【停滞】湖の騎士 異聞録 (旧題偽・湖の騎士伝) 作:春雷海
今回新しいキャラが登場いたします。
第三特異点を発見したロマンに召集され、マスターとカルデアのサーヴァント全員が管制室に集まりブリーフィングを行なっていた。
「今回は1573年。場所は見渡す限りの大海原だ!」
「海……ですか?」
「しかも、特異点を中心に地形が変化しているらしく、見事に一面が海だ。ぽつぽつと点在している島だけしかないため『ここ』という地域が決まっている訳が無さそうだ。至急、原因を解明して欲しい」
「ドクター。それはつまり、レイシフトの到着点が海のど真ん中という可能性もありえるのですか? 私は水泳指導を受けてはいませんし、先輩も危険な目に合うのでは……」
「その点については問題ない。レイシフト転送の際の条件を設定しておくし、それにランスロット卿を先行して送れば、最悪彼に六華くんを受け止めてもらえばいい」
「ふむ、確かに俺は母――湖の精霊の加護で水面に立ちその上を歩くことが出来、船を使わずとも有利に立ち回れる、問題はないな」
まずランスロットのレイシフトは決定している。寧ろ本人を抜くなど考えられないようで、特に全員からの異論はない様子。
それでは残りのメンバー編成はどうしようか。六華が頭を抱えて悩み出す。
「今回のメンバーはどうしよう……マシュは当然入れるとして、他の人たちは」
「はい! マスターッ、私、海を見てみたいのっ! 行かせてちょうだい!」
そんな彼女に勢いよく手を上げたのはマリー・アントワネット。
「うーん、でも大海原でマリーさんの宝具じゃ危ないような」
「それでしたら私のタラスクがフォローしましょう。 タラスクなら海に落ちても拾い上げることが出来ますので」
「それだったらあたしは留守番するよ。 流石にライダーが三人も行ったら、バランスが崩れちゃうし……それにマシュとランスロットがいれば、問題ないでしょ」
「おいおい、ブーディカ姉さんよ、近接戦闘もあるなら俺も忘れないでくれよ」
「待ってください。戦闘だけでなく、守備の方も考えなければいけません」
マルタとブーディカの助言と、パロミデスそしてジャンヌの言葉に頭を悩ませながらも彼女はメンバーの編成を考えていく。
前回のレイシフトではサーヴァントが少なかったために全員連れていくことが出来たのが、基本レイシフトできるのはマスターとサーヴァント六人が限度だ。
またそのサーヴァント枠の六つの内、一つランスロットに納められるため、実質サーヴァント五人なのだが。
編成に頭を悩ます六華を助けに入ろうとマシュが駆け寄ろうとするところを、ランスロットが止める。
「彼女一人にやらせろ」
「で、ですが先輩のヘルプに入るのも後輩である私の役目です」
「確かにそうだろうな。 だが、何時までも助け船であるお前がいるというわけではないし、何より本人の為にならん」
互いに鍛錬し支えながらの成長は勿論喜ばしいことだが、出来れば二人はそうではなく、互いの成長を助け合える関係になってほしい。
確かに支え合うのは問題がない。だが、それではお互いが依存となってしまい、各人の自立という前提があっての上で支え合いを二人には目指してもらいたい。
互いにとっての学びと成長の機会。それこそ信頼がより一層強い関係になるし、また互いで支え合うだけでなく成長を助け合えること。ときに安心してホッと相手に身を委ねる。お互いの未来のために適度な緊張感も持つことができる。
そういう関係の中にこそ今のマシュと六華に必要な関係だとランスロットは考えている。
(昔のあいつらは王に頼りまくっていたからなぁ……そのツケが俺とケイ、アグラヴェインに廻ってきて困ったもんだ)
嘗ての騎士たちは王に依存していた。そして王は迫り来る重圧に何度も押されて倒れかけた姿を見受けられた……その度に三人に廻ってきた。
ランスロットは過去に想いを馳せる。
常時しかめっ面の黒騎士と、王に対して素晴らしい位の毒舌でため息と「やれやれ」が口癖の騎士の姿が。
二人の文官としての能力が高すぎたために、付いていくのに精いっぱいであった頃を思い出す――。
『ランスロット、この議題の解決策を練ったのは確かガウェインだったよな……その策が全く書かれていないんだが』
『……恐らく奴のことだ、ガラティーン一発で終わらせたのだろう。 だが、それでも規則は規則、女遊びをしている暇があるから、書いてもらおうか』
『ランスロット、積み立てから受け払い期限が過ぎているぞ? これは確かトリスタンの筈だ……奴めまさか』
