【続編発売につき未完】もし傀儡兵に生き残りがいたら?   作:傀儡兵C

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贖罪者

「はい、これでおしまい。気分はどう?」

 

 旧パルマ…ドゥカーレ宮殿に増設された帝国軍南方基地、その一つ。第四南部駐屯部隊・堅爪巨蟹(キャンサー)の隊員であるコリンもまた、ここが根城ということになるのだろう。

 その一室でコリンは妙齢の美女と向かい合っていた。華のような香りが鼻孔をくすぐるが、素直に喜ぶことはできない。シズル・潮・アマツ――軍属の貴種(アマツ)、この女こそがコリンを傀儡に仕立て上げた張本人であるからだ。

 

「特に問題は…どうも」

 

 短い答えは自分でも表現できないマーブル模様の感情に溢れていた。

 男として美女に鼻を伸ばせばいいのか、怨敵として憎めば良いのか。それとも凄腕の奏鋼調律師(ハーモナイザー)である彼女が手ずから調律してくれることに感謝すれば良いのか?

 わからない。わからない。

 なぜならコリンは出来損ないの死に損ない。感情を判断する基盤となる記憶ですらかき混ぜられて原型を留めていないのだ。

 

 準星辰奏者といえば聞こえが良いが、その実態は適正値が基準に達していない人間に無理矢理強化手術を施した使い捨ての兵器に他ならない。第六東部征圧部隊・血染処女(バルゴ)の前部隊長が推し進めていた実験の過程で生み出された廃材である人間を再利用した存在だ。

 過程で他者の記憶を植え込まれることも行われていたため、コリンは過去を思い出そうとする度に割れたガラスのような光景を見ることになる。一介の労働者であった気もする。輝ける英雄であった気もすれば、それに救われた幼子だったという思い出もある。

 

「ごめんなさいね…。繰り返しになってしまうけれど、あなたの寿命がマトモになるには自分の星を掴む事が大事。現状のあなたは体内の星光に振り回されているようなものなのだから、当然に体に無理が出るわ」

 

 謝意を込めた言葉…人体実験を行っていた人間が、なぜ善人に鞍替えしたのか。その過程もコリンは知らない。

 寿命、という言葉だけが漠然とした不安を煽る。実感は無いがコリンの命にはタイムリミットがある。手をつくしておよそ10年――言われてから3年が経過しているのだ。残りは7年ということになる。遠い日に爆発する体を怖いとは思うが、半端に遠い時間が現実味を無くさせていた。

 星辰奏者は星光に専用の武器…発動体を用いて感応する。だからこそ奏鋼調律師という同調のための調整を用いる存在が必要不可欠。元々第十一研究部隊・叡智宝瓶(アクエリアス)にも在籍していたという才媛はコリンの体内で暴れまわりかねない星光を絶妙に調整していた。

 戦闘においても、平時においてもシズルはコリンの命の恩人であり、命綱。しかし、そもそもコリンを戦闘者に仕立て上げたのは眼鏡の美女本人であり…堂々巡りの思考をコリンは頭を振って打ち切った。

 

 その光景に何を思ったのかシズルは痛ましげに目を伏せて、いつも通り現状の説明を繰り返した。

 

「そもそもあなたが生き残れたのは適性が軍の基準より極僅かに下回っていただけだったから。本来なら第13星辰小隊に配属される未来もあったのでしょうけど…あの男(ギルベルト)はそうした基準に厳しかったから」

 

 だから自分だけの星を掴むことが出来るはずだと才女は語る。とはいえ、どうすればいいのか分からない。褐色の肌が示すとおりに雑種であり星辰体に対する同調率も高いとはいえない。加えて言えば戦闘訓練を受け始めたことすら3年前からであり、その日の戦闘を生き残ることがコリンの精一杯。

 数年後に炸裂する爆発物の処理方法を覚えろ、と言われれば必死になりたいとは願ってもから回るだけだった。

 

 揃ってため息をつく。シズルは贖罪に焦り、コリンは明日をも知れぬ我が身を嘆いている。

 

「考えていても仕方ないことではあるのだけれどね。感覚的な面が大きいから」

 

 実感が篭った言葉にコリンは唸った。そう、この豊かな肢体を持つ美女は正統の星辰奏者である。貴種の名に恥じぬ適性を備えている。正直なところコリンがシズルと戦えば、コリンに勝ち目など全く無い。本気で0であるはずだ。

 そんな人間に感覚的なことを説かれても、表面を滑るだけだ。天飛ぶ鳥に蟻の気持ちなど分からないから。

 

「はぁ…それはともかく、これから暇かしら?食事でもどう?」

 

 再びついたため息のあとに続くのはシンパシーを覚える同士としての言葉。

 二人にはある共通点がある。それはこの基地…いや軍においてはみ出し者であるということだった。

 

 今はただの軍属となっているが、シズルの階級は元少佐。それも12部隊の副官まで勤めていたのだ。それがなぜか階級を失い、落ちてきた。しかも噂によれば非道な人体実験を行っていたが故の飼い殺しだという。となれば、見目麗しくとも避けられる。嫌悪を覚えずとも元少佐、というのは扱いに困る。無難に離れて愛でるだけに留まるというのは当然のこと。

 コリンもまた同様だ。人体実験の成果の集合体ではあったものの、同じ境遇の遺体は既に各勢力に拾われ解析済みだろう。戦闘能力においても機密性においても何とも中途半端だ。

 本来、下士官に与えられる最高位の階級である准尉を与えられているのも「これで我慢してね」ということである。

 

「奇異の視線を向けられるより、気まずい食事の方がマシだと?変わった趣味ですね…いいですよ付き合いますよ」

「たまには奢るわよ?お給金は私の方が良いんだし」

 

 夕刻の約束を取り付けてコリンは部屋を辞した。まだ日は高く、訓練も残っている。

 一人になってから雑然さと整然さが合わさった私室兼仕事場でシズルは呟いた。

 

「過去を償い、明日を生きる、そして都合のいい明日の一つでも描いて見ろ。こんなに難しいとは思わなかったわブラザー」

  

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