【続編発売につき未完】もし傀儡兵に生き残りがいたら? 作:傀儡兵C
旧パルマは食の都として知られていた。それは新西暦となった現在でも変わりなく、ハムなどの名産品を未だに世界へと送り続けていた。
そんな町の小さな店。そこがシズルの行きつけであった。必然的に関わる機会の多いコリンも顔馴染みとなっている。
扉を開けば、据え付けられた来客を告げる鐘が鳴る。落ち着いた雰囲気の店内。そこに鐘の音以上に鳴り響く声があった。
「いらっしゃいませ~♪お二人様ご案内です。おやおや逢引でしょうかね、ティセさん」
「めくるめくオフィスラブだねティナ!けど悲しいかな、真っ当に生き始めた人達はあまりからかい甲斐がないね。W双子の生クリーム載せ、さくらんぼ付きはお預けかな?」
金の髪をサイドテールにまとめた、かしましいウェイトレスが冷やかしてくる。残念ながらそういった関係ではないし、ここは否定するべきなのだが…。なぜかこの双子の発言はあまり
反応に二人が窮していると、この店の主からの助け舟が入った。腰の曲がった老婆。こちらは店の雰囲気とぴったりだ。温かみがあるというべきか、何もかもが気まずい基地でささくれだった心を癒やしてくれるような気配がある。
「ティナちゃん、ティセちゃん。あまりお客さんをからかっちゃあいけないよ?ご注文をお取りしてね」
「「はーい、
穏やかな老婆と双子は孫と祖母のようで、見るものを和ませてくれる。この店はずっとこの雰囲気を保って欲しいと思わせる光景だった。
「最近、出撃が多いわね?アンタルヤの動きは特に活発…まぁ一時に比べれば大したことは無いけれどもね。
かつて古都を騒がせた伝説の傭兵団の名をシズルが口にする。過去が混濁しているコリンにはあまり縁の無い名ではあったが。
「傭兵達からすれば、成り上がる機会が減るのは避けたいんでしょうね。商業連合としてもせっかく開発した商品が売れなくなるのも困りモノでしょう」
商の国から見れば戦争は最大の勝機。そこから爪弾きにあった人間まで含めて金にならない存在など無いだろう。噂ではかつてのコリンと同じような準星辰奏者じみた人間兵器まで開発しているという。
平和になればそれはそれで得をする者もいるであろうから、その内部の混沌は推して知るべし。元々、十氏族という豪商が覇権を握っている国家だ。現在はミツバの家が抜きん出ている状況も、他の9家にとっては面白くないに決まっている。
結果として国境を接する南部戦線は未だに紛争中である。外交上問題になりそうなら切り捨てられる兵たちも気の毒というものだった。アンタルヤ商業連合では借金の形に強化手術を受けさせられる人間までいるのだという。
運ばれてきたラガーを呷る。どう対応していいか分からない相手との食事を少しでも明るくするために。強化された内臓は中々酔ってはくれないが、喋りやすくはなる。
「訓練はどう?」
何だか、母子のような会話になってきている気がする。だからだろうか、コリンはうっかりと口を滑らせてしまう。
「元々向いてないんでしょうね。剣の扱いとか酷いものですよ…多分あなたに操られていたときのほうがマシ…あ」
言ってはいけないことを言ってしまった。そう感じた時には既に遅く、シズルは沈痛な面持ちで顔を伏せてしまう。
「ごめんなさい…」
「あ、いえ。こちらこそ…」
ああ、最悪だ。いやしかしなぜ自分も謝らなければならないのだろうか。彼女が罪を犯したのも事実で、自分はその被害者。だが既に過去のこと。
「はーい、ジョッキのおかわりと!生ハムサラダお待ちどう様ー!」
「白身魚のソテーも入りまーす!」
思考の迷宮に入り込みそうになったコリンを双子が救ってくれた。偶然かとも思われたが、小悪魔のような笑みを浮かべていることから気を効かせてくれたのだろう。
ありったけの感謝を込めてチップを多めにねじ込む。
「やぁん。お客様、おさわりは禁止ですよ?」
「やだティナ!この人、案外カモ!?」
双子のおかげでこの日は和やかなままに終わった。
救われたと思ったために、コリンはなぜシズルに申し訳なく思ったのか、という思索を打ち切ってしまっていたことに気付かなかった。