魔槍の使い手がオラリオに……   作:shibamura

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お気に入りが200越えてヒャッホイ!

今回、軽く『ヘルシング』と『三月のライオン』から表現というかセルフというか、引用しました。

しかしまあ、家に居るときの筆の乗らなさったら……全く進みませんがな。




四刺・金髪エルフは至高。クールなら尚良し

 ――ダンジョン深層、39階層。その外れの一画。

 

 

 凶暴なモンスターたちが雄叫びとともに続々と集結する。その空気にあてられた別のモンスターがまた集う。そんな絶望の悪循環の中心で、総勢11名のパーティーが時にはモンスターの群れを押し返し、時には退いて態勢を立て直し、必死の形相で迫りくる大群を相手取っていた。

 

 現在この場所は、【アストレア・ファミリア】が存亡を賭けた撤退戦を行っている最中だった。

 

 複数の犯罪ファミリアの共謀によって仕組まれた、大規模な『怪物進呈(パス・パレード)』。綿密な準備と悪意によって幾度も押し寄せる深層の強力なモンスターを前にして、しかし【アストレア・ファミリア】の眷族達の戦意は微塵も衰えていなかった。

 

 全員がレベル3~4の第2級冒険者という高水準。長年の間柄で培った一糸乱れぬ連携。勿論それらも大きな理由だろう。だが彼ら彼女らを支えているのは、何よりも“誇り(正義)”。その『正義の剣と翼』のエンブレムと、彼らの主神“アストレア”に対する誓いこそがこの力の原動力。何せ二大ファミリアが交代し民心が乱れる現状のオラリオに於いて、金にならない治安維持を自ら引き受ける善良なファミリアだ。

 

 故に、悪意に満ちたこの罠に屈することなどできはしない。

 

 だがしかし。古来より()()()()()()()()()、圧倒的な物量というものは実に効果的なもの。如何に誇りがあろうと意気軒昂であろうとも、気力体力には限りがある。そして仲の良いパーティーであるが故に、誰か一人でも倒れればその解れは一瞬で致命的な隙となる。

 

 

「っぐ!?」

 

「リュー!?」

 

 パーティーの1人である、エルフの女性が弾き飛ばされる。元々高敏捷での接近戦で相手を翻弄し、或いは威力と範囲の大きい魔法攻撃で敵を薙ぎ払うのが戦法の彼女はこの手の消耗戦は不得手。まして度重なる魔法の行使によって精神力は枯渇寸前、精神力回復薬(マジック・ポーション)も品切れ。即座に他の団員がフォローに入り、さらに別の団員がリューと呼ばれたエルフに残り少ない回復薬(ポーション)を渡す。

 

「すみません」

 

「おう」

 

 短いやりとりの後、回復薬(ポーション)を渡した団員は前衛に加わる。

 

「リューは!?」

 

「大丈夫だ!だが暫くは動けん!」

 

 炎の様に赤い髪の女性が団員に大声で尋ねると、団員も大声で返す。前衛は大混戦となっていた。互いに互いをフォロー出来るよう心掛けているとはいえ、片や次から次へと補充されるモンスターの群れ。片や消耗を強いられる人間のパーティー。

 

 

 ――破滅はゆっくりと。だが確実に、近づいている。

 

 

(マズイマズイマズイッ!!)

 

 赤い髪の女性――【アストレア・ファミリア】団長、アリーゼ・ローヴェルは戦線の中央で的確に味方を支えながらも、やはりその内心は他の団員同様に焦っていた。

 

 途切れることのないモンスターの波。仮に相手の総数が此方の十倍だとしても、そうだと知っていればやりようは幾らでもあるとアリーゼは思っている。だが先の見えないこの状況は、とにかく神経をガリガリと削られるしペース配分も儘ならない。そして事態は恐らく終局に近づいており、彼女も決断を迫られる段階にきていた。

 

「アリーゼ」

 

 そんな空気を感じているのか、ファミリアの中でも最古参の男が戦場の間を縫う様に隣に立つ。団員間の調整役として、我が強く突っ走り気味のアリーゼや、気難しく潔癖症なリューなども良くフォローしていた男である。次に言うことは分かりきっていた。

