魔槍の使い手がオラリオに……   作:shibamura

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主人公はショタ好きではありませんので、悪しからず(嫌いとも言ってない)。

ああ……早くリリまで行きたい。原作前には関わりますが、どちらにしろまだまだ先……。


とある金髪爽やかショタイケメンとの邂逅

[とある新人エルフと【勇者(ブレイバー)】フィン・ディムナの会話]

 

 

 

「僕の目から見て、将来有望な冒険者かい?」

 

 小人族(パルゥム)。その名の通り、成人してもなお幼少期のままで成長が止まる種族だ。身体能力は高くはなく、エルフのように魔法能力に長けている訳でもない。古くには小人族(パルゥム)で構成された勇猛な騎士団があったらしいが、それも廃れて久しい現代ではあまり日の目を見ない種族であり、端的に言えば斜陽の種族――()()()

 

 この冒険者が表れるまでは。

 

 居住まいを正し、改めて目の前の人物に向き合います。貴公子然とした金髪に、あどけなさを残しつつも甘いマスク。しかし、彼を見た目通りと侮るものはその周囲、否、()()()()には居ません。居たとしたらモグリもモグリです。傍らに立て掛けられた槍や装備品はどれも一級品でで、よく使い込まれているのが分かります。何よりも、子どもではあり得ない深い知性を宿した瞳と歴戦の貫禄に、気を抜くと萎縮してしてしまいそうになる我が身を叱咤します。

 

 依頼(クエスト)達成の報告を終えて広間に戻ると、夜としては珍しいことに人が疎らでした。聞けば大型依頼の打ち上げが行われているらしく、本拠地(ホーム)には人が少ないとのこと。そんなところに単独での依頼を終えたらしい団長のフィンさんと会い、広間で一緒に食事を採ることになった中でふとそういった話題になった。だけの筈なのに、団長の目の色が若干真剣味を帯びていると感じるのは気のせいでしょうか?

 

「はい。やっぱり筆頭はアイズさんだとは思いますが……、私はまだまだ下位冒険者なので、色々な方を見て学びたいんです」

 

 団長の真剣さを見て、私も真面目に答えます。勿論、憧れのアイズさんをアピールすることも忘れません!しかし実際、私はまだ新米で戦力としてはとても数えられません。このオラリオ最強の片割れである【ロキ・ファミリア】に於いてであれば尚更の事です。幸いここには私達エルフの……いえ、魔法使い全ての憧れと言っても過言では無い方がいらっしゃいます。ただ、やはり駆け足で頂点まで走り上がって行く人達を見ていると、このままでは決して追い付けないという焦燥感が込み上げてくるのも事実なんです。

 

「なるほどね……。君の気持ちはよく分かるよ。目標を見定めるのは悪くない、寧ろ必要な事だ。でも今は地固め、基礎をしっかりこなす時期だっていう事も分かるよね?」

 

「……はい」

 

 此方の焦りを見通す瞳を前に、私は頷くことしかできません。

 

「これからの冒険者としての道のりの中、誰しもが多かれ少なかれ挫折を経験する。でもそんな時、基礎がしっかり出来ている者ほど立ち直りが早い。自身の立ち回りや戦闘スタイルを変えるにしても、一から全てやり直すのと一部を変えるのとでは大違いだろう?リヴェリアもその辺りは良く分かっているよ。まあ彼女は厳しいから、期待されているのが分かりづらいかもしれないけどね」

 

「そう……ですよね。すみません、私、気持ちばかり逸ってしまって…。早く皆さんのお役に立ちたいって」

 

 不思議なもので、団長程の実力者に自信を持って告げられると、すんなり納得出来てしまいます。流石、『男性冒険者ランキング』や『理想の男性ランキング』等、数々のタイトルを総なめにしてきた私達のリーダーです!あ、でも私はアイズさん一筋ですけど!

 

「大丈夫、君なら必ず彼女達に追い付けるよ。僕が保証する」

 

「は、はい!あの、宜しくお願いします!ッじゃなくて、ありがとうございます!」

 

「ふふっ。そうだ、将来有望な冒険者の話だっけ?ああ……でも、彼女は君の参考にはならないかな……。戦闘スタイルが違いすぎる」

 

 思わぬ賛辞に慌てる私を気遣ってか、団長が話を戻す。……彼女?私はてっきり若手の筆頭はアイズさんだと思い込んでいたのですが、この言い方は別の方でしょうか……?

 

 むむむっ。アイズさんを差し置いて団長のお眼鏡に適う方……気になります!

