【停滞】湖の騎士 異聞録 (旧題偽・湖の騎士伝) 作:春雷海
黄金の鹿号が漂流した島で、世界に名立たるギリシャ神話の月女神アルテミスとぬいぐるみ――ではなく恋人の狩人オリオンを仲間にすることが出来た。
オリオンは狩人だけあって、竜種の狩りにも精通していた。ワイバーンの巣がある地形から、竜種の生態、鱗を剥がすことを、当たり前のようにこなすことができた。
――だがオリオンとアルテミスのおかげだけでなく、やはりというかなんというか、我らがランスロットも入っている。
ランスロットのマルミアドワーズによる斬撃『炎牙天衝』で十体以上のワイバーンをミディアムレアにしては地面に落とし、そしてアロンダイトで鱗を剝がしまくった。
そのおかげか、予定よりスムーズに鱗が集まり、そして。
「かああああ! こいつはうまいねぇ酒とよく合うよっ!」
なぜか島の草原地域でバーベキューを行っており、すでにドレイクは出来上がった状態で酒と串肉を両手に一人盛り上がっていた。
「ほら、丁度いい感じに焼けたぞ。 食べろ」
「う、うん、ありが、と――ムグッ、おいしい。 エウリュアレも、食べる」
ランスロットはバーベキューコンロ――これはロマンたちの支援品である――で丁度良く焼けた串肉を、アステリオスに手渡す。
「いらないわ。 わたし、お肉嫌いなの――それはあなたが食べなさい」
エウリュアレの言葉に不満そうにしながらも、彼女がそういうのであればとアステリオスはあっさりと引いて小動物のようにモグモグと食べ始める。
すると肉が美味しかったのか、輝かんばかりの笑顔を浮かべて「これおいしい!」と興奮気味に叫ぶ。
「ふふ、よかったわね」
アステリオスとエウリュアレの姉弟のような触れ合いは、もはや微笑ましい光景である。
だがそんな光景とは裏腹にマシュと六華は串肉を見て戸惑い、串肉を食すことに躊躇している様子が見られた。
それは彼女たちの周囲にいるサーヴァントたちも同様――いや、二人は違っていた。そのうちの一人、マリーは違っていた。寧ろその串肉を美味しそうに小動物の如く頬を膨らませて食べ進めていた。
「とてもおいしいわっ! フランスでもこんな素敵なものを出してほしかったわっ!」
若干興奮気味になりながら、串肉を頬張っては満足げに笑顔を浮かべる――口元に肉汁をつけて。
そして、もう一人はパロミデス。マリーと違って彼は遠い目でモシャモシャと食べ進め、「旨い……旨いなぁ。でもこれってあれなんだよなぁ」と一人しゃべっていた。
「もう、ダーリンったらどうしたの? 折角のバーベキューなのに、テンション下がっちゃって……ほら美味しいよ、このお肉」
「……知っているよ、それ完全に見た目は高級肉で、焼き肉店でもめったに見られないほど美味しそうだよ? でも、それさ」
白銀のふくよかな女体美という言葉が似合いそうな女性――アルテミスと、クマのぬいぐるみではなくオリオンは勢い良く叫んでは指さした。
「ワイバーンとワニの肉じゃんっ! お前ら何でそんなものを平然と食べれるわけっ!? つうか嬢ちゃんたち、無理して食べないほうがいいって!」
鱗と肉を剥ぎ取られ、山積みとなったワイバーンとワニの骨を。
「むっ、貴様はワイバーンとワニの肉を食べたことがないから、そんなことが言えるのだ。 食べるとうまいぞ」
「そんな偏食じみた肉をだれが食うかっ!? しかも片方は幻想種で、もう片方は爬虫類系の肉だぞ! んなのっ、いくら俺ら世代でも食べるやつはいなかったわっ!」
ランスロットの言葉にオリオンの突込みが入ると同時に、その勢い任せで次はバーベキューコンロの焼き網の下に置かれている
「というかお前さん、なんで伝説の剣を火と炭代わりにしてんのっ!? それあれだからね、英雄ヘラクレスが使っていた武器だぞ!?」
ランスロットはオリオンに対して白けた目で見ると同時に、