 

「ここはもう限界だ。俺達が何とか突破口を開くから、お前とリューは脱出しろ」

 

【アストレア・ファミリア】団長であるアリーゼと、負傷したとはいえ一番の腕利きであるリュー。このまま消耗して全滅するよりは、彼女達だけでも主神の元に帰せればと思ったのであろう。

 

「ダメよ。皆で一緒に帰らないと、アストレア様が悲しむわ」

 

「そんなことは分かっている。だがこのまま全滅すれば、何も残らない」

 

 その会話が聞こえているであろう周りの団員達は、何も言わずモンスターを撃退し続けていた。彼らは理解している。自分達のリーダーが、容易にこの決断を出来ないことを。人一倍仲間思いで正義感の強いからこそ、彼女が団長なのだ。だから――如何なる結果になろうとも、その決定に従おうと。

 

 厚い信頼故に、彼女は苦悩する。家族以上の存在を、切り捨てるか否か。

 

 

 そしてそんな状態では、いくら表面を取り繕うとも隙ができてしまうもの。

 

 

「っ!マズイッ!――アリーゼ!!」

 

「!?」

 

 常々心に留めて置かなければならないが――このダンジョンは、()()()()()。それは、モンスターを産み出すからといった理由だけでなく。ダンジョンは明らかに、そして明確に()()を有している。

 

 ――例えば。こんな状況、こんなタイミングで。狙ったように()()()()モンスターが産まれ落ちてくるように。

 

「ぐぅ!?――かっ……はっ!?」

 

 隣にいた男とも分断され、普段ならそれでも対処出来たであろう彼女が、混乱している隙すらも伺っていたのだとしたら。悪意以外の何物でもないだろう。

 

 天井より産まれたるは、全身を岩で覆った人型のモンスターが2体。

 

 片方の、文字通り岩の拳を辛うじて受け止めたアリーゼだが、もう一体が大きく振るった巨腕をまともにくらってしまう。衝撃を殺せず壁に激突し、肺の中の空気が漏れでる。

 

「――ゼ!」

 

「――ろ!」

 

 直ぐ様駆け付けようとした団員たちが、新手に阻まれる。それでも必死に上げる声を、アリーゼは朦朧とする頭で聞いていた。目の前には、2体のモンスター。

 

(ああ……これは)

 

 仲間は間に合わない。身体は動かせるようになるまで数十秒はかかる。余りにも無防備に過ぎる数十秒だ、自分が死んでお釣りがくる。

 

(ごめんね……みんな)

 

 時間が引き延ばされたような感覚の中、彼女はただ謝ることしか出来ない。彼女の親愛なる仲間達に。そして何よりも、敬愛する主神に。

 

(ごめんなさい……アストレアさ)

 

「アリーゼ!」

 

 拳が迫る寸前、誰かに横合いからタックルのように押し倒される。それは、後方に下がっていたリューだった。先程痛めたであろう左足が、今の無理が祟ったのか赤黒く腫れていて、既に立てもしない。それでもアリーゼを背後に庇い、リューはモンスターを睨む。

 

(ああ……ダメだよ、リュー。アンタは、生きなきゃ……)

 

 自分が勧誘したエルフの少女は人見知りで、潔癖症で、口数は少ないし、冗談も言わない生真面目な娘だ。それでも、こんなにも仲間思いのいい娘なのだ。こんな娘が、こんな所で死ぬなんて間違っている。

 

「大丈夫です、アリーゼ」

 

 凛とした声が響く。いつの間にか頼れる背中となっていた相棒(リュー)が、尚も損なわれない優美さで以て告げる。

 

「私は、絶対に諦めない!」

 

 普段は声を荒げない彼女の、鮮烈な意思表示。思わず見惚れるほどに。

 

「ヴォオオオオゥゥ!」

 

 だがこの状況では。どんなに美しかろうと気高かろうと、虚勢、ハッタリに過ぎない。

 

(お願いです……お願いします……誰か、誰か……)

 

 再び迫る巨拳。救いは2度は訪れない。

 

(リューを助けて……!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良く言いました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、聞こえる筈の無い声だった。

