狩人戦記 作:フラーレン
「どういうことですか!!」
若い女性は怒声を上げ、両手を木製の机に叩きつけた。机上に置かれたコップが揺れる。端麗な容姿に不釣り合いな怒りの形相を浮かべながら、目の前の老人を睨みつける。
「だからジョンとアリサは樹海に現れたリオレイアの撃退へ向かったと言っておるだろう」
「『言っておるだろう』じゃなくて!ジョンはまだハンターになって1年で、まだ、リオレイアなんか…」
女性の目に浮かんでいた怒りは、次第に幼馴染を心配するものに変わった。
数分前、酒場の扉を潜った船大工の親方が陽気な声で「ジョンはとうとうリオレイアに挑戦しにいったようだな」と口にしたとき、チカは固まった。ようやく思考が追いついたときには、すでに酒場を飛び出し村長の家へ走っていた。
いつも気さくな笑顔を浮かべ村の皆を手伝ってくれる幼馴染。ハンターとして危険な仕事に赴く彼の背中を見送る度に、チカの胸は不安で一杯だった。
彼のことは、誰よりもよく知っているつもりだ。彼がハンターになりたかった訳も、村を救うために身を投じる覚悟があることもーーー
”でもリオレイアと、多くのハンターに手を下してきた飛竜と戦うだなんて…”
チカは胸が押しつぶされる思いで、俯いた。
老人は女性の迫力に一切怯むことなく、ゆっくりと口を開いた。
「チカよ。ヤツはもう立派なハンター。それにリオレイアの狩猟経験のあるアリサも一緒じゃ。彼らの腕があれば必ずや撃退できる。一番の理解者なら、ひたすらに、その無事を祈ってやることじゃな」
「だからって…」
村長に優しく諭され、チカの興奮は引いていった。
一緒にいる相手であるほど、その変化に気が付かないものだ。もう彼は無邪気で無鉄砲な少年ではなく、村の皆に頼られるハンターなのだ。
一番近くにいたーーー少なくとも自分はそう信じているーーーはずなのに、彼のことをちゃんと理解できていなかった。心配ばかりしていないで、少しはリオレイアを倒してハンターとしての成長を遂げるジョンを想像してあげないと失礼だったかな。
チカは心配を押し殺す気持ちと、過保護で勘違いばかりの自分を嘲る気持ちで、どこかしかから笑みが溢れてしまった。
俯いた顔を上げ、窓から空を見上げた。
ーー必ず、帰ってきてね。
気持ちとは裏腹に残酷なまでに青い空に、チカは祈った。
「せりゃああ!」
青年の放った渾身の溜め斬りが女王の額に叩き込まれる。
甲殻の隙間が多く、弱点部位が集中している頭部は雌火竜最大の弱点である。
痛みに耐えかねたリオレイアは大きく仰け反った。返り血が薄赤色の防具を濃く染める。
ジョンは地にめり込んだブレイズブレイドを持ち上げるとその平たい腹でリオレイアの頭を殴り、続いて回転斬りに繋げた。
リオレイアが態勢を立て直すタイミングで大剣を抱えるように前転し雌火竜の正面を避ける。
『グゥオオァァアアア!!!」
リオレイアは目の色を変え怒号を上げた。それは目の前の敵を自分の生命を脅かすものとして認識し、野生に生きる者としての生存本能を全開にするサイン。怒り状態に突入するのはこれで三度目だ。
視界から消えたジョンを探そうとしたリオレイアは、突如として全身に痺れが回り硬直する。
この狩場にいるもう1人のハンター、アリサ。赤甲獣ラングロトラの素材を用いられた防具に身を包む彼女はまだ15歳であり心身共に幼さを感じさせるが、ハンターとしての経験は2つ歳上のジョンよりも豊富である。