 

「あの、宜しければ教えて頂けませんか?」

 

「ああ、構わないよ。と言っても、彼女は今オラリオには居ないんだけどね。諸国漫遊と言うか何というか……」

 

「え?外のファミリアの方なんですか?」

 

「いや、ウチだよ?まあ知らないのは当然さ。彼女が此処に居たのは、『恩恵(ファルナ)』を受けた初日だけ。その後すぐにオラリオを飛び出して行ったからね」

 

「それはまた……なんというか……」

 

 驚きという他ありません。『恩恵(ファルナ)』を受けてそのまま都市外に?通常、冒険者の依頼以外の都市外移動は制限されています。今の言い方では、団長もロキ様も納得の上で見送ったように聞こえるのですが……。

 

「どんな方、だったんですか……?」

 

 知りたい。思わず声が出てしまいます。

 

「そうだね……。ちょっと長くなるよ?」

 

「構いません」

 

 団長は小さく頷くと水を一口飲んでから、ゆっくりと語り出しました。

 

「……忘れもしない、あれは2年前」

 

 

 

 ――それは、二人の槍使いが出逢った、始まりの物語。――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――out side――

 

 

 

 迷宮都市オラリオ。世界で唯一、迷宮(ダンジョン)が存在する都市。否、迷宮(ダンジョン)の上に建てられた都市、といった方が正しいかも知れない。

 

 今から約1000年前……地上はモンスターが徘徊し、常に危険と隣り合わせの世界だった。魔法も、エルフとごく一部の者が使えるだけであり、人類諸族は常に劣勢であった。だがある時、状況が一変する。

 

 神々の降臨である。

 

 下界に降り立った神々は、未熟で未完で未発達な人類に興味を抱いた。神々は飽きていたのだ、天界での満ち足りた(代わり映えしない)時間に。退屈していたのだ、不変不滅(変化の無いの)超越存在(自分達)に。

 

 降臨した神々は、自分達が見定めた人々に『恩恵(ファルナ)』という名の祝福を与えた。それは人の持つ可能性を引き出す御業。これによって、本来魔法を使えないエルフ以外の種族も魔法を使えるようになったり、魔法に特化しているエルフから卓越した剣士が輩出されたりといったように、様々な可能性が生まれることになった。

 

 この人類諸族全体の底上げによって、モンスターの多くが地上から駆逐された。モンスターの発生源とされる広大な迷宮(ダンジョン)の上には、まるで蓋をするかの様に巨大な塔が建てられ、その塔を中心として都市が栄えることになる。

 

恩恵(ファルナ)』を得た人々は各々の主神の下に【ファミリア】を結成して眷族となり富を、名声を、未知を求めて、“冒険者”としてダンジョンに潜った。以来1000年間、細かい変動はあれど本筋は変わらず、今日も多くの冒険者がダンジョンへと挑んでいる――。

 

 

 

 そのダンジョンの深層、37階層の入口にて。

 

 

 

【ロキ・ファミリア】の団長にしてオラリオ屈指の実力者である【勇者(ブレイバー)】、フィン・ディムナは珍しく困惑していた。その原因は目の前の光景にある。

 

「ルォオオオオオオオオ!!」

 

 禍々しい咆哮が響く。生物学的にあり得ない、“骸骨”が吼えるという異常。加えてソレが10M近くの巨体であることも相まって、初見でこのモンスターを前に恐怖、或いは嫌悪感を抱かないものはいないだろう。

 

 

 ――『ウダイオス』

 

 

 モンスターの中でも特殊な存在である、“階層主”。別名『迷宮の孤王(モンスターレックス)』とも呼ばれるこれらのモンスターは、各々が決まった階層にのみ出現する固定種である。さらに、討伐されると大体決まったインターバルを経て再出現する。そしてその強さは、その周辺の適正レベルを大きく上回る。

 

 そんな危険な階層主達は、それ故にギルドでその情報を逐一管理されている。特に討伐情報は、その付近を探索する冒険者達にとっては死活問題。本来ならば階層主に阻まれて探索出来ない、より下の階層に行けるチャンスだからだ。

 

 

 フィンの目の前で黒大剣を振り回し吼え猛る『ウダイオス』も、そんな危険で強力な階層主である。下半身部分が埋まっている状態でありながらも、10M(メドル)はあろうかという巨体。全身骨の、その硬さと巨大質量からの攻撃力。さらには配下のような分身のような存在の『スパルトイ』を多数従えての堅牢な布陣は、今までも数多くの冒険者達を苦しめてきた。

