【停滞】湖の騎士 異聞録 (旧題偽・湖の騎士伝)   作:春雷海

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【閑話1】騎士とケーキと元パティシエ志望

「……」

 

カルデアにある図書室にて、ランスロットはある本を読んでいた。

 

その本は彼にとって重要な資料であり、いま勉学に使っている。

 

彼にとってはそれは難題であり且つこれから行う戦いに必要な知識なのだ。

弱音を吐いてはいけないのだ……騎士の名に賭けて。

 

「ケーキの作り方って意外と難しいな、スポンジやら生クリームまで……うむ」

 

ケーキ作りという困難を乗り越えねばならないのだから。

そして、難問揃いのケーキ作りの手順が記されている料理本を読み解かねばいけない。

 

(そもそも、ケーキはスポンジとホイップクリームを買って御終い、だったからなぁ……一から作るって難しいもんだな)

 

何故、ランスロットがケーキを作ることになったか。

それはレイシフトし異変を解決する六華や局員たちの疲れを少しでも癒す為に。そして新しく入ったマリーとブーディカを祝うためにと、考え至ったのが甘いものを食べさせること。

 

そして甘いもの代表と云えばケーキ!

 

しかし、カルデアにケーキなど保管されていない……ならば作るしかあるまいっ!

 

ランスロットがその考えに至った瞬間、即座に行動を開始した――情報収集という名で料理本を読むということを。

 

確かに彼は料理は出来る。

しかし、それはあくまで、焼く・炒める・揚げる・煮る・蒸すという基本的な料理方法で創り上げる方法しかわからず、ケーキのような上級レベルにはランスロットは出来ないのだ。

 

その為にこうやって料理本を読んで勉強しているのだが、なかなか捗らない。

 

クリームを泡立てる? スポンジケーキの膨らみ方?

成程、分からん。

 

屈しそうになり、遂にランスロットが頭を抱えそうになった時。

 

「あ、あの、ランスロット卿」

 

声を掛けられたためにランスロットが顔を振り向いた先には――。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、そこでおしまいです。 これ以上泡立ててしまうとトロトロにならないので、もうクリームはいじらないでください」

 

ゆるやかな状態で泡立て柔らかくなったクリームが入ったボウルを、ランスロットはエプロンを付けている茶金髪で細身体系の女性に手渡す。

 

女性は「味見です」と云ってひと舐めしては満足げに頷いてサランラップにかけては冷蔵庫に仕舞い、次に取り出したのは卵、砂糖、薄力粉、バター。

 

「それじゃあ次にスポンジケーキを作りましょう! 皆さんで食べるものですと……かなり大きなサイズと量になりますね」

 

「構わんさ、時間はあるし何より失敗する気もない。 先生がいるからな、よろしく頼む」

 

先生と云われているのは、カルデアの制服の上にエプロンを着用しているセミロングの眼鏡を掛けた女性。

彼女は照れくさそうに笑いながら、用意されていたボウルに卵を割り入れていく。

 

「そんな先生だなんて……それにおやつ作りは趣味だったんで、久々に出来て嬉しいです」

 

「ふむ、だが趣味にしてはいい腕だ。 本当だったらパティシエになりたかったのでは?」

 

ランスロットの見た目からして彼女の腕は決して趣味の範囲内ではなかった。

クリームの指導しか受けていないが、細かなコツがあり、手順や温度、調理時間など正確に理解している場面が見受けられたのだ。

 

「まぁ、そうですね」

 

女性は寂しげに笑って卵の殻をゆっくりと置いた。

 

「私、カルデアに来る前は料理学校に通っていたんです。 一単位落すだけでみんなに置いていかれる程の難しいところに。 学校とお菓子作りが楽しくって次第に機関に入らないで、パティシエになろうと思ったら……断る暇もなくカルデアに就職しちゃいました」

 

「……」

 

「でもパティシエを諦めたくなくて、休みの間には作ってたんですけど、次第に落ちて、上手く作れなくなった挙句に、レフ教授の裏切りや人理修復――色々あって何が何だか分からなくなったところを、ランスロット卿の料理を食べて救われたんです」

 

(俺のって……あの男臭さしかない料理に救われたの!? やべ、舌が可笑しくなったのかも今度オシャレなもんを創れるように練習しよ)