彼女の放った特殊な弾丸に含まれる麻痺毒はリオレイアに蓄積し、やがてその免疫力を超え身体から自由を奪った。
彼女は弾倉を取り替えるとライトボウガンを腰だめに構え片膝をつき、反動を最大限に吸収する構えをとった。
”バシュンバシュンバシュン、バシュンバシュンバシュンーーー”
クウィルバーストの速射機構により連続発射されたlv1貫通弾がリオレイアに突き刺さる。並大抵の攻撃を受け付けない強靭な甲殻は戦いの中で傷つき、砕けてしまったものは弾丸の貫通を許した。身体に風穴を開け中の肉を抉る。
チャンスはいつまでも続かなかった。麻痺毒に侵されたリオレイアはその強靭な生命力を以って短時間で抗体を生成し、自由を取り戻した。
しかし短時間で毒に打ち勝ったとはいえ、その代償は大きかった。ジョンが再び放った溜め斬りで雌火竜の頭部の一部はひしゃげ、変形してしまった。
興奮状態にあるリオレイアの吐く息には黒煙が混じる。それは体内の火炎袋が躍動しているサインであり、この時に放たれる火炎ブレスは一層凶悪さを増す。
リオレイアを討伐するという意思を確固たるものにしてから、2人は攻撃の手を増やしながらも雌火竜の動きを正確に見極め、優位に戦いを進められていた。
リオレイアは大地を蹴り翼を羽ばたかせ、バックステップの要領で後方に跳ぶが着地はせず、低空飛行状態に入った。
剣士であるジョンにとっては、一番厄介な状態かもしれない。飛行中は攻撃の届く範囲が限られるにも関わらず、リオレイアは火炎ブレスやサマーソルトを繰り出すことができる。
対してガンナーであるアリサにとっては腕の見せ所であった。空中の敵を攻撃できることは、飛び道具使いにとって大きなアイデンティティであるのだから。
彼女は隙の大きい貫通弾の速射ではなく、咄嗟の攻撃に対応しやすい通常弾でリオレイアを射抜いた。
リオレイアが大きく息を吸い込んだ。初めてリオレイアと戦うジョンだが、ブレスの予備動作であることは既に学習済みだ。リオレイアの正面を避ける。しかしやけにその溜め時間が長い。
「ーーッ!、ジョン、離れなさい!!」
「え?」
リオレイアはブレスを放った。大方ジョンの予想通りの行動。しかしその爆発範囲は彼の予想を逸脱していた。
火球の着弾地点は大きくえぐり取られ、そこを中心に爆炎が広がる。その半径は着弾地点の4倍にも及んだ。
「あっち!」
ジョンは警戒はしていたために直撃こそしなかったが、爆風を背に受けてしまい吹き飛ばされた。背中に火が燃え移り、防具越しに熱を伝える。火耐性の高いクックシリーズでなければ致命傷だったかもしれない。
慌てて地面を転がり火を消したところで、今度はリオレイアの強力な”脚”が襲いかかってきた。
大木のようなたくましい4本の脚指はジョンを容易に押し倒し、地面に押さえつけた。リオレイアはその脚で器用にジョンを拘束する。
「クッソ、離しやがれ…!」
脱出しようと自由の利く両手で必死にもがく。リオレイアはそんな抵抗をもろともせず圧力を加えていくと、ジョンを押さえつけたまま噛み付こうとした。
必死の抵抗により体を逸らすことに成功し、リオレイアは空を食う。しかしその怒りに満ちた双眼に攻撃の手を止める意思はない。
凶悪な顎力と無数の牙。喰い殺される。その恐怖にジョンは襲われた。
”こんなところで、終わるのかよ!”
