ある日ナーサリー・ライムが拾ったという落とし物の正体は、彼女と同じ名前を持つとあるゲーム作品のキャラが書かれたストラップだった。

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ナーサリーちゃんがNursery Rhymeのtrue my heartを歌ってるところを想像したら癒されたので書いた。


ちなみにタイトルはゲームの方から引用しただけですので、本文で恋のお話が繰り広げられる訳ではないことをあらかじめここに謝罪します。






甘くほろ苦く それは優しい恋物語

 

 

 

 

 十人十色、千差万別。

 それぞれの個体には必ず相違があり、その相違はこの世に生を受けた瞬間より蓄積された経験によって発現するものである。

 とりわけヒトは比類なき強固な理性を獲得したため情報の蓄積量が多く、結果として他の生物に比べ個体ごとの差異が大きくなる。

 しかしヒトの群れとは力と本能ではなく理性をもって秩序をなすことで維持されるため、他者との相違や個人の自由を重視しつつもその個性がいわゆる「秩序・善」に近付くよう、未成年に相応しくないと考えられる知識は意図的にシャットアウトしなければならない。

 ならば、もし無垢なる幼子がその精神性に相応しくない知識と触れあう機会を得てしまった場合、年長者はどうすれば良いのだろうか。

 例えばそう、カルデアで向かい合う少年と少女――藤丸立香とナーサリー⚫ライムのように。

 

「マスター。さっき拾ったのだけれど、これは何なのかしら?」

 

「そ、それはっ!?」

 

 ナーサリーの掌に乗っかったストラップをどれどれと覗きこんだ立香は、イラストを見た瞬間驚きの声をあげた。

 人理継続保障機関フィニス・カルデア。焼却された人類史を取り戻す戦いの拠点となったこの場所で、まさかよりによって"ソレ"を見る日が来るとは思わなかったからだ。

 そして、そのリアクションは立香にとって痛恨のミスだった。

 

「あら、マスターは知ってるのね? だったらわたしに教えてもらえないかしら!」

 

 あっ、と思ったときには既に出遅れ。

 ナーサリーはアメジストのような紫色の瞳をキラキラと輝かせていて、立香は石化の魔眼でも受けてしまったかのように固まる。

 しかしそこは数多の戦場を潜り抜けた歴戦のマスター。すぐに再起動した立香は現時点において打開策が無いことを認め、時間稼ぎの意味を込めて状況把握を開始した。

 

「ナーサリー、それはどこで拾ったんだ?」

 

「えーっと、カルデアの廊下だったってことしか分からないわ」

 

「時間はいつぐらい?」

 

「さっきよ。それよりも早く教えてもらえないかしら。わたしと同じ名前だなんて、とっても気になるの!」

 

 しかし少しやり取りをしただけで、ナーサリーはすぐさま質問を最初のものに戻してくる。

 ――予想以上に押しが強いと思ったら、そういうことか!

 ただ落とし物を拾っただけにしては不自然な食い付きだったが、今の台詞で全て納得した。

 

 ストラップに書いてあるタイトルは『Nursery Rhyme―ナーサリィ☆ライム―』。

 奇しくも目の前の少女と同じ名前を持つソレは、しかし対象年齢十八歳以上のいわゆるエロゲー(・・・・)である。

 

(だ、誰だこんなん落としたのーーーーっ!)

 

 かつて第七特異点のウルクで敢行した高所からのフリーフォールとは異なる、破滅が一歩一歩近付いてくる感覚が立香を支配する。

 確かに立香は彼女の質問に対する正解を知っているが純真無垢な少女に「実はこれエロゲなんだ」なんて正直に言うのは憚られるし、だからといって嘘で塗り固めた説明で誤魔化した場合、嘘をこの上なく嫌う清姫の耳に届くかもしれない――

 

「うっ」

 

「マスター、大丈夫?」

 

「ああ、大丈夫」

 

 思わず脳裏をよぎった最悪の想像にふらつく足を叱咤し、何とかその場に踏みとどまる。

 