 

 この場の誰のものでもなく。この場の誰よりも力強く。この場の誰よりも確信に満ちていた。

 

 蒼い風が吹く。()()は群がるモンスターを飛び越え、アリーゼの目の前の2体のモンスターを弾き飛ばし、形を成した。

 

 晴天よりも清々しく、海よりも深い、煌めく蒼銀色の髪を戦旗として。引き締まった体躯をさらに締め上げるかのようなボディスーツ。見に纏う空気は、まさに戦乙女の如き頼もしさ。それこそ、幾万の軍勢よりも安心できるような。そしてその右手には、何故か()()()()()だけが握られている。

 

 

 そんな、一人の女性が立っていた。

 

 

 暫し、戦場の音が止まる。人間側はおろか、モンスターですら、その者に見入ってしまう。それほどの、圧倒的にして隔絶した存在感。まるで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「あ、あなたは……」

 

 意識した訳ではない、思わず出てしまった言葉だった。その言葉を発したリューは、思わずそれを恥じ入った。神聖なる英雄譚を汚してしまったかのように。

 

「大丈夫」

 

 力強くも女性らしい穏やかさを感じる声が聞こえる。

 

「すぐに終わるから」

 

 それは確定事項。疑問の余地無く、異論などあろう筈も無い。彼女は事実を口にし、それを聞いたアリーゼ達は、まだモンスターがいるにも関わらず安堵した。

 

 

 そこからの決着は一瞬だった。

 

 彼女が握る柄が薄い水色に発光し、彼女から明確な戦意が迸る。そしてその明らかな脅威に対し、モンスターの群れは他の人間を無視して突進する。

 

 

 ――否。突進、しようとした。

 

 

「“水光靡く(クルージーン・)――」

 

 

 彼女が軽く腕を振り。アリーゼ達は、現代の英雄譚を垣間見る。

 

 

「――悉捉の伸剣(カサド・ヒャン)”!!」

 

 

 一瞬の残像を残して、いつの間にか彼女は()()()を振りきっていた。モンスター達は勢い突進しようとし。

 

 それぞれの身体に線が浮かんだと思った瞬間。数十体のモンスターが、魔石を中心として真っ二つにされていた――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――セリス side――

 

 

 兎に角走って走って目的の階層に到着したのだが、その時点で感じ取れる程に事態は切迫していた。この無駄に広い階層の一画に、やたらモンスターが密集している気配があるのだ。しかしまだ慌ただしい――闘争の匂いがする以上、【アストレア・ファミリア】はまだ生き残っている、筈。

 

 幾つもの角を曲がり、十字路を抜け、半分ほど踏破した辺りで微かに戦闘音が聞こえ始める。

 

「!――先行くね!」

 

 大体の進路にあたりをつけると、先行するフィンを追い抜き更に(はし)る。()()に向かっているであろうモンスターの群れを追い越し、いよいよ戦場が近い。

 

 そうして遂に戦闘の中心を発見した時、強化された私の聴覚に小さな、しかし凛とした清澄な宣言が聞こえた。

 

 

「私は、絶対に諦めない!」

 

 

 ふっと、思わず私の口許が緩む。そう、それはとても大事なことなんだ。

 

『諦めなければ夢は叶う』

 

 流石にそれは言い過ぎだ。むしろ馬鹿にしているとしか思えない。世の中には才能と境遇っていう、厳然たるアドバンテージが存在する。そんな“持つ者”を前にして、“持たざる者”がどれだけの間モチベーションを維持できると思う?しかも大抵の場合、“持たざる者”は一度モチベーションを切らしたら終わりなんだ。

 

 やってられないワンサイドゲーム。それが世の中。

 

 けれど。

 

 だがそれでも。

 

 どうしたって我慢できない。“彼ら”に追い付き追い越さなければ気が済まない我儘な奴らの、さらに一握りが。

 

 時として、“諦めを踏破する”。そして挑むのだ。この世界に。

 

 だから先ほどの言葉は正しくない。()()()()()()()

 

『諦めず努力し続ければ夢は叶うかもしれない』

 

 この位でいいと思う。盛りすぎず、削り過ぎずで。

 