雌火竜がジョンに噛みつきかかろうとしたとき、その額に拳大の手投げ玉が命中した。濃い茶色の煙とともに強烈な悪臭が広がる。
アリサが投擲した『こやし玉』と呼ばれるそれは、悪臭でモンスターを追い払うことができる。
強烈な匂いに嗅覚を過剰に刺激されたリオレイアは思わずよろめき、ジョンは脱出に成功した。
「すまん、助かった…ウッ」
リオレイアに押さえつけられた圧迫感に、こやし玉によって撒き散らされたモンスターのフンの悪臭。この2つの要素はジョンに吐き気を与えるに十分すぎた。
「油断してんじゃないわよ!」
ジョンが態勢を立て直す時間を稼ぐべく、アリサはあえてリオレイアに接近して通常弾を撃ち込み気を引いた。
金髪の少女は、その華奢な身体を紅い装甲で覆い隠し、果敢に緑の巨人に肉薄する。
恐怖はある。自分が死ぬことにも、誰かが死ぬことにも。人前でつい意地を張ってしまい、しばしば後になって後悔する。前にリオレイアを狩ったといっても、当然1人でなわけがない。その時は4人のパーティだった。それに対し今回は2人。はっきり言って無謀もいいところだろう。
だがこの男は、ジョンは、初めて相対する強敵に尻込みすることなく飛び込んで行く。
負けられない。足を引っ張るな、などと言っておきながら、彼を1人で特攻させておけない。
”なら私が、アンタが死なないように援護してやるのよ”
至近距離でうなるリオレイア、それに対する恐怖を押し殺して引き金を引き、ジョンが態勢を立て直す時間を稼ぐ。エメラルドグリーンの瞳に力強い輝きが宿った。
程なくして、リオレイアは自分にこびりついた悪臭を嫌がるように飛び立っていった。緊張の糸が切れたように、ジョンとアリサはその場に座り込んだ。
「…アリサ、ちょっとあっちを向いててくれるか?」
申し訳なさそうに聞くジョンの意図がアリサにはわからなかったが、まだかすかに匂うこやし玉の香りと彼の引きつった表情に、その真意を悟った。リオレイアに腹を押さえつけられ逆流していた”ブツ”を、まさかーーー
「や、アンタ、ちょっと冗談でしょ!?」
こちらに背を向け数歩進みしゃがみこむジョン。アリサは急いで両手で顔を覆った。
樹海の一角に、小さな滝が流れ落ちた。
2人はペイントの香りを頼りにリオレイアを追っていた。生い茂る木々を掻き分け進みながら、アリサの明らかに不機嫌な様子にジョンは肩をすくめる。原因が自分であるだけに一層申し訳なく思う。
「…その、ごめん」
「…」
ジョンは両手を合わせアリサに詫びる。アリサは無言で無視する。
リオレイアの強靭な脚に押さえつけられる圧迫感の中襲いかかったこやし玉の強烈な悪臭。これで吐かない人間がいるものかとジョンは理不尽に思った。しかしリオレイアを追い払い助けてもらった恩を不快感という仇で返してしまったのは確かなので、気を悪くされても仕方ない。
ジョンが溜め息をついた時、彼の胸に拳大の玉と黄色い液の入った瓶がつきつけられた。
「消臭玉と元気ドリンコよ。匂いでモンスターを誘われても面倒だし、体力無くて動けないのも困るし」
「あ、ありがとう」
こちらから顔を背けながらもそう言ってくれるアリサの親切にジョンは甘えさせてもらうことにした。アリサはそっけない表情を繕おうとしているが、優しさの滲み出た行為であることは誰の目にも明らかだ。
ジョンは「素直じゃないな」と思いながら、それでも自分を気遣ってくれていることをありがたく思った。
消臭玉を足元に投げつけ炸裂させると、ジョンの体を水色の煙が包む。煙が晴れる頃には、ジョンにこびりついていたありとあらゆる臭いが洗い流された。
食欲が戻ってきたので元気ドリンコを口に含んだ。甘すぎず、苦すぎず、美味しい。ハチミツとにが虫を用いて調合されるそれは栄養満点であり、ジョンの英気を高める。
「アリサって料理、得意なのか?」
「その辺の人よりは得意なつもりだけど、どうして?」
「元気ドリンコが美味しかったからさ。何か秘訣とかあるのか?」
「あー、それね。姉さんに教わったの。まずはーーー」
「「ッ!」」
会話の途中に一瞬だけ降り注ぐ光が弱まったのを2人は見逃さなかった。異変を察知しすぐに身構える。
何かが上を通り、自分らに影を作ったことは予想がついた。そしてーーー
”バサッ…バサッ…”
こちらに背を向けながら、影の正体が着地した。全身を覆うゴツゴツした緑色の甲殻は木々に溶け込む迷彩になっているが、その正体はすぐに察しがつく。無論リオレイアだ。
