平沼の勘違い艦娘日記 作:ふぅーざ
7日目、晴れ
艦娘と分かったからには行動せねば。何故俺が艦娘になっているのかだとか、なぜ無人島スタートなのかだとか巫女服なのかだとかそういう疑問は今は置いておいて。
海を移動できる術があるのだから、とっととこの何もない島から移動するべきだろう。そうじゃないとそろそろ飢え死ぬ。島の食い物だけだとこの先栄養失調で倒れる未来はそう遠くはない。
いや、そもそも艦娘と人間の体が同じかさえも知らんのだが。
甘ったれた事を言っている時間はない。今日は準備に徹して、明日には出発だ。
8日目、雨のち雷雲
雨強い。
寝よ。
9日目、晴れ
昨日の地獄のような雷雨はどこ吹く風、今日には完全に晴れて風も凪いでいた。もしかして昨日のは台風だったのだろうか…?
持てるだけの食い物を持って、流れ着いた皮袋に入れていざ出発だ。水も食い物も残り少ないので正真正銘これが最初で最後の遠征となるだろう。
しかし俺は諦めない。生きているうちは精一杯抗わせてもらう。
いざ出航。天気は晴天波低し。
平沼、出撃します!
10日目、雨
小雨の中の進軍。水が手に入るのは非常にありがたいが、体が冷えて仕方がない。
あの島を出て早一日、夜は小さな岩の出た場所で休み、今もこうして移動しているが、三百六十度どこを見渡しても大海原が続いている。
海の天気は女心より変わりやすい。
気を抜かずに行こう。
11日目抜いて12日目、雨
深海棲艦と出くわした。逃げ出す時に食料も水も全て失った。
初めは目を疑った。大海原のど真ん中あたりにポツポツと黒い点が見え、もしや艦娘かと近づくと黒い粒が小さく爆発して、次の瞬間には俺の数メートル先に爆音とともに水柱が立っていたのだ。
よく見て見ると駆逐イ級3体、更に重巡リ級、戦艦ル級がそれぞれ俺を睨んでいた。
敵意と殺意。初めて感じた身の危機に、俺はロクに抵抗せずに逃げた。
何度も撃たれたが、俺はなんとか逃げ延びて岩礁の陰に隠れる事に成功した。その間にいつの間にか肩に下げていた袋が消えていた。
泣いた。
み
小雨の中を進軍する。
雨が髪の毛を濡らして、服が肌に張り付いて来て不快だ。激しい戦闘や強風でもない限り濡れることがない艤装も、今ではすっかり金属特有のてらてたした光沢を曇天に向けている。
私、雷は息息を吐き出して、目の前を先行する天龍に話しかけた。
「天龍、雨止みそうにないわね」
「ああ。こうも雨が続くと鬱陶しいなぁ」
天龍は背中を向けたまま、しかしはっきりと顔をしかめているのが幻視できるほどに感情を込めて言い返した。
「確かに最近、雨が続いているのです…」
「レディーだから平気だけど、帽子までずぶ濡れになるのはちょっと憂鬱になっちゃうわ」
「遠征で資源を回収するのが私達の仕事。天候で左右されるようじゃ暁もまだまだだね」
後ろで電と暁が話していると、白い髪の少女、響がきりっとした表情で2人を…主に暁を諌めた。
「なっ!べ、別に遠征で気を抜いてる訳じゃないわ!」
「どうだか…それはそうとてんりゅー。疲れたからおぶってー」
「気が抜けてるのは響の方じゃない!?」
「響、お前なぁ…」
さらっと暁の反論を流して天龍に甘える響。呆れた天龍の声。全く、この子達は…。
「ふざけてないで集中しなさい!この辺の深海棲艦はあらかた追い払ったって言っても、全くいないって訳じゃないのよ!」
「はーい」
「ぐぬぬ…なんで暁まで…」
「ほら、後は鎮守府に帰投するだけだ。気張れ気張れ!」
気にした様子もなく前を向き直る響と、若干悔しそうにする暁。そんな2人を見て微笑む電。そして率先する天龍。
ここまでは、これまでなんども繰り返されて来た日常の一ページ。
そのはずだった。
「にしても、なんだか寒いわね…」
思わず身体を震わせて呟いた。悪寒、とでもいうのだろうか。身体の芯から震えて、背筋がぞぞっとするこの感覚。そろそろ夏の口に入ろうかという季節のはずなんだけど…。
まさか風邪引いちゃったとか?艦娘でもたまに引く子もいるらしいし。そうなるとみんなに迷惑をかけちゃうわ。
でも司令官が風邪を引いたら、私が率先してお世話してあげるから問題ないわね!
まあ、司令官はそうそう風邪なんて引くわけないんだけどね。司令官はずっと鍛えてるから提督になって数年間一度も風邪を引いたことがないっていうし…。
…もっと、もっと頼ってくれてもいいのに…私、別にお世話しないと死なないってわけじゃないの。だけど、最近は特に司令官のお世話をできてなくて、欲求不満っていうかなんていうか…。
「…ちっ、お前ら、止まれ」
天龍が手を上げてそういった。
「どうしたの?」
「あれ見ろ…深海棲艦だ」
見て見ると、確かに前方に影がいくつか見えた。どうやら艦隊らしい。
「どうする?」
「当然ぶっ叩いて壊滅…と行きたい所だが、今はあくまで資源確保の為の遠征中だ。無駄な戦いは避けなきゃな…」
心底残念そうにそういう天龍を、暁が「残念そうにしないのー!」と叱っている。
「じゃあ早い所離れましょう!って天龍、そんな顔しないのよ!」
天龍は変な所で頑張る癖がある。本当に天龍は私達がしっかり見てないと本当にダメなんだから!
「…ちょ、ちょっと待って!」
電が声をあげた。
「あ、あれ…何かを撃っているのです…?」
「なに?」
確かに深海棲艦がいる場所から、砲撃音が届いて来た。
「俺たち…じゃねえ。何を狙ってる…?」
「あ!あれ!」
今度も見つけたのは電だった。
指差した方向を見てみると、私達と同じくらいの歳の子が、深海棲艦を挟んで向こう側を、私達が進んでいる方向とは逆方向へと進んでいるのが見えた。
「あの子、狙われてるのです!」
電の言う通り、その子の周りでは大きな水柱がいくつも爆ぜていた。疲れているのか動きも遅い。いつ当たってもおかしくない状況だった。
「…て、天龍…」
「よし、しゃあなしだな。あー、あー、提督?聞こえてるか?」
天龍の行動は早かった。流石なんども遠征の旗艦にされたわけじゃない。
『こちら提督だが、天龍か?どうした?』
「艦娘が1人、深海棲艦に襲われてる。交戦の許可くれ」
『艦娘だと?自然発生したのか…相手の編成は?』
「駆逐3隻重巡1隻、さらに戦艦1隻だな!」
『だな!じゃねえ!?なにそんなものに喧嘩売ろうとしてんだ!』
提督の怒鳴り声が響く。
「で、でも…早くしないとあの子が…!」
『分かっている。いいか、交戦はするな。応援を出すからそれまで逃げまくれ』
「ちっ、まあそうだよな」
「て、ん、りゅ、う?」
「はいはい分かった分かった!んじゃ早速行くぞ!無茶すんなよお前ら!」
天龍の声に、私達は艤装を構えて陣を組み直した。