 

 その危険で強力で巨大な『ウダイオス』が。

 

「ちょ!ホント何なのいきなりこの骨達!?キモイキモイキモイ!」

 

 20体は下らない厄介な『スパルトイ』が。

 

「あっ!分かった!続き?続きなんでしょレッスンの!?チクショウそんなことだろうと思ってましたよ!」

 

 

 ヨクワカラナイことを叫んでいる一人の少女に、圧倒されていた。

 

 

「ォォオオオオぉぉ!?!?」

 

 心なしか『ウダイオス』の咆哮も、困惑混じりの悲鳴のような気がする。

 少女の持つ黒い槍が振るわれる度、『スパルトイ』達が粉砕され、『ウダイオス』の頑強な骨がひび割れ折られる。反対に『ウダイオス』達の攻撃は、獣の様な身のこなしの少女の残影を捉えるだけ。

 

 フィンは不覚にも見惚れていた。まだ10代半ばであろう彼女の槍捌きはその実、明らかに自分よりも上。しかもそれは天賦の才能によるものではなく、数多くの実戦を潜り抜けてきた経験値の成せるものだ。

 

「いったい、あの子は……」

 

「――!子ども!?」

 

 思わず呟いたその言葉にか、或いは知らず足を進めていたからか、黒槍を振るう少女がフィンに気付いた。次の瞬間、

 

「――!?」

 

 まるで瞬間移動のようにフィンの横に現れた少女が、その喉元に穂先を突きつけていた。

 

「敵……じゃないよね?」

 

「……君に敵対しようとは思わないよ」

 

 放たれた殺気は本物。ただ辛うじて返事をすると、その殺気は一瞬で霧散した。

 

「そっか、良かった……。あ、でも、ってことは」

 

 みるみる顔を青ざめさせた少女が慌てる。まるで先程の事が嘘のような混乱っぷりに、ついフィンも拍子抜けしてしまった。寧ろ頭を深々と下げ始めた少女に、冷静に考える余裕が出来た。

 

「わ、私!?ごめんなさい!いきなり非道いことを!」

 

「いや、僕は気にしてないよ。それよりも今は……」

 

「ルルルォオオオオオオオオッ!!!」

 

 怒っていた。『ウダイオス』は、それはもう怒っていた。

 散々自分達を翻弄しておきながらいなくなったと思えば、何故か勝手に混乱して頭を下げている、この少女に。まるで此方の事など気にも止めていないかのようなその態度に。

 

 憤る『ウダイオス』は更に『スパルトイ』を追加、都合30体にも及ぶ鉄壁の布陣を整え進軍を開始する。流石にこれは見過ごせないと、フィンも加勢するべく迎撃の構えをとる、が。

 

 

「もう……うるさいなぁ……」

 

 

 隣から迸る圧力(プレッシャー)に、目を見張る。

 

 それは、一つのカタチを与えられた、純然たる結晶。

 

 いつの間に持ち替えたのか、少女が持つ槍は血のように(あか)い。そして件の槍から感じる魔力は、魔法特化ではないフィンであっても容易にその危険性を理解できた。

 

 

 ――アレは、違う。

 

 

 自分が持っている槍とは……否、人が造りしモノとはその根本が明らかに異なっている。上手くは言えないが、そう。

 

 

 ()()()()()()()()()

 

 

 溢れだす魔力はまるで鼓動。哀れな獲物を前に、歓喜しているかのように脈打っている。

 

「折角、……せっかく人が誤解を解きかかってたのに……」

 

 不満げに呟く少女だが、別段彼女自身は(今度は)殺気を放っていない。単純に仲直りの途中で邪魔された事に腹を立てた、といった程度に見えるし実際そんなものだった。軽く頬を膨らませるその姿は、大人びた容姿とのギャップも相まって控え目に見ても可愛らしい。……その手に握る朱槍が全てを台無しにしているが。

 

 朱槍の脈動が、主を急かす様に速まる。その度に零れ落ちた魔力の残滓が、朱い粒子を撒き散らしている。

 

「てゆーか、何でキミはそんなに殺る気満々なのさ、いきなり。……ああそっか。私の“キミ”にとっては、初めての獲物なんだね」

 

 猛り狂っていた『ウダイオス』達すらも、その朱槍が放つ禍々しい魔力を前に動きを止めている。そんな、大小の骸骨達に一斉に注目されながらも少女は調子を崩さず、自らの槍に対して語りかける。

 

「そっかそっか。じゃあ折角のデビュー戦だし……派手にいこう」

 

 魔力が集束する。無目的にばら撒かれていた圧力が、明確に向ける先を与えられて具現する。

 

 ソレは歪んだ権能。創るでも潤すでもなく、ただ殺すだけの機能。朱槍はただ“殺意”を以て、己が主の敵を蹂躙し尽くすのみ!

