【停滞】湖の騎士 異聞録 (旧題偽・湖の騎士伝) 作:春雷海
スランプと云えばそうですし、また仕事が忙しくてなかなか書くことが出来なかったです。
そんな中でできた物語をどうぞ。
マルタとマシュの長い説教が終わり、やっとランスロットは解放された。
耳に残る説教という名の言葉は少々気が滅入るものの、終わり良ければ総て良しと無理やりに自分で納得させると。
「うぉおおおおおっ! かしらぁ、やっちまええええ!」
「おいごら、そこの騎士かぶれぇええええ! てめぇも男なら気合を見せろやああああ!」
「頭ぁ、絶対に勝ってくださいねぇぇえええ! 俺らの賭けがかかっているんすっからねぇぇぇぇ!」
唐突な叫びが聞こえると同時に盛り上がる雰囲気が漂ってきた。
ランスロットやマシュ、マルタが振り向くと、海賊たちが取り囲んでは大きく叫び時折怒声が聞こえてくる。
一体何の騒ぎだろうかと三人は疑問に思ったのと同時に――。
「おりゃああああああああ!」
「女を嘗めんじゃないよ、この糞野郎がぁああああああああああ!」
二つの怒声が響き渡るのと同時に、拳で殴り合う衝撃音も響いた。その内の一つはドレイク、もう一つの怒声には聞き覚えのあるランスロットは思わずため息をついてしまう。
「なにやってんだ、あのバカは……」
何時の間にかドレイクと対決しているパロミデスに、思わず悪態ついてしまう。
「ラ、ランスロット卿! 何時の間にかパロミデス卿とドレイクさんが戦っています! ま、まさか交渉が失敗して――!」
「落ちつけ、マシュ。 交渉が失敗したのなら、まず最初に説教をしていた俺たちを襲うだろう――もしかしたら腕試しかもしれん」
「……あの二人の表情を見る限りそう思えないんだけど」
遠目から見える二人の表情は怒り狂ったもので、互いに相手を打ちのめすことしか考えていない様子だった。
確かにマルタの云う通り。どう見ても互いの力量を図ろうとする素振りが全くと言っていいほど見られない。
一体何故こんなことになってしまったのだろうか。
「とりあえずは六華たちから事情を聴くぞ、理由によっては止めねばならないからな」
パロミデスの性格上でありえることを想像したが、即座に斬り捨てた。
彼は貴婦人には礼を尽くす人物として知られてはいるも、普段の性格は大雑把ながらも良くも悪くも素直で思ったことを云ってしまう。
まさか初対面の女性――海賊と云えど――を相手に不躾なことを云い、対決することなどありえないだろう。
しかし、完全に否定できない為にランスロットの不安が強い。何故なら過去においても女性騎士に対して不躾なことを云い、喧嘩沙汰を起こしてしまったことが多々あった。
(頼むからくだらない問題でこじれたとか辞めてくれよ)
そう願わざる終えなかった。
だが、六華たちから事情を聴いたところ、結局パロミデスの余計な一言で戦闘が起きて拗れたことが発覚したため。
「……すまん止めてくる」
嘗てケイと共に円卓の騎士たちの纏め上げとして務めたランスロットが、率先して動きだす。同僚が仕出かした問題を解決すべく、腰のアロンダイトとマルミアドワーズの柄を掴んで――駆け出した。
「と……とどめ、だぁあああ!」
「なっ、なぁっ、な、嘗め……んじゃないよぉおおおっ!」
パロミデスとドレイクが顔中を痣だらけにしながらも決して拳を止めることなく、振るい続けていた。
サーヴァントである筈のパロミデスは彼女と互角に殴り合えることに驚きながらも笑い、倒れることなく怪我を痣のみで済ませているドレイクも笑っていた。
そして、それはドレイクも同じだった。
最初はくだらない切っ掛けで引き起こされた喧嘩だろう。
戦闘を続けていく内に、そして互いの実力や気迫をぶつけ合う度に、二人の頭には目の前の相手に勝ちたいという気持ちしかない。
意地と意地のぶつかり合いを何度も繰り返し、そして遂に決着がつく――。
『いい加減に――くたばれええええええええええ!』
そして最後の一撃をぶつけ合おうとしたとき。
「そこまでだ、アホども」
二人の頭に強い衝撃と鈍い音が響くのと同時に若干焼けこげる臭いが漂う。
ドレイクは積み重ねられた痛みに追加された衝撃に、ついに悶絶し大凡女らしからぬ悲鳴を上げながら地面に転がった。
一方のパロミデスは――。
