陸上進化。イ級改め、イロハ級   作:あら汁

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今回はストスト様とのコラボのお話になります。
長くなりそうなので、前編と後編に分けました。
コラボは本編とは設定が異なります。
キャラ崩壊があります。ご注意ください。
このお話をご覧になる前に、ストスト様の作品『転生レ級の鎮守府生活』をご覧になっているとよりお楽しみ頂けると思います。
最後になりますが、この度はお忙しい中コラボをして頂けたストスト様、本当に有り難うございました。
それでは、どうぞ。


コラボ回 もう一人のレ級 前編

 

 このお話は、もうひとつの物語。

 楽園に住む彼女たちと、遠方に暮らす深海棲艦。

 その二つが重なり生まれた物語。

 謎の深海棲艦と、闇から生まれた深海棲艦。

 運命が優しく残酷に、その刹那に交差した……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある鎮守府には、深海棲艦が住んでいる。

 極めて知性的、穏健な稀に見る例外として。

 その存在が、ふとした理由でこの町に訪れる。

 他の鎮守府の見学。そこで、この田舎の鎮守府が選ばれたのだ。

 その裏には、提督同士の話し合いが何度も行われた。

 どうやら、彼女の存在は他の鎮守府にとっては畏怖の対象であるらしく、断りの連絡が続いていた。

 だがこの鎮守府ほか、いくつか見学を受け入れてくれた場所があった。

 然し、受け入れても条件付きなどで柵も多く、優先的にこの鎮守府が最初になった。

 ワケはシンプルだった。条件がない。この鎮守府だけは、唯一何も条件を出さなかったのだ。

 裏があると思った、彼女を受け入れた鎮守府の提督が理由を問うと、機密上詳しくは言えないがここにも深海棲艦がいると言う話だったのだ。

 しかも、三体。独立部隊として普段は民間として暮らしていると言われて度肝を抜かれた。

 一人で三体もの深海棲艦を管理する提督。

 どんなエリートかと思いきや、胃薬片手に粗相をしないか心配していた。

 要するに、苦労人ポジだった。苦笑する相手の提督は、挨拶をして一度別れた。

 一人で訪れていた見学先の執務室を出て、やはりと感じる。

 相手の深海棲艦の噂は耳にしたことがあった。

 一度、『奴』の脱走のあとに本部は襲撃されている。

 内密に処理され詳細は不明だが、聞くに深海棲艦の襲撃と言われている。

 恐らくは、それを行ったのはここの深海棲艦。完全に管理できている訳では無さそう。

 少なくても、場合によっては人間を襲うことを躊躇わない。

 危険な存在かもしれない。彼女に、よく言い聞かせておこう。

 そう、判断する提督だった。運命の日まで、あと数日。

 時計は、淡々と時を進めていく……。

 

 

 

 

 

 

 

 運命の時はやって来た。お供を連れて、提督は再びこの地に現れた。

 緊張でガチガチになる件の少女。自分以外の、しかも警告された相手なら当然だ。

 みな、彼女以外の深海棲艦を見るのは初めて。敵ではなく、鎮守府所属なのだから。

 駅で待っていた、出迎えにきていた提督と、秘書艦にまず絶句する。

 戦艦大和。最強の艦娘と言われる、超弩級艦娘が、シンプルなシルバーリングを見せて微笑んでいた。

 しかも、ケッコンカッコカリまでしている。つまり、経験値も桁違い。正真正銘、最強の艦娘。

 案内する二人に続き、少女は竦み上がった。あんなのが秘書艦とは。実力の違いを知ったような気がした。

 例の部隊がいるという場所は、鎮守府ではなく何故か町にあった一軒の喫茶店。

 首をかしげる一行に、提督は迷わずそのドアを開けた。すると。

 

「いらっしゃいませ」

 

