魔槍の使い手がオラリオに……   作:shibamura

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素敵なSS作品達に感化され、原作読んでないのに書いてしまった。
『ボクは悪くない』

これから原作・外伝・アニメ見て勉強します。

この1話目は、作者にとっては大事な1話ですが、読者様にはだらだら長く感じてしまうかもしれません。なので出来れば、或いは後で読み返して、くらいの気持ちで読んでやって下さいませ。

めんどくさっと感じたら2話目から読むのもアリ。


一刺・再スタートは痛みと共に

 ――その日は、雨が降っていた。

 

 

 朝から続く雨はしとしとと降り続き、梅雨特有の纏わりつくような湿気に誰もが辟易していた。

 

 そんな街中、その一角の何の変哲もない横断歩道に響く、けたたましいブレーキ音。何人かのざわめきと、ナニカが転がる重い音。

 

 2つの傘が落ちる。大きい傘と小さい傘。暫くして、女の子の泣き声が広がっていった…。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「――とまあ、こんな感じでキミの人生はゴールした訳だけど。どうだい?感想はあるかい?」

 

 

 3D映画のような臨場感と、無駄にワイドな映像を観せられた私に彼女から声がかかる。

 

 そこは、途方もなく広い部屋だった。

 遠近感がおかしくなる程に四方に広がる壁。そのそれぞれの真ん中に無機質な扉が位置している。手を伸ばせば届きそうでありながら、まるで部屋色の空であるかのような錯覚さえ覚える天井。窓も照明もないのに、白色灯のような光が空間中を満たす。

 

 そんな、部屋全体の大きさから見ればほんの僅かに過ぎないこの中央部分に、不自然なまでにこじんまりと存在する生活スペース。

 目の前の彼女がその主なのだろうか、妙に生活臭があり、特にベッド脇に積まれている書籍の多さが何とも言えない(その多くが○ャンプに見えるのは突っ込みたくない)。

 

 そしてそのベッドに片膝立てて座っている女の子が一人。先程私に声をかけてきた人物だ。

 その女の子は……なんだろう、何処かで見たことあるような気がするが思い出せない。立派に伸びた艶やかな黒髪を肩と太股の辺りで軽く束ね、頭には黄色いヘッドバンド。何故かどこかの学校の制服?を着こなし、これまた何故か学校の上履き。言うまでもなく違和感しか感じない。

 

 今の今まで私は革張りのソファに腰掛けながら、彼女と一緒にその()()()()()()を鑑賞させられていた。

 

 2時間程に編集され、どこぞの○HK番組的にナレーション(どう聴いても目の前の彼女の声だった。しかもノリノリ)まで付いていたその作品の題材は、まさしく()()()()()()()

 所々妙に凝っており、登場人物の心の声だったり、あり得ない角度や位置からのカメラアングルであったり(最後のシーンなどは4方向から撮られていた)といった工夫が散りばめられ、何の感動も無い私の人生相手にご苦労な事だといっそ感心してしまった。

 

 とは言え。

 

 他人のこんな結末(交通事故死)に対して、よくもまあ“ゴール”なんて言葉を使えたものだ。普通はもっとオブラートに包むものじゃないのか?

 そんな()()の不快感を声に乗せてみる。

 

「……こんなのがゴールとは言えないと思いますけど」

 

「そうかい?人間みんな生まれて死ぬんだ。その間にやること出来ることなんて、所詮はただの暇潰しだろう?」

 

「……それは極論ですよ」

 

「確かに極論かも知れない。けどキミには当てはまるだろう?」

 

「……」

 

 何とも、この女の子は実に嬉しそうに笑ってくれる。他人の不幸は蜜の味と言うが、彼女にとっては他人の人生なんて、相手の喜怒哀楽引っくるめても喜劇でしかないのだろう。なんせずっと微笑んでいるし。

 

「さてさて、まあそんなことは置いといて。普通に漫画読んだりネットサーフィンしたりしてる健全なキミなら、今の状況が飲み込めただろうと思うけど」

 

 芝居がかった大袈裟な仕草で、女の子がクルクルと廻る。

 

 

 先刻私のダイジェストを観る前に、要するに()()()()で起きたばかりの私に向かって彼女から告げられた事実。

 

『やあやあ初めま()て!そして残念で()た!キミはどうやら無駄死に()()まったみたいだよ?』

 