ところどころ甲殻が砕け、頭や脚から流血していても、陸の女王は痛む素振りを見せない。強靭な生命力を誇る飛竜にとってみればそれらは人間にとっての『切り傷、かすり傷』程度のものであり、底知れない体力を体現している。
リオレイアは何かを探すかのようにキョロキョロしている。ジョンとアリサの防具に付いた返り血を嗅ぎ分けいるのか、それとも別の何かの存在を感じているのか。
「生きて帰れたら続きを教えてあげるわ。援護してあげるから、深追いするんじゃないわよ」
「わかってるさ。頼りにしてるよ」
ジョンは低い姿勢のまま、気付かれぬようリオレイアに接近し、アリサは速射可能なLV1貫通弾を装填し臨戦態勢のまま待機する。
ジョンがあと数歩のところまで来たところでリオレイアは気配を察知し振り返った。先程の戦闘から時間が経ってないので、まだ警戒状態だったのだろう。
ジョンは本来なら溜め攻撃を叩き込みたかったが、欲張っては死ぬことをわかっているので背負った大剣を抜刀しながら、そのままリオレイアの脚を斬りつけた。
抜刀攻撃と呼ばれるそれは、納刀状態の身軽さで接近した後すぐさま行える攻撃。小さな攻撃チャンスをモノにできる技術だが、使いこなすにはある程度の習熟が必要である。
リオレイアに気付かれかけ慌てて繰り出した攻撃だったので、大した威力は出せなかった。剣を握るジョン自身もあまり手応えは感じられず、リオレイアの甲殻に受け流される格好となった。
ジョンは舌打ちをし、鍛錬の足りなさを自覚させられながらも気持ちを切り替えると横に転がり、リオレイアの正面を避ける。LV1貫通弾が立て続けに6発撃ち込まれ、雌火竜の左翼膜に穴を開けた。
ジョンはリオレイアが怯んだ隙を逃すことなく、ブレイズブレイドを振りかぶった。
すぐに振り下ろすことはせず、構えたまま力を溜める。視線をただリオレイア一点のみに集中させ、全身の筋肉を大きく躍動させる。
「うおおぉぉぉっ!」
渾身の溜め攻撃をリオレイアの首に叩き込んだ。筋肉同士を最大限に連動させた一撃は、ブレイズブレイドの重量と鋭利な牙を以って雌火竜に襲いかかる。首の中ほどの甲殻を潰し、内部の肉にもいくらか到達する。
ジョンは大剣を抱え、血飛沫を避けるようにリオレイアから距離をとる。
”今度は決まったか!”
心の中で喜んだ。初めて相対する強敵に対し着実にダメージを与えられているという感触が彼を激励する。
アリサは隙の小さい通常弾を装填し、ジョンは大剣を背負いリオレイアの動きを待った。
リオレイアは己が甲殻を砕いた憎き男の方を向くと、口から黒煙を上げながら首を振った。それが火炎ブレスの予備動作であると学んでいるジョンは、横方向へ大きく走り火球を回避する。
飛竜種の生命力は人間とは桁が違う。狩人が数十数百の攻撃を当てるまで力尽きない飛竜、対照的に生身の人間は飛竜の攻撃1つで肉片に変わってしまう。
故に狩人は鍛え上げられた武具に身を包む。倒したモンスターから得た素材をそのまま武具に変え、彼らが爪牙を武器とし、甲殻や鱗を防具にし、より強力なモンスターに挑む。
ジョンは、直撃すれば即死もあり得るモンスターの攻撃を一度避けただけでは満足しない。すぐさま次の攻撃に対し構え、何度でもやり過ごし、確実な攻撃チャンスを伺う。
2発目のブレスを横に跳んで回避する。大地を転がり受身を取り、すぐさま態勢を立て直す。
リオレイアを視界の中心に捉える。彼に夢中なリオレイアに、反対側に構えるアリサが弾丸を撃ち込んでいる。順調だ。しかし彼はその時、視界の端にこちらへ走る青き狩人を見た。
「アリサ!後ろだ!」
「え?」
ラングロヘルムで覆われはっきりとした表情は見えないが、そのマスクの奥は困惑していただろう。彼女が後方を振り向いた時には、既に二頭のランポスが間近へ迫っていた。
片方のランポスの頭を装填されていた通常弾で吹き飛ばす。続けて残りの一頭に銃口を向け引き金を引く。
「カチッ…」
クウィルバーストは悲しい空音を鳴らした。悲壮の声で「嘘でしょ」と呟く時にはランポスが飛びかかってきていた。
鳥竜種のランポスは肉食とはいえ、モンスターの中では下位の存在。しかしそれでも、並の人間1人に力負けするような事はない。アリサはランポスに押し倒された。大地に叩きつけられる痛みでクウィルバーストを手放す。
”こいつ!”