「良く言いました」

 

 だから私もこう返した。まだ聞こえてないとは思うけど。この声の主に報いるためにも、諦めさせない為にも。

 

 一瞬だけ全力で加速すると、前方の上方を飛び越えて戦況を把握。まさに今現在ピンチな二人の女の子を発見する。

 

 

 訂正。一人の()()()()()()()()()()()()()()()()()が、うっすらと涙を浮かべていた。

 

 もう一人の()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()は足を怪我しているようだった。

 

 そして彼女達の目の前には、無粋で不細工な岩男が2体。

 

 

 ――ギルティ。

 

 

 “蔵”から象牙色の柄を取り出して、右手に握る。

 そのまま天井を蹴って急降下し、岩男2体に気づかれる間もなく頭部を蹴り砕く。――ふぅ、すっきりした。

 

 

 ……ん?

 

 

 一瞬の静寂。なんだろう、皆こっちを見てるけど。ま、またフィンの時みたいになんかしちゃった?いやいや襲われてる女の子を助けたんだし問題あるまいよ。

 

「あ、あなたは……」

 

 背後から声がする。若干混乱しているようだけど、とても美しい声。ああ、さっきの声だ。いいな、早くお話したいな。

 

「大丈夫」

 

 そう言いつつ、チラッと後ろを確認する。……ヤバイ。二人ともめっちゃ可愛いし綺麗!!

 

「すぐ終わるから」

 

 てかすぐ終わらせる。邪魔すんなよモンちゃんたち、と俄然やる気が漲ってくる。

 

 と、再始動するモンスター共。でも残念、君達はお邪魔虫ですよ。

 

 右手に握る柄に魔力を込める。重く、鋭い波動。集中によって自身の周りが止まって見える。

 

 敵は38体。余裕に過ぎる。軽く、手元の刃を確認すると――

 

「“水光靡く悉捉の伸剣(クルージーン・カサド・ヒャン)”!!」

 

 伸縮自在、縦横無尽の刃が敵を蹂躙する。

 

 それは、視認が困難なほどに薄く、極限まで凝縮された水の刀身。例えるならば、刃の身体を持つ神速の水蛇。瞬く間に全ての敵に襲いかかり、柄に引っ込む。その間は刹那。

 

 スロー再生が終わったような感覚の中、見れば動き出そうとしたモンスター達が、バラッと真っ二つになり、程無く消滅していった。

 

 

「やれやれ、出番が、無かったよ」

 

 

 微かに呆れた様な口調で、フィンが到着する。汗をかき、僅かに息切れもしているが、爽やかさは失われていない。息を整えつつも此方に歩み寄ってくる。

 

「……フィン・ディムナ?」

 

「【勇者(ブレイバー)】か!?」

 

「なんでここに!?」

 

「じゃ、じゃあ、あの子も【ロキ・ファミリア】か?」

 

「あんな実力者いたか?噂の【剣姫】は金髪金眼だろ?」

 

 ――oh。不味い、目立ちすぎた。思わずはっちゃけてしまったが、これではフィンの時の二の舞。どうしよう?説明するしかないか?

 

「みんな!待って!」

 

 後ろから張りのある声が上がった。場を納め強い意思を感じさせる、リーダー的な声だ。

 

 ゆっくりと後ろに振り返る。

 

 ――brilliant(素晴らしい)

 

 美少女二人が支え合う様にして立っている。是非とも私をその間に入れてください。ああでも、やはり怪我をしているのは捨て置けない。なんて悩ましいんでしょう!

 

「先ずは、この場を代表して感謝を。私は【アストレア・ファミリア】団長の、アリーゼ・ローヴェルと申します。貴女が助けてくれなければ、私たちは全滅していたでしょう」

 

 二人して頭を下げてくる。

 

 いえいえお構い無く。此方としても、女の子(と、その他)を助けられて良かったですよ?なんて軽薄な心中は、流石に素直に吐露したら顰蹙を買ってしまいかねん。

 

「えと、お礼とかは結構です。困っている人を助けるのは当然ですし」

 

 自分で言っていて鳥肌が立ってくるけどね!や、余裕があれば人助けをするのは吝かじゃないけども、口に出すのは別というか……なんか悶えたくなりますわ。

 

「あと、あんまり畏まらなくてもいいですよ?その、話しやすい口調で」

 

 隣に立ったフィンが苦笑いしている……オイコラ。確かに私が言うことじゃ無いけども!そこはさらっと流せよ。

 

「そう?じゃあそうするわ!あ、でも感謝は取り下げないわよ?【アストレア・ファミリア】の団長として、そこはしっかりしないと!」

 

 ――ま、眩しい!?

