【停滞】湖の騎士 異聞録 (旧題偽・湖の騎士伝)   作:春雷海

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ローマ到着,陛下に対する想い,

『おや? そこは首都ローマではないのかな?』

 

「あ、はい。現在地は丘陵地帯です。羊がいないのが惜しまれるほどの」

 

『あれ、おかしいなぁ。転移位置は首都ローマに固定したはずなんだけど……でも時代は問題ないよ。ローマ帝国第5代皇帝、ネロ・クラウディウスが統治する時代の筈だ』

 

不意に六華とマシュが周囲を見渡し始めた。それを怪訝に思ったマルタが訪ねる。

 

「どうかしましたか、マスター」

 

「え、ううん、大したことじゃないけど……変わった音が聞こえるなって」

 

剣と剣の打ち合う音、響いてくる怒声や悲鳴が複数。

 

この喧騒をランスロットとパロミデス、ジャンヌは聞き慣れている。嫌という程に。

 

「おい、ランスロット。こいつは」

 

「あぁ、戦闘中だ」

 

「マスター、音が聞こえるほうへ行ってみましょう!」

 

ジャンヌの声に六華は頷いて「行こう、皆!」と叫んだ駈け出した。

 

辿り着くまでそう時間はかからなかった。

それは、間違いなく戦闘だ――片方は大部隊で、もう片方は少数部隊。

 

乱戦になっている兵士たちの中で、そこだけはぽっかりと空白地帯。どちらの部隊の兵士も近づこうとしない。

真紅のドレスの少女と真紅のマントの男が剣と拳で交戦するたび、凄まじい衝撃が飛び交っているのだ。好き好んで飛びかかろうとする者はいないだろう。

 

「首都に向けて進軍している軍勢と、それを向かえ撃っている少数軍……先輩、どうしますか?」

 

「ついでだが、あの紅いドレスを着た少女は俺と同じ人間だ――うむ、見事な太刀筋だ」

 

「……お前と対当している時点で、もう人間じゃねぇって感じてんの、俺だけか?」

 

「安心してください。私もです」

 

パロミデスとマルタの言葉に、ランスロットは言い返そうとするも。

 

「そんなことよりっ、あの女の人を助けに行こう! 段々圧されてきてるから!?」

 

「すまん、六華。 それでは指示を頼むぞ」

 

「う、うんっ! まず、パロミデスさんとマシュ、ランスロットさんはあの女の人を! えっと、ジャンヌさんとマルタさんは護衛をお願いっ、私が指示を出せるようにしてほしいのっ」

 

六華はたどたどしくも、何とかサーヴァントたちに指示を出すことに成功する。

その姿を見て、ランスロットは頷いて「承知した」と云って、カルデアに所属するサーヴァントであるレオナルド・ダ・ダヴィンチ――キャンバスから抜け出したモナ・リザが如くの人物――御手製の武具であるファルシオンを腰から抜いた。

 

ファルシオンは刃が緩やかな弧を描き、棟が真っ直ぐな刀剣――至って普通の刀剣である。

本来ならば魔力が籠った武具をダヴィンチは提供したかったらしいが、それは丁重に断った。 ランスロットにはこれがあるのだ。

 

腰にファルシオンの他に差している武器がある。今は鞘に納められていることで、その武器に宿る大いなる力も魔力も、祝福も何もかも感じない。

 

だがこれこそが、ランスロットにとっての愛用し相棒的存在でもある剣――無毀なる湖光(アロンダイト)である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴公たち、援軍か? なんともいい戦いぶりであった。少女が身の丈程の盾を振り回し、余に似てる少女は旗で敵を薙ぎ払い、美しき女性は魔力で敵を吹き飛ばす……そして何とも言えぬのが、二人の騎士よっ! 一人は豪胆な斬撃、もう一人は迷いなく繊細ながらも凄まじい斬撃――ウムッ、倒錯の美があったぞっ!」

 

 

その少女の顔に、ただパロミデスは何とも言えない表情を浮かべ、それをランスロットが傍目から見ていた。

 

 

 

 

 

「……なあ、ランスロット」

 

「むっ」

 

「あの、ネロっていう嬢ちゃんなんだが」

 

「陛下によく似ている、か?」

 

真紅のマントを羽織った男――カリギュラの撤退後。少女、ネロ・クラウディウスの助っ人としてローマの首都に同行を許されたランスロット達。

 

ネロを最初に顔を見たランスロットは目を見開き、パロミデスは驚愕に満ちた表情を浮かべた。その顔立ちは、二人の主君であるアーサー・ペンドラゴンに酷似していた為だ。

 

「だが彼女は陛下ではない、赤の他人の、ローマという国の王だ。乱れるなよ」

 

「あぁ、分かってるっ、分かってんだけどよっ、糞」

 

パロミデスは湧き上がる感情を押さえられず、髪を掻き毟る。

彼女はアーサー王でないことは彼自身、よく知っている。だがそれでも、パロミデスは意識してしまうのだ――己が裏切ってしまった主のことを。

 

そんなパロミデスに対し、ランスロットは。

 

「……陛下もお前を最後まで案じていたぞ」

 

「っぇ?」

 

唐突に語りだした。

パロミデスはそんな彼に戸惑いを隠せず、呻き声のようなものを挙げるも、気にせずにランスロットは語る。

 

「暗黒騎士になったお前の討伐が円卓内で決定した中も、陛下はお前を何とかして騎士として戻そうと努力したぞ……結局は最後まで覆らなかったがな」

 

そう云ってランスロットはパロミデスを見据え、伝える。

 

「俺がお前の討伐を報告した際、こう云っていた『我が騎士を戻してくれて、ありがとう』とな」

 

「!」

 

「……今更、過去のことを気に病むな。 今は六華を護ることを意識しろ」

 

ランスロットはそう言い放つと、六華たちの元へと速足で駆けだした。

 

その後ろ姿をパロミデスは見つめると数秒後には額に手をやり顔を上空に向ける、綺麗な青空に憎たらしく光の環が展開されているのが目に入る。

 

しかしそれよりも胸に響いたのが、ランスロットの、いやアーサー王の言葉だ。

 

『我が騎士を戻してくれて、ありがとう』――くだらない自尊心の為に闇に堕ちた、自分勝手な騎士を、死して尚も円卓の一人として認めてくれたその言葉に。

 

柄にもなく、パロミデスの瞳から一筋の涙が零れ落ちた。

 

「……あれ、陛下『も』って――あぁ畜生、あの野郎め、どんだけだ」

 

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