 

 嘗て最上として在った、今は新しき呪いの槍が産声を上げる。

 

 

『ウダイオス』達も漸く動き始めていた。先程とは違うハッキリとした殺気を向けられて生存本能が刺激されたのか、その源を断たんと押し寄せる。だがそれは、余りにも虚しい突撃だった。もはや決死の、ですらなく、ただ無意味に確定された死。彼らは一縷の望みを賭けた訳ではなく、降って湧いた災厄に、理不尽なまでの力の差に悲鳴を上げているだけなのだ。

 

 

 最早大勢は決した。迫る『ウダイオス』達を前にしても、フィンは静かに、少女の一挙手一投足を見逃さんとしていた。

 

 その隣で、主役である戦乙女が力強く跳躍する。瞬時に天井近くまで到達し、殺意の朱槍を振りかぶる。

 

 

 

「盛大に鳴け、“爆ぜ散らす(ゲイ・)――」

 

 

 

 朱い魔力は臨界に達し、主の『真名解放』を祝詞として、

 

 

 

「――死拡の槍(ボルク)”!!!」

 

 

 

 “この世界”に高らかに、己が存在を示した。

 

 

 

「ォォ―――!?!?」

 

 彼女のフォームからして()()()()投擲されたのであろう権能の槍は、しかし朱色の閃光としか捉えられず。

 

 狙いあまたず『ウダイオス』の核である魔石を貫き、拡散した魔力の余波が幾千幾万の小さな螺旋となって、周辺の『スパルトイ』諸とも『ウダイオス』の骨体(からだ)を粉微塵に消し飛ばした――。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 フィンは、本日何度目か分からない驚愕と共にその光景に見入っていた。目の前では階層主達を蹂躙し尽くした朱い嵐が解れ、粒子となって煌めいている。あんな圧倒的に過ぎる暴力の後だというのに、なんて幻想的な光景なのか。

 

「大丈夫?一応調整したんだけど、怪我とかしてない?」

 

 音も無く隣に降り立った少女が気遣わしげに声を掛けてきて、漸くフィンはあれほどの攻撃にも関わらず、自分の側には全く被害が出ていないことに気付いた。

 

(アレでまだ、威力を調整していた?……全く)

 

 ――完敗だ。

 

 戦ったわけでも競ったわけでもなく、しかし明確にオラリオ最高の“槍使い”が敗北を悟った。あの閃光だけの話ではない。『ウダイオス』達を翻弄していた槍捌きに縦横無尽の機動力、先程の跳躍に投擲、着地の瞬間すらも卓越していた。しかしそれ故に分からない。肉体の(しな)やかさや強靭さは確かに天性のものでもあるのだろう。だがその肉体を操る技術は熟練と言っても生温い。その見た目とはかけ離れている程に。

 

 知りたい、聞きたいとフィンが思ったのも無理からぬこと。冒険者同士、ましてや他ファミリアともなれば【ステイタス】の隠匿は暗黙の了解。冒険者として長いフィンもそれは重々承知していることだ。まあ、それでも強さを求める者としては、捨て置けない問題でもあるが。

 

 とは言えそれはそれ、これはこれ。

 

「いたって無事だよ。君のお陰で助かった、ありがとう」

 

 己に【勇者(ブレイバー)】の二つ名を課しているフィンとしては、礼を失することはあってはならないのだ。

 

 そして改めて目の前の少女を見る。

 

 美しい少女だった。

 自身の【ファミリア】は、主神の趣味で可愛かったり綺麗だったりといった子が多い。美貌に定評のあるエルフ族もいる。ましてこのオラリオには一様に容姿が整っている神々が居るのだ。こと美女や美少女には馴れていると言っていいだろう、変な意味ではなく。

 

 だがこの少女は些か趣が異なる。美少女、ではなく“美しい”少女だとフィンは感じていた。

 

 サファイアを散らした様に蒼く輝く髪は、肩に届かない程度で揃えられている。何やらやけにぴっちり身体に貼り付くような、ボディラインを強調するような青い服(服?)を着ているのでよく分かるが、引き締まった体躯はただ立っているだけなのに躍動感に溢れている。顔立ちは、可愛いよりは綺麗、そして綺麗と言うよりは格好いい。だが先程も見せたように、ふと感情を表す時に年相応のあどけなさが垣間見える。そしてより印象を強くしているのが、その引き込まれそうな紅い瞳だろう。