 そこで、私が交通事故で死亡したこと。現場は雨は降っていたけど見通しが悪い訳でもなく、歩道の信号は青だったこと。どうやら運転手はスマホ運転をしていたらしく、私は先に横断歩道を渡ろうとした小学生の女の子を助けようと跳ねられたこと。さらには実はその女の子は、私が助けなくても奇跡的に軽傷で済んでいたということ等を説明された。

 特に最後の事柄は入念に、とても嬉しそうに説明され、『まるで○遊白書じゃないか。まあボクがわざわざ伝えなければ、単なる美談で済んだんだけどね!』と言われた時は流石にイラッとした。

 

 

「このシチュエーションは、所謂1つの神様転生ってやつさ。ま、ボクは神様なんて量産品じゃないけどね」

 

 回転していた筈の少女が、何故かイナ○ウアーのようなポーズでキメ顔を向けてくる。

 

「ただ、何の説明も自覚もなく転生させられても迷惑だろう?親切なボクとしてはキチンと事前説明と、あとはある程度の要望に沿ってメイキングしてあげようかと思ってね」

 

 メイキングって……。まるでゲームのキャラクターを作るかのように軽く言ってくれる。

 

「てゆーか、何で私を拾い上げてくれたんですか?私なんかよりもよっぽど劇的だったり、面白可笑しい人生のひとなんて幾らでもいるでしょうに」

 

「成程、予防線とか謙遜とか劣等感とかじゃなく、キミってやつはホントに自己評価が低いんだね。“何処にでも居る、幾らでも替わりのいる存在”ってヤツかい?けどね、そんなことを言ったらこの時代、ホントに特別な役割のある人間なんていないぜ?基本、生まれや環境を整えてやれば、人は()()()()()()()()()()()んだから」

 

 神様擬きの女の子が、私の内面をザクザクと抉っていく。口許も目付きも穏やかな微笑のままなのに、一瞬、まるで身体の隅々まで検分されてるかのような錯覚を覚える。

 

「それに、才能云々は置いといて。終わりこそアレだけど、中々に見応えがあるものだったと思うけどね?自分の育った施設のために、遊ぶこともせずにお手伝いやバイト三昧なんて、実にご年配が感動する話じゃないか。でもさ、人間ってのはホントに脆いよねぇ。随分喧嘩慣れもしていたようだけど、それでも車にぶつかられた位で死んじゃうんだし」

 

「手伝いとかは、それしかやることが無かったからですよ。あと、普通はアンナノに突っ込まれたら死にますって」

 

 ダンプカーに突っ込まれればね。いやもう、あんなの身体を鍛えてるとか喧嘩慣れしてるとか関係ないでしょう。あれで無事な人がいたらそれはもう肉体的なものじゃなく、あり得ない程の幸運の持ち主ってことだろう。あれ?でも幸運の持ち主ならそもそもダンプには轢かれない。つまり悪運が強いってやつか。

 

「そうかい?逆に手刀でダンプを真っ二つにしたり、轢かれてもピンピンしてダンプを持ち上げたり、運動エネルギーを操作してダンプを弾き飛ばしたり、しないのかい?……そうか、これがゆとり世代というやつなんだね」

 

 どこの異世界人共だよ。てゆーか、地味にショックを受けてるんですけどこの人(?)。あとゆとりは関係ないと思いますが。

 

「ま、いいか。とにかくさっきの質問に答えるとすれば、キミも気付いてるだろうけど、実は選んだ理由なんて特に無いんだよ。御神籤を引くくらいの気軽さで、無作為に選出した結果でしかない。思ったよりも素敵な子が来たわけだけど」

 

 コロコロと話題が良く変わる。というか飛ぶ。しかも恐ろしいことに微笑みは全く変わっていない。

 

「さて、お喋りも楽しいけど、サクサク行こう。本題を忘れたらいけないからね。因みにボクは臨機応変って言葉が大嫌いでね。言い訳みたいだろう?それなら初志貫徹の方がよっぽどカッコいいってものさ。あ、因みに転生にあたって聞いときたいことはあるかい?」

 

「ってか、転生したいとは言って―」

 

「無いようだね!じゃあメイキングを始めよう」

 

「おい」

 

「まあまあ、もう必要書類も揃えちゃったし。生前ギャンブルはおろか宝くじですら買ったことの無いキミに、漸く巡ってきたチャンスなんだ。大人しく受け入れたまへ。異論反論抗議質問口答えは一切認めない」