 

 ペカー!って擬音が聞こえそうなほどにキラキラする瞳に真正面から見つめられて、何だか自分の内面が恥ずかしくなる。

 

「そ、そうですか……じゃあ感謝は受けとりますね?」

 

「そうしてちょうだい!あ、私にも遠慮は要らないからね。仲良くしましょう!」

 

 浄化されるわ!いい人過ぎるでしょこの人!?しっかり気を遣いつつも直線的に芯が通っている。もー、サービスしちゃうゾ☆

 

「……ありがとうございます。あ、ちょっと手をいいですか?」

 

「ん?手を?」

 

「はい。軽く治療を」

 

 気恥ずかしさを紛らわす為に顔を俯かせつつも彼女の手をとると、その甲にbeorc(べオーク)のルーンを刻む。兄貴は探索に使っていたけど、私は主に治療に使っている。

 

 因みにこのルーン、一度に複数は維持出来ない。上の階でアホ共を押さえているis(イス)、フィンに刻んだur(ウル)、そしてこのbeorc(べオーク)と、本来は(少なくとも私では)同時には維持出来ない。

 

 なので、このアリーゼという子とフィンに刻んだルーンは、私はホントに刻んだだけ。あとは本人達の魔力がそのルーンに流れ込めば、()()()()()()()()()()効果を発揮してくれる。言ってみれば、使い捨ての魔術回路を渡したようなのものか。つまり、実際私が今効果を維持しているルーンはis(イス)だけ。

 

「――?身体が、暖かい?」

 

beorc(べオーク)のルーンです。樺の木――即ち豊穣と母性原理の象徴を表し、成長や治療の活性を促します」

 

「?よく分からないけど……ありがとね!」

 

 ガシッと両手を包み込まれるように握られて、お礼を言われる。やだ、ち、近いっすよアリーゼさん。そうゆーのはもっとこう、ステップを踏んでからとか、雰囲気を盛り上げてとか……いや待てセリス、私は彼女達を助けた訳であってつまりは報酬(ご褒美)を貰うのは当然の権利であって即ちこれは絶対的正義……

 

「い、いひゃ、大したことひゃ……」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

 ……混乱していたら、思いっきり噛んでしまいました。何だろう、今日はやけにやらかしてしまうぞ?顔が熱いわ。空調が効いてないんじゃないすかね~(白目)

 

「――ぷっ!あっははははははは!!」

 

「くっ。……ふふ……ふ……」

 

 アリーゼさん大爆笑。うっすらと涙を滲ませながら私の背中をバンバンと叩いてくる。あとフィンさん?笑いが抑えきれてないですよ?私は耳は良いんだぞコノヤロー。

 

「ひー!ひー!な、何よアンタ!か、可愛いところあるじゃないの!」

 

 お腹いたいー、と言いつつ私にしがみついてくる。こ、この人にはパーソナルスペースが無いのか!?

 

 いや、私としては嬉しいんですけどね。しがみついてくれる事もだけど、私の失態を笑って吹き飛ばしてくれた事とか。こういう快活な人が笑い飛ばすと空気が変わるよね~。と、いけないいけない。

 

「あ、じゃあちょっと失礼しますね」

 

「「「あ」」」

 

 恥ずかしさを紛らわすように、()()()()()()()()()()()()()beorc(べオーク)のルーンを刻む。さっきも思ったけど、とても端正な顔立ちの子だ。絹のような金髪、何よりこの子は――エルフっすよ、エルフ!ピンッと尖った耳がピクッと動く。

 

 そして激情を秘めつつもクールな表情が堪りませ――あれ?クー……ル?

