【停滞】湖の騎士 異聞録 (旧題偽・湖の騎士伝) 作:春雷海
サー・ランスロット。
彼は様々な武勇を誇り、自身の愛剣アロンダイトがありながら、数多の武具を使いこなしている。
幾つかの伝説を築き、王からの信頼も厚く、騎士たちからも慕われ、正しく理想の騎士として謳われていた。
彼に想いを寄せる乙女たちも多かったが、そこは閑話休題。
彼の武勇には様々な逸話が存在している。
特に挙げられるのが暗黒騎士討伐、天下を切り開く冥界の剣を持つ王と黄泉の騎士団、他にも楡の木の枝で戦ったこと、蛮族と魔竜の討伐――また武勇だけでなく、初めて女性騎士を取り立てた人物でもある。
そして、武勇で埋もれてしまっているが、もう一つ有名なのがある――それは戦時中に騎士たちに自らの食糧を振り分け、彼自身は周囲にいた動植物を手当たり次第に食べたらしい。喩えそれが蛇だろうが虫、得体の知れないものも焼いて食べた。
それを見た騎士たちは彼と同じものを食べたという……少しでも彼に近づきたいがために。
彼には子供がいて、その子も父の背中を追って騎士となった。しかし母親については不明。
彼を題材にした作品も多く、円卓の騎士と謂えばランスロットと云われるほどだ。
そしてアーサー王を主人公とする英雄譚として創作された『アーサー王の物語』では、幾つかの伝説を築き上げながらも、王妃ギネヴィアとの不義の愛でブリテン崩壊の切っ掛けを作った裏切りの騎士。しかし王妃との不義の愛はフランス人の捏造したものだ。
しかし、数多くの作品の中で共通している最大の謎が彼にはある。
騎士としての名誉も立場も何もかも置いて、彼は唐突に姿を消してしまったのだ。理由も不明のまま忽然と煙のように。
円卓最強の騎士が行方不明となり。実質王よりも支持を集めていたランスロットという精神的主柱を失ってしまったブリテンは衰退し崩壊した。
やがて、崩壊に導いたランスロットは尤も罪深き円卓の騎士として謳われ――『裏切りの騎士』という名を付けられた。
『アーサー王と円卓の騎士』という本に記載されているランスロットの項目を読み終えた六華は本を閉じた。
カルデアに来る前までは一般人であった六華。マスターとして少しでも英霊について知らなければならないと自主的に彼らに関する歴史について学んでそれを話題にして距離を縮めて行けたらと思い、この図書室で利用し始めた。
その中で目についた本『アーサー王と円卓の騎士』があった為、読み始めた。
アーサー王や円卓の騎士たちについて詳細が書かれていたが、特に細かい詳細が載っていたのはランスロットの項目。彼が築き上げた武勇や伝説は正直六華は何も知らなかったため、初めて読み上げた際は驚きしかなかった……。
サーヴァントたちを凌ぐほど強いと思っていたが、これほどまでとは……脱帽するしかない六華であるも。
(……裏切りの騎士、か)
最後に記載された称号に六華は少し不満があった。
ランスロットを間近で接したことがある彼女にとっては彼が裏切ることなどありえない。だからこそオルレアンの時にマシュも叫んだのだから。
またパロミデスからもこのような発言があった。
「確かにあいつには『裏切りの騎士』なんていう名がある。けどな、彼奴が王を裏切るなんてブリテンがひっくり返ってもありえん。というか想像もつかねぇ、あいつが王を裏切る姿なんてな」
パロミデスは彼に討伐されたにもかかわらず、ランスロットに対する信頼の厚さを感じさせる発言だった。
そんな彼が一体何故『裏切りの騎士』という汚名を課せられたのだろうか。
彼から話を聞ければいいのだが、正直訴えても語ってくれそうにない……彼が話してくれるまで待っていようと思った矢先。
「マースターッ!」
「わきゃっ」
背後から抱きしめられ、良い香りと柔らかい身体に思わず悲鳴を上げる六華。
振り向いてみると六華に抱き付いているのは新しくカルデアに入ってきたマリー・アントワネットだ。