「仕方がないだろう? ロマンがやろうと思っていたバーベキューセットに炭もなければ、着火する機器もないんだ――ならば炎を司るマルミアドワーズしかないだろう?」
「いやそんな当たり前のように言わないでっ!? それ伝説級の武器だからねっ、何それを当たり前のように火おこしに使ってんのっ! 泣くぞ!」
「一応、マルミアドワーズにも許可をとったぞ……微妙な感情が流れていたが、数秒後には了解を得た」
「そうだろうねっ! まさか伝説の武器も火起こし代わりにされるとは――あちちちっ! マ、マルミアドワーズの火が俺にぃいいいい!?」
流石に許容出来なかったのかマルミアドワーズの火の粉がオリオンに襲い掛かってきたため、悲鳴を上げる。 そんなオリオンを守るようにアルテミスが彼をふくよかな胸の中心に潜り込ませると同時に「あっ、めっちゃ柔らかい、このまま昇天してもいいかも……」と快楽に満ちた声が聞こえてきたが、それは閑話休題。
いまだに食べるのを躊躇している面々に向かってはランスロットがついに叫んだ。
「アーサー王語録、『栄養はゲテモノ肉でも変わりません』というのがある! だが今違うのは、そいつはゲデモノ肉――目玉と触手のではなく、しっかりとした生物の肉だから問題ない」
「いえ、ですがやはり、先程まで打倒したワイバーンを食べることにやはり抵抗が……というよりアーサー王の語録というのものが存在しているのですね」
「うむ、因みにその語録を作らせた原因は俺と王だが。 ならば次だな」
マシュが恐る恐ると挙手して意見を述べると、ランスロットがため息をついてほかの食材を取り出す――ほかの材料があることに安堵を覚える六華とマシュだったが、取り出したのはキングコブラ……つまり蛇である。
それを見て悲鳴を上げる二人の少女をよそに、ランスロットは淡々と説明をする。
「こっちは弾力はあるが味が薄い――」
「もうこれ以上、マスターたちにトラウマを覚えさせるのをやめなさいっ! そもそも、何であんたはいつもそんなものを食べさせるの!」
「いや、俺の部隊ではこれが当たり前だったぞ。最初は慣れずに悲鳴を上げていたが、一口食べると『意外とうまい』と――」
「あぁ、そういやお前の部下たちって似通ったのが多かったような気がするわ……つうか逞しかったなぁ。女性騎士も平然と食ってたもん、ありゃ怖かったなあ、あはははは」
「パ、パロミデスさん! しっかりしてくださいっ、あなたの世界はここにありますよ!」
ついにパロミデスが壊れる寸前までに向かっているのを見て、ジャンヌは悲鳴を上げつつも彼を呼びかける。
若干地獄絵図になりかけているが、マルタは関係なくランスロットに掴みかかる勢いで迫る。
「えぇい! あんたたちの騎士事情なんてどうでもいいってのっ! いいから他の食材を探しに行くわよ!」
「いや、これ以上の栄養満点なものはないぞ」
もはや恒例になりつつあるマルタとランスロットの喧嘩が発展。そんな光景を他所に――。
「あっでも、これって意外と美味しい。 マシュも食べてみなよ」
「えっ、せ、せんぱ、ムググっ――――あっ確かに美味しいです。 ワイバーンという存在のギャップとは裏腹にこれほど美味しいとは……味付けもあると思いますが、流石はランスロットさんです。まさにこれこそ珍味という味なのでしょうか。 これはこれでまた食べてみたいです」
「そうだね……お代わりしよっか?」
「はい、先輩!」
キングコブラを食べるくらいならばと、ワイバーンとワニの串肉を食べるとまさかの美味に驚きを隠せない様子とお代わりするために立ち上がった六華とマシュ。
因みに補足。この特異点にいるワイバーンたちは、ランスロットがいた世界のと比べると力が弱いのでそれ程身体の影響は変化しないが……微量程度だが身体能力向上に発展する。
そして、そのおかげで彼女たちの運動機能が、ここと他の特異点に効果的に発展するのはまた別の話である。