【停滞】湖の騎士 異聞録 (旧題偽・湖の騎士伝)   作:春雷海

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一日の始まり,朝餉,不貞腐れ,カエサルとの対決

「うん……もう朝?」

 

六華は小さな口で欠伸をしながら頭を上げると、まず目に入ったのはランスロットの顔だった。

 

「うひゃっ」

 

可愛らしい悲鳴を上げて六華が転がりそうになる。それをランスロットは彼女の手を取り、転がるのを抑えた。

 

「起きたか?」

 

「う、うんっ、おはようございます」

 

六華は寝ぼけた頭で思い出していく――昨日は寝付けず、焚火の前にいるところをランスロットに発見されての膝枕で、しかも優しい手つきで髪と頭を梳られていく内に眠ってしまったことを。

 

「あぁ、おはよう……すまんがもう起き上がってもいいか? そろそろ朝餉の支度をするからな」

 

「あっ、よ、よろしくね」

 

ランスロットの言葉にコクコクと頭を上下に動かして六華は答える。そんな彼女に彼は口元を緩ませて頭をポンと叩くと同時に撫でまわした。

 

「うきゃっ、なにぃ!?」

 

「気にするな、ただの苛めだ」

 

また始まる、人理修復の旅をこれで少しでも彼女の心を慰めたらと思い、ランスロットは手を動かして彼女の頭を撫でる。

 

「うわわわっ、髪が崩れちゃうー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガリアの野営地に日の出が上がり、和やかな朝の光が包まれる。

 

気持ちの良い朝を迎えたと同時に、食欲を誘う良い香りと――。

 

「あぁーもうっ! 大雑把すぎるよっ、ランスロット! もうちょっと量を考えて入れないと!」

 

「……そうか? 俺的にはこれくらいがちょうどいいと思うのだが」

 

「それじゃあ味付けが変わっちゃうよっ! もう少し、丁寧かつ慎重に――」

 

「そんな小さいことしてたら時間がかかるだろう……」

 

ランスロットとブーディカによる言い争いが響いていた。その光景を只々唖然として見ているのはローマ兵らと六華たち。

 

普段、太陽のように温かく見守り接するブーディカがこのように荒げるのが珍しい。そしてその対象がランスロットで、しかも内容が朝餉のことでもめている。

 

「うむっ! 戦前に必須な我らの食事を考えての、譲らぬ二人の争い――感銘を受けるぞ! 我らを想ってくれての争い、余は嬉しいぞ!」

 

「ネロ様にはそう見えるようで……しかしまぁ」

 

パロミデスからして見れば、ローマ兵を想う気持ちはあるだろうが、言い争いの原典がお互いの料理に関する主張を譲らないという頑固者同士のものだ。

傍から見れば勝手にしてくれという気持ちが強いのだが、彼自身気になることが一つ。

 

「料理のことで喧嘩するほど仲良くなったのか? しかも、一日でって……お前ってやつは」

 

相も変わらずの乙女心を掴むのが上手い罪作りの騎士(ランスロット)と彼を呆れながらも温かい目で見るブーディカを見て、パロミデスは呆れてため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「露払いはあたしとスパルタクスでやる! あんたたちはネロと一緒に本陣へ突っ切れ!」

 

「フハハハハ! やはり戦場はいい。圧制者の魔の手と化した兵の数や、幾百、いや幾千、幾万か! 反逆の女王は我らが味方となった。これより我が剣は圧制への解放の凱旋と知れ!」

 

「……うむ。頼んだぞ、ブーディカ。色々な意味で頼んだからな」

 

「黒騎士よっ、汝の剣も開放の凱旋と成れ!」

 

「なぜ、こいつは俺にまで声を掛ける」

 

スパルタクスの言葉を憂鬱気に返すランスロット――そんな彼の姿を見た六華たちは苦笑し同情してしまう……スパルタクスに気に入られてしまった彼を。

 

意気消沈している(ランスロット)を慰めようとマシュが声を掛けようとする前に。

 

「ほらほらっ! ランスロット、シャキッとしなよっ! パロミデスとマシュ、それにジャンヌたちもっ、六華とネロのことを任せたよー!」

 