 

「」

 

 どうやら話を聞く気はないようだ。しかし転生に必要な書類があるんですね…。異世界に漂流的な展開とかは勘弁ですよ?私は何の取り柄もない女なので。

 

 まあ、実際ちょっとワクワクはしてますけどね?ただ自分の預かり知らない所で話が進んでくのが嫌なだけで。いくら自分を卑下していようが、チャンスがあるならそりゃほしいよ。

 

「メイキングと言っても、別に身長体重から髪の色まで決める訳じゃないから、気を楽にしてくれたまえ。大まかなイメージ…そうだね、歴史上の偉人だったり、好きな漫画・ゲームのキャラクターだったり。そういうのをベースに作成してくからさ。何かあるかい?因みにボクのオススメは○田銀時さ!」

 

 ○ャンプかよ。

 

「クー・フーリンで」

 

 自然と声に出していた。てか、そのオススメはない。あんなアップダウンの激しい、ギャグシリアスごっちゃ混ぜの世界にいったら気疲れしかない。読んでる分には楽しいんだけどね。

 

「……○田銀時は」

 

「“Fate”のクー・フーリンでお願いします」

 

「……そっか残念。てゆーかソレって男でしょうに。何故クー・フーリン?スカサハじゃなくて?」

 

「いいえ、兄貴……じゃなくてクー・フーリンがいいんです」

 

 銀○も男でしょうが。

 

「好きなのかい?」

 

「はい。愛しています」

 

「」

 

 あ、若干引かれている。しかしこれは譲ることの出来ない部分だ。特にどの趣味も長続きしなかった私だが、神キノコ様のFateという作品のキャラクター、ランサーこと“クー・フーリン”には惹かれるものがあった。

 

 私は頼れる男が好きだ。女の子は全般で好きだが。ナヨナヨとした軟弱者や、キザったらしい優男、或いは一時期流行った難聴系などは言語道断。やはり男ならば頼りがいと、時に強引なくらいのリード、勇壮でありながらもしっかりとした知性を併せ持って然るべきだと思う。

 

 つまり兄貴(クー・フーリン)だ!決して主役になれない幸運値の低さも、むしろ親近感が湧くというもの。生き残りに長けたサバイバル性、なんてことない約束にも命を賭けれる義侠心、どんな相手にも取り繕わない透明さ、いつの間にか色んな人と知り合っているコミュニケーション能力、例え友誼を結んだ相手でも戦いとなれば容赦しない潔さ、必中の槍を割りと外してしまうのすらもチャームポイントですよ!

 

 あと次点としては、“スクライド”のクーガー兄貴。一時期クーガーの真似して、早口言葉を密かに練習していたぐらい好き。まあ年少の子に見つかって、私がアナウンサーを目指していると勘違いされ、施設中に言いふらされたのは私が消去したい黒歴史であるが。

 

「あー、オホン!じゃあそれっぽい感じにさせてもらうよ!」

 

「ぽい?」

 

「そのまま流用ってのは面白くないだろう。というか他人を他人に憑依させるなんて、神様じゃあるまいし出来るわけないだろう?」

 

「はあ」

 

 すみません、その境界線が分かりません。憑依は出来ないけど転生は出来る。ってことは憑依のほうが難易度高いの?

 

「基本骨子はケルト神話、クー・フーリンを参考に構成。後はこちらで諸々調整するよ?流石に赤ん坊からやり直すと引き継ぎのデータと脳活性が齟齬を起こすから10代半ばで。■■■■の世界軸は飽和状態だから……」

 

 彼女が簡素な木製の机に座り、膨大な書類を捌き始める。ブツブツと零れていた声はやがて自分には聞き取れないほど高速となり、気のせいか人間の言語では無くなってきている気がする。チラリと見えた書類も、少なくとも日本語でも英語でもない文字で書かれておりまるで読めない。間断無く稼働する両手の動きは最早残像しか見えず、猛スピードで書類が宙に乱舞する。何百枚と積んであったそれらはみるみるうちに低くなっていき、とうとう最後の1枚となる。

 

「さて後はキミの署名だけだ。あ、生前のキミの名前だよ?因みにここから先は別の名前になってもらうから、今の名前を書くのは最後ってことになる。心を込めて書くといいよ。いやしかし、久々の一から人体精製なんで、随分張り切ってしまったよ。ちょっとオーバー気味に設定を投入してしまった気がするけど、その分結果は期待していいぜ?」