 

 さらにその美しさは、戦いに於いて一層磨きがかかる。“強い”ということを極めれば、見るものを魅了する美しさとなるが、それがこの少女であればなおのことだろう。

 

 それは正に“戦乙女”。敵味方問わず戦場全てを魅了する、極大の渦。

 

「……どうしたの?やっぱりどこか痛い?あ、熱でもあるの?」

 

 思わず思考に没頭しかかったフィンに、少女はやはり心配そうにする。そして()()()()()()()()()()()()()()しゃがみ、()()()()()()()()()()()()額に手を当てる。

 

「!?……いや、熱は、ないよ」

 

「そう?じゃあ……あ、言いづらかったらいいんだけど、その……お父さんかお母さんは?何処かで合流するとか外で待ってるとかなら送ろうか?…と言っても私も迷子なんだけど」

 

 おかしい。会話が、というより認識が噛み合っていないとフィンは感じた。オラリオどころか世界的にも有名なフィンが、ましてや()()()()知られていないという事は、まあ無くはない。多分。だがこの少女はまるで、()()が何処かも知らないようで……。

 

「……それには及ばないよ、僕も一端の冒険者だからね。それよりも迷子って?キミもソロでダンジョンに潜っているのかい?」

 

 “闇派閥”の一員?自分を取り込みに来た?若しくは暗殺を?様々な疑惑がフィンの脳内に去来するが、ほとんど素通りで過ぎていった。何せ悪意も敵意もなく、逆に気遣ってくる始末。暗殺するにはタイミングを逃し過ぎで、取り込む若しくは入り込むには正体が不明過ぎで、何よりも彼女は強すぎた。

 

「ダンジョン?…ああ、やっぱり…えっと私は1人で来たんだけど、キミは?……あ!じ、自己紹介がまだだったね!……私は」

 

 確かに間に戦闘を挟んでいたせいでうやむやになっていたが、互いに名前すら知らない状態。自分としたことがうっかりしていた、とフィンも居ずまいを正す。何故か少女の方は、軽く目を瞑って気合いを入れて(?)いるようだが。

 

 

「私は……セリス・センディース。え~と、只今絶賛迷子中です。ヨロシク!」

 

 

 差し出された手は、何故か微かに震えていて。その表情も笑顔ではあれ、どこかぎこちない。まるで、他人(ひと)と接するのが初めてのように。或いは()()()接していなかったかのように。

 

 

「……ああ、宜しく。僕はフィン・ディムナ、小人族(パルゥム)の戦士だ」

 

 

 そんな表情の女の子を、【勇者(ブレイバー)】であるフィンが放っておける訳もなく。諸々の疑惑は置いといて、その手をしっかりと握り返した。

 

 

「うん……うん!宜しくね!!」

 

 

 初めて見せた少女の笑顔は、“一族の復興”という悲願を持つフィンさえも、心奪われる程に素敵だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、フィン君。ところで『小人族(パルゥム)』って何?」

 

「…………………は?」

 

 

 

 

 




今回の補足です。

因果改変の朱槍(ゲイ・ボルク)
セリスが100年デスマーチ・ケルトキャンプ篇にて取得した朱槍。元となった(偽)波濤の獣の影響かオリジナルよりも“呪い”の要素が薄く、ある程度目標箇所を選べる。コレに限らずセリスが所有する武装は転生前の空間で作製されたモノで、誰の目にも触れていない。つまり“人々の幻想”の塊である“宝具”ではない。神秘も内包しておらず、“それらしい”カタチと(役割)を与えられただけの模造品である。だがそれ故に、セリス本人のイメージや技量の上昇で神話を越えうる可能性を秘めている。ゲイ・ボルクの名称はセリスのこだわり。

この槍から派生する技の読みはゲイ・ボルクで統一されている。


爆ぜ散らす死拡の槍(ゲイ・ボルク)
朱槍の投擲技。任意の箇所を貫く“呪い”は発動しておらず、敵に当てるのは完全にセリスの技量次第。目標を貫くと同時に集束していた魔力を解放し、無数の小さな螺旋となって爆発四散し広範囲を()()()()。どちらかと言えば、強敵よりも多数の雑兵を想定した技。『ウダイオス』相手だから加減をしたんです。



次回は、みんな大好きエルフさんの登場予定。主人公的にもめっちゃ好みです。

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