【続編発売につき未完】もし傀儡兵に生き残りがいたら? 作:傀儡兵C
「はぁ…はっ…はぁ…」
目の前の鋼鉄の塊を前にしてコリンは息を荒らげる。
戦車…地上を走る鉄獣。戦場の花形を星辰奏者に譲ったとは言え、その威力が目減りしたわけではない。星辰体により空気抵抗が増大したため、空飛ぶ機械が失われた現在となっては数少ない旧西暦からの兵器の系譜だ。…金属抵抗値が無くなり集積回路を作れなくなってもいるために、性能は遠く及ばなくとも。
「小競り合いにこんなもん持ち出しやがって…目立ちすぎだろ」
商業連合によれば傭兵の暴走ということだったが、帝国の南部防衛力に味噌をつけるのが目的であろうことは目に見えていた。随伴していた星辰奏者は
そう、半端な相手なのである。
なにせ星辰奏者ならば時間をかければ素手で戦車を解体してのけることさえ可能。帝国最強の誉れ高い第七特務部隊・
しかし…それは真っ当な星辰奏者の話。紛い物であるコリンにとっては十分、強敵だった。
砲身から放たれる破砕の一撃を太刀に込めた星光で逆に爆砕する。他の星辰奏者のように切り伏せることはしない。出来るかもは知れないが…余りにも恐ろしい。
弾が打ち出される時に伴う音も、熱も、衝撃も現実のものとは思えない迫力!こんなものを相手に「性能はこちらが上だから、接近戦でも勝てる」などと言えるのは心という要素を無視しているとしか思えない。
自分には勇気が足りない。精神に牙城を築き上げようとしても、過去すら撹拌された俺には土台がない。無い無い尽くしだ。逃げる理屈すら無いのだから笑う他はない。
だからこそ、飛んだ。放火を掻い潜り…戦車に飛び乗る。現在しか無い者に出せるのは自暴自棄のみだ。
固い軍靴が戦車に触れた…その時に電流が流し込まれた。
随伴の星辰奏者が未だに落ちていなかったのだろう。付与された電撃がコリンを襲ったのだ。
わけの分からぬ声を他人事のように聞く。それが自分の口から発せられている叫びだとは思えない。視界が眩み、上面から振り落とされる前に太刀を装甲に当てて爆裂させた。
吹き上がる噴煙と吹き飛ばされるコリン。場当たり的に用いられた星光は使い手にも被害をもたらしたのだ。
意識を失う。誰か…誰か俺が傷ついたら心配してくれるだろうか?無言の問いには誰も答えない。
「…っかりして。ここで…」
声が聞こえる。激しい感情が秘められた静かな声。
なぜだか、とても聞いていたい。
「…なさい。ごめんなさい」
何に謝っているのか。俺か別の誰かか…それとも
手に僅かな熱を感じてコリンは目を痙攣させた。
熱がより確かに伝わる。ずっと昔に誰かにこうされたような覚えのある感触。
眠れない時に握っていてくれた誰か。それは誰だったか。だけど…覚えていなくても子供の時はもう過ぎてしまったから。感じる熱に安心したのならば眠るのではなく、起きなければ。
目を開く。祈るように手を握る女。シズル・潮・アマツの目には雫が輝いていた。
手を握り返すと、はっとした様子で見つめる眼鏡越しの目。
「…よかった」
僅かに微笑む顔を見た時、コリンは初めてこの才媛を混じり気無く美しいと思った。
「仮にも星光の恩恵を受けているんです…そんなに調べなくてもいいでしょう?」
星辰奏者は性能だけ見るならば分かりやすく人間の上位互換。生命力も例外ではない。多少の傷ならばさっさと治ってしまうのだ。
だがこの貴種の女性の診察は念入りだ。間近で揺れる髪を見るのが気恥ずかしい。
「そうね…この怪我ならしばらくすれば問題ないわね。大丈夫だった?」
何を指している質問なのか分からない。戦闘中のことならば今こうして生きている。戦闘後のことならば他ならぬ彼女が調べたのだ。
「意味がよく…」
「戦うのはとても怖いことでしょう?あなたをこんな目に合わせた私が言うのもなんだけれど…」
先程とは違う涙が無い僅かな笑み。
シズル・潮・アマツはかつて同じことを口にした。だが今では込めた意味が違う。
「 大切なのは想いであり、心でしょう? 」