「ぎゃあああああああああ! あちっ、あちぃ、熱いぃいい!? や、やめろぉお、マルミアドワーズの刀身で俺の頭を焼くなアアアアアアッ!?」
「安心しろ、微量な魔力しか流していない。 マグマ程の熱さではないから問題ない」
「っぎゃああああああ、そ、そういう、もんだい―――あああああああああああああっ!」
ランスロットが持つマルミアドワーズの刀身の表面に、頭を押し付けられて、これまた肉の焦げる嫌な臭いが漂う。熱さに悲鳴を上げる彼に、ランスロットは無視して更に力強く押されて焦がされる。
因みに現在のマルミアドワーズの熱度は、目玉焼きが数秒で簡単に出来上がるレベルである。
しかし、それでも熱いものは熱い。容赦なくその拷問を行う、ランスロットの振る舞い。
海賊たちは引き攣った表情を浮かべ、「や、やべぇ、頭より容赦ねえぞ、彼奴」と恐れられたりしていた。
マスターたちの反応は以下の通りである。
六華とマシュ、そしてマリーは教育上によろしくないということでマルタとジャンヌによって目隠しされて見ることはなかったものの。
「まったく、まだ年端も行かぬマスターとマシュもいるのに……また後でお話をしなければなりませんね」
マルタは微笑みながらも眉を引きつかせながら、更なる説教を行うことを決意した。
『宴だっ、宴だぁ! 新しいクルーとメンバーにばんざぁい!』
真夜中にも拘らず、騒がしい叫びが響き渡る。
海賊たちは新たな仲間となった六華たちを祝うために全員が酒で真っ赤にした顔ながらも、言葉を投げる。
六華とマシュはそれに戸惑いつつも笑顔で受け入れ、マリーはその美声で海賊たちを魅了し、ジャンヌも拙いながらもそれに続いて歌う。
その光景をドレイク、パロミデス、そしてランスロットとマルタは四人で囲んで見つめていた。
「へぇ、あんたたちは色々とややこしいことに巻き込まれているのは分かったけど、随分と酔狂だねぇ。海賊の手を借りようだなんて」
「別に俺たちは海賊だろうが何だろうが関係ない、ドレイクという人間が必要だから力を借りたい」
「あたしの力ねぇ、嬉しいこと言ってくれるじゃあないのさ! あんたみたいな男でも女でも気にしないその態度、気に入ったよっ! そこのヘタレインポと違って!」
ドレイクは意地の悪い笑みを浮かべつつ、パロミデスに突っかかってくる。無論それに大きく反応して大人げなく反論するのはパロミデス。
「んだとゴラァ! さっきまで俺に負けそうになったヘタレ婆がなにを云ってんだぁアアア!」
「あぁああんっ! 邪魔が入らなきゃね、アタシが勝ってたんだよぉ! 負け惜しみはいい加減にしなぁぁぁ!」
始める海賊と騎士の喧嘩。それを間近で聞きながらも、特に止めようとしないでランスロットとマルタは周囲にあったつまみと酒を飲む。
「放っておくの?」
「寧ろ止めるのも面倒くさくなったからな……すまんがそこの肉を取ってくれ」
「はいはい、っていうか肉ばかりじゃなくって野菜も食べなさいよ」
「善処はする」
(うーん、やっぱワイバーンの肉が恋しいな……牛肉も悪くないんだが、どうも歯ごたえが足りないし)
マルタの小言を聞き流しながら、牛肉を頬張るランスロットを尻目に二人の口喧嘩は止まらず遂には――。
「おっしゃぁ! それじゃあ決着と行こうじゃないか! 商品はこれだああ!」
叫んだドレイクが胸元から取り出すは金色に輝く杯――それを見た六華やマシュ、マルタにジャンヌは驚愕の声を上げた。
そう彼女が取り出したる金色の杯は、紛れもない聖杯と云われる代物だった。
「こいつを掛けて、アタシと勝負しな!」
「おうよっ、この勝負は絶対に負けられ――!」
『いや、ちょっと待ってぇええええええええええ!』
二人の勝負が繰り広げられる前に四人が必至な表情で割り込んで、それを止めることに成功した。
一方のランスロットは。
(……今度、ワイバーンか幻想種の連中が出てきたら、そいつを連れ帰って料理するか。 やっぱ幻想種の奴を食べて続けた所為かな、味がなんか物足りないし)
黙々と料理を食べ進めながらも心中では文句を垂れ流していた。
ゾクッとクラーケンが寒気を覚えたのか身体を震わせて、船を揺らした。
「うん? どうした、クラちゃん? 病気か?」
ビチビチと触手を揺らして、大丈夫とアピールをしながらもその身体の震えは止まることなく海の中に潜っていったクラーケン。
そんな可愛い部下をヘンリーは首を傾げつつ、様子見を行った。