【停滞】湖の騎士 異聞録 (旧題偽・湖の騎士伝)   作:春雷海

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愛の鞭,魔人柱フラウロスとアロンダイト

連合ローマ帝国の首都に辿り着き、進軍を開始した。

ネロが檄を一つ飛ばすたびに、兵士たちは歓声を上げて褒め称えた

 

「ネロよ。私へと帰ってくるがいい、愛し子よ。私こそが、連合帝国なるものの首魁である。お前も連なるがよい。許す。お前の全てを、私は許してみせよう。お前の内なる獣さえ、私は愛そう。そうだ――私が、ローマだ」

 

王宮入り口付近にて巨躯の男性が立ち、声を掛けてきた。

かなりの距離が離れていても、それはランスロットや六華、ネロたちにも聞こえた。

 

「あ、ああっ……あなたは、あなただけはありえぬと……信じていたのだ、信じていたかったのだ。なのに! あなたは余の前に立ちはだかるのか、神祖ロムルス――!」

 

神祖ロムルス――ローマ建国王にして、数多の時代の皇帝の祖となる偉人。

 

皇帝ネロが夢見たほどの存在であるロムルスを前に、衝撃を隠せない様子で後ずさってしまう。

ローマを創った輝かしい英雄として夢見た存在がまさか、敵対者として立ち塞がる事実に彼女にとって受け入れがたかった。

 

 

 

 

 

「……成程、建国の王様ね。それであの調子かぁ、あんなに暗い顔じゃあ兵の指揮に関わるんだけどなぁ――っと!」

 

襲い向かってくるのは兵士ではなく市民。

 

市民らはまるで連合帝国の兵士であるのように、棒きれを振り回したり、石を次々と投げたりしている。

 

ブーディカは市民のうなじに、剣の柄頭を容赦なく叩き込んだ。

 

ランスロットは兵士の兜ごと顔面を殴って、商売棚に突っ込ませ――その際骨と兜がひび割れる音がするも、特に取り合わずにいよう――市民にはうなじに手刀を叩き込ませて気絶させる。

 

「無理もないだろう。 何せ、彼女にとってはローマという大いなる宝を創った神の如き存在だ……お前の言うケルトの神々に裏切られたようなものだな」

 

「だが兵の指揮はこちらも高いぞ。 ネロもやはり様子はいつもと変わらんが……」

 

「そう……でしょうか。 少し翳っている気がします、覇気そのものが」

 

ランスロット、荊軻、マシュが見つめる先にいるネロの姿は確かに振る舞いは問題はない。兵に対する指揮や檄には問題はない。しかしマシュに彼女が纏う雰囲気に陰りが見え、何処か声音にも力を若干感じられない。

 

それ程までにロムレスの敵対が精神的ダメージが大きかったのだろう……。

 

そんなネロに六華は近寄り、そして――思い切り彼女の頬を叩いた。

「むほっ!?」と驚愕と悲鳴の混じった声を上げ目を点にするネロと、急に叩いた六華に、ただ唖然とするばかりのランスロットたち。

 

しかしそんな周囲を放って、六華は両肩を掴んで目を合わせる。

 

「ねぇ、王様はそれでいいの?」

 

「ぬっ?」

 

「王様がロムルスさんを尊敬してここまで頑張ってきたの分かるよ、その人が敵になってもしかしたら間違っているんじゃないかって……でも、でもね! ここにいるみんな、なにも持っていないよっ!」

 

「!?」

 

ネロの瞳に力を取り戻す。確かに周囲を見渡せば、市民や兵士全員が決意を込めた眼差しで戦に臨んではいる。

だがその裏に秘められているのは何もない――空っぽのままだ。ただロムルスに付き従えばいいという、盲目的なだけ。

 

神祖に従えば、間違えはない。何も考える必要はないと云わんばかりの、考えることを止めてしまった人間がそこにいた。 それを見たネロは拳を強く握りしめる。

 