 

「期待できる要素が無いんですが……」

 

 彼女がその1枚を半回転させ、ペンと一緒に私に差し出した。

 

 そこには日本語表記で簡潔に、『貴女は人生を続けたいですか?』と書いてあった。その下には『Yes/No』とあり、最下部には署名欄がある。やり直しだとかじゃなく続けたいかとは、実に的を得ている。

 

 私の意識がこうしてはっきりと連続性を保っている以上、確かに|転生()()は地続きの出来事で。例え名前が変わり身体が変わろうとも、確かに『私』は()()に居る。そして……

 紛れもなく今の『私』がそれを選択するのだ。

 

「……ふぅ」

 

 一瞬の躊躇の後、『Yes』部分に丸をして、署名をする。

 

 彼女曰く、この名前を書く最後の機会。心を込めてと言うほど思い入れがある訳じゃないと考えていたが、書き上がった署名は多分今までで一番の出来映えだった。同時に何か、肩の荷を下ろしたような、体重が軽くなったような、独特の浮遊感を覚えた。ああ、私は何だかんだで自分の名前に愛着があったんだなと思っていると、彼女が署名の済んだ用紙を回収する。その脇には、あれほど宙に舞い散っていた書類達が整然と揃えられていた。…いつの間に。

 

「うん、確かに。いい名前だったね。この後釜はボクが責任を持って考えよう」

 

 気のせいか随分と感慨深い彼女が、最後の一枚を書類の束に乗せる。

 

「これで契約は完了した。ああ、悪魔的な意味じゃないぜ?キミはただ、キミであればいい。自分から人生を諦めなければそれでいいさ」

 

 成る程。察するに神様に近い存在である彼女の、暇潰しとか気紛れとかなのだろう。

 だがそれでも、ここまでされたのなら言うことがある。

 

「……分かりました。その……」

 

「んん?どうしたんだい?」

 

「……ありがとうございます。貴女の思惑がどうであれ、私は私を続けられる」

 

 私の言葉を聞いた彼女が、大きな瞳を少し揺らした。

 しかし私にだって感謝の気持ちくらいある。ましてや人生の続きをさせてくれると言うのだから、尚更だ。自分の価値は最底辺だと思っているし、この先の展望があった訳でもない。後悔だらけで、所々間違いだらけの人生だった。

 

 

 だがそれでも。

 

 

 価値が無くても、情けなくても、誰にも望まれなくても、将来なんて考えられなくても、惰性で生活しているだけでも、それでも。

 

 

 ただ『生きたい』と。

『それでも生きたい』と。

 

 

 “あの瞬間”、確かに私は思ったのだ。

 

 

「意外だね。キミは思っていることを中々口に出せないタイプだと思っていたよ」

 

「その指摘は間違ってないですけど、流石にこんな大事な場面で感謝できない程じゃないですよ。……まあ、貴女なら心を読むことくらい出来るんでしょうが、念のため」

 

「ふふ、確かにボクなら人の心を読むことくらいはワケないさ。けどそんな安易な手段をとる気はないぜ?コミュニケーションの醍醐味は会話をし、仕草から推測し、心情を理解()()()()ことにあるんだからね。決して理解することが目的じゃないし、最善でもないのさ」

 

 そう語る彼女は、最初の頃よりも心なしか人間っぽい気がした。最初は人の形のナニカだと思ってたし。

 

「耳が痛いですね」

 

 私はどうだっただろうか。……やめておこう。深く考えると、自分の灰色人生に呆れてしまう。

 

「……名残惜しいが始めようか。心の準備はOKかい?まあ、いくら痛くて失禁しても、ボクは気にしないから安心したまえよ」

 

「ん?……うわっ!」

 

 軽く告げる彼女だが、不穏な言葉が続いていたのは気のせいだろうか?