「で、これは何なのかしら!」

 

「あ、いやその……」

 

 期待の眼差しが痛い。もう素直に言ってしまおうか――いや、

 

(素直?……素直な、気持ち……抱きしめ……)

 

 素直、という言葉に引っ掛かりを覚えた立香は記憶をたどり寄せ、ひとつの策にたどり着いた。

 策とすら言えない稚拙な案だが、もうこれに賭けるしかない。

 

「分かった。それじゃあマイルームにおいで」

 

 これでダメなら今度こそ正直に言おう。

 何も知らない少女を騙す罪悪感を抱きながら、立香はカルデアにあるマイルームへと案内する。

 そして清潔感のある白い部屋にサーヴァント達から貰ったあれこれを飾っているそこにナーサリーを連れてくるや、すぐさまパソコンを立ち上げた。

 

「マスター、まだかしら?」

 

「もうちょっと待ってて」

 

「どんなものなのかしら、楽しみだわ」

 

 ふふ、と笑うナーサリーをよそにブックマーク一覧からアクセスするのは、ニコニコ動画と呼ばれる動画投稿サイト。

 素早くマイページにログインしてマイリストを呼び出し、その動画のラインナップから『きしめん』とあるものを探し出してクリックすると、数秒のロードを経てマイルームに軽快な曲が流れ始めた。

 

「マスター、もしかしてこれが?」

 

「そう、これがストラップの作品の曲(・・・・・・・・・・)、『true my heart』だよ」

 

 これが立香の策。

 ゲームそのものではなく、ゲームに使われる音楽を紹介することでナーサリーの気をそらすというものだ。

 そもそもNursery Rhymeとは大人気を博したものの2005年に発売されたゲームで、カルデア内で18歳の誕生日を迎えた立香が遊んでいる訳がない。

 にもかかわらず立香が知っていたのは、そのオープニングに使用された曲がニコニコ動画において非常に高い知名度を誇っていたからである。

 

「どうかな、この曲は」

 

 金属の擦れる音を鳴らして回転椅子を回しナーサリーの方へ振り返ると、彼女はさっきまで部屋に満ちていた音を噛み締めるように目を閉じていた。

 この策は嘘を言わないが本当のことも言わないというもの――つまり彼女がここで納得せず「これがわたしの曲なのね。だったらわたしはどんなものなのかしら」なんて言ってしまえば、立香は包み隠さず言うしかない。

 

「……」

 

「……素敵だわ」

 

 結果から言うと、立香の心配は杞憂に終わった。

 

「わたしと同じ名前に関わる曲が恋を歌うなんて、とっても素敵だわ!」

 

 ナーサリーは満面の笑みを浮かべて楽しそうに歌い始め、歌詞を覚えてない部分に差し掛かるともう一回再生するようにせがむ。

 立香はもう一度再生ボタンを押し、一心不乱に曲へ耳を傾けるナーサリーを邪魔しないようそっと席を離れ、策の大詰めに入った。

 

『おや、カルデア内にいるのにわざわざこれを使うなんて、何かあったのかな』

 

「うん、実は――」

 

 ダ・ヴィンチちゃんと呼ばれる存在に無線を繋ぎ、事の顛末を説明する。

 ナーサリーがエロゲ関連のグッズを拾ってしまったこと。

 自分と同じ名前を持つソレに並々ならぬ興味を示したこと。

 オープニング曲を聞かせて、とりあえずお茶を濁せそうなこと。

 曲が終わる前に手早く説明を終え、立香は本題を口にした。

 

「それで、ダ・ヴィンチちゃんには音楽を再生する礼装を作って欲しいんだ。今すぐ」

 

『その程度、この天才にかかればお茶の子さいさいさ。ただすぐ用意するとなると『追憶の貝殻』をひとつ使いたいんだけど、それでもいいかな?』

 

「うん、それでお願い」

 