 淡々とした、女の子が言った。レジに座ってる、病的に肌の白い女の子。

 白銀に煌めく髪の毛をサイドテールでおろし、半袖にエプロン姿で無表情に座っていた。

 その頭には奇妙な生き物も乗っかっている。

 大きさは大きい猫程度。しかし黒っぽく、金属光沢を放つ外皮。

 カエルとオタマジャクシのなり損ないのような姿に、カエルよろしくの顔。

「いらっしゃいませー」

 しかも喋った。謎生物がレジにいる。

「姫、例の子を連れてきたぞ」

 提督に姫、と呼ばれたその少女は、途端に紫眼を細める。

 値踏みするように、一発で彼女を見抜いた。

「ふぅん。あの子以外のレ級って、あなた?」

 真っ直ぐ見られて少女――レ級こと、レンゲは姿勢を正して返事をした。

「は、はいっ! はじめまして、俺はレンゲと言います!」

 レンゲは、レ級の姿をしている。

 短めの髪型、長い艤装の尾っぽを隠して、前開きのフードつきコートを着ていた。

「そう、レンゲと言うのね。はじめまして。あたしは深海棲艦、駆逐棲姫。姫でいいわ。で、こっちは」

「同じく、深海棲艦駆逐イロハ級です。俺はイロハでいいよ」

 女の子は姫、オタマジャクシはイロハと名乗った。

 レンゲは混乱する。実は人には言えない秘密を抱えているが、その事で驚きと困惑が混じっていた。

 自分の知る深海棲艦ではない。姫と名乗る少女は、義足をしてレジから立ち上がりレンゲに握手を求めてきていたし、頭に乗るイロハなる生命体はそもそも知らない。

 彼女の混乱を、姫とイロハは感じ取っていた。微妙な違和感として。

 そして同時に、直ぐに悟る。この違和感は、そういうことだと。

「……そう。良かったわ、あたしの同類じゃなくって」

 それは安堵する言葉だった。握手をしているレンゲは、姫が安心したように胸を撫で下ろすのを見た。

 悲しそうな雰囲気で。だが、字面通りに受け取った相手の提督は酷く動揺した。

 連れの艦娘もだ。同類ではない、とはどういう意味か。深海棲艦ではないのか、とレンゲを見る。

「色々あって、俺達普通じゃないんですよ。多分、レンゲさんは俺に近いかもしれないけど、姫さんとレキとは間違いなく別物だと思います」

 頭のイロハはそういって、軽く説明した。余計に理解できなくなる。

 姫が、説明してもいいかと目線で大和と提督に問う。

 二人は仕方なく、頷いた。簡単になら、言ってもいいだろう。

 今は貸しきり。店の店主も、店員も気を使って席をはずしている。

 遠慮なく、言い出せる。

「あの、それってどういう?」

「簡単に言えば、あたしと妹は純粋な深海棲艦ではない、という意味よ。イロハ深海棲艦の進化個体。でもあたしたちは、別の事情があるの。聞いてもいいけれど、気分は悪くなるし、人間に……海軍に絶対に失望するわ。人類に見切りをつける可能性が高いし、戦う理由を疑うことになりかねない。レンゲ、あなたは……開けなくてもいい真実に迫る?」

 理由を聞いたレンゲに、冷たく姫は警告する。

 カウンターに案内し、着席させたのち、レジに戻ってもう一度問う。

「あたしには、妹がいる。それは同じ系列の艦だからじゃないわ。この時代に産み出された、イビツな関係。見る人にもよるけど、悪意が根本にあると感じるでしょう。そちらの提督にも言うわ。……知らなくて良いこともあるわ。うちの提督が敢えて黙っていた、機密の内容よ。あたしたちは、いざとなったらどうとでもなる。けど、従うだけの軍人には、聞くだけでリスクになりかねない。そっちの艦娘たちも、鎮守府の闇に触れたいと思う? ……オススメはしないわ。第二のあたしになるかもしれない。序でに、こっちにもリスクがあるから、口外しないと絶対の約束をしないと、説明は出来ないわね。……最悪、あたしたちは、そこの鎮守府を陸から襲撃して機能不全にするかも。それぐらいの覚悟、ある?」

 言外に、聞くのは自己責任。しかも言ったら潰すという脅し。

 暗部に触れる。当然のデメリットも承知のうえ。然し、攻撃すると公言するほどか。

 聞きたいのが本音。しかし、所属鎮守府を攻撃されるとまで言われるとレンゲも黙る。

 言いたいことは、なんとなく分かった。互いに、失いたくないのだ。

 今、生きているこの場所を。壊れるかもしれないから、口封じをするという。

 憤る連れの艦娘を、レンゲが宥めた。

「いいんです。そのぐらい、きっと姫さんには大切な場所だと思います。俺たちは互いに、自分の命も、居場所も、他人に握られているから、警戒しないと直ぐに失う。……当然の言い分だと俺は思います」

「察しが良くて、有り難いわ。艦娘とあたしたちは事情が違う。言い方は悪いけど、要するにモルモットだからね。海軍の実験台にされたくないから」

 肩を竦める姫。レンゲにも見に覚えがあるし、ひどい扱いをする人もいることを知っている。

 本来はレンゲは深海棲艦。敵なのだ。今の環境が特殊であり、普通ならすぐ殺されていてもおかしくない。

 それを、互いに知ってる故に、ここまで保守的になる。十分、理解できる。

 レンゲも同じ立場なら、手段こそ違うが、守るために行動する。

 この人たちの場は、手段が過激なだけかもしれない。

 姫所属の鎮守府提督も言う。知らなくていい事もあるし、後戻り出来ない。

 間違いなく人に絶望すると。それでも……真実を知りたいか?