「もう、折角マスターとお茶をしようと思ったのに姿が見受けられないから探していたら……こんなところにいたのね」
「あっ、ごめんなさい。マリーさん、探してくれてたんだ」
「えぇっ、さあ早く! もうお茶とブリオッシュをランスロット卿が用意してくださったのっ! 楽しみでしょう?」
『ブリオッシュを創るのと紅茶を淹れるのって難しいんだな……』と後日料理本を読みながら心中で愚痴っていたランスロットがいるも、そこはご愛嬌。
六華は苦笑しながら積み重なった本を片付けるために持ち上げると、一冊の本が落ちた。
マリーはそれを拾い上げると、その題名に目が入って懐かしそうに「あぁ……」と声を上げる。
「凄いわ……彼の物語は今も語られているのね」
マリーの手の中にある本は『湖の騎士と黄泉の騎士団』と題名されていた。
「? マリーさん、この本を読んだことあるの?」
「えぇ、フランスでも彼の物語は語られて――いえ円卓の騎士の御噺は国関係なく讃えられていたわ……私もこの本が大好きよ」
マリーは本を優しく撫でる。彼女にとってこの本はとても大切なものであることが六華は察した。彼女の綺麗な指は本の頁を捲りながら語りだす。
この物語は一人の王による愛と悲劇の物語。
王は愛した后を失い、天下を取れる冥界の剣で后を何度も蘇らせるも、冥界から現世に戻った肉体と魂は保つことが出来ず、后は冥界に還ってしまう。后を取り戻すために王は次第に人間の心を失い、本当の意味での蘇生を目指して黄泉の騎士団を結成させ、生贄の為に人間たちを誘拐していくもそれをランスロットによって阻まれる。
「この本は私が生前の時、お母様たちに読んでいただいたり、子供たちに読み聞かせていたわ……円卓の騎士たちのように高潔に立派に生きろって。 そして、私が胸に刻んでいる言葉がこれよ」
『命を取り戻せることは確かに素晴らしいものだ……だが限りある命の中を人たちは懸命に輝いて一生懸命になれるんだ――お前の后もそうだったのではないのか?』
マリーが読み上げるのは、終章にある頁にてランスロットが王に投げかけた言葉。
「限りある命の中で精いっぱいに輝いてみせる。 私もその通りに生きたわ。喩えそれがどんなに愚かであろうとわたしはわたしの役割を演じたわ」
「……マリーさん」
優しく微笑みながらも彼女に秘められた意志が強い瞳と表情に六華は見惚れてしまう。
そして感じ取れたマリー・アントワネットという英霊を間近で。
「だからあなたも一緒に輝きましょう? でも、一人で輝かないでね、私たちも輝かせて頂戴?」
手を伸ばしながら語るマリーの言葉に六華は力強く頷いて彼女の手を取る。
そして――。
「それじゃあお茶会を始めましょう! 折角だからマシュも誘って――きゃああああっ!」
「わっ、わわわぁあああ!」
マリーが急に引っ張ってしまったことで、六華が片手で何とか持っていた本も崩れ一緒に倒れ込んでしまった。
そして運がいいのか悪いのか、丁度マリーたちを探しに図書室の前を通ったランスロットが扉を開けて入ると。
マリーと六華が仲良く抱き合うように転がっている姿が見受けられた。
傍目から見れば百合百合しい光景に見えて、恥ずかしさで目を逸らしたり、パロミデスだったらにやつくだろうが生憎とランスロットなので。
「……何をやっているんだか」
呆れながらも怪我の有無を聞き出して助けた。
* * * * *
余談だが、お茶会に六華とマリー、そしてランスロットが参加している中で。
「ねぇ、ランスロットさん。周囲にいた動植物を手当たり次第に食べたって本当なの?」
「事実だ。 その頃は食糧不足でなあいつらに全てをやってから、捕獲して食べたんだ」
「まぁ、そんなことが。 因みに何をお食べになったの」
「王妃や少女に云うことではないが。その時は蛇を喰ったな」
(焼いて食べると美味かったなぁ、でも流石にワイバーンと比べると雲梯の差だ……今度レイシフトしたら食べようかな)
「ランスロット卿がそこまで言うなんて、私も食べてみたいわ!」
『やめなさい』