『よし、なら五分で終わらせてみせるさ。ついでに見た目をオルゴール風にして、オルゴールアレンジと本物の二種類を切り替え出来るようにもしよう。子供の夢を守りたいと願うキミへのサービスだ、お代(マナプリズム)はいらないよ』

 

「ありがとう」

 

 相手には見えないけれど感謝の意を込めて一礼をして、立香は通信を切る。

 三回目を所望するナーサリーのためにもう一度再生してやり、それの終わったタイミングで立香は声をかけた。

 

「ナーサリー、さっきダ・ヴィンチちゃんに頼んでこの曲が流れる礼装を作って貰ったんだけど、どうかな?」

 

「本当!? ありがとうマスター! 早速行きましょう!」

 

 もう待ちきれないとナーサリーは立香の手を掴み、ダ・ヴィンチちゃんのいる工房へ駆け込む。

 そこでオルゴール型礼装を受け取り、上機嫌で自分に割り当てられた部屋へ帰っていくナーサリーを見送った立香は安堵の息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 ――結局、あの落とし物の持ち主は黒髭だった。

 少なくとも黒髭を召喚する前に発売されたそれを入手した経路はマリゾンという、マーリンがAmazonを真似て作ったサーヴァント達へあれこれ提供するサイトらしい。

 サイトトップこそ『燃え盛る街から古代ウルクまで、いつでもどこでもお届けします☆』なんてマギ☆マリがピースする軽い調子の画面だが、その実態はマーリンの見続けた人類史の記録を参照し、注文された商品の鏡像存在を生み出してお届けするというあまりにもぶっ飛んだものだった。

 本人いわく『もちろんその鏡像存在はカルデア内でしか存在を保てないようにしてあるよ。私の海賊版が転売されて世に出回ったせいで、人の営みが歪むのなんて見たくないからね』とのこと。

 何やってんだあの元引きこもり。

 

 ちなみに黒髭に落とし物を届けに行ったところ『む、美少女に拾ってもらって深い付き合いになる作戦は失敗でござるか』とか言い出したので、罰として圧制スイッチの入ったスパルタクス、酒の入ったフェルグスと共に種火を周回するよう命じておいた。

 そして――

 

「ぐーるーるー♪」

 

 あの日以降、カルデア内ではtrue my heartを歌いながら歩き回るナーサリーが度々目撃されるようになった。

 職員やサーヴァントの中にはその曲の出典を知る人間もいたが、彼女があまりにも楽しそうに歌うので、それに水を差すような真似をする者はいなかったという。

 

「おもーいは優しいキスでー♪」

 

 ――今日もまた、カルデアに幼い少女の歌声が響き渡る。

 

 





きしめええええええええええええん!
てなわけでこれにて終了です。

余談ですが、エリちゃんやネロちゃまがデュエットをしようとした場合、どこからともなく現れたキングハサンがどこかへと連れ去っていきます。
一連の騒動を見た後あれこれ調べた彼は作中人物(人物というかぬいぐるみですが)にアズラエルという死を告げる天使と同じ名前の存在がいることを知って、愛着が沸いたからです。
……本来こういった設定は文中で説明すべきなのですが、私の実力だとどこに入れても蛇足になるような気がしたのでここに書かせていただきました。

それと作中においてなぜこの曲が『きしめん』と呼ばれていたのかについて言及しませんでしたが、ググればすぐ出てくるので気になった方はぜひ。
キングハサン「聞くがよい」

スパルタクス、フェルグスに関しては、某板で紳士(ロリコン)たちの行き過ぎた愛を止めるために来るという彼らを参考にしました。
あの場所で圧倒的な撃破数を叩き出してるのはアタランテですが、美少女と種火周回とかご褒美にしかならないので。アタランテさん毎日毎日お疲れさまです。
あそこは話してて楽しいですが、傍目から見たら本当に魔境なんですよね。冷静に考えたら真ナーサリーとか狂気しかない。

最後になりますが皆様、閲覧ありがとうございました。
ジャック、ナーサリーと来たから次はスパムちゃんも書いてみたいなぁ……








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