アリサは自分に跨り、捕食せんとしてくるランポスの喉を両手で掴み、耐えた。間近で口を開き、無数の歯を見せつけながら『ギャア!』と威嚇するランポスに抱いたのは恐怖であった。
ーーー私がやられる?ランポス程度に?
ふとドンドルマの光景が脳裏をよぎった。親がいない自分の面倒を見て、教育してくれた姉。好きなことを勉強させてやるとお金を稼いでくれた、血の繋がらない兄たち。
ハンターになると言ったとき、彼らは驚いた。姉は少し反対し、兄たちは「それがやりたいことなら」と養成所に通わせてくれた。
「まだ…」
アリサは右足に力を込めた。
「まだ、追いついてないのよ!!」
気迫の宿った叫びとともにランポスの腹を右足で蹴る。懐を突かれ怯んだランポスは押さえつける力を緩めた。その隙にアリサは右太腿の防具に一体化された鞘から短剣を取り出し、ランポスの喉元に突き刺した。
力無く崩れ落ちるランポスの返り血を浴びながら抜け出し、立ち上がる。追い詰められた緊張感から、その呼吸は荒い。だが雌火竜は安心する余裕を与えてくれなかった。ジョンが引きつけていたリオレイアは背後で繰り広げられる争いに気付き、アリサとランポスの死体を視界に捉える。
「すまんアリサ、そっちにいった!」
リオレイアは両翼を広げ、大地を蹴った。人間が全速力を出しても追いつかない速度で走り、アリサに突進を仕掛ける。
単純ながらも凶悪、巨体とスピードを活かした質量攻撃。クウィルバーストを背中のハードポイントに固定するとアリサは全力で走るが、流石は陸の女王、その追尾性能は伊達でなく、確実に方向修正しながら紅い防具に身を包む狩人に迫る。
アリサは身を投げ出し大地にダイブした。しかしリオレイアは速度を落とすことでさらに追尾性能を高め、アリサに接触することに成功する。
筋肉に覆われた巨木は跳躍するアリサの足を引っ掛ける。衝撃でアリサは吹き飛ばされ、大地に打ち付けられながら何回転かしたところでようやく止まった。
大地に打ち付けられるアリサを見てジョンの背筋は凍りついた。退き際を見極めた行動で被弾を避けてきたアリサが、ランポスという乱入者に調子を崩され、ついにダメージを受けてしまった。
咄嗟にアリサへ向かって走る。ラングロヘルムの向こうの苦悶の表情は容易に想像がつく。その証拠にアリサは動かない。何とか立ち上がろうとしても、足に痛手を受けたのか、途中で崩れ落ちる。
「アリサ!逃げろ!」
動けない獲物を見つけたリオレイアが振り向く。野生はどこまでも残酷だ。敵は倒せる時に倒す。でなければ死ぬのは自分だからだ。生き延び、子孫を残す。身を脅かす者には容赦はしない。狩るか、狩られるか、それは相手が別種のモンスターであろうとハンターであろうと普遍である。
リオレイアは首を振りかぶり、口から火の粉を散らす。火炎ブレスの合図だ。
”待ってくれ!”
心の中でリオレイアに叫ぶ。容赦の無さは知っていてもーーー
走る。だがアリサの元へは追いつけない。
リオレイアの喉から、巨大な火球が放たれる。
「きゃああぁぁぁぁ!!!」
「アリサぁぁ!!」
叫びが樹海に響き渡る。青年は右手を伸ばす。もちろん届かない。それを嘲笑うかの如く、彼の前を容赦なく火球が横切る。
それはアリサの手前に着弾し、大地を抉るほどの爆発が彼女を包み込む。
少女を炎が包み込んだ。