 

「……」

 

 見れば彼女はぼうっとして私を見つめていた。その瞳はどこか潤んでいるようで、頬はリンゴのように真っ赤になっている。そしてルーンを刻んで離そうとした私の手を、軽く両手で包んでいる。

 

「あ、あの?」

 

「リ、リュー?」

 

「……」

 

 アリーゼさんも困惑、というかちょっと引いている。何だろう?ルーンが効きすぎてるのかな?手はちょっとヒンヤリしていて気持ちいいんだけど。

 

「……失礼致しました。私の名前はリュー・リオン。貴女のお名前を教えて頂いても宜しいでしょうか?」

 

 と言いつつも手は話さないリューさん。寧ろしっかりと握ってきてるような……?

 

「セリス・センディース……です」

 

 あまりに直視されるもんだから、やや目線を逸らしつつ答える。と、その先に回り込まれてしまった。ああ、スミマセン!人と話すときは目線を合わせるんですね!でも、なまじっか美人に見つめられると照れるんですけど!

 

「セリス……覚えました、決して忘れません。出来れば貴女も、私の名前を覚えておいて欲しい」

 

「あ、はい。それは……勿論……」

 

「ありがとう。貴女は恩人だ。【ファミリア】のみならず、私個人としても。非力な身ではありますが、何かあれば、必ずや貴女の一助となりましょう」

 

 なんか重いっすよリューさん?まあ、それだけ【アストレア・ファミリア】の仲間達の事を思っているのだろう。

 

「あはは……じゃあ、気にしないでって言うのもなんだから。その時は、ヨロシク」

 

「はい……その時は、きっと――」

 

 ぎこちなく微笑んでみる。リューさんは、何かに気付いたようにはっとすると、顔を伏せるようにお辞儀をしてきた。最後の方は何か言おうとしてたようだけど、私の耳でも聞き取れなかったので声には出していないだろう。

 

「……え~と、親睦を深めているところ悪いんだけど、いい?」

 

「――!?は、はい!すみません、アリーゼ」

 

「あ」

 

 微妙にジト目のアリーゼさん。あわあわと手を離すリューさん。むぅ、残念。

 

「いや~。ここまでさらっと無視してたけどさ……アレ、どうするの?」

 

 アリーゼさんが通路の奥を指し示す。その先には、『怪物進呈(パス・パレード)』に釣られてここに向かっていたであろうモンスター達が、何処か所在なさげに佇んでいた。

 

「この階層のレベルのモンスターが人間を襲わないとか……ちょっと経験無いんで反応に困るんだけど」

 

「ああ、さっき威嚇したからでしょうか。気になるなら蹴散らしますけど?」

 

 ちょっと目に力を込めて見ると、ビクッと後ずさるモンスターズ。なんか可哀想に思えてきた。

 

「まあ……いいんじゃない?襲ってこないなら」

 

「そうですね。私も哀れだと思ってたとこですし」

 

「なら取り敢えず、37階層に戻らないかい?彼らも置いてきたままだしね」

 

「彼ら?」

 

「この『怪物進呈(パス・パレード)』を企画した連中……の、一部です。この事を()()()()()()後、ちょっと待っててもらってますので」

 

 ナイスフォローだよフィン。正直私にはどうでもいい連中だが、この人達はそうもいかないだろう。

 

「アイツらか……ホント何から何まで悪いわねー。今度ウチの本拠地(ホーム)に来なさいよ、もてなしてあげるから」

 

「そうですね。私も頑張って料理を――」

 

「いや、アンタは止めときなさい」

 

 ほほう。アリーゼさんとリューさん(とその他)のO☆MO☆TE☆NA☆SHIですか。両手に花の極楽じゃないっすか、是非ともお願い致します。そしてさらっと止められたリューさんの料理は……まあ、触れない方がいいだろう。私はその辺り、気配りの出来るイイ女ですから。

 

「あはは……あ、私はリューさんがもてなしてくれるだけで嬉しいですよ?」

 

「は、はい。精一杯、務めさせて頂きます」

 

 ちょっとシュンとなってしまったリューさんに話しかけると、何やら決意に満ちた目で力強く宣誓された。生真面目さんなんですねぇ。

 

