【続編発売につき未完】もし傀儡兵に生き残りがいたら?   作:傀儡兵C

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襲撃

 国が一つの行動に複数の意味を持たせるのは珍しいことではない。連合であり十師族という多数の頭を持つアンタルヤ商業連合国ならば尚更だ。

 連鎖する小競り合いはその現れだった。帝国の権威に砂をかけたいのも本当。帝国の南部におけるイニシアチブを…あわよくば覇権を狙っているのも本当。

 故に今行われている作戦も本当だった。十師族の一つ、ミツバ商会から派遣された2人の星辰奏者の狙いは技術。ミツバ家の大幹部リン・ミツバが古都プラーガにいたためにミツバ商会は知っていた。他国より一歩先を行くアドラー軍事帝国の知恵の宝箱がこの地にいることを。

 元、第十一研究部隊・叡智宝瓶(アクエリアス)に所属していたシズル・潮・アマツがこの地にいることを知っていたのだ。

 

 帝都の守りは固い。当然、そちらも諦めてはいないが技術を奪取する試みは全て裁剣女神(アストレア)に阻まれている。

 一方、ここ南部の目は外からの敵に向けられている。連日の襲撃、遭遇戦…対応するために出来た僅かな隙。ならば見逃せる筈もなかった。

 

 

 双子の姦しい声と老婆の穏やかな声を背に店を出る。

 コリンのささやかな快気祝いが終わった。僅かの酒精に薄い朱がさしたシズルにコリンは見惚れた。夜の冷気に吐く息の白ささえも情深い贖罪の女神を彩っている。

 

「少し歩きましょうか…お酒なんて久しぶりだから。内臓は強化されている筈なのにね」

「ええ…喜んで」

 

 喜んで付き合う…自分の言葉にコリンは驚いた。シズルも少し驚いているようだったがくすくすと笑って頷いた。

 最近自分の気持ちを自覚しつつある。結局は俗な男であり、美しい女性に弱いということなのだろう。全てが曖昧だということは彼女が犯した罪の記憶も曖昧であるということ。そんな内面を抱えていては元、狂気の女神に惹かれるのも当然かもしれなかった。

 

 ドゥカーレ宮から少し離れた公園は静かだった。元々城塞だったという建物が見える公園に人気はない。だからだろうかコリンは切り出した。

 

「…私に親切なのは贖罪のためですか?」

 

 分かっていったことだが、口にだすのは初めてだ。祝の空気は掻き消えてシズルの顔に沈痛の表情が浮かぶ。

 

「ええ…そう。私は非道なことをした。あなたを救わなければ私は明日に向かってはいけないの」

 

 脈なしだなこれは。

 コリンという準星辰奏者はその非道な行いによって生まれた哀れな犠牲者。情深い貴種の目に映っているのは悲しい失敗作で、コリンではない。

 ツギハギの記憶に新しく繋がれた真白い生地。産まれたばかりの青年という歪な存在は、しかし勇気を持って言葉を紡いだ。

 

「なら行って下さい。私はさほどにあなたを恨んではいませんから」

 

 過去に接点を持つ同志めいた間柄。優しく手助けする母子のような間柄。他にも、他にも。

 そして新しく産まれた自分にとってこの美しい女性は初恋の人だったのだろう。

 だから別れを告げよう。きっとこの人はこんな自分の横で終わっていい人ではないのだから。贖罪というのは限りが無い。過去に応じた幸福を与えようとすれば、いつまでも引き伸ばされていくだけだ。

 

「…どうして?どうして、そんな事言うの…だったら私はどうやって償えば良いの?アッシュ君もグレイ君も、私を必要とはしない。だから…」

 

 その2人がどういう人物なのかは知らない。だがきっと強い人達だったのだろう。助けが必要な弱者は自分だけ。だから…

 

 

「そうだなぁ。差し当たって他国への技術支援なんてどうだい?」

救われる(もうかる)やつはきっと多い。だから安心して…」

 

 横合いから割り込む男女の声。それに気付いた時には既に敵は公園の中にいた。幾らか間合いは離れていても星辰奏者ならば一瞬で詰められる距離。

 赤髪の女が脚甲を持ち上げる。禿頭の男が剣を抜き放つ。

 

「「創生せよ、天に描いた星辰を――我らは煌めく流れ星」」

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