 咄嗟に聞き返したくなる私を浮遊感が襲う。先程のような感覚的な話じゃなく、実際に浮いている!思わず手足をバタつかせるが何の意味も無く。寧ろその様子を慈愛の目で見つめている彼女に気づいて、恥ずかしくなった。

 

「フフフっ……。心配しなくても落ちはしないさ。後はこのまま受肉して、身体に慣れるだけだから。ほら」

 

 細く可憐な指先が頭上を示す。

 そこには何か、透明ながらも揺らめきを持った、“膜”のようなものがゆっくりと降りてきていた。今気づいたが、自分が浮いているところがまるで試験管の様に円筒状になっている。これで逆さまなら、気分はとある学園都市の理事長様だろう。

 

 ゆっくりと“膜”が私の身体を通り抜ける。頭から、胸、お腹、お尻、膝、足先と、停滞無く1分くらいで通り抜ける。

 

「……?これで終わりですか?――ッィい!!??」

 

 

 

 

 痛い。

 

 

 

 痛い痛い。

 

 

 痛い痒い痛い痛い。

 

 痛い痛い熱い痛い痒い痛い痛い痛い冷たいたい――――!!!

 

「あ゛ああっ―!っっづ!――っ―!」

 

 なんだこれ何だコレナンダコレ!!!!

 痛い。全身隈無く漏れ無く痛い。眼球の奥も、手足の先も、骨や髪の毛まで痛い。まるで全身を蒸発させられるかのような熱さが襲い、私という型に肉を詰め込まれているような気持ち悪さが苛み、私という中身がごっそり抜かれているような脱力感を飲み込み、冬の北極海に裸で潜っているかのような寒さに凍え、そして何よりも――殴られ折られ斬られ貫かれるような痛みに耐える。

 

 そして、ふと気づく。

 こんな痛みやその他が雨霰と降り注ぐ状況で、何故自分は冷静で居られるのだろうか?本来なら、発狂して廃人にでもなりそうなのに。いやまあ、明らかに目の前で微笑みを深めて瞳をキラキラさせている彼女が原因なんだろうけど。

 

「ごれ……なんでずが……」

 

 精一杯声を出したつもりなのだが、上手く発音出来ないうえに聞こえたかも怪しい。喉が焼けるように熱くてカラッカラに渇いていて、発声の仕方を忘れたかのように喉も口も動かないので。

 

「おやおや流石だね。確かに精神を安定させるスキルは与えたけど、これは予想以上だぜ。ほんとキミってヤツは運も才能も無いってのに、順応性には極振りされてるね。あ、その痛みとかは受肉するための通過儀礼みたいなものだから。それなりのスペック(チート)を得るためには、相応の対価をってね。何分ボクは神様じゃないから、ページを捲ればもう完成!とはいかないのさ」

 

 先に言って下さい。事前説明するって言ったのは貴女でしょ。

 いや、先に言われて覚悟を決めようと関係ないほどの激痛ですけどね。むしろこの痛みに思考を放棄できないってほうがよほど拷問的ですよこれ。

 

「“彼”の規格を完全に再現することはできないけど、劣化版なら用意は出来た。けれどそれでも、ただの“凡人”がそのまま納まれば、最悪の場合身体に心が引っ張られて壊れてしまう。今やってるのは、言うなれば魂の適応作業だね」

 

「い゛っっ……いづ……まで……?」

 

「ん~そうだねぇ。凡人の規格に凡人の魂なら1秒掛からないんだけど、この場合……」

 

 彼女の背後に砂時計が出現する。それは見事な意匠が施された、金造りの砂時計で。それはそれは大きな砂時計だった。

 

「この砂が落ちきるまでかな!」

 

「え゛」

 

 得意満面で彼女が指し示す砂時計は、どう見ても何分とか何時間とかあるいは何日単位ですら生ぬるい大きさだ。ちょっと遠近感がおかしくなったんですかねぇ。

 

「時間にして約○年くらいだけど、安心したまえ!この部屋は外の世界とは時の流れが――」

 

 ○神と時の部屋ですか、このジャンプジャンキーめ。

 

「」

 

 この部屋の解説を始める彼女の声をBGM替わりに、私はただただ真っ白な天井を眺め、一刻も早く悟りの境地に到れるように願った……。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「……お、おわっ、っ………終わっ……た」

 

 あれからどのくらいの時間が経過したのだろう。地獄の責め苦に悶え苦しみ、嫌味なくらいにまるで減らない砂時計に殺意を抱きつつも、とうとう耐え抜いた。私は……私は……!

 

 ――やったどぉぉぉぉぉぉぉ!!