『すぐに連絡を出して呼び出す。 今からその件について聞いてくる』
(あっ、やべぇ殺意が芽生えそう)
あの頃は忙しかった……そして同僚であるあいつらに殺意も湧いた。その為に自分は楽しみであった昼食である燻製の肉を取られるわ、あの二人には愚痴まがいに責められるわで……酷い目に合った。
しかし、今はそれとこれは関係ない。 マシュと六華のことを優先にしなければ。
ランスロットは切り替えてそのままマシュに語る。
「今のお前たちは雛鳥のようなものだ……互いが未熟のままで長所に頼ろうとする素振りが見られている」
「むっ」
「むくれるな。六華の場合は机上での活動が苦手な素振りが見られてお前に頼ってしまう、またお前の場合は頼られたいという想いで面倒見が深すぎて、駄目にしてしまうんだ――そして悪い方向に考えてしまい変な方向性を取る」
マシュは言ってしまえば尽くすタイプ過ぎる……それでは相手を駄目にしてしまうし、支え合うどころではなくなってしまう。
「あと云ってしまえば……もう少し信用してやれ、あいつをな」
ランスロットはそう云って、サーヴァントに揉みくちゃにされながらも何とか編成できたのか六華が笑顔で二人の元に駆け寄って。
「っ出来たよ! 見て、まず近接にパロミデスさんにマルタさん、そしてみんなを守備するのがジャンヌさんとマシュ! それでマリーさんなんだけど、バランスよく戦ってもらおうかなって思って中距離にしてもらったんだ、聞いたんだけどマリーさんのスキルって結構多種多様だから――」
「す、すごいです先輩! そこまで考えているなんて――っ!」
「凄まじいな……」
(いや、この子の成長ってどうなってんの?)
元一般人とは考えられない程の編成にランスロットは思わずその言葉しか出なかったとさ。
「おいおいおいおい、どういうことだこりゃ」
適当なシャツと黒いズボンを履き、その上に黒い海賊コートを纏い、更に右目には眼帯を付けている男が甲板の上で久しぶりに見る海の異変に気付いた。
何処からどう見ても海ばかり…… 船どころか街も人もなし。
海独特の香りと共に運ばれる鼻が曲がりそうなほどの臭いに思わず舌打ちをしてしまう。
久々に帰ってきたというのに、これは一体どういうことなのだろうか。理解に苦しむ。
更にそれだけでなく。
「ファーwwwwww 折角の同僚が挨拶に来たのにこの対応でござるか!? 拙者、無くよ! 泣いちゃうよ!?」
「勝手に泣けや。 俺様はてめぇみたいな奴と、それに付き合っている部下どもを同じ海賊として認めねぇ」
黒髭と名乗るウザったい海賊に襲われてしまった。男は苛立ち交じりにそう言い放った。
「あー…… 何だかなぁ。俺ぁ、海賊になった覚えないよ?」
「僕もこんな奴と好きで付き合っているわけじゃないよ」
「寧ろ一緒にしてもらっては困ります♪」
更には黒髭の部下のような連中に襲われる間近な挙句に、甲板に追い詰められてしまい、傍目から見れば絶体絶命の立場になっている。
だがしかし男は決して恐怖や焦りもない、あるのはただの苛立ちとどこか余裕めいたもの。
「ははっ、だが今日は気分が良いんだよ――あそこの世界はつまらない上に化け物ばかりしかいなくってな、しかもあいつと別れてからはもう暇で暇で……しょうがなくってよぉ」
あくどい笑みを浮かべて男は懐に差していたフリントロック銃と腰に装着していたサーベルを抜いた。
「この寂しさ満載の俺とお付き合いを願いてぇんだ。……なぁに、安心しろ俺一人じゃなくって」
突如船が大きく揺れ動くと同時に大きな影を男の船を包み込む。
黒髭や部下たちの若干の悲鳴を上げる姿に男は笑みを浮かべて、首を少しだけ後ろに振り向かせる。
その影は海に生きる船乗りたちにとっては脅威の象徴として恐れられてきた巨大な頭足類の姿をした化け物――クラーケンだった。しかし、男は驚くことはなく、ウィンクして手を上げる。クラーケンは触手を伸ばして男の腕に優しく巻き付くと同時に男の頬に擦り寄った。
「このクラちゃんと一緒にダンスをしてくれや。 こいつの触手ダンスは意外といけるぜ?」
クラーケンことクラちゃんは男にとって可愛い部下のような存在だ。
「ちょっ、その触手ダンスってのを詳しくっww アビャッぁアアア!」
「五月蠅いよ、黒髭。 まいったね、メアリー」
「えぇそうね、アン……ねぇ船長さん、よろしければお名前をお聞かせ願いたいのですが」
「あん? てめぇらは俺を誰とも知らねぇで襲い掛かったのかい、しゃあねぇな聞かせてやるよ。俺は海賊王・ヘンリー・エイヴリーだ。よろしく頼むぜ……短い付き合いだろうけどな」