 

 

 

 

「じゃあ、行きましょうか!」

 

 軽く各々の装備を整え、回復薬(ポーション)その他で体調を整えてから出発する。その間、ずっとモンスターズは距離をとって此方を伺っていたが、流石に邪魔だったので軽く威圧して追い払った。

 

 念の為に隊列を整え、私はいつでも対応できるように中央を歩く。隣には、何故か疲れた様子のフィン。

 

「フィン、どうしたの?疲れてる?」

 

「ああいや、先程から倦怠感が酷くてね……」

 

 それはいけない、私が特別に診察し()て進ぜよう。ふっふっふ……ってあれ?これって……

 

「あ~、ごめん。これ、私のルーンのせいだ」

 

「そう言えば、僕の背中にも何かしてたけど、アレかい?」

 

「うん。ur(ウル)って言うルーンなんだけど、野生の雄牛や試練、本能の勢いなんかを象徴するんだ」

 

「本能の勢い、ね」

 

「そう。だから、一時的に能力のリミッターを外したり出来るんだけど……」

 

「その反動が今来ている訳か」

 

「うん。ごめん、伝え忘れてた」

 

 要するに火事場の馬鹿力を意図的に起こす訳だが、その局面は切り抜けられても長期戦には向かない。使いどころの難しいルーンだというのに……私のミスだ。

 

「いや、あの状況ならセリスの判断は正しい。些細な事だよ」

 

「うん、ありがとう……あ、これは単純に肉体疲労だと思うから、回復薬(ポーション)とかを飲んでれば楽になってくると思う」

 

「分かった……セリス」

 

「何?」

 

 腰のホルダーから回復薬(ポーション)を取り出し一口飲むと、フィンは此方を見上げる。

 

「こうして【アストレア・ファミリア】の皆が助かったのは、間違いなく君のお陰だ。それは誇っていい事だと、僕は思う……ありがとう」

 

「――ぁ」

 

 見れば、周りを歩く【アストレア・ファミリア】の皆も、こっちを見て頷いている。

 

 そんな彼らの笑顔を見て。そしてその笑顔を守れた事を実感して。私は――

 

 

 

 

 

「あ、あはは……どういたしまして!」

 

 

 

 

 

 ()()私がそんな笑顔を向けられるなんて勿体無くて。

 

 けれども何だか暖かい、この胸の内を悟られるのが気恥ずかしくて。

 

 

 

 

 

 ――だからきっと、この瞳に滲むのは、汗とかそういうモノものだと思う。

 

 

 

 

 




登場シーンの若干のテンプレ感ですが。この時点でのセリスさんは、周りからすればチートスペックの英雄擬き。モンスターからすれば死神が辻斬りするようなもんです。なので大概思考停止します。


因みに当初は、リューさんには初対面で叩かれちゃう予定でした。その為の後書きすら用意してました。それがどうしてこうなった……(困惑)



以下、今回の補足です。

水光靡く悉捉の伸剣(クルージーン・カサド・ヒャン)
クー・フーリンの光の剣、エリンの三至宝の1つである「クルージーン・カサド・ヒャン」を元にした、セリスの武装の一つ。例によって読みはオリジナルと同じ。原典であるケルト神話でのオリジナルの活躍の数々・使用背景などを独自に解釈し、改造を加えてある。

その実態は、オリジナルが光の剣であるのに対し、此方は水の剣である。魔術的に高密度に凝縮した多量の水で形を成す刃を、限界ギリギリまで薄くして切断力を高めている(刃先が単分子程度の細さしかなく、物理的には殆どの物質の結合の間をすり抜けて切り分ける)。反面、その薄さゆえに横方向からの力に弱く、打ち合い・鍔迫り合い等には向かない。完全に斬るためだけの刃。

その長さは伸縮自在であり、更には鞭のように撓らせる変幻自在さもある。但し、あくまで斬るのは直線部分のみであり、曲がっている部分は斬れない。

参考は、アーチボルト家⑨代目当主様の最高傑作と。『ARMS』の表の中ボス、キース・ブラックさんの“神剣フラガラッハ”で、お送りしました~。
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