

 

「浅見君、心配するだけが友情じゃありません! 友達ならどうして応援してあげられないんですか! 昔は誰に対しても冷たくて他人を寄せ付けなかったあのかぐやさんがこんなに前向きなんですよ!?」

 

「ともだち? オレとかぐや様が?」

 

 瞬間、浅見の脳内に蘇るのは中等部時代の記憶。

 

『私に関わらないでくれますか?』

 

『浅見さん、貴方は私にとってただの他人です』

 

『そこにあるの私のショートケーキですので決して食べないように』

 

 数年間に渡り、地道なコミュニケーションを続けた結果、常に感情を露わにしない氷時代のかぐやの思考をある程度読み取れるようになった浅見だったが、実際に親しくなれたと実感したのはここ半年の事だ。

 例え原因が別にあるとはいえ、彼女がこうして明るくなったのを素直に喜ばないほど天邪鬼では無い。

 

(そうだった。オレの目的はこの恋愛頭脳戦を終わらせること。今迄は二人がくっつけばいいと思っていたが、どちらかに恋人が出来ればその時点でこの戦争は終わりを迎える。先日のデートを経験してもさほど二人の仲が進まないところを見るとこのままでは一体いつ終戦を迎えるのかわからない。ここは一旦様子を見る上でも……)

 

 一瞬の逡巡の結果、

 

「そうだよな。本人が嫌と言っていない以上、()()()()()応援してやるのが一番だよな。()()()()()!!」

 

「浅見!?」

 

 浅見徹、まさかの裏切り!

 本来の目的を思い出した彼は、今回様子見という選択肢を取る。別に友達という言葉に揺り動かされたわけでは断じてない!

 

 男子メンバーが黙り込む中、敵が倒れ喜ぶべきはずのかぐやの両肩に浅見と藤原の手が載せられる。

 

「かぐやさん、最初は驚きましたが私は応援しますよ! 大丈夫、かぐやさんなら心配いりません」

 

「ああ、こっちは告白された側だ。自信を持って大丈夫です。何かあれば相談してください。協力は惜しみませんよ、()()()()()!!」

 

 付き合いの長い二人の言葉と一度口にした発言の撤回を許さない自身のプライドを前に流石のかぐやと言えども嘘だと言い出す事は出来なかった。

 

「え、ええ。……ありがとう」

 

 四宮かぐや、週末デート決定!

 

 

 




今回の勝敗
藤原の勝利 史上初の4人抜き達成! このまま生徒会最強の座に君臨か?

Q.原作では最後まで反対派だった藤原書記がなんで寝返ってるの?
A.白銀の教師へのチクリからの退学云々のくだりが無くなったので恋愛警察のリミッターが無くなったからです。つまりなんもかんもアイツら(石上、浅見コンビ)が悪い!

白銀「援軍かと思ったら瞬殺されたり寝返ったりした何を言っているのかわからんと思うが――――」

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