「神祖の声を聞いた時、あろうことか、余も、神祖に降ればよいのだろうか、と……いや、言おう。言ってしまおう。降りたくて仕方がない。それが余の偽らざる気持ちだ! 神祖だぞ!? 建国王その人に他ならぬ! 余の道が誤りだと断ずるのならば、任せてしまいたい。連合の『皇帝』となって!」

 

その言葉を間近で、間遠で聞こえたネロの兵士たちは信じられないと云わんばかりの表情を浮かべ、武器を奮う手を止めかけたが。

 

「だが――いかに完璧な統治であろうと、笑い声のない国があってたまるかッ!」

 

ネロの――自らの皇帝の言葉を聞いて、兵士たちは安堵の表情を浮かべて襲い掛かる敵と立ち向かう。

 

「感謝するぞっ、六華よ! これより連合ローマ帝国の首魁を討ち果たしに行く。最後の戦いになる。余と共に、来てくれるか?」

 

「勿論っ! みんなもいいよね、嫌だなんて言わせないよ?」

 

六華が悪戯めいた笑みを浮かべ問う――既に全員の答えは理解しているにも拘らず。

 

「はい、マスター! ネロさんと共に行きます!」

 

「ふふっ、断るわけがありませんよ」

 

「やれやれ、俺らはサーヴァントであんたはマスター……拒否なんかできるわけがないっての」

 

「あら。 だったら、サーヴァントではなかったらどうするするつもりだったのですか?」

 

「マルタ姐さんは分かってねぇな。腹を括った女を前にして、味方しない騎士はいないのさ」

 

彼女が契約しているサーヴァントたちは断ることなく、彼女の要望を受け入れる。

対するランスロットは……。

 

「ここで断るほど、俺は馬鹿じゃないさ。行こう、そして見せつけてやろう……皇帝ネロのローマの程をな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

烈しい攻防の果て。ついにネロが真紅の長剣でロムルスに引導を渡した。迷いも躊躇もない、見事な斬撃。ロムルスの霊核を両断するほどのだった。

 

とどめの一撃を受けたはずなのに、ロムルスは笑い。

 

「永遠なりし真紅と黄金の帝国。その全て、お前と、後に続く者たちへ託す。忘れるな。心せよ。ローマは永遠だ。故に世界は永遠でならなければならない」

 

ロムルスの霊基は消滅した――それはネロの、正統ローマ帝国の勝利だ。

これでローマ帝国はあるべき形に戻るだろう。あとはカルデアが聖杯を回収。そして時代を修復し、帰還する予定だった。

 

――レフ・ライノール・フラウロス。カルデアの、全人類の裏切り者が現れたことでそれは狂う。

 

『改めて自己紹介しよう。私はレフ・ライノール・フラウロス! 七十二柱の魔神が一柱! 魔神フラウロス――これが、王の寵愛そのもの!』

 

地に突き立つ、巨大な柱。裂け目のようなものが幾多も走った不気味な肉塊の柱に無数の赤黒い目が点在するぶよぶよとした剥き出しの肉が混ざり合って形成されている、おぞましい外見。

 

その名を魔人柱・フラウロス。

 

悍ましい剥き出しの水晶体が一斉に、六華に向けられ輝く――それを誰よりも先に動いたのはランスロットだった。ランスロットは六華を背で庇い、ファルシオンを眼前にし守りの構えを取るが。

 

その輝きによって生まれた超高熱で、ファルシオンの刀身、柄、鍔――そのすべてを飴細工の如く溶かした。

また溶けてしまったファルシオンを掴んでいたランスロットの手に急激な痛みと熱さが襲う。

 

「っっつぅ!」

 

肉の焼ける音と臭い、そして痛みに悲鳴を噛み殺す。

それと同時にランスロットは自分の判断は間違っていないことに安堵する、もしもこれを六華が受けてしまえば火傷どころでは済まなかった。

 

「ランスロットさんっ! 今手当を――!」

 

「心配いらんっ。 しかし、予想以上に厄介な奴だな……」

 