 

 と、心の中でガッツポーズを挙げておく。身体は床にだらしなく横たわっている。もう指一本も動かしたくありません。固く冷たい床だが、間断無く襲い掛かってきていた痛みも何もない今は、極上のベッドにいるかのように心地好い。

 

「お疲れ様。君があの試練に耐え抜く様には、実に感銘を受けたよ。思わず録画してしまった程に」

 

「……」

 

 色々言いたいこともあるし、今の発言を問い質したいところだが、無理。今の私はとにかくゆっくりしたいのだ。

 

 因みにこの人(?)、私が耐えてる間中、片時も目を離さずにずっと私を観察し続けていたのだから驚きである。しかも私が“この身体”に納まるにあたっての知識・注意事項諸々の解説付き。これはおそらく、彼女なら直接私にぶっ込めるのを()()()()口頭説明したのだろう。そんなの聞いてる状況ではないにも関わらず、何故かそれらの知識はすんなりと私の中に染み込んで、若干ながらも痛みから意識を離せたのは、狙っての事かは判らないが。

 

 そんな彼女は例によって変わらない微笑みのままターンすると、ジャリジャリと音をたてて歩いていく。……ジャリジャリ?

 そして再びこちらに振り向くと、

 

「では、充分に休んだところで次のステージに進もうか」

 

「――は?」

 

 ナニヲイッテルカワカラナイ。

 

「身体を得た。知識も得た。けれどもキミにはまだ、戦闘経験が圧倒的に足りていない。というか全く無い。街の喧嘩レベルなら兎も角ね。まさか槍の突き方も分からないままほっぽりだす訳にもいかないし、まあこれはボクの親切心のようなものだよ。遠慮せず受け取って貰っていいんだぜ?」

 

 気が付けば周りの風景が、何処かの森の中。しかもそこかしこから勇猛な雄叫びや獣の鳴き声、またはそれ以上のナニカの咆哮が聞こえる。……ここは地球なんでしょうか?地平線の彼方に見える、山よりも大きな異形の影は何なんでしょうか?

 そして彼女の後ろに鎮座していた砂時計が、ゆっくりと回転を始める。

 

「レッスン2。“技術も勿論大事だけど、実戦に勝る経験は無いよね♥”だ。人生を再スタートする前に終了したくなければ、生き残るしかないぜ?」

 

 ああ、何て親切な方なんでしょう。私の為にここまでしてくれるなんて……。でも、でも一言だけ言わせてください。

 

 

 ――ふぁっく!!

 

 

 ~~~早送り中~~~

 

「ほらほら、早く向こう岸まで辿り着かないとワンちゃんに捕まるぜ?」

 

「ワンちゃん!?あの牛みたいにでかくて音速で動くヤツが!?」

 

「知ってるかい?足が沈む前に踏み出せば水の上を走れるんだぜ」

 

「なるほど!沈む前に……って、出来るか!!」

 

 ~~~早送り中~~~

 

「次はこの猪だ。ちょっとやんちゃだけど、まあ大丈夫だろう」

 

「それ猪じゃなくてINOSHISHIっすよぅ!」

 

 ~~~早送り中~~~

 

「え~っと次……あれ?こんなのいたっけ?……クリード?」

 

「波濤の獣じゃないっすかぁぁぁ!?ムリムリムリ!!」

 

「まあ……規格は数段階落としてるし。やればできるさ何事も!」

 

「ヒイイィィィイイィィ!!!」

 

 ~~~早送り中~~~

 

「レッスン3、対人戦闘篇!」

 

「ゼヒュー……ゼヒュー……」

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 光の渦が見える。

 大きな光が弾けて、燦然と輝く回廊を形成している。

 

「――っ」

 

 光の粒子は数限りなく散りばめられ、しかしその実一つ一つから莫大なエネルギーを感じる。

 

「――ぃ」

 

 ふと、光の粒子の一つ。その周囲に護るように、或いは囚われるように周回する存在達が表れる。

 

「――ーい」

 

 ああ、この力強さ!生命の輝きよ!私は今、猛烈に感動して―

 

「おーい。……ふむ?仕方ない。ならば番外編レッスンを…」

 

「おはようございます!私は今日も元気です!」

 

 ――あ、危ない危ない!ちょっと悟りを開きすぎてトリップしてたぜ……!

 

「大丈夫かい?やっとレッスンが終わったというのに意識が戻ってこないから、心配したんだぜ?」

 

「す、すみませんでした。……軽く宇宙の開闢まで意識が飛んでしまいまして」

 

「ほう?宇宙開闢とはまた懐かしいね」

 

「……は?」

 

 貴女のレッスン(難易度ルナティック)のお陰で意識がトリップしてたんですが、という嫌味を含めた発言だったのだが、何故か彼女は懐かしそうにウンウンと頷いている。……why?