 

ランスロットが内心驚愕し焦りを覚える最中、女性は語る。

 

「あの料理は美味しくって、でも暖かくって安心できる味だったんです……。 あれを食べて、私も負けてられないなって、あんな料理を作ってやるって燃え上がったんです」

 

(やめて、俺の料理なんてただ炒めて、焼いただけのものだから。 そんなものと君のパティシエレベルの料理を比べちゃ駄目だから――)

 

ランスロットの内心を知らない女性は片腕を掲げて気合を入れる。

 

「だからっ、私もお時間があった際は作りたいと思います! サーヴァントの皆さんやランスロット卿ほど美味しくはありませんが、負けないように頑張ります!」

 

「ふっ、そうか」

(……でもまぁ、彼女のやる気がここまで出てるんだから、否定するのも失礼か)

 

ランスロットもここで調理してから、少しずつ局員たちに笑顔が戻ってきているのが分かる。

レフの裏切りや人理修復という大きな使命に、押しつぶされそうになった彼らが、自分の料理で救われ夢を諦めずに目指せるようになったことが嬉しい。

 

ランスロットは口元に笑みがこぼれた。

 

「だが無理はするなよ、君の代わりは居ないんだからな。 それに美味しさや知識は既に俺を超えている。今度はブーディカを狙うんだな」

 

「うっ、あの母性に敵う気がしません……」

 

落ち込む女性にランスロットは笑った。

今の段階では、流石にブーディカに勝利するのは難しいだろう。

しかし、彼女の腕前だったら近い将来にでも勝利しそうだとランスロットは捉えた。

 

 

 

そして女性と一緒に創り、完成したケーキを立華たちに振る舞った結果。

 

「美味しい!」

 

「これが手作りケーキ……ですがドクターが食べている店頭のケーキの味と変わりありません! とても美味しいです!」

 

「まぁ、とても美味しいわ! 今度ブリオッシュを作ってもらいたいわ!」

 

「こんな甘味があるんだ……今度は私も教えてもらおうかな」

 

立華やマシュ、マリー、ブーディカから高評価をいただいたランスロットは女性とハイタッチをした。

そして、周囲の局員たちもフォークと口を動かす姿に二人は思わず笑みがこぼれた。

 

無事にケーキ作りは成功し、久々に楽しい時間を迎えられた局員たちは気合いに満ちて、仕事に取り組んだという。

 

 

余談として。

 

「むっ、立華。 頰にクリームが付いているぞ」

 

「え? あっ、恥ずかし――なぁぁ!?」

 

後半悲鳴をあげる立華。

ランスロットが彼女の頰についたクリームを撫で取り、それを口に含んだからだ。

 

「ふむっ、流石は先生だ。 美味すぎるな、物にするのは時間がかかりそう……うん? どうした?」

 

(真っ赤になっているし、全員は唖然としてるし……なんかあったの?)

 

顔を真っ赤に染め上げ固まった立華にランスロットは首を傾げる。

基本、内面と外面的に朴念仁である彼にとってはこの行為は別に恥ずかしくはないのだ。

 

勿論、それを黙って見られる程、ある乙女たちは。

 

「さて、神の鉄槌の準備をしなくては」

 

「私はチャリオットの準備をしようかなぁ」

 

「むっ、先輩、狡いですっ!」

 

怒りを覚えたり、不貞腐れたりして、ランスロットを睨みつけていた。

 

「あらまぁ、ランスロットさん、素晴らしいわっ。 紳士として素敵よっ!」

 

「す、凄いですね、でもちょっとマスターが羨ましい……」

 

マリーは純粋に賞賛し、ジャンヌは羨ましがっていた。

 

 

 

さらに余談として。

 

「ど、どうですか、ドクターロマン」

 

「……うん、美味しいよっ! 凄いな、もしよければ、また作ってもらってもいいかい?」

 

「き、恐縮ですが……ドクターロマンが宜しければ是非!」

 

「いやぁ、嬉しいなぁ。 最近、普通のお菓子じゃ満足出来なくってさぁ」

 

女性がドクターロマンにケーキを振る舞い、絶賛されて照れ臭そうにしながらも嬉しそうにしていた。

そんな女性の顔を見ずに、ロマンはパクパクとケーキを食べ勧めていた。

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