能力は不明だが恐らくは呪いの一種。また他にも能力が秘められているだろう。

加えて、こちらはロムルスとの戦いで満身創痍。長引けばこちらが苦戦し、下手すれば敗北する……ならば。

 

「お前の出番が来たな」

 

そう呟いたのと同時に、ランスロットは六華たちに目を向ける。

 

「あの趣味の悪い柱を倒す技がある。 恐らく大丈夫だと思うが、一応巻き込まれないよう――マシュ、念のためにジャンヌも即座に宝具を展開してくれ」

 

「っは、はい!」

 

「ッ、承知しました」

 

二人の声を聴いたランスロットは腰に差している愛剣――無毀なる湖光(アロンダイト)を抜いた。

 

(正直、かなり使いたくなかったんだが……あの気持ち悪い柱を潰すためだ、しゃあないか)

 

 

 

 

 

 

ランスロットの腰に常に差されている無毀なる湖光(アロンダイト)が鞘から引き抜かれた。

黒曜に美しく輝き、幅広・両刃で大型、束頭と刀身に紋様のついた剣。

刀身から迸るオーラ、芸術品と謳われそうな美しさと同時に全てを斬り裂く鋭さがそこにはあった。

 

覚醒(おき)ろ――無毀なる湖光(アロンダイト)

 

ランスロットの魔力が通ることでアロンダイトの刀身が淡く光る。その光はランスロットを包むと同時に。

 

刹那、周囲から音の一切が消え失せる。 同時に天高く立ち昇る黒曜の魔力。

 

魔力が霧散されると同時に、黒曜の斬撃が神速の如く――それこそ他者からすれば一瞬――フラウロスが真っ二つに斬り裂かれた。

 

『たわ…………?』

 

真っ二つに斬り裂かれたフラウロスは何が起きたか分からないと云わんばかりに、呆けた声を出す。

更に追い打ちをかけるように無数の斬撃が襲い掛かり、フラウロスの真っ二つにされた身体はバラバラに斬り刻まれた。

 

意識を失う直前にフラウロスは見た。

 

(バ、バカな)

 

紫紺と漆黒の鎧、フルフェイスの獰猛さを象徴する兜と外套を纏った騎士と、その手に収められている輝きに満ちた黒曜の聖剣を。

 

(あれは、一体何なのだ、たかが人間の筈が、私を倒す――? 何の冗談だ?)

 

フラウロスが想像を絶する出来事に驚愕に満ちる中で、騎士の背後に付き従うが如くに立ち尽くしている幻影を見つけた。

 

それが一体何なのか消えゆく最中で必死に目を凝らすと。そこにいたのは様々な幻想種たち、中には幻想種の頂点に位置する最強の竜種までもが混じっていた。幻想種らはその身に宿る祝福を騎士に捧げ、力となっていた。

 

スキルで例えるならば、『幻想種の祝福』だろうか。

 

(な、なん、な、の……だ)

 

とても受け入れられない現実。幻想種の加護を受けるほどの途方もない化け物を前に、フラウロスの視界は闇に染まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

(やーっぱ、えげつないわ。 これ)

 

ランスロットは兜の中で頬を引きつかせて、愛剣であるアロンダイトを見る。

膨大な神秘を秘めた幻想種を、魔術師を、道具を屠り続け、取り込み続けた結果が強度と性能を大幅に上げたのだ。

 

アロンダイトの性能面の変化。原典では全てのパラメーターは一ランク上昇し、また全てのSTの成功率を二倍──という性能を、ここではパラメーターのランクはEXまでに引き上げ、STの成功率も確実にさせるものだ。

 

更には幻想種の祝福によって、創られた鎧や兜――基本、アロンダイトに納められている――纏うことで、防御力の向上や更には回復能力まで添付されている。

 

アロンダイトという聖剣を開放し、補助を受けることで彼は最強種になりかねんばかりの能力を得てしまう。

 

 

 

だが――強大な力は得るのと同時に代償も付く。

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