 いや、止めておこう。これ以上藪をつついて蛇(レッスン)を出すことになるのは御免被ると、元のだだっ広い白い部屋に戻った風景を見渡し安堵する。

 

 結局私のレッスンは10まで続き、10年や20年じゃ利かない時間が経過したはず。だというのに彼女はおろか、私の年齢も変化していないように見えるのは、先の説明にあった『時間の流れが~』の通りと言うことだろう。――しかしあのレッスンはヤヴァかった。1から順にレベルアップしていく……訳ではなく、初っぱなから限界突破しているとは想像だにしていなかった。最終レッスンでのケルト的な戦士団と猛獣・魔獣の混成軍団との大決戦では、只管誘い出しからの一撃離脱と個別撃破を1年程続けての持久戦だった。何せ1人(若しくは一体)倒すだけでも1日以上は掛かる猛者ばかりだったので、有利な地形に誘導しつつ分断するのには特に神経を使った。正に薄氷の上の、奇跡のような勝利であり、思わず安心してトリップしてしまったのは悪くない筈だ。

 

「うんうん。名残惜しいが、キミにとっては此処からが本番。漸くスタートラインに立つところまで来たわけだ。実に感慨深いね」

 

「あ……」

 

 名残惜しいと言った彼女の、何時もの微笑みに僅かながらの寂寥感が漂っているような気がする。何だかんだ彼女はずっと私に話し掛け続けてくれていた。それは役立つ知識であったり、どうでもいい話題であったりしたので、私は彼女の暇潰しなのだろうと思っていた。しかしそれは、正しくは少し違ったようで。この広いだけの部屋にどのくらい居るのかは知らないが、きっと彼女も……。きっと彼女は……。

 

「さあ、用が済んだなら長居は無用だぜ?その先で、他でもないキミ自身の物語が、きっと待ってるはずさ」

 

 私が彼女に何を言おうとしたのかが分かったのだろう。私の感傷を振り払うように、私の身体が浮遊感と共に移動していく。向かう先は、四方に備えられた扉の一つ。音もなく開かれたその先は白い光が乱舞し何も確認できないが、彼女が用意した以上、今の私が不安に思う要素は無い。

 だが、みるみる彼女から遠ざかり、扉に近づいていくなかで、

 

「あの!」

 

「……?」

 

 何とか身体を捻り、彼女に言わなければ……聞かなければいけない事があった。

 

「ホントにっ!本当にありがとうございました!……あの、最後に、お名前を教えて下さい!」

 

 そう。私ときたらこれだけ長い間一緒に居たというのに、彼女の名前すら知らなかった。聞かなかったのだ。仮にも顔見知りと云うには濃厚に過ぎる時間を送ったというのに、感謝するべき相手の名前も知らないと。これでは薄情と言われても否定できない。

 

 彼女は私の言葉に珍しく(というか初めて見たが)キョトンとすると、何時もの、よりも深い笑みを浮かべる。

 

「そういえば、今更ながら名乗っていなかったね。しかしそうだな、ここは敢えて……」

 

 視界が白く染まっていく。いつの間にか境界を過ぎ、閉まっていく扉のその先で。

 

「ボクの事は親しみを込めて、―――と呼びなさい」

 

 遠くともはっきりと分かるほど素敵な笑顔で、そう答えてくれた。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 斯くして準備万端、舞台は整った。

 

 此処から先は、私の、私による、私の為の道。

 

 与えられたチャンスと身体でもって、紡いでいこう。

 

 

 

 ―――私の物語を!

 

 

 

 

 




転生を行う準備で1話丸々潰すという暴挙、もとい長いプロローグでスミマセン。
この1話だけでは原作に掠りもしてないので、次話は早めの投稿です。

因みに神様擬きの女の子のモチーフは、まんま『めだかボックス』の“安心院さん”こと“安心院なじみ”様です。いくら出鱈目な獅子目言彦が相手だとしても、チートの塊な安心院さんがあんなアッサリ退場する筈は無い、と思ったのはきっと私だけではない。と思う。
恐らく空気を読んだとか、惰性を嫌ったとか、そういった理由なんじゃないかと信じております。


次回から本編が始まります。
拙作ではありますが、皆さんの暇潰しの一つにでもなれば幸いです。
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