【停滞】湖の騎士 異聞録 (旧題偽・湖の騎士伝)   作:春雷海

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神託,苦悩,決意

「貴方に神託をあげましょう。心して聞きなさい?」

 

ステンノは威厳を表し、後光すら見えるような神の気配を放ちながら語りだす。

その姿がを見て常人であったら拝むほどであるが、ランスロットはめんどくさそうに且つ憂鬱気にため息をついた。

 

「……あら、神託をいただけるというのにその態度? 何だか悲しくなっちゃうわ」

 

「どの口と顔で、どうしてそう云える」

 

ランスロットの云う通り。

ステンノの台詞とは裏腹に表情は愉悦に満ち、寧ろ彼の反応を伺い楽しんでいる様子が伺える。

 

「うふふっ、前置きはさておいて。 そろそろ言いましょうか、貴方の反応が面白くってつい虐めちゃうわ――弟が居たらこんな感じかしら」

 

お前みたいな姉は御免だと返したかったが、それだと余計にステンノの調子を上げさせるだけなので敢えて云わない――たとえこちらの様子を窺っていようが、絶対に。

そんな彼を笑って、ステンノは語りだす。

 

「では、心して聞きなさい。人間の勇者よ、神託を授けましょう――汝には逃れられない、向き合わなければならない出逢いと宿命がある……そして貴方が望むものは永遠に手にすることはできない」

 

「……」

 

何という抽象的なものなのだろう。いや神託というのは元々そういうものだろうが、ランスロットにとって気に掛けたのはそれではない。

出逢いと宿命、それは恐らく嘗ての仲間たちとのことだろう――無論それは受け止めるつもりでいる。

 

 

しかし、彼女の最後の言葉……望むものは手にできない、というのが気にかかった。

 

 

(望むものなんて、俺には……ない)

 

 

「貴方が無いと思っていても、貴方の深層意識は常に訴えているのよ」

 

心の中を読まれたのか、追撃の如くステンノは云う。

何故かソレが、酷く勘に触った。

全てが見透かされそうで……それこそ忘れたい事実が出て来そうで、酷く癇に障った。

 

 

「…………馬鹿らしいっ」

 

 

ここにはもういたくない。不愉快に感じたランスロットはステンノに背を向けて歩き出す、彼女と離れたかった。

この場にいたら、知らない自分まで曝け出されそうで怖かった。とりあえずは森の茂みに隠れていれば問題ないだろう。

 

 

「うふふっ、この先、あなたに加護がありますように」

 

 

からかい気味にかけてくる言葉にランスロットは舌打ちをし、足を速めた。速く六華たちが戻ってくることを祈って。

 

それから六華たちが戻ってきたのは、太陽が沈みかけ、夕焼けが綺麗に見映える時間帯の事であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふ、連合打倒の暁にと約束した褒美はさぞ凄いことになりそうだな。ああ、もちろん怪物を差し向けて褒美だ、などとは言わぬぞ?」

 

「それ、私に言ってるのかしら?サーヴァントでもない人間の分際で、私に?この時代の人間達の王は勇気があるのね。あなたは正しく勇者なのでしょう……ああ、女であるのが勿体ないわ」

 

「いいや、余は勇者でも女王ではない。よく聞け! 余はローマ帝国第五皇帝、ネロ・クラウディウスである!」

 

「そう。なら貴女はローマ帝国第五皇帝と呼ばせて貰うわ。それと、私の島に上がろうとした勇者ならぬサーヴァントを追い払ってくれた訳ですから。そのお礼もかねて――あなた達の戦う連合軍、皇帝たちが集うローマ連合帝国の首都。その正確な場所と座標をお教えしましょう」

 

ランスロットはネロから目を逸らす……彼女の愚直なまでの実直さに眩しさを覚えたのだ。そして、ステンノに云われた言葉で悩み続けていることが情けなく思えた。

 

またステンノがネロと話している間にもこちらに目を向けることも、わずわらしかった。

 

彼女の目は苦悩しているランスロットを愉悦しているのか、口元を必死に抑えている様子が伺えた。

 

(趣味悪いな、あの女神さまは)

 

ため息をつきたかったが、正直それすらも億劫だ。

頭の中を空っぽにしたいのに、思考は何かを掻き混ぜているように定まらない。

 

座標と場所を聞いた後、ランスロットは即座に踵を返した。

 

「? ランスロットさん?」

 

六華の言葉に応答することなく、無言のままランスロットは船まで速足で進めていった。早くこの場から去って休みたかった。

 

 

 

 

 

 

『貴方が望むものは永遠に手にすることはできない』

 

考えまいとしているのに、ふとした拍子で考えてしまう言葉だった。

 

何故、考えまいとしているのだろう。彼女の言葉に翻弄されているだろうか。

 

ランスロットの頭に鐘の音のように鳴り響くステンノの言葉。

 

『貴方が望むものは永遠に手にすることはできない』

 

ステンノの言葉に胸が締め付けられる……いったい何なのだろうか。

自分が望むものとは一体何だ、何だ何だ何だ?

 

考えても考えても答えは見つからない、頭の中にある引き出しをいくつか開けても見つからない。

 

余計に分からなくなる、頭の中がぐちゃぐちゃになってしまう。こんな事初めてだった……彼女を失ってしまった頃の様だ。

 

『ランス』

 

彼女の声が聞こえた――――。

 

 

 

 

 

波の音と潮の香りが耳と鼻に入り、ランスロットは目を覚ました。

 

「……」

 

大きなマストが目に入る。周囲は闇に染まり、頼れる灯りは空に浮かぶ満月のみだった。

 

最悪な目覚めだ、ステンノの神託とやらの所為だ。

 

「くそっ」

 

悪態をついてランスロットは座り込んでいた身体を起こした。

穏やかな航海――帰りはネロが操縦するのでなく、ローマ兵が操縦しているから――とは裏腹に、自らの心は乱れていた。

 

「なんなんだ、俺の望むものって」

 

独白に応える者はいない、そして苦悩している彼を見ているのはどの世界でも美しく輝く満月のみ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

藤丸六華はふと目覚めてしまい、二度寝をする気は起きず何となく甲板に出た。

満月の美しさに見惚れていると、見張り台にいるランスロットを見つけたために声を掛けようとしたが。

 

「……泣いて、いるの?」

 

何故か、泣いてるように見えた。

 

遠目でしかも満月の光のみで上手く見れない。しかし、伝説の騎士は誰にも悟られないように表情を隠しているも、確実に何かに苦しんでいるように見えた。

 

「どうして……?」

 

彼女の声が知らずに漏れる。

 

あんなにも強く、人々に求められてきた騎士が何故……だが聞いた所で答えを返してはくれないだろう。

自分がまだ頼りなく、どうしようもない子供だから。

 

「強くなろう」

 

彼に甘えてばかりではいけない。頼ってばかりもいけない。

同じ立ち位置には至らないかもしれないが、それでも彼がこちらに頼れる位になろう。

 

藤丸六華はそう決意した――――。

 

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