ブーディカの声援……まず第一にランスロットに声を掛けることに「あー、やっぱりもう毒牙くらったか」とパロミデスが諦めたかのように声を漏らした。

 

「……致し方ないか、応援された立場だ。もう文句を言う資格はない」

 

ランスロットは立ち上がり、腰のファルシオンを抜く。それを見たマシュはニッコリと笑顔を浮かべた――彼女らしからぬ威圧感を乗せて。

 

「よかったですね。 女性に声援をいただけて」

 

本来ならばマシュは彼を慰めたかったものの、丁度ブーディカにより遮られた挙句にしかも若干微笑まし気に笑みを浮かべている彼に若干苛立ちを覚えた。

 

しかし、マシュの威圧の笑みを全くもって捉えることなく「そうだな」と苦笑してランスロットはネロに声を掛ける。

 

「それでは、ネロ殿。号令を」

 

「う、うむっ、いささかやりづらいが――い、今こそ『皇帝』の一人を倒す時だ。偽なる『皇帝』に占領されたガリアを取り戻す! 征くぞ!」

 

若干の戸惑いはあったもののネロは剣を前方に向け、駆けだした。

 

「い、行こう、皆!」

 

「は、はい!」

 

「さっさと行く――こほん、参りましょう」 

 

「あー……んじゃま行きますか」

 

それに続いて六華とジャンヌ、そしてマルタとパロミデスもネロの後を追い、続くように駆けだした。

残されたのはランスロットとマシュのみ。

 

「ふむ、マシュよ」

 

「なんでしょうか?」

 

「ブーディカを独り占めにしてすまんな」

 

……決して彼女を取られたからあのような態度を取ったわけではないのだが、ランスロットのそれに癪に触ったものの、それに反応しては意味がないと捉えたのかマシュはため息をつき。

 

「……はぁ、もういいです」

 

不貞腐れたかのように呟いてマシュも足を動かして、六華とネロたちの後を追っていった。

 

「? なんなんだ、あいつは?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前たちならばこの黄の死(クロケア・モース)に相応しき相手の様だ。黄金剣も時に振るってやらねば不憫故な」

 

魔力の光が徐々に男――ユリウス・ガイウス・カエサルに集まっていき、徐々に霊器の質が上がっていき、最終的に彫刻の様な左腕に、輝きを放つ黄金剣。

 

カエサルは本気で戦う事を決意した。目の前にいる美しき当代の皇帝と、マスターとサーヴァントたち……そして規格外の騎士に。

 

「行くぞ、今より本気だ」

 

そのふくよかな身体からは想像がつかない、サーヴァントたちが一瞬見失う程の速さで動くカエサル。

そして、カエサルの黄金剣がネロを斬り裂こうと袈裟懸けを振るおうとしたとき。

 

強い金属音が響き渡った――ネロと黄金剣の間に入るのは鉄製の片刃剣。

刃が噛み合う音と弾いた音が同時に響くと、騎士――ランスロットの九連続の突きがカエサルを貫こうと襲い掛かる。

 

「ぬぅう!」

 

その突きを左腕で全て受け止め弾き返すカエサルに、交差斬りから渾身の突きによる次なる斬撃が襲い掛かる。

しかし、その斬撃全てを黄金剣で受け止める。

 

「ちっ、貴様本当に人間かッ!?」

 

「正真正銘ただの人間だ!」

 

「抜かせ! 英霊(サーヴァント)相手にして剣技を交えるわ、動体視力が同等だとッ!? 人間を止めているではないか!」

 

カエサルの叫びに対して、その場にいた全員が(確かに)と納得をしたのは秘密である。

 

閑話休題。

 

そんな彼にランスロットは特に取り合わず、ファルシオンの峰を右手で支え、下から飛び上がって刀の腹で斬り上げる。

黄金剣で受け止めようとカエサルは構えるが、ランスロットの斬撃と衝撃を片手で完全に抑えることが出来なかったために、黄金剣はカエサルの手から弾き飛ぶ。

 

ランスロットの上空に飛んだ黄金剣を掴み、ファルシオンと黄金剣の即席の二刀流を創り上げた。

そして二振りの剣による斬り上げと斬り下ろしの二段斬りを繰り出し、カエサルを斬り裂いた。

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