 最後の問いに、レンゲたちは思案する。知りたい気持ちと、踏みとどまる勇気。

 その二つを、天秤にかける。大和と提督は黙って見守る。

 考えていると、不意に。店の奥から、レンゲの声がした。

 

「お姉ちゃんさ、そこまで言わなくてもいいじゃん。言ったらわたしがそっちの鎮守府、やっつけにいくだけだもん」

 

 店の奥から、お盆をもってこっちに来る女の子。

 それは、服装が違うだけのもう一人のレンゲだった。

 同じくエプロンに半袖、下はジャージの姿で現れた女の子は無邪気に笑う。

「!?」

「こんにちわ、もう一人のわたし」

 レンゲサイドの全てが絶句する。現れた、生き写しにすら見えた彼女。

 アイスコーヒーを配る彼女は、姫のことを姉と呼び、イロハを兄と呼ぶ。

「驚くよね。同じ顔がもう一人いればさ。わたし、レキ。ここの喫茶店で、裏方やってます。後は独立部隊の一人で、そっちのレ級と似て非なるモノ」

 レキと名乗るレ級は、レンゲの顔を見てはっきりいった。

「あー……もしかして、わたしが生まれるよりも早く海軍に接触してた? 少なくても、此方とは違う。本物の深海棲艦みたい。……中身はどうか、知らないけど」

 意味深なことをいって、場を混乱させる。

 レンゲも、自分を見る目が異常だとすぐ理解した。

 完全に、異種として見ている。いつぞや敵対したあの男に似た、おぞましい目。

 人を殺す事をなんとも思わない、怪物の目だった。

「レンゲさん、だっけ? ねぇ、どこで生まれたの? 何で意思があるの? なぜ人間に屈するの? なぜ共存を選んだの? この人たちの前で、説明できる?」

 レンゲに怒濤の質問を投げて、何かに気づいているとレンゲも解し、口を閉ざす。

 レキと言ったレ級は、笑う。無邪気に笑う。

「こんな風に、言いたくないこともあるでしょ? 人の秘密を知りたいなら、それぐらい腹をくくって欲しいな。お互い様。言えない事を訊ねるなら、自分も白状するかせめて誓わないと。……ねえ、レンゲさん?」

「…………」

 いけない。レンゲは思う。この人はあいつと同類だ。

 対処を違えると、本気で此方の鎮守府を潰す気だ。きっと笑いながら。

 本物のレ級、と不意に思う。悪魔だ。鎮守府を壊す、小さな悪魔。

 姫がたしなめ、イロハが怒る。すると、舌を出して謝る。

「ゴメンね、初めてお兄ちゃん以外に喋る深海棲艦見たから、警戒しちゃった。敵意無いのは分かったよ。此方も戦うことはないと思うから、安心して。今は」

 暗に必要になれば遠慮はしないと言っている。

 その証拠にレキは目が笑っていない。レンゲを殺すと決めたら、誰を巻き込んでも仕留める気だ。

 ゾッとするレンゲたち一行。これが、事前通告されていた、深海棲艦。とても危険なニオイがした。

「……とまあ、レキが言っているけど本当に誇張なしよ。安易に人の秘め事を喋ったら、あたしたちは、本気で潰す。レンゲ、それでも知りたい? あたしたちの正体って奴を」

 選択権はレンゲにしかないと姫は言い切った。

 人間や艦娘は立場が違う。故に口出しは無用と切り捨て、レンゲに問う。

 暫し、レンゲは思案する。リスク、この世界の事情、この場所の現状、海軍の闇。

 様々な事を考えて、答えた。

 

「俺は……知りたい。俺以外の深海棲艦の理由を。どういう意味なのか、他の人が何を俺に隠しているのか……俺は、これからの為に知らないといけないと思う。そして、知ったそのあとで、どうするか考えたい」

 

 彼は求めた。自分以外の違う深海棲艦。なぜ、鎮守府にいるのか。

 なぜ、彼女たちは人のために戦うのか。その全てを、知りたかった。

 覚悟はある。レンゲは、闇を抱えてその先に進む。

「そう。なら、覚悟して聞くことね。後悔しても、知らないわよ。警告は確かにしたからね」

「自分のアイデンティティーを失わないことを祈るよ。海に帰りたくても、人間は追ってくるから、諦めてね。破滅するか、自滅するか。あるいは、それでも足掻いて戦う強さと出来るのかは、レンゲさん次第」

 二人は、レンゲの決断を受け入れ、口外しないとこの場の全員に誓わせた。

 大和と提督も、言えば鎮守府に圧力がかかるので、内密にと念を押した。

 そして、語り出す二人の正体。イロハは純粋な深海棲艦の進化個体。

 対して、二人は。

「あたしこと、駆逐棲姫は生前では艦娘でね。駆逐艦春雨、と言うのが名前らしいわ。つまり、あたしは作られた深海棲艦ってこと」

 姫は自分が海軍によって偶発的に生まれた深海棲艦と語り、

「わたしは艦娘の建造技術で作られた、深海棲艦の死骸で出来てる次世代海洋兵器。サルベージされた死骸のリサイクルされたモノかな。お姉ちゃんとお兄ちゃんのデータを基盤の一部に使われているから、家族なの。名称もそっちのレ級とは多分違うよ。何せ、海軍生まれの深海棲艦だからね」

 つまり。二人は、二人の大本には……人間が、関わっている。

「禁忌改修という方法で偶然生まれたあたしと」

「その偶然すら悪意で食い漁った結果、生まれたのがわたし」

 二人の正体。

 それは……人類が天敵として憎んでいるはずの、海の化け物を自ら産み出した人の業。

 人工深海棲艦という、呪われた存在だったのだから……。


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